旭と巴   作:トウチ亀

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漆番目

 

 

 

「……」

 

 静かな森だ。純粋すぎる破壊衝動で溢れ返っていた喧騒も今は見る影も無く、鬱陶しい唸り声を上げる黒い化生共の気配も、今は稀薄なものとなっている。

 だがそれは紛れもない――嵐の前兆。

 背中にいる総司を片手で抱え直し、利き腕で得物の鯉口に手を添えて臨戦態勢を整える。不気味に静まり返っている森、その何も無い筈の虚空を起点に放たれている鋭利な二つの剣気を見据えた。

 

「――我が忌名、ランサープルガトリオと申し候」

 

 瞬間、剣気はより鋭利なものに。人ならざる殺意はより禍々しく。怪異の気配は水に勢いよく石を投げつけた波紋のように静まった森へ広がっていく。

 そして、その姿を見た。

 黒靄が晴れた際に見れたのは、坊主。否、衆生を慈しむ僧侶に非ず。神仏に至る槍術の 達人にして、武の求道者に非ず。人界仇なす悪鬼羅刹が一騎、英霊剣豪。

 額の十字傷に、両腕に携えた十文字槍は妖術などでは隠しきれない臓腑と血の匂いに晒されている。俺を一度屠りかけ、槍坊主と称したソレは頭上の月光が如く朱い眼光を愉しげにこちらへ向けていた。

 

「貴様らを屠り、蔓延る生者を屠り、人界粛清しせし槍の英霊剣豪、七つの刃が一人である」

 

「明らかに坊主っぽいお前がそれ言うと訳が分からなくなるな」

 

 視界に一瞬だけ、刈り上げられた丸坊主に映しながらそんな事を呟いた。

 

「――先と違って随分と余裕があるようでござるな。セイバー殿」

 

 再び肌をなぞる剣気と殺気。真っ向勝負で敵を穿つ目の前の坊主――プルガトリオとはまた違った種類のソレは、皮肉をたっぷり含んだ言葉と共にその姿を晒した。

 それは――呪の暗殺者。

 扇情的な網状の着物の上から伺える呪詛模様。英霊剣豪の呪詛の裏、その奥の奥で感じ取る事が出来る『大蛇』の呪い。それも伊吹山の大蛇という特上のもの。俺が蛇娘と称した所以である。

 

「いやさ失礼。我が忌名、アサシン・パライソ。殺の英霊剣豪、此処に推参でござるよ」

 

 蛇娘――パライソはこちらを睨む。

 瞬間、空気が軋む。凍てついた空間が鏖殺者の眼光によって亀裂が入る。

 最大限の警戒、厄介な存在に向ける視線を送っている表情に込められるのは尋常ならざる殺気。英霊剣豪がエーテル体から放つ呪詛が森を、空気を、肌を迸る。視界に鈍い光を放つ蛇の腹や頭は決して幻などでは無い。呪詛が明確な形を取って、敵である俺を捕捉しているのだ。

 パライソの中に潜むであろう大蛇の呪がそれを助長し、促している。

 それに対して俺はいつも通り――笑った。

 

「何、少し吹っ切れただけの話だ」

 

 これは最早抜けきれない癖のようなものだ。

『虚勢』とは違う。二対一。それに加えて、膂力のみ見ればあちらの方が上。しかしだ――それが何だという。俺がこうして笑みを浮かべられるのはこの状況()()で尻込みする理由にならないだけの話だ。どちらかというと経験から来る『自信』に近い。

 

「はははははは!!! 成程、その笑みは大軍を率い、民を導いた軍将が浮かべる笑みか! 見事、見事也! 貴様は生ける全てを護らんとする影法師!! 我らは生ける全てを屠らんとする鏖殺の刃!! この立ち合いは必然だったわけか! はははは、はははははははは!!! ……で、あるのなら――」

 

 込み上がった嘲笑(わら)いを刹那にて消し、血生臭く、鉄色に鈍く輝く血濡れの十文字槍の切っ先を俺――ではなく、背中で寝ている総司へと向けた。

 

「――その背中の()()を背負って戦うなどさぞかし不本意であろう?」

 

「……」

 

 それは――愚問だった。

 確かに、戦術的に考えれば総司はここに置いておくべきなのだろう。それは冷酷に、冷徹に在ろうとする頭のどこかでは理解していた事だった。戦術的に理屈を追求し、合理性をとことんまで掘り下げ続ければ、誰でも至る結論。

