Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者   作:ロイヤルかに玉

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ソーマ・シックザール(18)

支部長の息子さんだ。
弱冠12歳で神機使いとしての初の任務に赴き、 以来、常に第一線で戦い続けている。
戦闘能力だけであれば部隊長クラスをも凌ぐが、 度重なる軍規違反や単独行動で問題が多い。
反抗期なのか分からんが、支部長とは仲が悪い。エレベーターで乗り合わせた時は気まずいなんてものじゃなかった。
「彼が所属した小隊や同行したゴッドイーターは死ぬ」なんてジンクスがあるが死ぬのは本人の落ち度なのでソーマは悪くないと思うぞ。

まあ、ソーマが化け物染みているのは他の連中と同意見だ。
なんか混じってるんだよな……。


お前は死んでくれるなよ

ああ……暇だな。警備ってマジで暇だな。巡回とかならまだいいが、立ちっぱでひたすら見張るのは暇だな。そもそも支部の中には大人数が徘徊しているんだから潜入とか無理だろ。それこそ透明人間でもない限りは。まあ、こんな所に潜入なんて余程の馬鹿しかしないだろう。仮に俺が透明人間なら女風呂を覗くがな。

 

「大体なんで俺1人で警備やねん。もしもの事態が起こったらどうするんだよ」

 

あー暇すぎて死ぬわ。暇疲れしちまう。仕方ねえ、この小銃で銃剣ごっこでもして遊ぶか。

 

背負っている小銃を構え、銃剣術を観客が居ないが披露する。体も鍛えられて一石二鳥だ。

さあ、君も銃剣ごっこで体を鍛えつつ暇を潰そう! 今なら期間限定ブーストでパラメーターの上昇率が1.8倍だ!

 

 

ユウの攻撃力が1上がった!

ユウの命中率が0.3%上がった!

ユウの精神力が2上がった!

ユウのスタミナはこれ以上上がらない!

ユウの防御力が0.5倍された!

 

お、防御力が倍になったぞ! すげえ! そしてスタミナは例の如くか。

 

ん? 0.5倍……? 半分になってるじゃないですかーヤダー!

 

 

どうすんだよこれ……1発でも直撃食らったら致命傷じゃないか! これじゃソーマに言われた通り余計な死人が増えてしまうではないか……。まあ、今この瞬間もどこかで誰かが命を落としているんだ。生きていると言う事実を喜ぼう。

俺もいつかはくたばって……。その時はどこか遠くで誰かが今この瞬間も誰かが命を落としているんだろうと思うんだろうな。世の中って……アレだな。不思議だな。

  

 

 

 

 

警備も交代の時間が来たので俺はエントランスのソファー、特等席で寛ぐ。

エントランスのモニターを見ると、画面の横に数字が表示され、その数字が1秒ごとに減っていく。1減る時もあれば一気に7も減ったりと一定ではない。

あの数字は今生き残っている人間の数だ。当然、フェンリルがカウントしていない人もいるだろうが、なんだかんだ言って目が離せない。

毎日1秒ごとに減っているのに0までとてつもなく遠い。逆に言えば人類は数が多い上にしぶといと言う事だろう。

 

しかし、アラガミも強くなってきているな。まだ第1世代あたりはアラガミも弱かったらしいが……。

最近じゃアラガミが神速連撃連携でゴッドイーターをハンティングしてくるからな。

 

猿4体に囲まれて屠られた神機使いも数知れず……。俺も猿4体に囲まれた時はまずいと思ったよ。ありゃもう逃げるしかねえな。

いやーアレはやばかったな。

 

 

 

 

 

前後左右をコンゴウが立ち、俺は絶望的に状況に陥っていた。

 

偵察任務の途中、コンゴウと鉢合わせしてしまい、近くにはフェンリルに保護されなかった人たちが身を寄せ合っている建物もある。此処でドンパチやるわけにはいかんと思ってコンゴウを引きつけつつ逃げたが、次第にコンゴウの数が増えていき、結局4体に増えた。

 

神機も無し、無線も繋がらない。正に絶望。

 

この時、俺の脳裏に電流が走った。

 

そういや、リンドウさんがオウガテイルの群れをぶった切っている時に飛び掛かってきたオウガテイルを蹴っ飛ばしていたな。神機を使わずともアラガミにある程度の抵抗はできるのか? ダメージは与えられないだろうが、吹っ飛ばすなりしてある程度の隙は作れるか?オラクル細胞と適合した事で身体能力が強化されている今なら相手の体格がこちらより上でも行けるだろうか?

