旭と巴   作:トウチ亀

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参番目

 

 

 

 

 ──地獄とは、此処の事だったのですね。

 

 

 苦しい。

 

 

 消えない。

 

 

 静まらない。

 

 

 血肉が、魂が、霊基が、ずっと、ずっとずっと──。

 

 

 ──ずっとずっとずっとずっとずっとずっと、叫び続けている。

 源氏を滅せよと。民草を滅せよと。日ノ本を滅せよと。

 だって、憎くて憎くてたまらないのです。

 私から、あの人から全てを奪い去っていった源氏が。それを見て見ぬふりをして見殺しにした民草が。それらを生み出した日ノ本そのものが、世界が、憎くてたまらない。

 源氏が嫌い。

 民草が憎い。

 日ノ本が嫌い。

 世界が、憎い。

 ──許さない。

 絶対に、絶っっ対に‼ 

 奴らを、燃やしたい。心の蔵をもぎ取り、目玉を抉り、骨の髄に至る全てを灰燼に帰し、蹂躙する。

 嘆き、絶望し、泣き喚くといい。

 此処は元より地獄。帳尻合わせなど不要。完全無欠な、地上の地獄だ。

 

 

 自分でも、恐ろしい女だと思う。

 私は、こんなおぞましい者では無かったというのに。

 

 

 だけど、止まるわけには行かない。否、止まってなるものか。

 

 

 我が忌名(いみな)はアーチャー・インフェルノ。

 血を燃やし、命を燃やし、己が魂を燃やす獄炎の怪。

 親を、子を、老人を、その家族を、お前達自身の全てを焼き尽くす火の姫。

 全て、全てを一人残らず滅ぼす、獄卒となろう。

 焔の糧となる、薪となりて──

 

 

 

 

『ただ願うだけで良いんだ』

 

 

 ────。

 

 

『お前は確かに人とは違うかもしれない。腕っぷしは強いし、皆には無い角が生えている』

 

 

 ──ああ、何故(なにゆえ)

 

 

『だが、だからと言って人らしく生きられないなんて事は無い』

 

 

 何故(なにゆえ)こんなにも、愛おしいのでしょう。

 

 

『どんな時でも泣いて怒って、そして最後には笑うんだ、『人』というのは』

 

 

 こんなに憎いのに。こんなにも、私は悲しいのに。

 何故(なにゆえ)、この声を聞いているだけで、満たされるのでしょう。

 

 

『お前が『人』として生きたいのなら、そうしよう。無論、()()とな』

 

 

 そう言って彼は微笑んだ。

 私の頬を撫でながら、幸せそうに、心の底から嬉しそうに笑っている。

 

 

『『人』だろうが『鬼』だろうが、背中合わせなら抱え込める。だから一緒に生きよう、■』

 

 

 ああ、そうだ。そうでした。

 貴方は私に『人で在れ』と言ってくれたのですよね。

 ならば、そうしましょう。

 ここが地獄でも、その言葉がある限り私は耐えられる。

 たとえ反転を得ようとも、私は■で居られる。

 この身は焔でもなく、薪でもなく、獄卒でもなく──ただの『人』として。

 貴方が、その私を望んでくれるのなら。

 

 

 ──けれど。

 

 

 けれど、一体どこに行ってしまわれたのですか?

 

 

 

 

 私の──義仲さま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──?」

 

 ──酷く懐かしい声に名を囁かれ、後ろへ振り向いた。

 延々と続く田んぼには、水鏡に映し出されている緩やかな雲と青い空が伺える。遠くの山は白くかすみ、青々と茂る林や森からはどこからともなく緩やかな川の音が聞こえてくる。これのどこか物騒なのだと言わせる程、それらの光景は穏やかだった。

 だが、そこには視界に映る景色以外、何もない。

 血生臭い戦とは無縁で穏やかな光景の筈だ。本来、それは尊いと思うべきものの筈だ。だが、そこに誰もいなかった事が、何だか酷く空虚で胸に風穴が空いたかのように、やるせない寂しさを感じた。

