旭と巴   作:トウチ亀

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弐番目

 正午。太陽は真上だ。

 

「さぁ、寄ってけ寄ってけ! 今日はいつもより多く仕入れた! 無くなる前に買っていいきなぁ!」

 

 人手に溢れた道で、よく通る声の持ち主である男に対する印象は活きが良いの一言で表せた。

 店主だろうか、無精髭を生やしたその男の活き活きとした声が、行き来する人でごった返しになった大通りによく響く。その引き込みで往来する通行人の多くが反応を示し、店の中へと足を運んでいく。老若男女、様々な人間が店を入っては外に出て、無手で入ったものはしばらくすると満足顔で、両手いっぱいに品を抱えながら店から出てくる。そんな光景が、当たり前のように繰り広げられていた。

 何を隠そう、召喚地である下総の国。その大通りで割と高い頻度で見る事が出来る一幕だ。

 

「おーい、そこの荷車取ってくれ! 運搬には腕っぷしに自信がある奴だけがついてこい! 出来ねぇ奴は向こう手伝え!」

 

 男の額に滲んだ玉の汗が宙を舞う。指示を飛ばす偉丈夫から聞こえる声は傍から見てるだけでも忙しそうで、声を掛ける事すら躊躇われる。

押忍! という部下たちの返事が返ってくると、みんながみんな(せわ)しい様子で作業に戻っていく。だが、そこに気負いした様相は伺えず、あるのは働き手としての気合と根性だけだった。

 

「親父ぃ! ひったくりを捕獲! どうします⁉」

 

「あぁ⁉ んなもん尻に玉ぶち込んで陰屋茶屋の真ん前にでも放り出しとけ!」

 

「是非、是非その仕事を俺に!」

 

「おい聞いたか今」

 

「マジかよお前」

 

「ないわ」

 

 若干、若干だが頭の方面に対する不安はあるものの、活きのいい町の様子はいつ見ても心地が良い。これらの光景は彼らにとっての日常の一部を切り出した断片に過ぎないが、そんな平穏ともいえる人の営みには何とも言えぬ充足感が胸の内から湧き出て来ていた。

 

「──」

 

 そして、隣に立つ桜色の剣士の微妙な変化に気づく。具体的には纏うその雰囲気の変化に、だ。色素が薄く、白く見えなくもない瞳をきらきらと輝かせ、どこか違う場所を見る彼女。戦闘の際感じた冷徹さと、今の子ども染みた雰囲気の差で流石の俺も困惑しながらその視線を辿っていくと、そこには団子にこげ茶のタレをかけたものを売り物にしている唐菓子店が。こちらもまた忙しそうな様子で、外に設置された椅子に座る客に対し、店の女将は唐菓子の乗った皿と湯吞みを渡してはまた店の中に戻っていくという作業を繰り返している。

するとどうだろうか、彼女はそのキラリと煌めく眼をこちらへと向けて来た。奢れ、と目が訴えかけてきている気がしてならない、いや、大分確信づいていた。だがそんな無茶言われても、こちとらこの時代の金なんか一銭ももっていない。かといって入手する手段を探す手間も今は調査に宛てたいところなのだ。

 

「子どもみたいにねだっても金は無いし、あっても出さんぞ。総司(ソウジ)

 

「えぇー」

 

 いや、そんな残念そうにされてもな。楽しみたい、という気持ちも分からないでもないし、この時代の食い物に興味がないと言われれば嘘になる。俺としても彼女の気持ちを汲み上げたいのも山々なのだが、今は流石に優先順位が違う。

 

「そうしたいならまず動け。手掛かりになりそうな情報が一つや二つ入ったら茶の一杯くらい何とかしてやる」

 

 だがまあ、可もなく不可もない妥協案くらいは掲示しておいてやる。快活そうな今の様子に順じてお転婆な面を隠しきれず、どこか子どもっぽい彼女なら団子の一つや二つ、情報入手の報酬代わりに奢ってやればまあ、俺との同行を許してくれた事に対する最低限のねぎらいにはなるだろう。

