Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
今回のサブタイトルは私の心の声でもあります。
第二のノヴァ討伐作戦は完遂され、作戦区域に持ち込んだ物の撤収が始まった。
テントを片付け、不要な物資も車両に詰め込んでとにかく忙しない。
「お、ユウ。仕事熱心だな」
車両が1台こちらへやってきて、目の前で停車する。
停止した車両からタツミが降りてきた。アナグラで書類仕事をやっているもんだと思っていたが……。
「お疲れさん。そっちの仕事は済んだのか?」
「ああ、ある程度な。元々戦友の墓参りで休みを取る予定だったからな。ブレ公がこっちの事は任せろって言ったんで引継ぎしてきたんだ」
「態々手伝いに来たのか? 仕事熱心なのはそっちじゃねえか」
「墓参りが終わっても暇な時間があるからな。先にこっちに来たのさ。さて、後片付いていない所は?」
「今から向かうところだ」
物資を箱に詰めて車両に積み、タツミも周囲に指示を飛ばしつつ撤収作業を行う。
防衛班でもない奴に指示を請われるあたり、流石の信頼と人望とでもいうべきか。
「あ、車両にもう積めないぞ。もう1台持ってくるか?」
「んじゃ連絡頼むわ。お前ら先にその車両でアナグラへ戻ってくれ」
「分かりました!」
タツミの指示にまだ若い神機使いが頷き、車両の座席にも積めるだけ積んで見送り、俺も他の回収班に運搬車両を回してもらえるか聞いた。
「今から向かうってさ。あとF地点が撤収完了したついでに、まだ積み込める車両で寄ってくれるとよ」
「Fからならすぐだな。先に小さい荷物を纏めて置いておくか」
タツミの指示通り動き、粗方まとめたところで丁度車両が到着した。
小さい荷物は全てその車両に積んで行き、空の車両も到着した。
大きい荷物をそちらに積み込んでこの地点での撤収作業は終わり、他の地点ももうすぐ終了と連絡を受けたのでそのままアナグラへ戻る事にした。
タツミと共に移動用の車両に乗ってアナグラへ戻る。
「あ、ユウ。悪いが居住区に入ったらそのまま墓地へ向かってくれないか?」
「OKだ。近くなったら教えてくれ」
通信で他の車両にこのまま外部居住区で寄り道をすると連絡し、アナグラの方にもその旨を伝えると許可が下りたのでそのままタツミの言う通りにハンドルを切って墓地へ向かう。
*
タツミと共に墓地を暫く歩き、立ち止まってタツミが膝をついた。
墓には『マルコ・ドナート』と彫っており、タツミが線香に火をつけて墓前に置いて手を合わせる。
面識こそないが、俺も手を合わせておこう。
「俺と同期でな。適合試験を無事に終えて、痛みに悶えている時に声を掛けてきてな」
「適合試験か。死にはしないが、阿保かと言わんばかりの痛さだったな」
斬られる撃たれる殴られるとはまた違う激痛だった。体の内側から攻撃されていると言えば分かりやすいか。
「同期の中じゃ断トツで優秀な戦果を挙げていて、俺なんてその時は神機もまともに扱えなくてかなり焦っていたっけか。皮肉屋だったが、俺に気負わせないように気遣ってくれた」
「そうか、良い奴だったんだろうな。どんな顔をしているのか見てみたいな。きっと、優しい顔をしてるんだろう」
「ああ、優しくて強い奴だ。最後まで防衛班として責務を果たした。自分の命と引き換えに住民を救ったんだ。もし、俺がその時に落ち着いていれば、もっと強ければって悔やんでばかりだ。だから、神機に振り回されるお前を見たときになんだか放って置けなくてな」
「おかげで俺も神機を扱えるようになった……と。まったく、知らない内に色んな奴に助けられてばかりだな。友達や恩人に『しっかりしろ情けねぇ』ってどやされちまう」
「ははっ、人の縁ってのも面白いよな? カノンが適合した神機の前任はこいつだしな。ま、カノンの誤射率をみたらきっと墓の下で爆笑するに違いねえけどな!」
「俺も吹き飛ばされるのはもうごめんだ。ブレ公には悪いが」
墓参りも終わり、アナグラへ戻るために車を走らせる。
「そういやユウ。そろそろ髪の毛黒染めした方が良いんじゃねえのか? 大分目立ってきてるぞ」
タツミに指摘された通り、灰色に変色した髪の毛が大分増えて遠くから見れば白髪にしか見えない。この際イメチェンついでに染めちまおうかとも考えたのだが、金がかかるので結局やらず、黒染めも面倒でしていない。
「しかし白髪じゃなくて灰色なんて不思議だよなー。別に身体に異常はないんだろ?」
「ああ、至って健康だ。多分な。こればっかりは本部での検査結果が来ないと分らんが……」
しかし、発作みたいに苦しくなるのはなんでだろうな……。髪の毛の事より体の方が心配だ。段々体が蝕まれていくのが実感できる。
「あ、俺実家に帰るから途中で下ろしてくれ」
「ああ、分かった」
途中でタツミを下ろしてアナグラへ戻り、既にほかの連中が撤去してきたものの片づけをしていたので俺も途中から参加した。
*
「ああ、今日はあっちぃな」
急に目が覚めたらと思ったらエントランスの気温が異常に高い。色々な機器が稼働熱をだして基本的にアナグラ内は気温が高い故に冷房が効いて快適な筈なのだが……。
なんでもアナグラの至る場所で空調設備が急にイカれたとか……。設備の担当者が見たところ完全にお陀仏らしく、替えを頼んでいるらしい。
外に出てみたが、異常気象か季節外れの暑さでおまけに風すら拭かない。吹いても生暖かい風で不愉快だったので諦めて屋内に戻ってきたところだ。
「あ~あっちィ……」
コウタが熱さでぐったりしながらエレベーターから降りてきた。片手に自販機で買ったであろうジュースを持っている。
「ユウ、平気そうな顔してるな」
「残念ながら平気そうに見えても、内心暑さで相当イラついてるぞ」
寒いなら重ね着するなり毛布に包まるなりして何とかなるが暑さはどうにもならない。マジなんなんですかねこの暑さ、心底イラつくぜェェェ!
