Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者   作:ロイヤルかに玉

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また大掃除の時期が来たか……。上旬の内に殆ど終わらせようと決意を固めるも、結局億劫になって何もしないで下旬に焦るのが恒例。


なんだよいきなり。怖い事言いやがって

 誘拐騒動も終わり、ユウナは逃亡の途中で負った負傷と偏食因子を乱された為暫く療養のため医務室へ連れていかれた。

 

 アナグラへ帰還した俺達は研究室へ集合し、今後の事を話し合った。

 まず発見した理事の遺体に関してだ。

 理事を手に掛けようとした瞬間に突然の爆発で吹き飛ばされ、起き上がった頃には既に理事は何者かに斬り刻まれて死んでいた。

 しかし、あの場に他に人誰かが居たとは思えない。あの時は俺も頭に血が上っていたので周囲の気配察知を怠っていたにしてもだ。

 

 遺体は今検視に回されているが、とりあえず結果が分かるまで保留と言う事になった。

 

 

 本部も大混乱の最中らしく、榊博士も本部からの問い合わせに奔走している。

 

 

 そして人狼部隊(ルー・ガルー)

 ガルー1――エレナの父親の遺体はソーマがアナグラまで運んでくれた。ガルー2と呼ばれた女は身柄を一時極東預かりとしてジャックが本部へ戻る際に連れて行くらしい。

 ジャックが殺ったガルー3の遺体も回収し、残りの2人は今捜索隊が探しているが今の所何の連絡も来ていない。無事に逃げおおせたか、アラガミに丸ごと喰われたかのどちらかだろう。

 ジャックからは『余計な情けは復讐の火種だぞ』と小言を言われたが、殺しに来るなら望むところだ。『じゃあ次はちゃんと息の根を止めるようにする』と言い、ジャックは呆れたように首を振った。

 

 

 研究室の扉が開き、リンドウさんが肩を鳴らしながら入ってきた。しかも片手にビールの缶を持って。

 

「よーお疲れ。全く、急な戦いの後の報告書ってのは面倒くさいな。くー染みる」

 

「ちょっとリンドウ……」

 

 サクヤさんがリンドウさんを嗜めるが、博士が『別に構わない』と手で制す。

 

 アナグラの方も俺達が戻る大分前にアラガミ達が退いていき、中には倒れて霧散する奴も現れてある意味混乱を極めたらしい。俺達が戻ってきた頃には既に戦いも終わっており、タツミに『サボってどこ行ってたんだ』と茶化された。

 

 

「皆、今日は疲れただろう。まだ日は高いけど、もう休んだらどうかな?」

 

 博士の言う通り、とにかく疲れた。ガルー2の能力のせいで大分消耗したせいか、いつもの倍は疲労が溜っている気がする。

 

「働き詰めだったな。明日も忙しくなるかもしれんし、休んだ方が良いか」

 

 ジャックの言葉に全員が頷き、コウタは欠伸、アリサは眠そうな顔、ソーマもやれやれと言った表情をして出ていった。サクヤさんもビールを飲んで怠惰モードに入ったリンドウさんを連れて出ていく。

 

「ユウ、俺は明日の昼前には本部に戻るぜ。世話になったな」

 

「なんだ、もう少しゆっくりしていけばいいだろ」

 

「さっさと帰って来いってお達しが来てな。荷物纏めて明日の空の旅に備えて寝るわ。それじゃ博士、また明日挨拶に顔だしますんで」

 

「ああ、ゆっくり休むと良い。今回は助かったよ、ありがとう」

 

 ジャックも出ていき、俺も博士に挨拶して研究室を後にした。

 

 夜中からずっと動いてたしな。流石に全員に疲れが見える。正直俺もかなり疲れており、今横になれば数秒で眠れる自信がある。

 だが、その前にやる事があるので休むのはそれを終わらせてからだ。

 

 

 エントランスへ出て、ターミナルに接続して欧州エリアでフェンリルの保護下にある孤児院を探す。

 

 確かエレナは孤児院の出……そういえばサテライト拠点とか言ってたか……。

 検索してみるが全くヒットしない。

 