 

「? どうしました? 義仲さん」

 

 そんな自分の反応に不思議そうに見据える桜色の剣士。その手には先程茶屋で貰い受けた串団子が数本、竹皮の包みの上で寝転がっていた。

 

「いや、何でもない」

 

 見つめてくる総司に対し、端的な言葉だけで答える。一瞬だけ此方の目の奥を覗き込むように見つめてきたが、直ぐに視線を手元の団子に戻し、止めていた足を再び動かし始める。それと同時に、意識したつもりはなかったのにさっき聞こえた声について振り返っていた。

 まさか、な。

 居るわけがない。よりにもよって彼女が。それこそどんな奇蹟だと疑う程だ。何よりも、左肩の『印』が反応していない。

 けれど、酷く懐かしい声だった。何度も聞いた。聞き間違える筈が無かった。何度だって聞くそれを護ろうと、何度も似合わない意地を張り続けて、戦ってきたのだ。

 それが出来なかったから、俺はここにいる。

 過去に想いを馳せれば今でも浮かび上がってくる。あの乱世において『俺は幸せだった』と断言出来た、あの時間、あのひと時を。『旭将軍』という魂と殻が無ければ鏖殺者でしかない俺が味わえた、確かな幸福。

 巴が居て、義秀が居て、俺についてきてくれた仲間が居て、そんな当たり障りのない事がずっと続いてくれればと願った事もあった。

 それが手に入れば俺は、()()は、サーヴァントの務めなんざ──

 

(……何、サーヴァントとしての務めは果たすとも)

 

 それらしい理由を添えて思考の渦を正し、雑念を無理矢理振り払う。あれは幻聴だ。ちょっと前に彼女に関する話をして感傷的になってしまった所為だろう、などと取って付けたような言訳で自分を騙した。

ただ、そうやって考えるのが辛くて目を背けただけなのに。

 だが、だからと言ってどうすると言われたところでこれと言った解決法が思いつくわけでもない。

 ならば、もっと憂鬱になる前にこの地で起きている問題をさっさと解決して──

 

 

 ──唐突に視界に団子が映り込んだ。

 団子を目に当たるギリギリで突き付ける総司の姿を見て、体が思考と一瞬にして停止した。

 

「どうぞ」

 

「……は?」

 

 唐突すぎる総司の行動に頭が追いつかず、間の抜けた声が出てしまう。

 

「いえ、何だか思い詰めてたみたいなので。気分転換に食べる甘い物は最高ですよ?」

 

「……そんなにわかりやすかったか? 俺は」

 

 生憎と鏡など持ち合わせておらず、自身の顔など伺える事は出来ない。

 

「顔に出てました。旭将軍がどんよりと陰ってました。……旭だけに! 旭だけに!」

 

「喧しい」

 

「わーっ‼ 私なりの励ましですよ励まし‼ ウケそうとかまったく思ってませんから!」

 

「……はっ」

 

「うわーん! 鼻で、鼻で笑われた! 良い歳した大人が女々しくいじけていた事なんかに気遣うんじゃなかったー!」

 

「いや、気は楽になった。詫びとしてさっきからタレが飛び散りっぱなしのその団子はありがたく頂いておこう。あと言い過ぎだからなお前」

 

 徐々に無遠慮になってきていないかこいつ。

 口には出さず、内心でそう呟きながら差し出された団子を受け取る。

 だがまぁ、憂鬱で陰っていた気分が総司の能天気とも言える態度によって幾分かマシになったのも事実だ。その内実はただ慰められているだけなのだろうが。

 精神的には明らかに年下であろう彼女に慰められているという事実に情けないな、などと自嘲の入り混じった苦笑いが自然と浮かび、紛らわすように三つ串に刺さった団子の内一つを口に放り込む。

 程よい塩分とぐっとくる糖分の重みを舌がしっかりと感じ取る。ひんやりと冷えた団子の食感はタレとの整合性がしっかりと取れており、それでいて噛み応えも抜群であった。

 食事に限らず人間であった頃に必要であった生体活動の殆どを必要としないサーヴァントであれ、甘味は死んでいても良い物だと実感する。

 