「よう、お前ら。この熱さには敵わんなぁ」
イライラして怒りに震えているとリンドウさんも上着を脱いだ状態でやってきた。
当然片手にはキンキンに冷えているであろうビール缶が一本。昼間から酒かとツッコミたいがそんな元気もない。
「まさか空調がイカれるとはな」
「アナグラの設備も古いっすからね……」
3人で熱さに悶えていると続々と人が集まってきた。
ブレンダンやカレルにシュン、むさ苦しい男がエントランスに集まった。
「ブレンダンはともかく……お前も熱さに強いのか、ユウ」
まあ真人間の頃に炎天下の中、作戦のためにスコップでひたすら穴を掘っていたからな。
ブレンダンは平気そうだな。こんな時でもきちんと制服を着て身だしなみを整えている。
「くっそ、タツミの奴は今頃実家でくつろいでんのかよ……」
「外も大して変わらんと思うがな。今日は気温が異常に高くなっているからあいつも伸びてるんじゃねえのか」
異常気象も近年増えているせいか、今日は極東全体は夏日のようだ。
「あれ、そういや今日女性陣見てねえな」
「シャワーでも浴びてんじゃねえの? 流石に汗だくの姿で人前に出たくないだろう」
「あっちぃ、もういっそのこと任務行こうぜ。廃寺辺りに」
シュンの提案に全員が賛成し、早速受付で廃寺エリアで発注されている任務を探しに行った。俺も廃寺へ行く事を考えたが生憎と偵察任務は発注されていないので諦めてエントランスに居座っていた訳だ。
あ、そうだ。
この時、俺は閃いた。榊博士の研究室ならどうかと。
研究室ってほぼすべての設備が独立して動いているから無事なのでは……?
そんな訳で早速研究室へ向かう。
「博士―入りますよー」
研究室へ入ると思った通り冷房が効いており、先程までの熱さなんて幻覚なのではないかと疑いそうなほどに快適だ。
しかし、部屋の主である榊博士は難しい顔をしていた。
「珍しく難しい顔してどうしたんですか博士」
「ん? ああ、君か。何か用かい?」
「ただ涼みに来ただけですよ」
「ああ、そういえば空調の調子がよろしくないらしいね」
余程難しい問題に直面していたのではないだろうか。俺が研究室に入った事にすら気づいていないなんて余程の事だろう。
「実は本部からの来賓が来る事になってね。その来賓が中々の曲者でね……」
第2のノヴァを片付けたと思ったらまた面倒な話が舞い込んできたのか。
とりあえず必死に頭を抱えている博士の邪魔をするのも悪いので、名残惜しいが冷房のきいた天国から出ることにした。
エントランスに戻る途中、自販機で冷たい飲み物を買って飲んでから戻ろうとすると端末にメールが届いた。
ベンチに腰を掛けて飲みながら端末をみるとジャックからメールで近いうちに極東に来るとメール本文に書かれていた。
あいつ、随分急だな。奴も内情調査で忙しいはずだが……いきなり極東に来るとは……本部で何かあったか?
端末を操作して奴に連絡を取ろうと思ったが、会話やメールでのやり取りを盗み見されている可能性がある事を思い出し、通信ではなく簡潔にメールで極東に到着する日が何時になるのかだけ打ち込んで送った。
特にリアルでのトラブルが無ければ明日も更新できるかと思います。
もし更新されなかったら察していただけると幸いです。