 だがそれは、余りにも醜い。そんな選択が出来てしまう奴は、きっと人間のナリをしたナニカだ。血の通わない、冷め切った刃と同じ。敵味方関係なく業を重ねて、屍を重ね続けるだけの生ける殺戮機構の権化。そう、目の前の奴らと何も変わらない。

 けれど、俺は大切なものしか守る事が出来ないというのも分かっていた。

 幾千幾万の命を背負って来たが、俺だって人間だ。抱えられる命なんて高が知れているし、助けられない奴だっている。

 

 

 だが――この手が届く限りは、誰も見捨てない。

 たった一人、されど一人。一番大事な一人を見捨てて泣かせた最低野郎を、俺はよく知っている。その一人を自分の生死と一緒に切り捨て、一生分悲しませた大馬鹿を、俺は良く知っている。

 今度こそ、見捨てない。今度こそ、離さない。

 だから――。

 

「口には気を付けろ、プルガトリオ。俺がそんな選択をするとでも?」

 

 ――そんな事を問われるのは酷く不愉快だった。

 

「ははは、はははははは!!! 良い剣気、良い殺気だ! そうでなくてはつまらぬ! 命を鏖殺せし我が骸の刃を死者に向けるというのも面妖な話だが、それはそれで一興! 狂い果てたこの身、その満身創痍の体でどこまで持ちこたえられるか、見物也!」

 

「……戯言を。今やあの厄介な宝具の解放もままならない死に体で、我ら二騎を相手取ってただで済むと――」

 

「――宝具が何だって?」

 

 左肩に描かれた三つ巴模様の印から魔力を抽出し、刀に真言の灯を奔らせる。霊核にへばり付いている呪詛を印が自動的に排除しようとしている影響で霊基が軋み、激痛が奔るが――多少の無茶ならば許容範囲だ。

 

「そら、とっとと得物を構えろ。お前達を濁らすその宿業、二人纏めて叩き斬ってやる」

 

 ――生前と、やる事は変わらない。

 手にしたいのなら、剣を取れ。

 願うのならば、剣を取れ。

 取り返すのならば、剣を取れ。

 

 

 俺には、待たせてる奴がいる。

 

 

 静けさが支配する一帯。しかし、この空間には真の静けさなど縁遠い。空気を満たす剣気は最高潮に達し、その戦の気は鏖殺者の昂ぶりに繋がる。

 誰もが直後に起こる死合舞台を確信し、各々の名を紡ぐ。

 

 

「――我が刃の忌名、ランサー・プルガトリオ。我が骸の真名、宝蔵院胤瞬」

 

 

「――我が刃の忌名、アサシン・パライソ。我が骸の真名、望月千代女」

 

 

「――セイバー・摩利支天。真名、木曽義仲」

 

 

「いざ」

 

 

「尋常に」

 

 

「勝負――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下総の土気城から少し離れた里。

 普段通りであれば酒盛りなどで盛り上がるこの時間帯ではあるが、その里に人らしき気配は見当たらない。見渡す限りの庵の灯りは消え、まさにもぬけの殻。

 そして、周囲にはそこかしこに抜き身の刀が不自然に転がり、または突き刺さっている。それはまるで墓標。あるいは刀の墓地、あるいはそう――刀塚。

 いつもとまるで様子の違う里。いつもいる筈の人はいない。何もかもが普段とは異なる様子を見せるこの里。

 されど、雲上の朱月はさも当然の如く、嗤っていた――。

 

「あぁ、ったく、キリがねぇ!!!」

 

 苛立たし気に、されど戦の術理を込めて放たれた剛剣が黒武者の上半身を軽々と、その鎧や大刀ごと粉々に吹き飛ばす。抜き身の刀によって振るわれるソレは本職でも無いにも関わらず、切れ味も相まって達人の振るうソレと相違ない。

 無論、刀身に汚れなど一切付いていなかった。化生が身に着けていた鎧や武器の欠片も一切寄せ付けず、清水のように滑らかな刃は振るわれる前と変わらず、空に浮かぶ朱い月光を反射させていた。

 だが――。

 

「……チッ、結局は試しものか」

 

 業物はその刀身が罅割れ、美しい心鉄は見る影もなく崩れ落ち、欠片となって地面に還っていく。精悍な顔つきをした錬鉄の剣士――千子村正は歯噛みする。彼の剣が鈍らなのではない。彼の振るう剣に刀自体が耐え切れず、微塵と化したのだ。

