楽器の中に「カノン砲」が指定されてる、世にも珍しい交響曲です。フランスのロシア遠征を題材に取っただけあって「ラ・マルセーユズ」(フランス国歌)の旋律がロシア帝国国歌と入り交じり、大戦争の気分を盛り上げますね。
大砲の音は途中でドカンドカンと鳴り響きます。流石に屋内では大砲は使えないのでドラムとか録音で代用ですが、やっぱり本物のカノン砲の、しかもちゃんと当時の前裝砲を使った方が迫力があります。やっばり黒色火薬の響きは違うんですよ。現代の砲はかん高くて音が小さいから、あの腹に響く音は出せないんですよね。
目覚めた時に周囲は真っ暗だった。
まだ、あの内的空間に居る続きかと思ったが、窓に掛かったカーテンを通して光芒が動く様を目にして、ここが水晶宮の自室であるのを知覚する。
「遮光カーテンじゃないんだよな……」
独り言を口にしつつ、寝台からゆっくりと身を起こした。
カーテンの光芒は数秒で消えて、再び、カーテンに光を当ててゆっくりと動いて行く。
それは宮殿を警備する監視塔からのサーチライトだ。対人センサーだのの警備装置が充実している昨今、古典的かも知れないが、侵入者を警戒させ、目視で威圧感を与えると目的として考えるのなら有効な方法である。
夜間、イルミネーションにもなって綺麗だしな。
薄い布地の夜衣では心許ないので上からローブを羽織って起き上がる。
そのまま窓に近寄って、薄青色のカーテンを開く。
玄関へと一直線に伸びる、専用道路が貫く宮殿の前庭。その向こうにベガ星の首都ベガの市街地が、きらきらと輝いて遠望出来る。
俺の居城である水晶宮は、ここから見れば判る様に市街地から離れて立っているので、いささか行政に関して不便な面が出て来てしまっている。
ベガ王子自身がお飾りの領主で、辺境の鉱山惑星だった頃ならそれでも構わなかったんだけどね。
保養地だから都会の喧噪は良くないと考えられてたし、警備上、都合が良かったからだ。
しかし、今のベガ星は違う。
俺自身が領主として仕事をしている上、星系首都になってしまったから、持ち込まれる行政関係の仕事量が比較にならぬ程、増えてしまっているので、元々離宮だった水晶宮のキャパシティでは対処が難しくなってきているんだ。
「物語の星間大帝国の大王とか総統とか、もっと楽ちん出来ると思ってたのになぁ……」
昔の多くのアニメに出て来る悪役のトップは、仕事なんか部下に丸投げで酒池肉林、享楽にふけって自由気ままに贅沢三昧ってのが多かったんだよね。
これには無論、『グレンダイザー』のベガ大王だってそうだよ。『宇宙円盤大戦争』ヤーバン大王は本編2カット、ついでに台詞もないから、詳しくはわかんないけどさ。
某、日光、結構、大和観こ……じゃなくて、坊の岬から甦った宇宙戦艦の敵帝国の総統あたりからかな、敵のボスが仕事しているのが見られたのは。
いや、あいつも自軍を叱咤激励したり演説するだけで、プライベートで美女侍ってワインを飲んでた印象が強いな。
「はぁ、頭が痛ぇ」
俺もそんな訳で、王子なんだから悠々自適に適当に仕事でもしてりゃ良いかって最初は思ったさ。
そんじゃ済まない事を今、猛烈に思い知っている。
確かに王制であるヤーバンの体制では、部下に任せてどっかの銀河帝国の阿呆貴族みたいにやれなくもない。
が、それは、ただ優雅に遊び暮らす場合だ。
汚職がはびこり、人心が離れ、反乱が起こり、しかも、入る筈の収入が激減する。
とくにベガ星みたいな田舎惑星だと、元々の収入が乏しい上、目を離すと何が起こるか判らないからね。実際にレディ・ガンダルが権力を乱用して専横していたし。
ま、それを立て直して、財源を確保して何とか立ちゆく様にしたのが今のベガ星なんだけどさ、代わりに仕事量が劇的に増えてしまった。
故に、今、水晶宮で手狭になった為に、行政用に隣に官庁街を作って機能を移す準備が始まっている。
保養用の離宮の隣りには似つかわしくない施設だけど、俺が決済する為に一々市街地へ出かけて行くのも面倒臭いからね。
「……さて、誰か居るんだろう?」
きぃっ、とテラスに通じる窓を開きながら、俺は先程からする気配に気が付いて声を掛けた。
暫くは沈黙。
しかし、観念したかの様に、ややあってすっと人の気配が現れた。
「王子、お気づきでしたか」
女の声。
「まぁね。君が誰なのかは判別が付かないけど」
テラスに出て後ろを振り向くと後ろに片膝を着いて頭を垂れたシャーマンが居た。