「それで、一体何を考えていたのですか?」

 

「……いや、大したことじゃない。そもそもどうしようも無い事だからな。それより、今後の動きを確認したい。お前、俺が何故人里に向かおうなんて言い出したかまるでわかっていないだろう?」

 

「そりゃそうですけど……私なら力になれるかもしれませんよ? だって義仲さん──」

 

 ──凄く寂しそうでしたから。

 その何気なく放たれたその言葉は俺の中にしんと静寂をもたらした。

 寂しい。

 彼女には、今の俺がそう見えたらしい。顔に出やすくなっているのもかなり考え物だが、それよりなにより、俺はそんな感情を抱いていた事に驚きを隠せなかった。

 何故か。

 それはあいつを、巴を突き放したのは間違いなく俺だったからだ。

 烏滸がましい。実に烏滸がましい感情だと思う。生前、あの最期を迎えた城、燧城(ひうちじょう)における闘いから巴を生き延びさせる為に俺は彼女に遠くへ行くようにと命じた。 

 永く、健やかに、幸せに生きて欲しい。ずっと願うようにそう言ってきた彼女だったが、それは俺も同じだ。誰が一番愛したと実感できる女を戦場で無駄死にさせることができようか。子どもを抱えた妻を、死地に赴かせる事をどうして是とする事が出来ようか。寿命で死に、安らかで穏やかな死を迎えられる幸せを愛した女へどうして願わずにいられようか。

 だから、あの時別れたのだ。

 もう二度と会えないと、今生の離別を覚悟して。

 確信に近い死の予感を自身に抱きながら、少しでも長く彼女に生きて欲しいと思ったから。奇しくも、俺は『オレ』の知る旭将軍と同じ別れ方をしたのだ。

 全てはあいつの幸せを願っての事だった。俺の『最期』にあいつを巻き込みたくなかった。だから、だから。

 あんな──()()()()()()()()()()()()()()()、思いもしなかったのだ。

 思えばここで気づくべきだったのだと思う。俺自身の間違いに。それが英霊となった今でも深い後悔という宿業として付きまとっている。

 解っていただろうに。互いに幸せになる事を願っていた。なのに、あいつが一番寄り添いたい時に俺は突き放してしまった。

 だから、俺がいくら会いたいと願っても、それを願う事は、何よりも烏滸がましい事なのだと。何より──愛した女を泣かせるような選択をしてしまった時点で、俺は致命的に間違えていたのだ。

 

「また陰ってますよ? 義仲さん」

 

「ん? ああ、すまん」

 

「良いですよ。旭将軍のあまり見れない顔を拝謁出来ましたし。それに……寂しさって、本当に辛いものですから」

 

「悪いがしめっぽいのは俺の特権だ。お前には似合わん」

 

「私だってたまにはシリアスになったって良いじゃないですかぁ!」

 

 いや、今更だろうと思いながら総司の変わらない反応にくつくつと笑いが込み上げてくる。少なくとも、最初の印象はそこまで残念なものでは無かった。本当に何でそうなったんだろうな、と思わなくもない。

 

「それで、今後の方針について話し合おう。切り替えだ切り替え」

 

「さっきまでいじけてたのはどこの誰でしょうね」

 

「はて、誰だろうな」

 

 軽口を交わしつつ、頭の中を巴の事からサーヴァントの務めを果たすための機能へと切り替えていく。

 結局の所、俺の考えている事は全て無い物ねだりだ。どうしようもない筈なのに、それは叶わない事だとわかっているのに、叶わないものを望み続けている。そんな事は小さな子どもがやるのと同じ、我儘(わがまま)だ。

 

 

 巴は、ここにはいない。

 

 

 その現実をまずは受け入れなくてはならない。懺悔は本当に現れた時にでもすればいい。

 今は、今だけは目の前の事に集中しなければ。

 