 だがこんな状況だ。()()()()()()()()()、もう少しもたせても良いだろうに、と思わなくも無かった。一応持ってきた『妖刀』を抜く事も考えたが、これを目の前の二刀使いの剣士に見せる事になるのかと思うと、やはり刀鍛冶である彼からしてみればやはり気が引ける。

 

「なーに文句言ってるのお爺さん! 次くるよ!」

 

「んなことわかってるつの」

 

 残った持ち手を投げ捨て、村正は刀塚から抜き取った再び神秘の刃を化生共に振るう。

 その様を一瞥で確認した二刀使いの雅な剣士――新免武蔵上藤原玄信、宮本武蔵の通称で知られる彼女は視線を再び襲い掛かる化生の大軍へと戻し、その二刀を振るう。

 碧い双眸が斬るべき因果と未来を見極め()()()、まるで阻む事など不可能と言わんばかりに敵を屠っていく。

 振るう、振るう、振るう。

 斬り上げ、払い、斬り落とす。

 鮮やかな青と赤で色染めされた着物がなびき、日ノ本の人間らしからぬ美しき銀髪が二振りの刃を振るう度に揺れる。左の刀を振るって残心を終わらせると骸の怨霊はその姿を黒い靄と化し、風に乗っては次々と景色へ溶け込んでいった。

 

「……確かにコレはキリがないわね……何で急にこんなにうじゃうじゃ湧いて来たのか、そしてこの朱い空は何なのか。それは今は置いておくとして……お爺さん! 里の皆の避難はどうなってる!?」

 

「誰が(じじい)だ! 人っ子一人残っちゃいねぇよ! (オレ)の庵がある森へ逃げていきやがった! それがどうした!」

 

「よし、待ってました! ――いざ、五輪の真髄、お見せしましょう!」

 

 彼女、武蔵は朗らかに笑みを浮かべて告げると――纏う空気を一変させる。

 天眼なりし碧眼が見据えるのはわんさか湧いてくる化生共一行。やがて、その目を閉じて得物を鞘に納めた。それを傍らで見ていた村正が何をするのか、と問う間もなくその返礼は姿を現す。

 

「南無――天満大自在天神」

 

 顕現せしは――不動明王。

 地水火風。四の豪腕が持つ四振りの倶利伽羅剣。

 明王の剣気纏いて、その気勢を断つ――。

 

「仁王倶利伽羅、衝天象!」

 

 これは本来、一個体に向けられるモノ。所謂、対人奥義のカテゴリに入る技であり、決して対軍向けの奥義ではない。――しかし、宮本武蔵なる剪定の女剣士が纏う剣気は、この時だけ百鬼夜行を打ち払う奥義となる。

 

 

 一太刀、怪異を粉砕せし一刀――『地』

 

 

 一太刀、魔性を祓う一刀――『水』

 

 

 一太刀、化生を滅却しせし一刀――『火』

 

 

 一太刀、妖魔を薙ぐ一刀――『風』

 

 

「行くぞ! 剣轟抜刀、伊遮那――」

 

 紫の剣気が加速する。それはやがて刀を覆う光の柱となり、朱月浮かぶ夜の空を照らす。

 

 

 一太刀、無の境地。空の領域に至らんとする一刀――『空』。

 

 

「大天象――!!」

 

 

 瞬間、空の太刀が振るわれる。煩悩気勢を断つ倶利伽羅の剣が如く、跋扈する怪異たる魑魅魍魎を一変跡形も無く、屠る。天元の花が放った『零』を目指す刃は、化生どもの断末魔すらその剣気で呑み込んでいった。

 

 

 残心の後に一息、二刀の剣士の意識はゆっくりと沈み込む。ふと、銀が閃くのを剣士は見た。得物をその身に奔らせる鞘の音が静かになった里へ静かに響き渡る。

 

「……空とは即ち、無の観念。無念無想すら断ち切らん……」

 

「何かっこつけてんだ阿呆が」

 

 小気味よく二つの鯉口が音を鳴らすのとほぼ同時、スパァン、と武蔵の後頭部へ良いのが入った。

 

「痛った~!? ちょっとお爺さん! 今私ソレっぽく、いい感じにキメてた所! 締めに入ってた所だから! 刃が煌めくあの感じをやってた所だから!」

 

「んなもん後で好きなだけやり直せ。危うく巻き込まれる所だったっての」

 