侍女服ではなく、シャーマンの民族衣装である例のスリングショットを着ている。
「メロメです」
「お側御用部隊の一人だね。誰の命令か?」
お側御用部隊は、宮殿で働く侍女隊のひとつである。
宮殿でも特にベガ付きとしてハツメ以下、7名で構成されているが、構成員がシャーマンなので外見的にハツメ以外は見分けが付かない。
「テイル様です。暗殺者の警戒に当たるようにと」
「テイル?」
侍女長の名に『珍しいな』との感想が上がる。
テイル・テールは確かに彼女達含む、侍女全体の上司ではあるがテイル自体は、自分の直属では無いシャーマンを信頼していなかった筈だ。
「はい」
「今は姉上付きの筈だけど……。暗殺者の情報でも入ったのか」
暗殺者ってのは実は多かったりする。
フリード星のあれほど、あからさまな物じゃ無いけど、転生直後の病床の頃にまで遡れば、医者自体が誰かから(愚弟だと思う)手を回されていて毒を盛っていただの、最近では狙撃者が始末されただのとの色々あったりする。
医者は首にして交替させたけど、俺が病弱だった原因が半ば奴のせいだったってのは笑ったよ。
しかし、尻尾切りされた手先ってのは哀れだね。
ブーチンに見捨てられ、刺客を送られて処分されたから、慌てて遺族は保護したけどね。
「そこらの事情はハツメ様からお聞き下さい」
「ハツメにも話が通っているのなら、テイルが言って来たのは間違えなさそうだね」
俺は顎に手を当てて考え込んだ。
プライベートまで見張られるのは御免だから、目立つ護衛は私室に入るなと言い含めてあるから、公務ならまだしも、寝室にこの手の護衛を侍らせた事は無い。
それは俺が覚醒した時から、テイルに要求している事実だ。
流石にノーガードという訳では困るから、室外に護衛は待機させてあるけど、今の今まで、私室入室厳禁の規則は守られていた筈だったのだ。
『それが、何故、破られる?』
このシャーマンが言っているのが嘘で、実はメロメこそが俺の命を狙う刺客であるとかのドラマチックに展開とかも考えられるんだろうけど、俺を騙しているとの雰囲気は無い。
そう判断するのは超能力的な、と言うか第六感的な勘だ。
非科学的みたいだが、宇宙世紀の〝新しい人〟並にこの手の洞察力を、俺は信用する事にしているからだ。
「ん、何か言いたいのかい?」
「は……」
顔色からも何かを問いたそうにしていると察知して、シャーマンに声を掛ける。
メロメは恐縮しながらも「殿下は良く私をお気づきに……」を口にした。
「気配を殺していたのは見事だったけど、ぼくの様な類いの相手には察知されるのさ」
「……」
「僕の問いに答えてしまったのも、敗因の一つだね」
あ、と口に手を当てるシャーマン。
無視して知らぬ存ぜぬのフリをしてたら、『気のせいか』と思われていた可能性はあった。
「もっとも、返答無き場合、レーザーか何かをブチ込まれても文句は言えないよ」
「はっ、はい」
「まぁ、良い。今夜の事は不問とする。にしても、テイルか……」
さっきも言ったけど、今、侍女長は姉テロンナの所に派遣させている。
そう言えば、ブラックミストは姉の家族について何か言っていたっけ?
引っかかるが、今は二度寝をすべきだろうと考え直す。
「寒いな。冬でも無いのに」
「お体に触ります。部屋へお戻り下さい」
メロメの勧めもあって、俺はテラスから部屋へ戻る。
何か、身を翻した瞬間に肌にぞっとする感じを少し感じたが、それが何なのかは俺には判らなかった。
姉テロンナの〝勘を大事にしろ〟との教えを大事にしつつ、この時の俺はこの悪寒を見過ごしてしまった。
テイルの指摘したそれを、そしてブラックミストの話を大事に考えなかった俺の失敗だった。
〈続く〉
今回は約3,100文字。
でも、遅々として話が進まない(泣き)。
古代文明が再び。関わってきます。
次のダイナミック系とのクロスオーバーは、多分、〝オリオンの虎〟並のマイナー作品になります。マリアとかルビーナの話に早く移りたいんだけど、以後の章の仕込みをやららないと…。
ドンパチだけとか、台詞だけの台本系なら早いんだろうな。
とあるプログで「最近の小説は擬音だけが多い」と指摘されたので、「ああ、そうかもな」と納得してしまったと同時に、自分の作は擬音が極端に少ないと自覚してしまった。
ぎゅーん、ぎゅーん、どかーん、ダダダダダッ、とか字数が稼げて説明要らずだから、漫画世代には有利なのは判るけどね。