 

「流石は旭将軍・木曽義仲です! 話がわかります! ええ、報酬(お団子)の為なら情報収集なんてお茶の子さいさい! 沖田さん、行ってまいりまーす!」

 

 いや、そこで旭将軍を引用されても困るのだが、などと言葉を零す暇を彼女が与えてくれる筈もなく、とっとと背を向けて雑多の中に紛れていった。

 

「ああ、こらこら。ある程度情報が集まったらこの大通りに集合しろよ? ……聞こえたのかあいつ」

 

そう独り言ちると鮮やかな桜色の着物の裾が左右に振れているのが見えたので、一応の了解は得たと安心する。戦闘の際の様子を振り返ってみるとちょっとどころか、かなり残念な部類に入る彼女にはどうしても不安が残ってしまうが。

 だがまあ、彼女が生前所属していた組織の任務でこういった調査は多かったようであるし、ここは幕末最強無敵の沖田さん(真偽は不明)の肩書を信用するとしよう。戦闘に入らなければ人当たりの良い彼女なら余程の事をしない限り失敗する事は無い筈だ。そして、何よりもあの楽しそうな様子だと()()()()()()()()()()()()()と安心できる。

 戦闘時の彼女の動きに対するちょっとした観察で分かった事だが、彼女の在り方を一言で言えば『剣才と術理を持った動物』だ。

 もっと簡単に言えば『巧く動く動物』。ちょっとした直感などの本能的な部分でぱっとなんでも直ぐ出来てしまう稀に見る天才型だ。そういった所は少しばかり身勝手な所もあってちょうど義経辺りに似ていると思える。

 そんな彼女が戦闘時に放っていた冷徹な雰囲気のなりを潜め、快活に笑っているという事はつまり()()()()()()。明確な危険が訪れれば彼女は必ずそこに反応するだろう。

ひとまず、この町に危険は訪れないのであれば、こちらもやる事に集中できるというもの。まあ、それでも『今のところは』という言葉が付いてくるのだが。

 

「さて……俺も動くか。手始めに旅の行商にでも話を聞こう」

 

 総司の消えていった道とは反対方向に足を向け、雑多の中へと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あの化生共を退治した後。

 俺達は戦闘前の確約通り、互いの真名を開示した。俺の真名を教えた時、総司は酷く驚いた様子を見せた後、かなり恐縮した様子で名乗ってきていた。

 そして、その真名開示が決め手になったのか、情報の共有はすみやかに進めることが出来た。

 結果はまあ、俺と同じ最低限の知識だけ与えられて放り出され、俺と同じ状況に陥って

いただけであったようであるが。

 だが、それでも彼女の真名を知れた見返りは大きい。

 新撰組。

 江戸時代末期、京の都でその名を知らぬ者はいない。京にて『誠』を掲げ、道を歩けば民草は道を譲り、幕末の志士たちから恐れ、畏怖された剣豪集団。

 そんな数多くの剣豪に名を連ね、『天才』として名高い人物が一人。

 名を、沖田総司。

 生前、彼女の振るう剣に対して土方成る人物はこう称したという。

 アレは剣じゃない。もっと違うナニカだ、と。

 成程。実に的を得ている答えだと思う。彼女にそう言い放った人物はさぞ聡明な人物なのだろう。肝心の本人はそう言われてもいまいちピンと来ていないようではあったが。

 実際、俺の所感も大体そんなところに留まっている。剣の腕にせよなんにせよ、物事は極れば極まる程言葉で称する事が難しく抽象的なものになっていくというのは生前の経験則で確証済みだ。実の所、俺が彼女に例えた『動物』という印象だってただ『何となく』という漠然としたものから来ている。それ程にまで、彼女の剣には目を見張るところがあったのだ。生前生まれていれば絶対に手中に収めたと思える程には。