「むむむ……全く腑に落ちません……具体的にはこのまま話が移り変わろうとしている事に」

 

「で、最強無敵の沖田何某よ。お前が妙な駄洒落を言い放った時の話題、振り返ってみろ」

 

「無視ですかそうですか……えーと、確か私たちが人里に向かっている理由でしたか?」

 

「丸をやろう。おたまに借りた地図は頭の中に叩き込んだか?」

 

「まぁ一応は。けれど……良いのでしょうか? あの大通りに訪れる道中、義仲さんの分析通り人里とはかけ離れた山や森では確かに怪異は出やすかった。逆に下総に近付くにつれて怪異の出現頻度は減少し、最終的に出現すらしなくなった……大元を叩くというのなら、私としてはあの町中の方が……」

 

 総司の懸念は最もだ。とはいっても見た目に反して結構脳筋であるこいつの場合、『元凶が出てくればこっそり殺れるから』などと言い出しそうだが、俺としてはもう少し別の理由がある。

 

「お前の理由にも一理あるがそうも行かん。まず二か月前は英霊剣豪の召喚が確認され、ここ最近になって怪異の種類が増加したことが確認できた。俺たちの見た黒い化生がそれだ」

 

「あの黒武者や猪の事ですね?」

 

 頷き、是と示す。陰りを強制的に退去させた思考は思いのほかしっかりと機能している。

 歩みを再開させ、大分傾き始めた太陽を見据えながら目的地へ着々と進んでいく。

 二か月前の伴天連妖術による召喚。そして化生の増加。これらが無関係とは言い難いだろう。まともな調べをしてない現状でも、少なくとも全く関連性がないとは言い切れない。

 そこで、ある仮説を立てる。

 調べていく内に不自然だったのはそれら全てが単なる()()()()()()事だ。

 常陸の国が焼け野原になるような被害、これが下総の民に完全に伝わり切っていないのはいくら泰平の世であっても不自然だろう。あれだけ民草が何も知らないという事は陰から何かが介入している可能性が高い。平和ぼけ、といえばそれまでだ。だがまだこの時代には血生臭い武士が多く存在している。少なくとも一揆などの競り合い程度の戦ならいくらかあった筈だ。

 

「常陸の国の被害にしても、アレは英霊剣豪やあの黒い化生共の仕業と見てまず間違いないだろうな。それに、恐らく元凶は()()()()()()()()()

 

「……聞き込みで聞いた情報がどれも曖昧だったのはそういう事ですか」

 

「英霊剣豪……それを取り締まるマスターである妖術師の仕業かもしれん。もしくはそのどちらか、だ」

 

 総司も同じ結論に行き着いたようで、表情が思案顔に変化する。

 だが、これはまだ仮説の序盤だ。あくまで仮の結論である為、確証を持つ事は出来ない。

 その仮説を結論に確信の箔をつけるために現在俺達は()()()()()()()()()()()

 

「それで? 結局の所、それが人里に向かう事に何の関連があるのですか? もう随分長く歩いているように感じますけど……」

 

「それは──」

 

 付いて来ればわかる。

 総司にそう伝え、町で頭の中に記憶した地図を思い浮かべながら現在地を絞り出す。

 ふと、俺の背後にいる総司の様子を伺った。あまりにも漠然とした返答をした所為か、完全に理解できた様子は無く、微妙に首を傾げている。それもそうか、と一人納得していると、目的地へと続く道を発見しそちらに足を踏み入れた。

 一見、田んぼ道の延長に過ぎず、どこも変な所などありはしない。人の手が入った様子はほとんどないのにも関わらず、固くしっかりと整備された道は何度も行き来した事を連想させる。道の真ん中に弱々しく根を張っている雑草らがその印象に対して更に拍車をかけた。

 本当に、何て事はない、普通の道だ。それこそ、奥から普通に誰かが歩いてくるのでは無いかと思える程には。

 

 

 奥から感じ取れる、むせ返るような()()()()がしなかったら、の話だが。

 

