ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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ジェリコの喇叭(らっぱ)は、ユンカースJu87に付いてた例のサイレン。
爆撃される人々の恐怖心を煽った立派な心理兵器。
円盤獣の咆吼もそれなら意味がある?


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 ベガ軍工廠。

 地方軍ではあるが、ベガ星にだって円盤の製造工場はある。

 規模はヤーバン本星から見れば中堅程度。

 今までは本星から設計されたモデルをノックダウン形式で組み立てるか、設計図を回して貰って現地生産するだけの物に過ぎなかったが、今、新型機が産声を上げようとしていた。

 

「こいつが円盤獣か」

「操縦系を見直しました」

 

 ズリルの説明に、俺は眼下に横たわる巨大な機体を見下ろした。

 ヤーバン軍の中型戦闘円盤。

 緑色をした奴、を改造した試作機だ。

 変形して四つ足の獣形態になる。が、これは元々の機能なのでビックリしない。

 

 何故か、ヤーバンの戦闘円盤って変形機能が付いてるんだよね。この他にも戦車形態にもなるんだけど、これ設計した奴は何処かセンスが変だと俺は思ってる。

 だって円盤だぜ。

 格闘形態としてロボットになるのはまだしも、何故、陸戦用の戦車になる?

 円盤のまま、地上をホバリングしながら掃討する方が強いだろ。

 三次元で飛び回る方が地を這いずり回るより有利じゃん。変形したって装甲が強くなる訳でもなし、単に鈍くなって的になるだけだし。

 

「変形します」

 

 ズリルの説明の後、変形する円盤獣。

 基本的な構造は変わっていない。爬虫類を思わせる頭の付いたロボットである。

 何故か、口を開いて「ぎゃおおおっ」とか咆吼している。

 

「あれは?」

「浪漫です。獣だから叫ばねば嘘でしょう」

 

 単なる趣味だが、まぁ、ジェリコの喇叭とでも考えるか。

 ズリルは図を出して説明する。有人操作から、無人のAIにコントロール系を変えて、自律行動が可能になった旨を俺に伝える。

 人件費は低い方が良いし、壊れても死者が出ないのは兵器として有効だ。

 

「ソフトの改良は必要でしょうが、これで人員の削減を目指します」

「結構。で、小型円盤の方だけど、見てくれたかな?」

「正直、殿下の発想に驚きましたよ」

 

 ズリルは複雑な表情で俺を見る。

 

「そうかな?」

「単機能に特化するのは後退と見られますからな」

 

 俺が提案したのは、ベガ星軍でも容易に運用可能な小型円盤の注文だった。

 これもズリルの考案したAIを取り入れて無人機化する。

 廉価で、維持費が安く、いざと言う時には大量に生産可能な戦時生産型の円盤だ。

 

「出来れば、こいつを積む母艦も欲しい所だけどね」

「クインバーンの様な? それは無茶ですな」

 

 クインバーンはテロンナ姉上の旗艦。超大型の円盤だ。

 だが、こんな母艦クラスの円盤を開発する資金は今の所無い。小型円盤を要求したのも、ベガ星の資金の無さからである。高性能機よりも、手っ取り早く数を揃えられる機体を用意せねば、いざ戦争になった場合、数が足りないって事態が起こりかねないからだ。

 海防艦みたいな護衛艦艇の戦時量産が遅れ、劣勢に回った旧日本海軍みたいな愚を犯したくないのだ。

 

「小型円盤は、いざとなったら町工場でも造れる程度の物にしてくれ」

「町工場……ですか?」

「言い方が拙かったな。民間造船所でもと言う意味だ」

「ノックダウンですな」

 

 俺は「ああ」と頷くと、大量生産、簡易構造を徹底化する様にズリルに伝える。

 家具屋を動員したモスキートや、自転車屋や醸造所も動員して制作したステンガン並みとまでは行かないが、総力戦になったら軍需工場以外でも量産する用意があった方が良いからだ。

 

「ワープ機能なんかは付けなくても構わない。所詮、艦載機だと割り切るからね」

「成る程。ヤーバン本星からの目も逃れられますからな」

 

 今までの小型円盤は自力で恒星間航行も可能だった。だが、その機能を省いてしまえば、コストダウン出来るし、本星からも〝星系警備にしか役立たない、局地戦機〟と見做されて、余計な警戒心を起こさずに済む。

 

 その代わり、戦闘能力には妥協はしない。

 強力なベガトロン砲を搭載し、何処の国の戦闘機にも負けぬドッグファイト能力を要求した。

 最強じゃ無くても構わないが、少なくとも互角以上の性能をだ。

 WW2の戦闘機で例えるなら、F6FかFM2辺りを想定している。

 F4Uが理想だけど、実用度から言ったらグラマン系の方が、俺にとっては評価が高い。

 そして、幾ら墜としても次々湧いてくるのが良い。

 

 それに実を言うと宇宙船や円盤ってのは、恒星間機関を積むと戦闘では不利になる。

 通常空間では不必要な装備だからだ。

 同じ規模なら通常空間専用機の方が強い。

 デッドウエイトがない分、機体の強化に回せるからだ。

 但し、戦略的な撤退が出来ないのがデメリットとなる。

 不利な状況になってもワープで逃げられないからだが、今の俺は考えなくても良いだろう。

 だって、負けたら終わりだから。

 

「難しい注文ですが、設計致しましょう」

「実用一点張りってのを忘れるな。君は変な所で職人肌だからな。ズリル」

 

 一応、釘を刺しておく。技術者の悪い癖を彼も持っているからだ。

 

「肝に銘じますが、これを何と名付けましょうか?」

 

 俺は水晶色の髪を片手で弄びながら、「ミニフォーだ」とズリルに告げた。

 

 

〈続く〉 




ベガの思想は枢軸系では無く、連合系の考えです。
いや、本当は枢軸系の一騎当千メカが作りたいんだけどね。状況が許さない。
ヤーバン本来の小型円盤は『戦闘コマンド』と言う名で、魚みたいな形をして口からミサイルを発射します。恒星間航行も出来るけど、ガッタイガーに敵わない。
ベガはミサイル系の武器はお金が掛かるからオミットし(だって高いんだよ。ミサイルって)、内蔵火器はビーム系に限定しました

ベガ星の工業的立ち位置としては、WW2のカナダかオーストラリア的な星。
でも、彼らはラム巡航戦車やセンチネルとか作ったんだぞ(笑)。

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