 

 あの時……エレナがバランに連れ去られた直後に見た光景では、アラガミ化した母親の体からエレナは無事に生まれていた。もしかしたらどこかの孤児院で保護されているかもしれないと言う0に等しい可能性に賭けてターミナルに齧りつく。

 

 しかし、探し出すなんて不可能か。もしかしたら手遅れかも知れないし……名前だって違う名前を付けられている可能性もあるし、それこそ似たような容姿の人間も居る。

 

 思い至った所で、結局できる事なんて無いのだろうか。虚無感しか感じられない。

 

「諦めきれねえよ……」

 

 

 探しに行きたい。手がかりはエレナの母親の写真のみだが……僅かな可能性であるが賭けるしかない。体にはガタが来て短い命なのは分かっている。だが、それでも諦めきれない。

 

 

 兎に角、研究室へ向かって博士に相談だ。

 まず極東に居る限りどうしようもない。博士に話を通し、何とか欧州へ派遣でも転属でも何でも良い。とにかく欧州へ行って片っ端から写真を頼りに聞き込んで手探りだが探すしかない。

 

 研究室につくとノックをして許可を貰うと入室し、博士へ近づく。

 

「博士、少し話が……」

 

「どうしたんだい? 妙に改まって」

 

 単刀直入に言い、欧州への転属を願い出た。

 理由を訊ねられてほぼ嘘偽りなく正直に答え、事情も話したが返答はされず、博士は難しそうな顔をした。

 

「事情は把握したよ。けど、難しいね……」

 

 博士は転属が難しい理由を正直に話し、その理由は尤もだった。

 まずアナグラは人手不足だ。余所に人員を割く余裕はない。それに神機を使えない神機使いを転属させたところでどうにもならない。神機こそ修復中であるが、修復で来たところで俺には体の異常の事もあり、外へ出すのも危険だと判断できる。

 

「写真の神機使いに関しては情報をこちらで集めてみるよ。しかし、仮にその神機使いの子が見つかったとして……君はどうするんだい? その子を引き取るのかい?」

 

 博士の言葉に頷くと、険しい道になると忠告してくるが……それは承知の上だ。博士も俺の顔を見て『分かった』と頷く。

 

 

 博士に礼を言って頭を下げ、写真を手渡して研究室を後にする。

 

 本部で受けた検査の結果が何の異常もないものと判断できれば欧州へ転属ではなく派遣と言う事で話を通してみると博士も言ってくれた。とにかく待つしかないか……。

 流石にそろそろ休むか……だが、まだ日は高い。エントランスで喧騒の中眠るのは流石に無理だ。

 人気のないフロアをうろつき、ベンチに腰を掛ける。

 背もたれに体を預けて目を閉じた。

 

 

 

 

「ん……?」

 

 涼しい風が吹くのを感じ、目を開ければそこはなただ広い荒地。

 

 何だ……夢か……?

 それにしては妙な夢だな……リアルと言うか……何て言うべきか……。

 

 遥か彼方から誰かがこちらへ歩いてくるのが見え、目を凝らしてみればそれは全人黒づくめで人の形をした何かだった。

 そいつがこちらに掌を向けた瞬間、赤い電撃が宙を走り咄嗟に身を翻して躱す。

 

 突然攻撃を仕掛けてきた奴の方を振り返ればそこには奴は居らず、代わりにディアウス・ピターが唸り声を上げながらマントの下に隠した刃の翼を展開して襲い掛かってきた。

 

 

 

「ッ!」

 

 ハッとすればそこは先程の廊下。

 

 ピターは影も形もない。

 

 随分リアルな夢だったな。なんでピターが……?  