「まあ、結論としては黒幕の目的は俺にもわからない。こんな陰湿な事をする奴が考える事だ。一介の武士である俺には一向に理解できる筈もない。だから、ある仮説を考えた。前提として何故──()()()()()()()()()()を」

 

 口を動かしながらも歩く速度は決して落とさない。

 道を覆い、絶え間なく乱立している木々は傍から見れば大きな異常は見られない。

 だが進めば進むほど、不自然に血の臭いは濃くなっていく。ついさっきまで歩いていた穏やかな田んぼ道が嘘だったかのように、森の放つ空気がまるで違っていたのだ。

 そして──

 

「──っ‼」

 

 瞬間、()()()()()()。化生共に感じていた黒い破壊衝動などでは無い。もっと赤く、血生臭く、鉄臭い妖気が、場を支配した。ある境界を越えた瞬間、まるで違う世界に足を踏み入れたかのような感覚。生前、怪異や化生などとは無縁だったであろう総司の息を飲む音がこの場において馬鹿でかく聞こえた。手は腰に差した刀の柄に添え、明らかに臨戦態勢を取っていた。

 俺達が見たのは──

 

 

 

 

 ──屍山血河だった。

 

 

 

 

「……ここは?」

 

 似たようなものは見て来たのか、この尋常じゃない異臭に顔を顰めただけに終わる。

 

()()だ」

 

 端的に、飾ることなく総司の言葉に応える。正確には人里()()()ものだ。

 

「……これは酷い」

 

 それは──是と反応するしかなかった。

 人里と称していいのか、という思考が頭の中に浮かんできていたからだ。

 鼻の奥まで突き刺す死臭。周囲に生える樹々は所々焼け焦げ、葉にはべっとりと血が滴り地面に血潮の水たまりを作り上げている。

 止めていた足をその血みどろの里へと踏み込んでいく。総司はそんな俺の隣を歩いた。

 そして、中へ中へと踏み込んでいく度に、この人里の現状の惨さが伝わっていきた。

 倒壊した家屋には女子供の手首や足、否、破損が大きすぎて最早ただの肉片にしか見えない。腐臭を放っている肉片には蠅と烏が死体を突きまわしており、どうしようもない不快感が頭の中にどんよりと残った。

 他にも胸に風穴を開けられた者や、何かに噛みちぎられた死体、水攻めにでもあったかのように白目を向いて事切れているもの。そして、どういう訳か()()()()()()()、すっかり縮こまって黒焦げの炭人形と化した屍もあった。

 静かな怒りが沸々と込み上げてくる。

 その死体の中には子どもを抱きながら死んでいる女の姿もある。恐怖で顔がぐちゃぐちゃになったもの、(からす)に突きまわされて原型を留めていないもの。

 その全てが、受け入れ難い光景だった。

 

「何て怨念……ここまでとは……」

 

「……泰平の世真っ只中だというのにな。こんな光景は乱戦の時世だけで十分だ」

 

 英霊は精霊の一種。故に亡霊の類の気配には敏感だ。耳を研ぎ澄ませば、周囲からはここで死んだ者たちの無念と後悔、そして怒りが最高純度で詰まった怨嗟の声が聞こえてくる。泣き叫ぶ声、怨恨を込めた怒声、正直、ここに長居しても良い事は無さそうだ。ここまでとなると、カタチを得て無差別に攻撃してくるかもしれない。

 そうして怨念が一番集まっている場所──里の中心についた。

 

「……ここで一体何が?」

 

「数日……少なくとも俺達がはぐれとして召喚されるより少し前、既にこの里はこんな有様だったらしい。聞いた話では何も『血の池が空に浮かんでいた』とな」

 

「その話の情報源は?」

 

「この里に毎月物品を売りつけていた商人(あきんど)から話を伺った。……余程怖かったのかもしれないな、話してた時の様子は尋常じゃなかったが」

 

