ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは『サムライスピリッツイメージアルバム』から「王虎」です。
イメージアルバムでアレンジされた中で、一番印象が変わった曲ですね。原曲は荒々しくて、如何にも蛮勇な武人の曲だったんですけど(画面の中では、稲光と一緒に雷鳴すら鳴ってたしなぁ)、物静かで情緒流れるピアノと胡弓が流れます。
表の「動の王虎」に対する、裏の「静の王虎」なのかなぁと。

『サムスピ』は技の入力が苦手な私とって、初めて好きになれたゲームでしたね。
剣格闘なので、ずばっと斬って行けば、何とかなる(笑)。
王虎は持ちキャラではありませんが、最初の青竜刀使いの方が好みでしたね。石柱の方がワイルドだけど何かイメージが違う。漢人が清(満州人)の「蛮人っぽさを出す為の演出かな」と疑っちゃいます。



107(閑話)

「ワープアウト!」

 

 警備艦が転移した場所は、意外にも恐魔母艦の直ぐ側だった。

 そのまま恒星破壊砲を破壊すべく、最大火力を敵に集中せんと全砲門がセットされる。

 デュークは祈った。対海賊用の警備艦はお世辞にも高い火力を持ってはいない。

 

『だが、恒星破壊砲さえ潰せれば全ては片付く』

 

 数門の小型ビーム砲であろうとも、命中さえすれば機能を停止させられる筈だった。

 幸い、恐魔竜の出撃は無い。

 先程、自分に向けて放った奴の代わりがまだ準備中なのだろうとデュークは踏んだ。

 

「何だと!」

 

 フリード星の王子か『いける!』と確信した時、意外な妨害者の出現でそれが挫かれたからだ。

 そいつは人影だった。

 いや、それがぐんぐん大きく成長し、このロボイザーにも匹敵する巨体になったのが、まるで悪夢の様で現実とは思いたくは無かった。

 それは黒い鎧を着た武人で、しかも抜いた刀で光線をことごとく弾いたのを見た時、これが敵の切り札なのかとデュークは悟る。

 

『バルバーっ!』

 

 怒声にも似た声が宇超空間に響いた。

 いや、それは黒い鎧の武人が発した念波であった。テレパシー能力を持つデューク等のエスパーのみならず、この出力ならば近くに居た一般人すら、この叫びを感じ取れた筈だ。

 余りの強さに、デューク・フリードは頭を抑えて苦痛に耐えた程であった。

 

「奴の身体がトラ縞に!」

 

 外見が変わったと見えた次の瞬間、黒い鎧の武人、いや、トラ縞の巨漢は宇宙空間を走り、警備艦を殴りつけた。

 殴られた警備艦は反動で激しく振動するが、流石に安普請でも軍艦構造だけあって沈みはしない。殴られた箇所が陥没し、時折、スパークが走るのがが見えるがそれだけだ。

 いや、それだけの筈だった。

 

「王子、奴は大変な能力の持ち主だぞ」

「ランダム殿!」

 

 ややあって、警備艦に乗り組んでいたドン・ランダムからの通信が入った。

 彼は顔をしかめて「この艦はもう駄目だ」と告げると、館内の様子を王子へ転送した。

 

「これは……」

「見ての通りだ。この艦で正気を保っておるのは拙者だけだ」

 

 そこに映し出された光景は、ランダム以外の全員が常軌を逸している図であった。

 狂人の様にへらへらと笑う者。

 へたり込んで口から泡を吹き、目や鼻、そして尿道に至るまで、ありとあらゆる所から水分を垂れ流している者。

 胎児の様にうずくまり、ぶつぶつと意味不明な言葉をひたすら囁き続ける者。

 

「フリード星の乗組員は全滅だ」

「な、なぜ、こんな事に……」

 

 ランダムはそれに応えず「とにかく、恒星破壊砲を止めるのが先決だ」と告げて、「王子、拙者は敵の司令官と一騎討ちをする」と宣言する。

 

「な、何を」

「奴も武人ならば、この申し出を断りはすまい」

「危険です」

 

 オストマルクの男はにっと笑った。

 

「大丈夫、予言では拙者が死ぬのはここでは無い。

 王子は拙者が時間を稼ぐので、その間に恒星破壊砲を破壊するのだ」

 

 ランダムの通信はそこで切れた。

 追って続報を聞きたいのであるが、デュークは前方から突撃して来る恐魔竜の姿を認めると諦めざる得なかった。連戦に次ぐ、連戦で身体に疲労が溜まっている。

 既に倒した恐魔竜は五体を数える。機体の方は損傷軽微でまだまだ行けるにせよ、乗っているパイロットの方は機械ではないのでそうは行かないのだ。

 

「くそっ」

 

