この曲はEDに主に使われていた不安を感じる曲で毎回、何とも言えぬ不気味さを思い出します。
深夜番組で超能力を扱った珍しいSFでしたね。深夜帯だけあって明らかに低予算番組なんですが、規模に合った演出でスケールの小ささを感じないのが上手いと思いました。
劇場版もあったとの事ですが、残念ながらそっちは未見。
部屋を飛び出て、廊下へ出ると執務室の前に立っている兵達が狼狽えていた。
王族専門の護衛部隊である〝ファルコ〟(鷹部隊)は、姉の護衛に付ける為にフリード星に派遣してしまっているから、此処に居る連中は一般師団から選抜された儀仗兵だ。
それなりに能力、品格共に高いエリートだけど、やはり鷹部隊に比べると質は劣るんだよね。
「隣室だ!」
との声に、兵達ははっとなる。
騒ぎが起こっているのに規定通り、執務室の前を固守して動かないのは失敗だろう?
それが陽動の可能性があるとは言っても、誰一人、それを確認に行かないのは臨機応変さがまるでないし、怠惰すぎる。全員で押しかけるのは馬鹿だけど、一部を派遣する程度の事はやらなきゃ駄目だろ。
「殿下っ!」
「続け」
答えずに命令だけ発し、そのまま隣室の扉を蹴破る勢いで開く。
既に隣室に配置されている兵は行動を起こしているらしく、扉の前には誰も居なかったが、彼らの運命は俺が室内に突入したた時には、既に尽きていた。
「うっ」
立ちこめる鉄錆の臭い。
物言わぬ骸の中に、そいつは立っていた。
「ヨウヤク、姫ガオ出マシカ」
「その様だねぇ」
異様な光景だった。
女官、そして警備兵だった者達の血に塗れた異形の男、そして黒衣の女性。
男の方は服らしい物を着て居らず、腰に巻いた毛皮と逞しい体一つの存在で、逆に黒衣の女の方は顔の上半分を黒い豹の仮面で覆い、あぐらを掻いて空中を浮遊しているのだ。
何よりも男の姿が尋常な人間ではなく、頭部はどう見てもワニであった。
ワニと言ってもサメの仲間じゃ無くて、あのアフリカとか南米の水辺に棲む奴だ。
「貴様ら……」
俺は片言で喋ったワニ人間へ銃を向ける。銃と言っても護身用の拳銃では無く小銃である。
暗殺者が云々って話を聞いた時から、より威力の高そうな武器を用意してたんだけど、奴の姿を目撃してから、このレーザーライフルだって威力不足じゃあるまいかと不安になってしまう。
「おっと、娘の命がどうなっても良いのかの?」
しわがれた声でこう語りかけてくるのは、浮いている女である。
顔は見えないが、どうもこいつの正体は老婆に近い高齢者の様だ。
その枯れ枝の様な腕に赤子が、グレースが抱かれており、そう脅迫されると手出しが出来なくなる。
無論、俺の引き連れてきた兵達も同様だ。
「姫」
ワニ男がぎこちない言葉を紡ぐ。
「娘ト、盗ンダ像ヲ交換ダ」
奴の言う姫とは、どうやら俺の様だな。
まぁ、確かに女装だし、知らなきゃ姫に間違えるのも無理は無い。
にしても、像だって?