 

いや、どちらにしろ八方塞なのは違いない。できる限り抵抗をしなければ。残念だったな猿共、この世界には昔から楽に飯にありつける方法なんて無いんだぜ?

 

「ガアッ!」

 

コンゴウが一斉に襲いかかる。両手を俺に向けて我先にと。

俺を掴んで口へ運び、食い千切るつもりだろう。だが、遅い。

 

最小限の動きで向かってくる手を掻い潜る。前、左右、背後、すべての手を避ける。

感覚を少し研ぎ澄ませば死角からの攻撃にも対応できる。体が反応する。

 

8本の腕が一斉に襲いかかる中、一瞬の隙を突いてステップでコンゴウから距離を取ってバックステップを繰り返す。

コンゴウ達は逃がさぬと言わんばかりに追ってくる。一匹がジャンプして殴りかかってくるのに対し、斜め右背へ跳び他のコンゴウの動きに気を配る。2匹目と3匹目は攻撃態勢には入っていない……。4匹目は――。

 

4匹目の何処へ? 考える前に体に言い聞かせる。すべての攻撃を躱せと。意識と体は感覚を研ぎ澄まし、俺の体は大きく後ろへ下がる。直後、俺が立っていた場所に4匹目が上空から回転しつつ激突する。

 

「ちっ……」

 

舌打ちをしつつコンゴウ達を見ると、3体向かってくる。前の1体が跳躍すると、後ろのコンゴウが空気の塊を撃つ。

横へ避けてすぐに構える。先程跳んだコンゴウが仕掛けてくる筈だ。

 

「ガアアッ!」

 

雄たけびと共に拳を叩きつけようと襲い掛かる。拳を受け流しつつ、コンゴウの腕を掴んで引っ張る。一回転と同時に他のコンゴウへ投げ飛ばす。コンゴウとコンゴウが激突し、2匹は大きく体勢を崩す。

大きな隙、それを逃すのは愚か者の極み。一気にステップで体勢を立て直そうとするコンゴウに近づき、突き蹴りを腹部に入れる。コンゴウは驚いたような声を上げながら吹き飛ぶ。

 

「グウ……」

 

他のコンゴウは驚いたか固まって動かない。得物を持っていない絶好の獲物が自身の同族を吹き飛ばしたのだ。そりゃだれでもビビるだろう。

 

逃げるなら今がチャンスだな。

一気に駆けだし、遅れてコンゴウ達も動き出す。しかし、このまま逃げるスピードを上げれば逃げ切れるだろう。

 

「なっ!?」

 

数十メートル先の地面にコンゴウがもう1体立ちふさがった。

5体目!? ええい、しゃらくせえ! 押し通る!

対アラガミ用ナイフを抜き、ナイフを蹴って飛ばす。只投げるだけでは速さ・威力共にイマイチなものだ。だが、蹴って飛ばせばどちらも改善される。デメリットとしてはコント―ロールが難しいが、そこはその時だ。コンゴウの顔面目掛けて蹴っ飛ばしたので、当たればチャンスが来る。当たらずとも気を引くことはできる筈だ。

 

ナイフはコンゴウの顔に刺さり、コンゴウは短い悲鳴を上げながら顔を押さえる。

その隙に距離を詰め、ステップと同時に掌底をコンゴウの腹に繰り出す。

コンゴウが地面に倒れる前にナイフを引き抜いてコンゴウを踏み台にして高く跳んで距離を稼ぐ。

 

ナイフを構えたまま駆け、その場から離脱した。

 

 

 

 

と、一か月前にこんな事があったのだ。

 

よく生きてたな俺。おまけに掠り傷の1つもなしだよ、ノーアイテムだよ。パーフェクトだよ。完全撤退だよ。アナグラ日誌に載るよ。え? 対アラガミ用ナイフ? あれはアイテムじゃなくて武器だからノーカウントだ! ノーカン! ノーカン! ノーカン!