 フリード星の高貴な王子にあるまじき罵声が出るが、状況を考えれば分からぬ訳でもない。

 ガッタイガーは惑星間を飛べる長距離航行可能とはなっているが、所詮は一人乗りの単座機である。

 恒星間宇宙船の様な本格的な旅客施設が備わっている訳では無く、プライベートでゆっくくりくつろげる個室とかは備わっては居ないから、常に着座を強いられるのである。

 ベガ王子が用いている高官輸送用ミニフォーの方が、リラックス出来ると言う点では格段に上である。

 

 無論、最大限に疲労を軽減すべく、リクライニングシートや屎尿を排泄可能な装置。すっぽりと頭に被せて快眠を約束する疲労軽減マシンとかも備わってはいるか、ベガ王子機みたいに部屋が用意されていたり、立って歩ける訳ではない。

 まして、敵が襲い来る中、疲労軽減の為の快眠装置を使う事は自殺行為と言えるだろう。

 このままでは、消耗戦に持ち込まれる。

 

「そうか! ブーチン殿、聞こえるか?」

 

 デュークは後方に位置する味方に連絡を取る。

 ヤーバン軍に頼るのは外交的に弱みを見せるし、何よりも癪であったが、今はそんな事を言ってられない。

 だが……。

 

              ◆       ◆       ◆

 

 敵の小型艦を無力化した将軍は、意外な申し出を受けた。

 その小型艦から宇宙艇が分離して、そいつが汎用通信帯で呼びかけてきたのである。

 すなわち、「尋常に一対一の決闘を申し込む」と。

 

「ドラグ将軍、受けるのですか」

 

 それに最初に反応したのはエンゼであった。

 デスクの方は何も言わず、博士は「ひひひひ」と相変わらずせせら笑うだけである。

 

「面白い。電送人の力に耐えた存在だ。気にはなる」

 

 将軍は身に纏った〝バルバー〟の力を解除した。

 身体に表れたトラ縞が消え、虎の形を模した猛獣、バルーは分子結合を解いてドラグ将軍の脇に出現する。

 

「相手は武人らしい。ならば武人らしく、剣で語り合うのが礼儀」

「お止めなさい。相手は浄化の力を撥ね除けたのですよ!」

 

 ドラグは『女だな』との感想を持った。女性は武人の、男の誇りを理解しようとはしない。

 いや、違った。女性であっても、いまは眠り続ける姫は武人であった。

 

『リリア・オーロラ姫。そなたが恋しいな』

 

 共に同じ、ドラグ流剣法の後継者として武道に邁進していた頃を思い出す。

 あの頃は平和だった。宇宙の使命やら運命やらが両肩にのし掛かってくるとは思わず、あの駄民(ダミー)と……いや、ゴルゴスと共に気ままに師の仇を捜して回る道中だった。

 目の前で一騎討ちを望む駄民の男。こいつからは久々に武人の、武道家の香りが感じられ、将軍職に就いて以来、心の奥底に封じていたの武道魂が燃え上がっている。

 

「たからこそだ。興味がある」

 

 ドラグ将軍はそう言い切ると、決闘を望む男との回線を開いた。

 

「我が名はドラグ万竜。恐魔要塞の司令官だ」

「我はドン・ランダム。オストマルクの武人である」

 

 自己紹介後、二人は決闘場所を恐魔要塞の上と定め、互いの武器を刀剣のみに限定する。

 巨大化した身体は等身大に戻すという条件も、無論、将軍は了承する。

 これには博士が「馬鹿正直じゃのう。でかい拳骨でひねり潰しても良かろうに」と嘆息するが、将軍は当然無視した。

 

「しかし、貴様の悪の力が浄化出来なんだのは意外だったな」

「拙者はフリード星人、そなたらの言うムーの民ではないからな」

 

 恐魔要塞の表面にバリアが張られ、人工重力も施され二人の武人が戦う環境が整えられている。 

 ランダム離答えを聞いた将軍は、トリケラトプスに似た顔貌を歪めさせた。

 

「ではムーとは無関係だと言うのか?」

「何故戦うかを聞きたいのか、それは義……かな」

 

 面白い、面白いぞ。

 将軍は久々に本気になって戦える相手を得た様な気がした。

 

「では、参る!」

「来い、駄民!」

 

 星系の運命を賭けた決闘が開始されようとしていた。 

 

 

〈続く〉




約2,900文字だぁ。2,000文字に納めるという制約は全然果たされちゃいねぇ(笑)。
と言う訳で、既にヒントは出てるから予想してる方も居られましょうが、将軍は『ドラグ恐竜剣』の主人公、ドラグ万竜氏でございます。
姫の方は同じくリリア紅竜女史ですが、『電送人バルバー』のオーロラ姫も混ざっております。バルーはそのペット。そして将軍は合体してバルバーに変身するのです!
って、『マシンザウラー』に『ドラグ恐竜剣』『電送人バルバー』が、ベガの『宇宙円盤大戦争』に介入して来るトンデモ設定ですが『ベガ』って、そーゆー話なので(笑)。

次回はベガ君視点に戻りますよ。
「王虎』の曲を聴いていると、姫を思って夢想するドラグ将軍のイメージと重なる。不思議だ。

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