 ──とまあ、以上が俺が総司に対して抱いた印象だ。巴に言ったら機嫌を損ねそうだな、などと思いながら目の前の現実に目を向けた。

 現在、大通りを訪れている間に彼女から直接聞いていた沖田総司に対する印象を金繰り捨てている最中だ。

 

「何してる」

 

「あ、義仲さん」

 

「おや? 沖田さん、この眼付きの悪い殿方が話に聞いていたお連れですか?」

 

「そうなりますねぇー。あ、お団子ありがたく頂きますね? あ~──」

 

 あれから小一時間。照り付ける陽光が少々強くなってくる時間帯。昼時を過ぎた大通りはその喧騒を少しばかり抑え込んでいる。こっちはそれなりに多く情報を入手出来たし、時間的に確認の頃合いだろうと思って総司を探していると何という事だろうか、めちゃくちゃ和んでいた。日傘が差されている座席で贅沢に団子を片手に茶屋の店員と随分仲良さげな様子で。

 何となくだ。何となく納得が行かなかったので彼女の口に団子が入り込む瞬間を狙い、片手で両頬を挟んだ。

 

「こんな所でおやつとは……お前絶対忘れてたろ」

 

「……にゃ、にゃんのこほか──」

 

「処刑」

 

「イタタタタ⁉」

 

「ちょっと⁉ 顔、沖田さんの顔が凄い事になってますよ⁉」

 

 挟みつぶす。だが、それでも幕末最強無敵の名は伊達ではないのか、団子を持っている手は決して離さない。なんて食い意地だ。いっそ哀れに見えてくる。

 

「すまなかったな、店員。こいつの相手、疲れなかった……か?」

 

 改めて、隣で心配そうにこちらを見つめている店員の女性に目を向けた。だが、目の前の光景には流石に驚きを隠せなかった。

 青を基調とした着物を露出多めに着付け、どこか妖艶な雰囲気を放っている。桃色に近しい色を放つ長髪は二つに束ねられ、黄土色の瞳は元々非常に整っている顔をさらに際立たせた。それこそ、何で店員やっているのかと疑問に思う程に。

 

「あ、いえ、私は別に良いのですが……その、沖田さんが……あぁ、ついに帰らぬ人に」

 

「こいつの事は気にするな」

 

「いやいや、死んでませんからねおたまさん! そして義仲さん、死亡判定が出たならもうその手を離してもよろしいかと! さあ! さあ!」

 

「生きたいのか死にたいのかどっちなんだお前は」

 

 まぁ、離すがな、と言いながら総司を手放す。しばらく痛みで悶絶している所をおたまと呼ばれた女性店員と一緒に無言で眺め、回復の頃合いを見て話を再開した。

 

「で、真面目な話だ総司。本当に茶飲みに戯れていただけじゃないだろう。俺が見るに、そこのおたまという別嬪は何か知ってると見た」

 

「マイペース過ぎる……これが、これが旭将軍」

 

「それお前に一番言われたくないぞ。幕末最強無敵の沖田何某(なにがし)

 

「あー! 今馬鹿にしましたね! 絶対馬鹿にしましたね! 心眼がしっかりと反応しました!」

 

 俺にも備わってる心眼スキルにそんなアホみたいな使い方があるなど初めて知った。どうせなら知りたくなかった意外な新事実に内心驚愕していると、総司はさも不満です、と言った具合で腕を組んでふんぞり返っている。

 

「良いですよ、沖田さんが知ってる事義仲さんには絶対に話しませんから! ですよね、おたまさん!」

 

「すまない、おたま。こいつに何を話したか聞かせてくれないか?」

 

「ふふふ、良いですよ。愉快な三白眼のお方」

 

「おたまさぁーん⁉」

 

 当事者の総司からしてみれば傍迷惑な話だろうが、面白すぎであった。途中から興が乗って揶揄ってしまったが予想以上に反応は良い。

 だが、このままではあまり話が進みそうになかったので、真面目な話が出来る様に会話を促した。……目つきに対する指摘はこの際目を瞑っておこう。

 

