ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは『ARIA』から「逆漕ぎクイーン」です。
第一期最初の回で、灯ちゃんが全力漕走してるシーンの曲ですね。全体的にのんびりした曲の多い『ARIA』では、珍しいスビード感のある曲。

『ARIA』は「何にも起こらない」日常系って奴に開眼した作品でした。同じ日常系でも『あずまんが大王』なんかは、何やかんや言っても事件(運動会とかのイベント系)があるもんね。アニメから入って原作を買って、姫屋の面々とアイちゃんを見守った作品でした。
映画を見て、正規のウンディーネ(シングル)になったアイちゃんを見て、シリーズ第一話を思い出し「おおっ、ゴンドラただ乗り犯が出世したなぁ」と、感慨にふけりましたよ。ええ(笑)。


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「ぼくを騙していたのか」

「いいえ」

 

 テイルはそれを否定した。

 そして「兄の件に関しては、私が〝接触、ならびに雇用に付いて〟お勧めしないと何度も警告した筈です。その反対を押し切ったのは殿下自身ではありませんか」と、強い口調で非難する。

 

「確かにな」

「しかし、私が兄と一心同体である事は、殿下にお伝えすべき事だったのかも知れません」

 

 人格が複数で、一つの身体を共有している人間。

 ガンダルとレディガンダル。他のダイナミック系で言えばヤヌス侯爵なんかも含まれる。一番有名なのはあしゅら男爵だけど、あしゅらの場合、遺跡内で発見した男女のミイラを半分繋ぎ合わせた後天的な例なので、多分、先天的に生まれ付き複数人格だろう、ガンダルとは違うだろう。

 もっとも、ヤヌス侯爵は戦闘獣になった際に誕生した後天例かも知れないけどな。

 それはそうとして、そんな人間はヤーバンでも珍しくはないが、俺はテイルの事実を把握してはいなかった。

 

『そう。元々、俺に付けられたスタッフは姉上が用意したくれた者達だからだ』

 

 惑星領主としてベガ王子に用意された人材は、勿論、幼少かつ病弱なベガ王子によって揃えられたスタッフだった訳では無く、父の大王と姉のテロンナがお膳立てをしてくれた者達だった。

 その体制を今でも引き摺っているのがベガ星の現状であるが、これは仕方がない事だった。

 人手不足、これに尽きる。

 

『問題が起こっていたけど、大事の前の小事として放って置いたんだ』

 

 後に俺の手でスタッフが揃うと、当初にポストを占めていた連中との間に軋轢や齟齬が起きた。

 テイルが所属していた侍女部隊と、シャーマン中心のヨナメ率いる侍女部隊との件もそうだったし、元々、ルビー星の親衛隊だった鷹部隊の存在もそうだった。

 面倒臭いから、こいつらを一旦、姉上の元に戻して衝突を減らし、徐々に指揮系統を改変して問題を収める予定だったんだ。

 

「殿下。貴方は戦士です」

「戦士?」

 

 テイルは「戦士であるとしか言えません。テロンナ様の予言では貴方の存在が、ある日を境に、突如〝戦士〟となったそうです」との説明をする。

 そして、その日を境に運命が変わったそうだ。

 今まで予知していた未来が、運命が、先々まで見えていたのが不確定となった。

 

「つまり、予知の範囲が狭くなったと?」

「はい。それは殿下が戦士になった時、あらゆる未来が不確定になったからです」

「姉上がぼくを恨むのは……」

 

 その為なのだろうか?

 しかし、それって逆恨みじゃないかと抗議する前に、テイルは「無論、殿下の責任では無いのは承知しています」って先手を打ってきた様に告げた。

 

「テロンナ様の命を受けて観察していましたが、殿下には戦士としての自覚がありません」

「うん」

 

 そりゃそうだ。自分が戦士だなんて、これっぽっちも思った事は無いぞ。

 

「私の目を誤魔化す程に、高度な演技でもしているかも知れませんが……」

「おいっ」

「冗談です。ただ、殿下は明らかに変わられました」

 

 真剣な眼差しで俺を見るテイル。「変わったのか」と質問すると、彼女は頷く。

 恐らく〝戦士〟として何かが殿下に憑依したのか、それとも融合したのかは判らないが、生きる屍の様だった俺が、生気溢れる存在へと変化したらしい。

 

「病床でただ生きているだけの殿下。何も望まず、何もせず、運命に全てを任せて消え去るのみだった存在だった貴方は、未来を己の手で掴もうと変化したのです」

「死にたくなかっただけだよ」

「昔の殿下なら、笑ってその運命を受け入れていましたよ」

 

 ああ、そうかも知れない。

 俺になる前の自分は何もかも諦めていた。一生、表舞台から隔離され、サナトリウムの様な田舎のベガ星で療養するだけの、生かされていた世界の傍観者として過ごして没すると信じていた。

 自分の力を信じず、何も掴もうともせずにだ。

 

