壮大な音楽ですね。まぁ、1954年の『エジプト人』なる映画音楽からのコピーらしいんですが、如何にも「これから戦争だ」って気分を盛り上げてくれました。
「おおー、愚かな人間共よ」と、神が毎回嘆く台詞も印象に残ってます。
『征服王』ってのはSLGを人間チェスで再現するって趣旨の番組で、実際に駒となった被り物被った人間が盤上を動いて戦いするんですよ。ちゃんと鎧兜や武器を身につけてまして雰囲気満点。騎兵は兜の代わりに馬の首を被ってたのが微笑ましい。
架空の大陸を舞台に二大国が覇を競うって設定が面白く、戦役に負けると実際に、次回は戦線が押されて後退するんですね。あれは面白かった。
『超人〇ックだ』
最初に目にした感想が、これだった。
髪の毛がぶわっと逆立ち、目が白眼になってスパークが周囲にバチバチ飛ぶ所なんて、典型的なエスパー漫画の描写をこの目で拝めるなんて思っても見なかった。
東の〝岩〟に対する、西の人。ボロ……じゃなかった宇宙戦艦に乗り組んで、関西弁の宇宙海賊と戦う人もこんな感じだったな。
全身から炎でも出してれば、砂の嵐に護られて三つの下僕を操る奴と対決する男になれたかも知れないけど、残念ながら、そこまで派手じゃなかった。
「ここで暫く映像が切れる」
俺がエスバー化して、屋根とかを吹き飛ばしたと同時にカメラもいかれてしまったらしい。
しかし、映像は切れたけど音声の方は無事であるらしく、会話は聞こえている。
「ほう。戦士というのは伊達では無いのぉ」
ババアのしわがれ声。
対する俺は「グレースを返せ」と抑揚の無い声で呟くだけだ。
「ぬおっ、ダイルよ!」
「ウガガガッ」
この間、何が起こったのかは判らないが、焦りを含んだ老婆の声が響き、そして唐突に映像が回復した。
視点が移動しているので、カメラ映像の回線が予備に切り替わったのだろう。
例の「ウガウガ」と喚くワニ男、ゴーレムが俺に突進しようとしていた。
「おっ!」
「騎兵隊登場だね!」
外から中に登場したのは騎士では無く、白馬に乗ったバトルホークである。
主題歌にもなってる、真っ赤なタイツを穿いた奴だ。
外から乱入する形で馬に跨がったまま、俺に向かって振り下ろそうとした爪を、馬上から青く輝く斧でがしっと受け止めている。
「俺はグレースを護る。そいつは任せた」
一人称が〝俺〟と素のままだが、バトルホークは頷いてダイルと呼ばれたワニ男と対峙した。
俺の方はと言えば、いつの間にか黒衣の老婆が確保していた筈のグレースを、しっかりと小脇に抱き抱えている。
映像が切れている最中に、何等かの手段でグレースを奪還したんだろうけど、その方法が判らない。
「これ程とはな……。戦士の力を見誤ったわい」
「彼も強いぞ」
俺の言葉に、黒衣の女はバトルホークの方を一瞥する。
既に下馬戦闘に移り、斧を振るってワニ男を滅多切りの形で斬り裂いている。
爪を失い、最後の手段として頭部の顎で噛み付こうとした矢先、先手とばかりにバトルホークの両腕が、その口を捕らえた。
「むんっ!」
短い叫び。
と、同時にバトルホークの力こぶが盛り上がってワニ男の顎は上下に引き裂かれる。
たまらず倒れて転がり呻くワニ男へ、バトルホークは床に突き刺してあった自分の斧を再び構えると、とどめとばかりな無慈悲な一撃を放った。
袈裟懸けの一撃で、ダイルの肉体が斜めから真っ二つに泣き別れとなる。
ぼろぼろと崩れ、ただの土塊と化すその身体を見ながら、俺は悪役みたいな表情を浮かべる。
「ふんっ、まぁ、バトルホーク相手だとこんな所か」
喋っているのは俺だ。
しかし、声は自分であると認識出来るけど、さっきの一人称みたいに己が己じゃ無い感じがする。まるで知らない自分……、いや、別の人格でも入っているかの様だ。
「グレースが五体満足だったのを、感謝すべきだな。普通はこんな物じゃ済まさないそ」
「ぐうぅぅぅぅ、戦士ぃぃぃ」