「それでだ、総司から色々聞いていると思う。故あって俺達はこの下総の調査をしなければならない。だが、聞いた情報はどれも曖昧なもので手掛かりにすらならん。そこで、おたま。お前の話を伺いたい」

 

 探ってみて分かった事だが、泰平の世だからなのか、それとも()()()()()されているのか、どうにも情報の伝達が遅く感じる。少し人里に離れた所にあれだけの化生共が生まれているにも関わらず、この下総の民はそれを()()()()。いや、知っているにはしっているがそれらは盗賊だの山賊などと俺が見たものとはかけ離れたものだったのだ。

 

「ふむふむ……事情は承知しております。沖田さんとのお仕事……ですよね?」

 

「うむ」

 

「ですが私も詳しいとは言い切れませんし、最悪空回りするかもしれませんよ?」

 

「なに、手掛かりにでもなってくれればそれだけで十分だ。それに、案外目が利くものでな。おたま、お前以外に適任はいないと思っている」

 

 隣でうんうんと頷いている総司。大方、私の目に狂いはなかった、とか考えているのだと思う。

 

「……それだけ言われば、断るわけには行きませんねぇ……けれど、過度な期待は止してくださいな?」

 

「良いですよおたまさん。情報の信用度なら、今まで聞いてきた中でも貴女が一番信用ありましたし。遠慮なく吐いちゃってくださいっ!」

 

「お前は遠慮が無さすぎな」

 

「脳天締めはやめてください本当に!」

 

「ふふふっ……コンコン……ええと……ここ下総で起こっている不穏な出来事、ですよね?」

 

 こくん、と頷き、そのまま続けてくれるように促す。

 

「三日前の話です。これはどこかの商人の殿方が来店した時に聞いた話なのですが……曰く、北の香取神宮の境内にて、怪しい男が伴天連の妖術を執り行ったと、か」

 

「ばてれん? ……ああ、異国で言う魔術の事か」

 

 ぼそりと呟いた言葉は行き交う人々の雑多の喧騒に紛れては消えて行く。おたまの言っている情報と、先程聞き及んだ情報を少ない付与知識で捕捉しながら仮説を頭の中で組み立てていく。消沈していた総司もいつのまにか立ち直り、おたまの隣で神妙な顔をして聞いていた。

 

「それより前にも似たような話はあったんですよ? 黒い幽霊が出た、とか。空が突然黒くなる時は見たこともない化生が現れる、とか。どれも確証がない噂程度のものでしたけど。沖田さんが言ったような黒い武者、などというものは初耳でしたね」

 

「その噂が流れたのはいつの事だ?」

 

「丁度ふた月ほど前かと思いますが」

 

 とすればここでは少なくともこの異常がその時から始まっていたということになる。

 そして、ここ最近になって現れたと思われるあの黒い武者の化生。そして、俺達はぐれサーヴァントの召喚。こんな状況、偶然にしてはきな臭すぎるが、まだ確立できる程の手掛かりに至らない。英霊が出動する以上、元凶と呼べる黒幕は必ずどこかに存在している。敵の動きがわからない今は身を潜め、探りを入れるのが妥当だ。だが、探索に移ろうものならもう少しだけ情報が欲しい所である。

 

「えーと、他には……あ、そうでした」

 

「ん?」

 

「殿方はこうも言っておられましたね」

 

 瞬間、直感めいた何かが頭の中を横切った。今からおたまが話す事は聞き逃しては行けない、と。反射的に耳へと神経が集中するが、その代償として喧騒が雑音として耳によく入り込んでくる。

 

「朱い月の下、その化生たちを率いては暴れまわってる七体の親玉がいると」

 

 総司もその動物めいた感覚で察したのか、その鋭い顔をしており、固唾を飲みこんでいるのが伺える。

 

「その名を──」

 

 

 ──英霊剣豪、と。

 おたまの声は静かに、だけどしっかりと耳に刻み付けられた。

 

 

「英霊、剣豪?」

 