 俺はあいつと戦ったことなんて無いはずだが……。

 

 しかし、おかげで目が覚めて寝れなくなった。端末で時間を確認するとまだ日付は変わっていないが子供は寝る時間だ。大分眠ったが、あまり疲れは取れていないような気がしてならない。

 こうなったらとりあえずベンチで寝転んで時間を潰すしかないようだが……寝転んでいても正直硬いベンチじゃ体の節々を痛めるだけだ。

 喉も少し乾いたし、ラウンジにでも行ってなんか飲んで眠気が来るまで適当に時間でも潰すか。

 

 

 早速起き上がり、ラウンジに向かう。

 

 夜中ではあるが職員は勿論神機使いとはよくすれ違う。夜中にまで仕事はご苦労な事だ。それとも俺らみたいに昼の間に休んで夜に仕事の可能性もあるが。

 

 

 ラウンジに入ると夜中である故か空いており、カウンターには1人しか座っていない。

 

 

 って座ってるのジャックか。あいつ、ゆっくり休むとか言っておいて飲んでるのか。

 

 備え付けのグラスを手に取り、飲み物を注いで席を1つ空けて座る。

 

「なんだ奇遇だな」

 

「お前休まなくていいのか?」

 

「そう言うな。また暫くアナグラに来れねえかもしれねんだからよ」

 

「酒か?」

 

「いや、自重して茶さ。酔いつぶれて予定の時間すっぽかすわけにはいかないからな」

 

 ジャックがグラスを呷り、一息つく。

 

「もう一年経つな。俺達がフェンリルに入隊して知り合ってから」

 

「互いに忙しかったからな」

 

 

 

「なあ、ユウ。初めて会った時さ、お前……すげぇ血生臭かったんだよな」

 

「なんだよいきなり。怖い事言いやがって」

 

 唐突に物騒な事を言いだすジャックに困惑する。

 

「お前、そのままこの時代(こっち)に来たんだろ? 俺は所謂生まれ変わるってやつだけどさ」

 

 何だ、こいつ転生でもしてきたのか。前世の記憶をはっきり覚えてるって事か。

 正直前世の事を覚えているなんて信じられなかったが、現にこいつの証言からそれは有り得ると言う事は分かっている。

 空で性悪女(ヘルキャット)に追いかけ回されるなんて聞けば、生前何してたかすぐに思い当たる。

 

 

「正直、あの時死んだのか……まだ生きてるのか自分でも分からん」

 

「硫黄臭い中か……相当血を浴びただろう? 」 

 

「なんでわかる?」

 

「人ってのは殺されたときにな……恨みや怨念が殺した奴に纏わりつくんだよ。そしてその殺した奴がまだ誰かに殺されれば、今度はそいつの恨みが最初に殺された奴と一緒にまた纏わりつくんだ」

 

 なんつったけそういう感じの……確か生物濃縮だったか……。

 

「どんどん怨念は溜まり、いずれは器を壊しちまう。そして器の壊れた人間は人間じゃなくて鬼になる。この(極東)には鬼が出ると言う伝承があるのはそれが起因しているのさ。お前、渦巻いてたぞ?オカルトに疎い俺でも分かる程にな。まあ、現代の人間は鬼の怖さを知らず、アラガミを恐れているから気にしないだろうが……」

 

「鬼になる……か……。てことは上官連中は皆鬼ってことか」

 

「お前、偏食因子に問題が起きてるだろう? 偶然にしちゃ、出来すぎてないか?だからもう溜め込むな。もう、鬼を斬る剣聖なんてこの世に居ないんだからな」

 

 

 そういや……大昔に兵士と民草あわせて死者数千にまで登り、当時血で血を洗う戦乱の時代においてもっとも悲惨な殺戮の舞台となった国があり、その地には後々まで鬼が潜んだと聞いたことがあるな。

 

 上官がまるで経験したと言わんばかりの深刻な表情で語っていたか。

 

「迷えば飲み込まれて終わる。だから迷うなよ。俺もお前を斬るなんて御免だ。それは他の連中だってそうだ。仲間殺しなんて冗談じゃねえ」

 

 それだけ言うとグラスの中身を一気に飲み込んで「じゃあな」と肩に手を置いてジャックはラウンジを出て行った。

 

「鬼か…………」

 

 頭を掻くと、灰色に染まった髪の毛が1本カウンターの上に抜け落ちた。

 

 




冬はアイスバーンが本当にクソ。コロナもクソ。インフルエンザもクソ。
なんで冬ってクソばっかりなんですかね……?
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