「逃げ出すか。まぁ、そうだろうな」
圧倒的な自信を持った言葉にあからさまな怨嗟の声を発して、その場から身を翻した黒衣の女の背中に、せせら笑う男の娘姿をした帝國王子。
空中をするすると移動するが、バトルホークがそれを黙って見逃す気は無く、乗り捨てた白馬に再び跨がって、蹄の音も高く追尾して行く。
「f@tt@、6;xjitw,s6mZqkt?」
俺らしき男の娘は意味不明な言葉を呟くとグレースを揺り籠に戻し、ついでにその近くのソファに座ると目を都閉じる。
「記録はこれまでだ」
俺は映像を打ち切った。
アラーノは「機密ですか?」と問うが、俺は首を横へ振って「この先の映像が全く意味が無いんだ」との説明する羽目に陥る。
だって、外へ逃げた黒衣の老婆とアズテクの古代戦士は映っておらず、その後は俺が目を覚ますまで、延々と同じ映像が流れるだけなんだもんね。
いや、揺り籠に安置されたグレースの姿を見た言ってなら別だけどさ。
ちなみのこの数分の出来事は、全く記憶がない。
「話によると、老婆は残念ながら逃走したそうだ」
一応、外に設置した別のカメラからの映像もあるけど、小さく映ってるだけだし、逃げ出してるのを追ってるだけの、ほんの数秒程度の映像だから余り役にも立たないんだよな。
「……残念です。何かの手掛かりが得られたかも知れないのに」
「バトルホークは空飛べないからねぇ」
肩を落としたアラーノへ、ゴルヒが指摘する。
うん、確かに奴は飛べないし、アステカイザーのトライク〝マッハビートル〟みたいな、便利で空を飛べるサポートメカを持ってる訳でも無い。
白馬と言うかムスタングはあるけど、豪寸魔人と戦うライオンの人と違って天馬って訳じゅないしなぁ。どうせなら、バックバックにロケットでも背負ってたら良かったのに。
「結局、損害は……」
「女官の殉職が8名。乳母が2名。兵士は12名。内シャーマンは3名がやられた」
建物とか装備の損害もあるけど、まずは人的被害からである。
物は造れても、人材は揃えるのが難しいからな。
「事後の手配は?」
「一応、事務に任せてはあるが、まずは葬儀だけを済ませた状態だ」
まだ幼いハツメでは頼りないと、ヨナメが直ぐに来てくれる事になっていた。
アラーノは「我々が、手配しましょう」と言うと、ゴルヒに指示を与え出した。
「すまない」
「護衛を強化しましょう。普通の儀仗兵だけでは力不足です」
と言って、アラーノは近くの基地と連絡を取る。
どうやら装甲兵を呼ぶらしい。
「パワードスーツか」
「少尉、重戦闘タイプを優先しろよ」
「アイアイ、サー!」
通常歩兵でも最強ランクの奴らである。
戦闘サイボーグには一歩劣るけど、戦車と渡り合える奴だから、凄く厳つくてミリタリー風味満点の奴らだ。イメージが刺々しいから、普通は水晶宮なんかに出て来る連中じゃ無い。
「ま、相手にレーザーガンが効かないのなら、ミサイルで吹き飛ばすしかないか」
「ウードウ魔術団は滅んだ訳じゃないですからね」
今回は何とかなったが、いつでもバトルホークみたいな助っ人は現れてはくれない。
なら、自分達で出来る限りの対策は用意しておいた方が吉。
「後は、殿下の記憶喪失の件ですが……」
「医者には診せたよ」
が、原因不明で、もしかしたら二重人格症状が疑われるが、これは何ともしがたい物らしい。
身体面は呼吸器系統を除いて正常だが、本当だったら病院に入って、長期検査を受けるべきなのだろうけど。
「んな暇が、今のぼくにあると思うか?」
「私には……その、何とも」
口を濁すアラーノ大尉。
そうさ、俺が入院したなら仕事は更に遅れるし、護衛も分派しなきゃならなくなる。
「一段落付くまで、ほくには休息は必要ないよ」
「一段落?」
首を傾げるゴルヒ・フォック少尉に、俺は「ウードウの連中を何とかするまでさ」と宣言した。
〈続く〉
約2,800文字。
次回から、いよいよ反撃に入る前に閑話を挟む予定。