 どことなく血生臭さが隠しきれていない名称である。だが、それがどんなものなのかは具体的には湧いてこない。総司の方も訳が分からないと言った具合で頭の上にはてなを浮かべ、おたまの放った言葉を反すうしている。

 

「はい。常陸の国辺りはもうとんでもない事になっているそうですよ? その……()()()()だった、とか」

 

「……義仲さん」

 

「ああ」

 

 戦闘時に見せた冷たささえ感じる剣呑な空気をじんわりと纏わせた総司の視線に頷く。

動く分の手掛かりは十分得た。伴天連妖術、英霊剣豪、化生共の変異。これだけの情報があれば仮説を立てることぐらいは容易だ。

 英霊が現界している。それはつまりそれらを使役するマスターが存在しているという事実他ならない。ならばそのマスターが今回の騒動の元凶であるのは自明の理。

 結果的に進展をもたらした総司には団子以上には報わなければならないだろう。

 

 

 そして何より──おたまという女性に感謝を。

 

「……何だか申し訳ないですねぇ。私、これ以上の事はなにも知らなくて」

 

「いや、こっちは十分助けてもらった。ありがとう」

 

「……そう真正面からお礼を言われるというのもなんだか……貴方が言う程、私は大した事はしてませんよ?」

 

 はて、何を言っているのだろうか彼女は。

 

「それでもだ。お前は今日あったばかりの俺達にこんなにも世話を焼いてくれた。俺の知ってる場所では見ず知らずの人間なんざ見捨てられて当然だったからな。だからこそ、お前の気遣いが俺には心地よかった」

 

 これは事実だ。何せ、無償の施しという大義を彼女は成したのだから。

 生前、俺の生きた時代は皆が皆生きるのに必死だった。だから、誰もが生きる為に利用し、利用されてきた。そこに関して責める気はないし、そうしなければ生き残れなかったことも理解できる。誰も見ず知らずの奴を助けようなどという傲慢な考えは持てなかったのだ。だからこそ、俺はあの時代では『異端』だった。

 だからだろう。誰かを代価無しで施しを与えられる彼女は、俺にとって美しく見えたのは。感謝しないわけがない。

 

「だから改めて──ありがとう。おたま。いつか、俺に茶を奢ってくれればそれでいい」

 

「……では、その時に必ず。約束、守ってくださいましね? 義仲さん」

 

「その時は是非とも馳走を頼む」

 

 そう言うとおたまはその端正な顔に喜色の混じった雅な笑顔を浮かべ、俺達にしばらく待っているように伝えるとそそくさと店の中に消えて行った。

 良いものも見れたし、これで大丈夫だろうと思っていると、横から訝し気にこちらを見る総司が。その視線の温度はどこか冷めている。

 

「何だ?」

 

 先程漂っていた真剣な雰囲気はいずこやら。俺と総司の間に再び緩い空気が流れ始める。

 

「義仲さんって、意外と誑しなんじゃないですか? 帰ってくるかどうかもわからないのに、態々また会うような約束までして」

 

 総司が心底呆れたように腰に手を当て、軽くはない溜息をついた。

 

「何を言い出すかと思えば……お前はあれだな。男女同士で友情が成立しないと思っている奴だろう」

 

 そもそも友人が異性二つの線引きをはっきりとしていれば決して情事には至らない筈なのだ。友人に向ける気安さと異性として意識している相手に向ける気安さとの区分、ともいうのだろうか。勘違いされないように意識して行動すれば割と異性との友情を抱くのは容易い。というかそうでもしなければ生き辛いったらありやしないだろう。違いはあれど、この世には男と女しかいないのだから。

 

「実際、私はそうだと思いますよ? しかも義仲さん目付きに反して割と社交性高めですから。そうやって生前もいろんな人を誑かしていたんじゃないですか?」

 

「舐めるな。こちとら妻帯者だ。飯と妻どっちを選ぶと言われたら迷わず妻を選ぶ男だという自負がある。というか俺は目つきが悪いんじゃない。吊り目が過ぎるだけだ」

 