「アレ戦場以外の場所で一人やり直すとか普通に死にたくなるんですけど!? というか、私如何にもな雰囲気出してたでしょ!?」

 

「誰が刀から光線出すなんて思うか」

 

 そこはまぁ、ホラ、気合? などと曖昧な笑みから放たれる何とも煮え切らない答えに村正はその精悍な顔立ちを疲れ気味に歪め、そして隠すことなく溜息を晒した。この男、如何せん世話焼きが過ぎる所為か気苦労が絶えない質なのである。特に、武蔵のような輩を相手どる時などはそれが顕著だ。

 すっかり緩くなってしまった空気。村正のそんな態度に当の本人たる武蔵は何とも不満げな顔で彼を睨んでいるが、彼はそんなものはどこ吹く風。そんな彼の様子に武蔵は諦めたのか、その緩くなった面相を少しばかり、元に戻した。

 そう、緩くなったのはこの二人の間だけ。すっかり変貌した里を見渡ずが、化生を屠っても朱い月は無くならず、空気を満たす妖気は収まる気配も見せず、むしろ徐々に強まっているようにすら感じる。

 

「嫌な静けさ……怪物親分が登場する前触れでもあるまいし」

 

「明確な予想立てだなオイ」

 

「気合です」

 

「何も言ってねぇよ」

 

 女扱いされていない事に対して割と切実にまくし立てる武蔵。なお、その返答で勝手に自爆して勝手に墓穴を掘っている事に彼女は気づいていない。だが軽口(? が会話に交じるのを見れる所、まだこの二人には余裕があるのだろうが、油断出来る状況でもないという事は本人たちも理解していた。

 第一に、刀工・村正が展開した刀塚、高ランクの『陣地作成』によって退魔の安全地帯と化したこの人里に怪異化生の類が攻め込んできた、という事実も村正と武蔵にとってはあまり看過できる事態ではない。

 何にせよ、この人里を防衛しつつ原因の解明に努めなければならないのは必然だった。

 

「……で、お前の連れはどこだ?」

 

「立香ちゃんの事? 皆の避難が終わったらこっちに駆けつけるらしいけど――……あ」

 

「……見ての通りボロ雑巾みたく転がってるわけだが……」

 

「ごめんって!」

 

 立ち込めていた粉塵が晴れ、二人が目にした光景。それを見た村正は最悪の展開じゃねぇか、と苦々しく呟きながら眉間を片手で揉み、隙間から武蔵の顔を呆れたように睨みつける。なまじやらかした自覚があった為に案の定、彼女の気まずさは天頂に達していた。

 化生が消え去った人里、武蔵の放った奥義の爪痕からその元凶は出土する。

 白かった服は土汚れが目立ち、燈色の髪を頭の側面に纏め上げた女子(おなご)は未だ残る土煙に紛れながら、うつ伏せに倒れ込んでいた。何があったか。詳細を問うのは野暮というもの。というかこの現場にいたなら聞かなくても理解できる。

 

 

 だが、もっと驚くべくはこの女子――藤丸立香の復活の速さだろう。

 直後、ソレはがばっと起き上がり、辺りを見渡した。

立香の元へ駆けつけようとした武蔵や村正は突然起き上がった彼女にぎょっとし、反射的にその足を停止させる。この人理最強のマスターの膝を折らせるにはまだ足りない、という事なのだろう。本人には気の毒だが。

 

「お、おはよ~立香ちゃん。その……大丈夫?」

 

「う~……避難が終わって直ぐにカリバっているのを見て駆けつけてみたんだけど……私ちょっと疲れてるみたい」

 

「その心は?」

 

「怒りの不動明王を見た」

 

「ごめんソレ私だわ」

 

 いやどんな会話だよ、と傍らで半ば呆れながら呟いている村正。だが気持ちは分からなくもない。このマスター、巻き込まれた筈なのにへっちゃらなのだ。あまりにも逞しすぎて村正のような反応をしたのも一人や二人の話ではないからだ。まぁ、まともな頭を持った女ならば、原初の悪を抱えた獣と殴り合うなど出来ないだろうが。

 

「あ、おぬいちゃんと田助はちゃんと庵に移動させたよ、村正さん」

 

「どんな神経してやがる……まぁ、これで思いっきりやれるってもんか」

 

「うん。援護は任せて……と言いたい所だけど、もしかしなくとももう終わった感じ?」

 

「奴さんが出て来てねぇだけだ。気ィ抜くと首から先が無くなるぞ」

 

