Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 作:ロイヤルかに玉
さて、この缶をさっさと空にしちまおう。こんな雰囲気で飲むなんてまずくて舌がどうにかなりそうだ。缶の中身を一気に飲み干そうと考えて傾けようとしたら、視界に憂い顔をしている奴が映った。
ユウナか……。この職場に来て初めて同僚が食い殺されるのを見たんだ。あんな顔しても仕方ないか。よし、半年とはいえ先輩だからな、少し慰めてやろう。
「よう、ユウナ」
「あ、ユウ。お疲れ」
「ああ、お疲れさん」
「まあ、エリックの事は気にするなとは言わないが、気持ちに白黒つけとかないと二の舞になっちまうぞ?」
「うん、分かってる。でも、目の前で誰かが死ぬのは……」
まあ、分かる。だが、コイツは既にある程度の覚悟ってのは持っている。此処に来る前に地獄でも見たか……。
しかし、異質だな。ソーマも異質だが、ユウナも何か持っている……いや、表現が違うな。混じってるな、限りなく殆んど。
ソーマは周りから化け物なんて呼ばれているが、俺はまさしくその通りだと思っている。
あいつの能力は全てにおいて並の連中の上を行く。あいつのチャージクラッシュを目にした時、確かに感じた。ソーマだけは別だと。
常日頃からある程度感覚を研ぎ澄ませているが、支部内に居てもアラガミの気配がいくつも感じられる。神機使いの体の一部がアラガミなので当たり前なのだが、並みの連中からはアラガミの気配を感じるならもう少し集中しなければいけない。普段感じているアラガミの気配は大きく分けて3つ。
1つは神機から発せられる気配。
もう1つはソーマから感じられる気配。そして最近、もう1つより強くアラガミの気配が感じ取れる。それがユウナから感じられる気配だ。
ソーマは何かが混じって壊れたような感じだが、ユウナの場合は何かが混じっているが、均衡を保っている気配。
「ユウ?」
「すまん、ちょっと考え事だ」
「ねえユウ。どうして神機が使えなくなったの? 腕輪は封印されていないようだけど……」
ああ、まあ気になるよな。別に隠すような事でもないからしゃべるか。
「入隊して3か月目、ある任務に出た時にちょいとイレギュラーなアラガミが現れてな。一緒に居た奴が俺だけでも助けようと奮戦したんだが、そこらのアラガミとはわけが違ってな。このままじゃ2人ともヤベェってなって俺は一か八か神機を投擲した。後はリンドウさんの命令その4、不意を突いてぶっ殺せを実行してな。ぶっ殺すはできなかったが崖から突き落として九死に一生を得たんだ。だが、神機はアラガミに刺さったまま崖下へ落ちてな」
ホントにイレギュラーだよ。てめぇの事だぞ、ゴッドイーターキラー・スサノオ。神機を好んで捕食するとか反則だろう。
「その後、その厄介なアラガミはある凄腕の神機使いに倒され、俺の神機は戻ってきた。無残な姿になってな。んで、リサイクルして今はこんな風になった」
対アラガミ用ナイフを見せながら説明した。
「リンドウさん、ユウにもあの命令を?」
「まあな。俺も初陣は心臓がバクバクしたさ。あの命令にツッコンだな。おかげで緊張がほぐれたのを覚えている」
本当に理想の上官だよ、リンドウさん。あんたになら何処へでもついて行ける。だから、死なないでくださいよ。置いてかれる側の気持ち、あんたなら分かる筈だ。
「ユウは神機使いになる前はどうしてたの?」
「ん? どうした急に?」
「いや、何か気になっちゃって」
神機使いになる前か……。まあ、言っても信じてもらえないだろうから、無職と答えておこうか。
「無職ですが……何か?」
「あ、ごめん……」
「いや、気にするな。すまんな、意地悪い返し方で」
「てっきり、私と同じで学生だったのかなって」
「学生? 悪いがまともな教養なんて受けてねえぞ? てか学生だったのか?」
「うん、狼鳳軍事高校に通ってたんだ」
「あん? 普通に名門やん。エリートやん。マジかよ」
成程、これが持てる者か。この世に神様が居るなら言ってやりたいな。
『お前ら人々には平等じゃねえのかよ、クソが落ちろ』って言いたいな。
そいうや、同期に居たな。学校から来た奴。今はちょっと本部へ行ってるが……。
まあ、口を開けば下ネタが高確率で出てくるから査問会だろうな。いや、それ如きで本部までは行かないか。ならちゃんと仕事があるんだろうな。
「どうしたの?」
「ああいや、同期でユウナと同じで学校出てる奴がいてな。下ネタ野郎でな。下ネタを気にしなければ愉快な奴だが」
「そんなストレートに言ってるの? その人」
「あー軽く例を上げれば……。まあ、女であるお前に言っちゃ悪いが、好きな女には処女でいてもらいたいとか、そんな事を言う奴だな」
「男の人が集まれば、する話なんてそんなものじゃない? いつ死ぬかもわからない状況に身を置いていると、下世話な話は多くなると思うけど」
「もしかして下品な話とか気にしない系?」
「うーん。お父さんがそんな人だから慣れたかな。いつもお母さんにぶたれてたけど。ストレートじゃなければ平気だとおもうよ」
笑みを零しながらユウナがしゃべる。これを見ると、とても何かが混じっているように見えない。いや、待て待て。そんなことより、女相手になんて会話してるんだ俺は。
「さて、そろそろお開きの時間だ。今日は早めに休むことをお勧めするぜ? 睡眠不足は仕事の敵だ」
「ふふっ、そうするよ。ありがと、何か気分も晴れてきた」
「そりゃよかった。んじゃな」
ユウナに手を振り、俺は立ち去る。
この缶を空にして少し夜風に当って来るか。
*
そんな訳で屋上に来たぜ。だが……。
「ウオ!? 外寒! 無理だわこれ。風に当ってたら風邪ひくわ!」
俺は物の数秒で屋内に戻り、暖を取りに戻る。
あー眠いな。今日はもう寝るか。しかし、エントランスはしんみりした空気が支配しているからなぁ。
そんなところで寝れる程図太い神経してねえよ。エリック、お前が死んじまったことで俺は寝る場所を追われたぞ。どうしてくれる。
*
「あー怠。ホント寝不足はダメだな」
結局昨日はエントランスで寝る事は出来なかった。最終手段で懲罰房の鍵を拝借して檻の中で寝たよ。思ったけど牢屋にベッドがあるって充実してるな。これなら捕虜も喜ぶぞ。
「お、おはようさん」
「ああタツミ、おはよう」
タツミも眠そうな顔をしており、奴も俺の顔を見て察したらしい。互いに労わる。
「そういや、お前さん。新型がまた極東に来るって聞いてるか?」
「ん? 初耳だな」
新型がもう1人か。新型を2人もそろえている支部ってアナグラしかないんじゃねえのか?