「一応気にしてたのですか……」

 

 自分でも苦しい言訳だと思いながらつり上がって鋭くなった三白眼の両目を押さえる。まだ幼かった義秀に『親父の目付きは誰が見ても怖がると思う』と真顔で指摘された時は割と本気で巴に泣きついた程だ。あの時の慈愛と困惑に溢れた巴の苦笑いといったらもう精神的にずたずたにされた気分だった。

 

「けど、その様子だと史実通り仲睦まじい夫婦だったのですね、義仲さんは。一夫多妻が主流だったあの時代にしては珍しく巴御前一人しか娶らなかったっていうのは私たちの時代でも有名な話でしたよ? 情事に欠かなかった私の上司に話したらいつも渋い顔してました」

 

 間接的に責められているその上司とやらが不憫でならなかった。だけどまぁ、(めかけ)を取らなかったというのは事実であるし、それを否定する気は毛頭無い。

 俺の知る木曽義仲の歴史と違う所と言えばそこが一つ挙げられる。本来、木曽義仲は側室に山吹御前などと女を複数娶っているのだが、生前俺はこれを頑なに拒否した。俺が許しても『オレ』自身がそれだけは許容できなかったのだ。政治的な繋がりを作る意味で婚姻を結ぶという事もあの時代では珍しい話じゃなかった。その意図も理解は出来た。

 だが理解しても納得するかどうかは全く別の話だ。

 

「昔から打算的な情事は好きじゃなくてな。それに……」

 

「それに?」

 

 言うべきか、どうにも迷った。何故かは分からないが単純な話、俺が恥ずかしがっている。

 けれど、総司が興味津々な様子でこちらを見つめてくる以上それを突き放すわけにもいかず、まだごもついている口を開いた。

 

「……と、巴以外の女を娶るなんざ、あり得ないと思ったからな」

 

 今、猛烈に恥ずかしい事を言っている。何よりも青臭い。成熟した俺ならこんな事もう少し簡単に言えた筈なのに、肉体が今の発言に対して猛烈な恥ずかしさを覚えてしまっている。これも大分若い体で召喚された弊害だろうか。

 総司は少しばかり驚いたように一瞬だけ呆けると、直ぐにその表情を悪戯に歪む。無性に殴りたいと思った俺はきっと間違いではない筈だ。

 

「あれれぇ~? 義仲さん、いい歳して赤面とか恥ずかしくないんですかー? 私の事は散々ーー」

 

「……オロスぞ」

 

「はひゅっ⁉ あ、あああ謝ります謝ります謝りますからドスのきいた声でこっち見ないで下さい! 目が、目が凄い事になってます!」

 

 ……コイツ……言わせておけば……。

 

「……」

 

「あ、あれ~? な、何で柄に手をかけ始めてるのですか? 私謝りましたよ! この通り反省、じゃなくて! 猛省しています!」

 

「……旭将軍の触れてはならない単語の内の一つ」

 

「……人妻?」

 

「目つきだ」

 

「アーーーーーッ‼」

 

 刀で脅しながら脳天締めをかます。

 なお、このやり取りはおたまがここに戻ってくるまで続けた。

 

 




 お気に入りと評価が尋常じゃない事になっている事について。
 多くの評価、お気に入りをありがとうございます。そして、読者さんたちの巴へのキャラ愛が凄いと感じました。
 今回はちょっとしたコミュ回。キャラの肉付けの為に割と重要だと考えている作者。特に既存キャラとの交流が一番人柄は伺えると思うので。
 そして、ちょっと惚気て逆ギレする義仲さん。所謂彼の状態はラーマ君みたいな状態です。理不尽だなこいつと書いてて思った。
 次の更新も気まぐれ。書き溜めの件もあるので。
 改めて、感想評価ありがとうございます、読者の皆さん‼
 そして、誤字報告ありがとうございました! 隅々まで見てもらって、ほんとうにうれしいです!
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