「お爺さん容赦ない……まぁわからなくはないけど。怪異化生の数は確かに減った。けれども、まるで()()()()()()()()()()気配は強まる一方。なのに――立香ちゃん、早速援護!」

 

「言ってる傍からかよ!」

 

 会話を打ち切り、再び剣呑な雰囲気が場を包み込む。それは、目先にある異様な光景を三人が視界に捉えたからだった。

 

 

 地響きと共に煙が上がり、木々が飛んで行く。

 それだけならまだ良い。だが、問題だったのはその気配。先程から感じ取っていた人間の感覚そのものに作用しているかのように作用していた強い妖気。それがまだ可愛く見える程、その気配は化け物染みていた。

 数にして四。

 二つは――ヒトの型に収まりながら、全てを破壊する嵐。

 怨恨と破壊衝動をぐちゃぐちゃにした何とも悍ましいモノであった。殺意も剣気も、明らかに自分らが相手して来た怪異化生とはまるで違った。違いすぎた。サーヴァントそのものである刀工・千子村正。サーヴァントの使役に関しては人類最強を誇るマスター・藤丸立香。『零』を目指す剣士である宮本武蔵だからこそ抱いた所感。それが、数秒後に起こる戦闘を確信させる。

 最後の二つは――ヒトの型で在りながらヒトを超越したものだった。

 一つは微弱なもの。もう一つはソレをはっきりと認識出来る程、内包した『力』の強みがあった。それは、武蔵と立香が村正に感じていた感覚と同じ。

 それが意味する事は――。

 

 

「――何、アレ――」

 

 

 結論が出る事を、ソレが待つことは無い。

 木片と土で阻まれた視界が晴れていく。開示された光景は、剪定の剣士の言葉を失わせるものだった。

 騒ぐ。内に潜む剣士としての(さが)が。ザワリと、肌を何かが奔る。今も流れる剣士としての血が。脈動する鼓動が彼女の中で妙にデカく聞こえる。それは、まるで剣士の心に飼う怪物の目覚めのよう。

 その高鳴りが歓喜なのか。その昂ぶりが彼女の本性なのか。

 碧眼が捉えたその景色は――絶景だった。

 火花が舞う。剣戟の音が、一つの曲のように彼女の耳に染み渡る。刃は槍を捉え、槍は刃を逸らす。どれもどれも、彼女の持ちえないものばかり、あの景色には詰まっていた。

 片や坊主が放つ一突き――それは二天一流の剣士が到達しえない、武の究極だった。構え、足捌き、威力。今の彼女には持ちえないその術技に、彼女の全身が感動を訴えた。

 片やくノ一が放つ忍びの呪――纏う剣気は凄まじく、詛呪が如き殺意に体が震える。

 そして――黒衣の武士が放つ、『(つわもの)』の刃。

 それは、敵を滅ぼす刃に非ず。

 それは、究極の一に至る刃に非ず。

 それは、捨て身の刃に非ず。

 まさしく、『生きる』為の刃。

 宮本武蔵という兵法家では決して手に入る事も無く、至る事も出来ない極限に届く一つの『究極』。それが、黒衣の武士の振るう剣だった。

 

 

 それが、目の前にある。気付けば、鯉口に手が添えられていた。

 死合たい。剣士の性か、あるいは内に潜む剣鬼か。何かが、剪定の剣士を突き動かす。

 

 だが――。

 

 

「そこのお前ら、こいつを預ける―――!!!」

 

 

 それは桜色の何かが阻んだ。

 




 ようやく投稿。作者台湾に行ったりして執筆できなかったというのもある(言い訳です
 前半の名乗り部分、沖田さんが寝てるから出来る事。名乗ってるうちに沖田さんなら三段突きである。きっと、絶対。
 あの名乗り方なんですけどちょっと安易すぎるかなぁ、って思わなくもない。
 
 村正の能力、その独自解釈について。
 高ランクの陣地作成で刀塚、『無限の剣製』みたく周囲に刺さった刀を引き抜き、それを振るうという戦法。なお、『本命』ではない、『本命』の作り方で行う剣製だとどうしても壊れやすい作りになってしまう。以上が、作者の解釈である。

 あと二話くらいで序章は終わるかな? という訳で、頑張っていきます。
 お気に入りが一気に減ったかと思ったらなんと前より一気に増えたということに読者の皆様の煉獄茶ちゃんへの愛は深いものだと再認識。
 誤字報告、感想、ありがとうございました! 
 では、次回。

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