まあ、最前線だから戦力が充実させるのは当たり前か。
「去る奴がいれば来る奴もいる。今日もアナグラは平常運転だな」
「上手い言い方するじゃないか」
やっぱタツミってセンスがあるな。
「さて、俺もそろそろ行くか」
「任務か?」
「ああ、ブレ公と新型ちゃんを連れてな」
ブレ公とユウナか。そういやブレ公のフルネーム知らねえな俺。ブレンダンまでは分かるんだが……。そもそも外人の名前ってフルネームで覚える気が起きないんだよな。
「ブレ公、エリックの事で凹んで無かったか?」
「態度には出てないが……ここまで言えば分かるだろう?」
「まあな。把握した。気を付けてな」
「ああ、ありがとさん」
タツミと別れ、俺も今日の仕事を始める。
*
ダメダ。今日は仕事する気分じゃねえ。
ああ、そういや明日車両のオーバーホールじゃねえか。いやぁめんどくせぇなぁ。何で整備士でもない俺が手伝わなきゃならんのだ。そもそも神機使いの馬鹿力でボルトやナットを締めようものなら破壊不可避だぞ。そんな力加減なんぞできないぞ。重たい部品を運ぶだとかならいくらでもできるが。そもそも資格持ってねえから弄っちゃいかんだろ。
「なあ、聞いたか? ロシア支部から来る新型。支部長が引き抜いてきたらしいぜ?」
「おう、めっちゃ美人らしいな! 今日到着だろ? 早く見てみたいなぁ。できればお近づきに……」
「やめとけやめとけ。どうせ配属は第1部隊さ。俺らとは接点なんてできないだろうぜ?」
「ちぇ、いいなぁ。第1部隊の男共」
ほう、タツミが言っていた例の新型か。そうか、美人なのか……つーか女か。第1部隊の男女比が整ったな。しかし一気に新人を3人も面倒見ないといけないのかリンドウさん。まあ、副官のサクヤさんもフォローするだろうから何とかやっていけそうだな。ソーマは……あいつ絶対我関せずのスタイルを貫くだろうな。
「キャッ」
「うおっと」
考え事をしながら廊下を歩いていたら曲がり角で誰かにぶつかった。ぶつかった相手は赤色の帽子を落としたので、拾い上げる。
「ああ、すまな――」
驚いたよ。とても大胆な格好をしていやがるこの女。
露出の高い服装に銀髪、そしてユウナとは対照的な蒼い瞳。そして純白の肌。
ロシア人か。
確か新しく配属される新型ってロシア支部から来るんだよな? じゃあこいつが例の……。
いやそんなことより、自然と目線がある部分に吸い寄せられてしまう。そう、乳だ。下乳だ。つまり、極東に上乳のツバキ教官、横乳のサクヤさん、下乳のこの女、3連コンボが揃ってしまったと言う事か。なんて恐ろしい……!
噂じゃ支部長がロシア支部から引き抜いたとのことだから支部長はつまり……。彼とはもしかしたら上手い酒が飲めるかもしれない。
「気を付けてください。常に周囲に気を配れないんですか? それでよく生き残れますね」
え、何この露人。めっちゃ煽って来るんだけど。
「ああ、済まないな。仰る通りだ」
「いえ、別に。では」
そう言って俺の手から帽子を引っ手繰ってかぶり直すと去っていった。
ああ、彼女とは上手くやっていけないな。多分彼女とは価値観が違う。まあ、神機持ってねえから一緒に任務なんてある筈がないが。
多分、あの手の人間と上手く付き合えるのってリンドウさんやユウナぐらいじゃねえのか?
さて、今日は地下街の偵察任務だったか。あそこクソ暑いから嫌なんだよな。
雨宮ツバキ (29)
フェンリル極東支部にて第一~第三部隊の指揮統括及び新人神機使いの教練を担当している。
仕事に一切の私情を持ち込まず、常に冷静かつ厳格さを崩さない為、多くの隊員は彼女が履くヒールの足音で震え上がる。ちなみに俺も震え上がった内の1人。
現在は引退しているが元ゴッドイーターで、神機の運用に危険や課題が残る中、10年もの間戦い続けた高い実力の持ち主。
遠距離神機使いとしては極めて優秀で、他の追随を許さない程、高い成績を納めていた。
素晴らしいまでの上乳である。跳び込みたい。