 

五体満足で生きて帰って来たけど、コンゴウに掌底をかましたときに結構痛かったんだよね。猫が全身の毛を逆立てるみたいな感じで、ジーンときた。だからアラガミを素手でブッ飛ばすときは蹴りにしよう決意したのは余談だ。

 

 

 

「おーいユウ。D地区の配給に行くんだが、人手が足りないから手ェ貸してくれぇ!」

「了解、今行きますよっと」

 

少し勢いをつけてソファーから立ちあがる。

 

さて、パパッと終わらせるか。

 

 

 

 

「何事も無く終わったな。毎日こんな風に物事がうまくいけば文句は無いんだがな」

 

無事に配給作業も終わり、再びエントランスに戻ってきたのだが、エントランスはいつもと雰囲気が違った。皆喪服を着ていた。

 

何度も見た光景だ。誰かが命を奪われたのだ。この職場じゃ珍しい事ではない。最初は知人が亡くなったのかと不安になったが、俺の知人は皆しぶといので心配する事は無いだろう。自分に関係ない奴が亡くなっても不謹慎だがホッとするものだ。

 

「あ、リンドウさんじゃん」

 

リンドウさんは喪服を着て、モニターに映っているニュースを見ている。

 

「お疲れ様です」

「おお、お疲れさん」

「また……ですか」

「ああ。残念だ。そういや、お前さん仲良くやってたよな。エリックの奴とは」

 

は……? え、何? 死んだのエリックなのか?

エリックが……死んだ……?

冗談きついですよと笑いたいところだが、それはできねえ。こんな雰囲気で冗談かませるほど俺も馬鹿ではない。

エリック……。

 

「油断して上から奇襲されたらしい」

「まさか……。ソーマの奴が一緒だったんでしょ? あいつに気づかれる事無く奇襲したって言うんですか?」

「ソーマだって万能じゃねえ。それにまだ経験の浅い新型も居たんだ。色んな要因が重なりすぎた」

「………………」

 

何故だ、エリック。何故……。お前言ってたじゃねえか、妹の為にって……。妹がアラガミ怖がってるから、守るために極東に来たんだろう? その妹をお前が泣かせちゃ世話ないだろうが。  

エリック、お前1人戦って死んだって人類が未曾有の危機に瀕しているのは変わらないんだぞ?

だが、お前の帰りを待っている人たちの人生は大きく変わるぞ? ソーマだってお前の事は少なからず思っていた筈だ。知り合いが目の前で殺される気持ちってのはお前だって理解している筈だろうが。 

 

 

「……………………はあ」

 

いや、もう居ない人間の事を心の中で愚痴ったって変わらねえだろう。いつまでも引きずっていれば今度は俺が二の舞になる。

 

 

「おっと時間だな。お前さんは……」

「分かるでしょ? こんな薄汚れた制服一着しかないんですから出る訳にはいかないでしょ? 勝手に逝くな馬鹿と心の中で伝えといてください」

「了解だ」

 

リンドウさんはそのまま葬儀会場へ向かっていった。

 

葬儀が終わり、その後は全員で英霊の冥福を祈り、飲み物を頂く。何度も経験した事だ。半年しかいない俺でも一連の流れは全て分かる。つまり、既に数えきれないほど経験していると言う事だ。今までは赤の他人の死。只何も思わずに缶を傾けて、無言を貫く。

 

だが、今回は違う。

 

 

 

 

「エリックに」

 

そう言ってタツミが飲み物を掲げると、俺達も一斉に掲げた。

飲み物を持って皆で集まる。普通なら楽しいもんだが、状況が状況だ。

 

ソーマの顔でも拝みに行くか。あいつの強がりでも聞けば、少しは気分が晴れるかもしれない。

 

 

「よう、ソーマ」

 

ソーマに近づき、声を掛ける。しかし、「ふん」と鼻息が聞こえる。ありゃ、態度に出てないが少し参っているようだな。だが、コイツが欲しがっているのは「お前のせいじゃない」とかの言葉じゃない。それに、こいつが欲しがっている言葉を掛ける気は無い。こいつが欲しがっている言葉ではなく、こいつに必要な言葉を掛けるとしよう。まあ取り越し苦労だろうが、念を押すということで。

 

「分かっているだろう?」

 

エリックの事は気にするなと言う事だ。此処でこの台詞を口外するのはよろしくないので包んだつもりだ。こいつまで野郎の二の舞にする訳に行かねえ。

 

「言われるまでもねえ。それだけの話で一々しゃべるな」

 

フードを深く被り、背中を向けたまま言う。

やれやれ、声から機嫌が悪いから失せろと言っているのは分かる。放っておくと死に行っちまうような奴だから、心配ではあるんだがな。

 

「んじゃ、失せるとするか」

 

ソーマに背を向ける。

 

「お前は死んでくれるなよ」

 

それだけ言ってソーマから離れた。

 




アニメゴッドイーターでリンドウさんがオウガテイルに蹴りを入れて吹き飛ばした描写を見た時は「ファッ!?」って思ったのは私だけではないと信じたい。
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