「諦めて他者任せにしていた政務を始める。そして、政治的立場から広告塔として、ご自分から男の娘化するに至っては目を見張りましたよ」

「テイル……」

 

 そうだった。この侍女は最初から俺の補佐として見守っていてくれていたのだった。

 しかし、ぼそっと「女顔だから女装でもしてみたらと勧めたのは、軽い冗談だったのに」と小声で呟いていてるのを聞いた時、「おいっ」と突っ込みを入れたくなったけど。

 

「話を元に戻します。だけど〝戦士〟の介入で、姫の予知するこの宇宙の未来は不確定になりました。そして、それは姫様の最愛の人デューク・フリードの未来をも変えてしまったのです」

「それが怪物戦艦〝オリオンの虎〟か」

「はい」

 

 テイルが語る所によれば、姉上の未来予知では〝オリオンの虎〟出現は全くのイレギュラーだったらしい。

 本来、あの怪物戦艦がフリード星に現れる未来は無かったのに、結果としてデューク・フリードと相打ちになって、この世界からデュークが消えてしまったらしい。

 姉は予知は、この世界からデュークが居なくなるのを掴んではいたが、それが掴めたのはほんの数日前で有り、結果として対策が間に合わず、デュークを失ってしまった。

 

「テイル。その先は私が話しましょう」

「テロンナ様」

「時間が迫っています。ツインは最終チェックを」

 

 姉の言葉を受け、侍女長がツインテールの男の娘に変化する。

 何の最終チェックかと訝っていると、姉上が俺に問いかけて来た。

 

「娘は、元気なのですか」

「ルビーナは元気ですよ。ウードウ魔術団対策に本艦に乗せていますが」

 

 俺はここへルビーナを連れて来る様に命令して、正面を向き直った。

 姉は相変わらず美しい顔で「ベガ、娘を頼みましたよ」と心配そうに語りかけてくる。

 まるで、今生の別れみたいだなと心配になった時、どぉんと大きな音が響いて離宮が揺れた。

 

「どうしました」

「ウードウ魔術団です。敵要塞が直接攻撃を仕掛けています!」

 

 姉に対する返答者はバンダー中尉の声だった。俺は別のスクリーンにフリード星の離宮を拡大投影させる。

 幻魔要塞ヤマタノオロチが離宮に体当たりして、何本もの首で代わる代わる外壁に噛み付いている。

 

「ミニフォー隊の攻撃に追い詰められた様子です」

「しかし、離宮に追い込む馬鹿があるか!」

 

 守るべき場所へ、敵を追い込むのは本末転倒だった。

 俺は『所詮、無人機か』と痛感し、「離宮を誤爆するぞ、ミニフォー隊を下がらせろ」との命を下す。

 それでも敵にかなりの打撃を与えたのは事実の様で、何本かの首を蜂の巣にして討ち取り、本隊にもかなりの損傷を与えていた。

 円盤獣が未参加なのが悔やまれる。

 

「姫様のおなりです」

 

 と、報告と同時に正面の扉が開き、ブリッジへルビーナがルーペに抱かれて登場する。

 体当たりを繰り返し、敵が壁を揺する振動に姉は耐えていたが、我が子を見た途端、ぱっと顔色が明るくなる。

 

「ああっ、ルビーナ。いえ、今はグレースでしたね」

「いずれルビーナです」

「有難うベガ。我が子を頼みましたよ」

 

 その言い草に俺は引っかかる。

 アラーノ大尉やテイルもそうだったけど、まるで今生の別れみたいじゃないか?

 まさか……。

 

「姉上、これから何をしようと企んでいるのですか」

「ベガ、マリアの事も頼んだわね」

 

 姉は答えず、三つ子の妹を話題に出した。

 しかし、マリアは姉の元で暮らしているはずだ。

 

「私はデュークの元へ、この世界から旅立ちます。でも、マリアは残して行く事しか出来ませんでした」

「姉上!?」

「ボンバの像を返せぇぇぇぇぇ!」

 

 そこに割り込んできたのはウードウ魔術団の、ゾオラと名乗った黒衣の老婆である。

 姉に向かって杖の様な棒を打ち下ろすが、そこへ青く輝く刃が受け止める。

 

「むぉぉぉっ、バトルホークぅぅぅぅぅ」

「姫様に指一本触れさせん」

 

 間一髪、攻撃を阻止した真っ赤なタイツがもう片方の斧を振るい、今度はゾオラが飛びすさって斬撃を避ける。

 ウードウ魔術団が鉄壁の防御を潜り抜け、深部まで辿り着いたらしい。

 

「姫さん。最終段階に入るぞ!」

「ベガ、私の我が儘を許して下さい。しかし、私はデュークを、あの人をどうしても忘れる事が出来ないのです!」

 

 ツインの声が視界外から響き、「きぃぃぃーん」と何だか耳障りな機械音が高まる。

 俺は「姉上ーっ」と絶叫した。

 

  

〈続く〉




約3,300文字。

令和時代の初更新。
次回、恐らくロスト編最終回です。
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