「ツイン・テールが盗掘した遺物か?」
「ウム」
ワニ男は頷いた。
間断なく銃を構えつつ、俺は「あれの現物は、今、ここには無い」と言った。
本当に無いし、ハツメの報告では、ツインが盗掘した物品の詳細はテイルからは語られなかったそうなので、交換と言っても何が、こいつらの言い草では像とか言ってたが、を盗掘したのかさえ把握していない。
「では引き替えるまで、我々が人質としてこの娘を貰い受ける」
老婆が「げっげっげっ」とくぐもった笑いと共に、ゆらりと上昇した。
同時にワニ男も動くが、俺はそいつに向かって容赦なくレーザーを撃ち込んでいた。
大切な人質を害する訳は無いとの判断である。
老婆の方は撃つ訳には行かないが、こいつならば容赦なく撃ち殺して構うまい。
レーザーの発する電磁音と、イオン化した空気が発するオゾンの臭気を身に感じる。
「ソレダケカ?」
が、予想した結果は外れてしまう。
蜂の巣になる筈だったワニ男は、レーザーを浴びても平然としていたのだ。
「馬鹿な」
命中した箇所は確かに赤熱化して、表面が真っ赤になっては居るが平然と動いていたのだ。
人間に見えた化け物だったが、生物ですらなかったと言う訳なのか?
「抵抗したね」
ぞっとする口調で、飛び上がった老婆は言った。
そのまま抱えた幼子に視線を落とし、「片眼を潰してやろう」と面白そうに宣言する。
「止めろ」
「我々ウードウを見くびったお仕置きさ。なぁに……」
黒衣の老婆は言葉を切って、仮面に覆われていない口元をにやりと歪めた。
「両眼が潰れたって死にはしないよ」
「貴様っ!」
怒りが俺の思考の全てを埋めた。
そして……。
◆ ◆ ◆
「はぁ、はぁ、はぁ……」
気が付くと肩で息をしていた。
場所は保育室となっている隣室であり、俺は自分の着衣が乱れているのに気が付いた。
ドレスは破れ、スカートなんかは特にズタズタになって垂れ下がっている。
見回すと室内は酷い有様だった。
「殿下」
半分壊れ、青天井になった保育室で俺に声を掛けてきたのは一人の女官だった。
その腕にグレースが抱かれているのを見て、俺は安心の反動か、膝ががくりと崩れてへなへなとその場に膝を着いてしまった。
「グレース様は無事ですよ」
その若い女官。降ろした前髪で目が隠したぱっつんロングヘアは、ベビー服に包まれた幼子を俺に見せた。
「どうなったんだ?」
「え、ウードウの連中なら殿下が退治なさったじゃないですか」
つかつかと近付くと、俺の手を取って引っ張り上げながら彼女は言う。
しかし、俺にはまるで記憶が無い。
クスクス笑いながら、その黒髪のロングヘアは「半分はバトルホークの加勢ですけどね」と付け加える。
バトルホーク?
とにかく彼女に礼を言うと、俺は足に力を入れて自立した。
だだ立ってるだけなのに力が入らず、それはかなりの困難を要する物だったのに驚く。
その努力の間、ここまでの経緯の女官は説明を続けてくれた。
俺と、ウードウと名乗る連中とはグレースを巡って戦いを繰り広げたのだと言う。
途中でバトルホーク。あのアズテクの古代戦士が騎馬で乱入して来たそうである。
「馬に乗ってかよ……」
「はい」
「全く記憶に無い」
怒り心頭になった後から、記憶が飛んでる……。
戦うと言っても彼女曰く、俺が戦いに使ったのは超能力でバトルホークの方は例の斧による格闘であったそうだ。
老婆はグレースを奪還されて後退し、ワニ男の方はバトルホークに倒されたらしい。
で、室内の惨状だけど、これは俺達が暴れた結果であるらしい。
「機器が無事なら、録画が残ってる筈ですから確認してみてば如何でしょう」
「そうだね。そう言えば君の名は?」
壊れた室内の予算捻出に頭を痛くしながら、俺は目の前の少女に尋ねた。
「ルーペです。ルーペ・ハヅキ」
にこりと微笑みながら、彼女はそう名乗った。
〈続く〉
今回は約2,600文字。
はい、予告していた葉月・ルーペ登場です。
本当に出しちまったよ。おい(笑)。
今回の作業用BGMは超能力戦に合わせて、と言っても肝心な描写は多分、録画を見る次回以降回しです。