 それはあの大通りでおたまと遭遇する前の調査で知った事だ。

 その商人の男から聞いた通りの被害状況だとすると、流石に噂程度じゃ収まらないだろうと思って悪い冗談だと高を括っていた。が、その商人がどう見ても嘘を言っているようには見えなかったのだ。

 そして、調査を進めていく内に徐々にその話が確信へと近付き、最終的におたまからの情報でそれらは確定的となった。

 いわずもかな、決定打となったのは英霊剣豪の存在である。

 

「義仲さん……それ罠だとは思わなかったのですか?」

 

「思ったとも。その時代らしからぬ異常に俺達英霊は集まるからな。だが幸いにして俺とお前には敏捷という点において立派な逃げ足がある。気取られる前に気取ってここから離れればいい」

 

 幸い、総司には動物的な直感がある。こちらが危険になるようなことが少しでもあれば必ず感知する筈だ。

 

「でしたらそのやる事とやらを手早く終わらせましょう。仮にサーヴァントが噂通りの数で襲ってくるとしたら、いくら義仲さんと言えど……」

 

「わかっている。流石にそんなのを一度に相手取るのは面倒だ。やる事やったらすぐにここから離れよう。それと、あまり怨嗟の声に耳を貸すなよ? 霊基を汚染されるぞ」

 

 地面に片膝を着け、地面に片手をつける。

 怨嗟の声に──未だ土地にへばり付いている怨念を起点に、それらの()()()()探る。本当はさっさと弔ってやりたい所だが、二つの手掛かりの内の一つだ。ここの連中には悪いが、その怨念を利用させてもらう。

 

「? 一体何を──」

 

「総司。唐突だが『魂喰い』というのを聞いたことがあるだろう?」

 

 会話をしながら、どこかに飛び続けている怨念の尻尾を追いかける。出来るだけ怨嗟の声に傾けないように。

 

「一部のサーヴァントがたまにやる事だ。誰もが持つ魂を魔力に変換し、現界の際に消費する魔力の糧にする……要するに魔力源だ」

 

 それは正当な英霊であれば絶対に行わない行為である。

 だが、何も魔力を必要とするのはサーヴァントだけとは限らない。魔力を持つ人間は多くいるし、その『魂喰い』でさえやろうと思えば生きている人間にも出来る。

 立てた仮説とは、ただ単純にコレの原理を利用しただけのものに過ぎないのだ。しかもそうする事で何をしたいのかは流石に黒幕殿に直接問い出さない限り皆目見当がつかない。

 怨念の尻尾を追いかけ続けていくうちに、色々な魂の声が聞こえてくる。懺悔、嘆き、怒り。様々な色を持った魂が隣を通り過ぎていく。あくまでこれはイメージだ。イメージではあるが本物。魂を追いかける為、俺なりに脚色された景色。

 

「魔力……源? …………魂食い? …………っっ‼ まさか──」

 

「そうだ。鏖殺による魔力源の確保。そしてそれらは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──いや、それはあくまで計画の布石に過ぎんよ。旭将軍・木曽義仲』

 

 

 

 

 ────。

 

 

 

 

 へばり付くような声。それが聞こえた瞬間──

 

 

「──」

 

 

 抜刀──地上を奔る紫電を一刀の下、()()()()()──‼

 

 

 

 

 

 

 




 今回は多くの独自要素を放り込んでみました。
 沖田さんが義仲さんの悩みに対して力になれると言ったのは『最後まで戦う』という彼女の願いが一種の『寂しさ』から来ているという作者の独自解釈から。人斬りという事に対して少なからず思うところがあった沖田さんにとって仲間と一緒に戦い、または死ねなかった事が何よりも辛かったんだろうなぁっていう。 
 そして、今回はインフェルノちゃんの要素ねぇって事で独白をぶち込んでみました。

 あと、返信できない感想に関してですが、感想でネタバレしてしまうといううっかりを発動してしまう事があるので、あれ自分の返信こないなーと思った人は良い線いってると解釈していただけるとありがたいです。
 感想評価、今後ともよろしくお願いします!
 そして、多くの誤字報告、ありがとうございました!
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