主人公側の曲です。どことなく帆船が白い帆を一杯はらんで、出港するイメージがありますね。穏やかな感じの旋律です。
作曲家は千住明氏。この人の作る曲はどことなく特徴があって、どんな曲でも「あ、千住節だ」ってぴんと来るんですよ。音楽方面には素人なのに何故か分かる。
大河ドラマの音楽を耳にした時、「あれ?」と思って調べたら、千住さんだって事がありましたっけ(笑)。
ルビーナが到着した。
普段は同じ水晶宮に住んでいるのだから、俺と一緒に到着でも構わないのだがスケジュールの問題から俺が先発する事になったのである。
色々と先に面会やら、会談やら視察やらがあるからね。遊びたい盛りの五歳の子供を連れ回すのは酷だろう。
「姫様のおなーりー」
紅玉宮の門衛の時代がかった声と共に観音扉が開き、黒塗り専用車から小さな姫がしずしずと降りて来る。
周りに装甲車の列やら、装甲服を着込んだ無骨な護衛が多いのはブラッキーの手配だ。昔の誘拐事件以来、この手の行事に十重二十重の防御陣を引く様になってしまった。
ルビーナは手を振りながら、笑顔を浮かべて玄関内へ入る。
「放送はここまでだね」
「中継は外部のみです。内部は非公開の筈ですから……」
「ルビーナはそれを知っているな。となると……」
ハツメが何か答え用とした時、躾室の外から喧噪が聞こえてきた。
耳を澄ませば「姫様」だの、「お待ち下さい」だのとの言葉が聞こえて響く靴音。
「お義父様!」
オートドアが勢い良く開き、いつもの様にお転婆に執務室に駆け込んで来た。
ルビーナ、いや、まだグレース・ヤーバン王女だが、じゃじゃ馬で快活な五歳だ。
「グレース様。殿下の前ですよ」
「ハツメは黙って、あたしはお義父様に用があるの!」
俺は執務机から顔を上げ、「元気があってよろしいが、王女らしさが足りないよ」とやんわり注意する。
するとやっと追いついたらしい、ルビーナ付きの人々が依拠切らせて執務室へ入ってくる。
「殿下。グレース姫が到着しました」
「見れば判るでしょ」
「こらっ」
側付きをからかった彼女は、ぺろっと舌を出した。
そんな中、淡々と事務的に物事を進め、報告を続けるのはルーペである。
「……以上です、道中、不審な者は見られましたが現在、監視下に入っております」
「徹底的にマークしろよ。ウードウ魔術団だったら取り返しが付かない」
黒髪の侍女は一礼して控える。
話が付いたとのタイミングを狙って、今度はルビーナが会話を再開する。
内容は日常的な出来事やら、戴冠式に臨む際の心構えの質問とか、まぁ、たわいも無い者が殆どである。
ただ一つを除いては……。
「緑の化け物?」
「はい」
それは最近、夢の中に出て来るモンスターなのだそうだ。
襲われている所に謎の騎士が現れて、そいつを剣で真っ二つにするらしいのだが、そんな夢を最近、連続で見ていると言うのが引っかかった。
「騎士様は凄く強いのです。あたし、惚れてしまいました」
「そうか」
楽しそうに語るルビーナの表情には怯えが無く、余り心配する事は無さそうな感じではあるが、この娘もヤーバン王家の血筋であるから、母であるテロンナの能力を引き継いでいる疑いもあった。
予知夢。
それが発動してはいないか気には掛かる。
「赤い衣の人物は出て来るのかい?」
「赤い……。あ、以前、お義父様が話してくれた魔女ね」
一応、夢の中にウードウ魔術団のジィルの姿が居ないか確かめるが、その答えはノーだった。
すると今回の夢は、ウードウ魔術団絡みでは無いから、多少は安心出来る。
「お義父様。式典のコーディネイトで迷っているの」
「グレース様。殿下はお忙しい身です」
「ルーペは黙ってて!」
ぴしゃりと自分付き侍女のの言葉をはねのける。
我が儘を言う姫に代わり、俺は済まなそうな顔をルーペ・ハズキに向けるが、吊り目の侍女は肩をすくめているだけだ。どうやらこの手の文句には慣れているらしい。
「お義父様の美的センスは抜群だから、あたしの一番よく似合う姿を選んで欲しいの」
「分かったよ」
それからああでも無い。こうでも無いとファッション談義は続き、ようやく解放されたのは一時間後だった。
戴冠式は二日後に迫っているが、まだ準備が万端では無いのを姫に告げ、出来る事なら内々で儀式を進めたかった事に言及する。
俺の時はそうだったし、しかも、本人すら出てなかったしな。
「しかし、私と違って姫は健康体だ。流石に代理を出す事は出来ない」
「今はお健やかなのに……」
「鍛えたからね」
呼吸器系はまだ不調だが、かなり肉体的には強くなったと自負している。
「式典は我がベガ星、ひいてはペガ星連合軍の威信を諸外国へ知らしめる側面もあってね。済まない」
「理解してます」
「そうか。賢いな」
頭を撫でると嬉しそうな笑みを見せる。
「さ、そろそろ行きなさい。私には執務が残っている」
ルビーナはそれを聞くと腰を落とし、ドレスを裾を両手で摘まんで一礼すると退出した。
俺は同時に付き添おうとするルーぺをを呼び止める。
「何か?」
「ルビーナのわがままをゆるしてやってくれ」
テロンナ姫が消えた時点で姉上派だった侍女達のトップに居たのが彼女である。
いわば、後ろ盾が消えた形となっていたのだが、俺は彼女をルビーナ付きの侍女として再編してこの地位に据え、それからずっとルビーナの面倒を見て来た。
教育係としての側面もあるだけに、ルビーナ本人からは邪険にされている所もあり、貧乏くじを引いた形になっていると俺は見ている。
「私も昔は、テイルが鬱陶しかった」
「テイル様からは、その様な事は聞いておりませんが……」
俺は苦笑して「それは己が病弱で、反抗する気力が無かったからだよ」と告げる。
年齢的には三歳しか違ってなかったけど、文句を言ったら百杯返しされそうだったからな。
「だが、ルビーナは健康で気が強いから、色々と反発も出る」
「気にしてはおりません。それに姫はまだ子供です。可愛い者ですよ」
大人な返答が返って来る。
「助かる。では宜しく頼む」
「は」
「緑の怪物。どう見る?」
夢に見た単なる妄想とかなら、余り気にしないのだけどね。
流れる様な黒髪を揺らして、首を傾げながら「予知の可能性があります」と、彼女はズバリ要点を突いた。
「しかし、それが何なのかが判明しないと、対策は立てられませんよ」
「そうだな。悪かった、任務を続けてくれ」
「一応、化け物が動物なのか植物なのか、スライムみたいな粘体か、ガスや霞みたいな気体なのか、姫様から聞き出しておきましょう」
そう、五歳の幼女だから緑の化け物が、具体的な姿を全く描写してくれないのだ。
情報が無いと判断に苦しむが、まさか、本当に緑の化け物が現れるとは、その時は予想もしていなかった。
〈続く〉
約2,500文字。
同時並行で連載中のR-18な『帰郷』だけど、話が延びた(笑)。
次から次に難題がお嬢様に。つーか、ホントに過労で倒れそうだ。アラティー仕事を手抜きして、「おーほほほ、良きに計らえ」とかやれないからなぁ。
下手すると総計5,3000字の『リオン』を越えるかも、な、長い。