俺は表向きは平静な顔をしつつも、ヨナメの申し出に戸惑っていた。
「ぼくを高く買ってくれるのは嬉しいけど、今は答えが出ない」
「でしょうね」
「フリード星は友邦だからね」
そうなのだ。ヤーバンと同盟を結んでいる星なのである。
もっとも『宇宙円盤大戦争』にせよ『グレンダイザー』にせよ、最終的には我がヤーバンやベガ星連合軍に攻め滅ぼされてしまうんだけど、その原因はと言うと俺的には首を捻らざる得ない。
開戦するのにしても何等かの理由がある。
歴史の上では単に相手が「気に入らなかった」って理由だけで滅ぼした例もあるけど、そんなのは例外中の例外。
今のフリード星を敵に回す理由や、メリットって無いだろう?
「それでは、私を如何なされますか?」
「さて、扱いに困ってるよ。その前に……」
半ば俺を試す様な目を向けてきた女間者に向けて、俺は「君の忠誠は今、誰に向けられているのかな?」と質問する。
こいつの立場を問うたのだ。
正体を明かしたからには、今までの様にフリード星のスパイと言う訳には行くまい。
「殿下のお答え次第になります。
強いて言えば、今の忠義は我が部族になりましょう」
「部族?」
「代々フリード星で、諜報や破壊工作を司る部族でございます」
と言いつつ、固有名詞は出さない。
まだ、こちらの出方を窺っているのであろう。背後にある部族とやらの安全を確保する為か。
例え、現時点で捕らわれたとしても、トカゲの尻尾切り的に己を犠牲にする気なのだろう。
「ベガ星へのスパイ活動は、その部族とやらが請け負った仕事なんだね。
フリード星からの要請で」
「はい。ただ、部族としては断れない事情がある、とだけは申し上げます」
「では質問だ」
今、酷薄めいた笑みを浮かべているのだろうな。
俺は「君はその部族に関して、どんな事をして欲しいんだ?」との問いをぶつけてみた。
「それは…」
ヨナメが口ごもる。
「君自身はその支配から解放して欲しいのかい。
なら、部族を裏切ってぼくの配下に付けば良い」
俺は続けた。
「そして部族とやらを滅ぼして欲しいのなら、円盤部隊を派遣しよう」
素っ気なく「その程度の事ならば、ぼくは可能だ」と告げるが、ハッタリを大いに含んでいる。
他星の領域での武力活動は外交問題だ。
幾ら、ヤーバンがその手の活動を行ってきた歴史があるにせよ、それは明確に敵対行動をする時に限られる。
友邦でそんな活動をしたら只では済まない。
が、世間一般ではヤーバンはそれをすると思い込まれている。
故にこのハッタリはかなり効くと俺は踏んでいた。
何せ、俺はあのヤーバン大王の息子なのだ。
「いえ、むしろ、我が部族をフリード星からの隷属から解放して頂きたいのです」
「部族の皆がそれに賛同するのかい?」
我ながら、意地悪な質問だな。
全体の意思統一が計られてないのなら、ヨナメ一人だけの思惑には乗れない。
部族とやらの大半がそれに反発しているのなら、どう考えたって失敗は目に見えているからだ。
「大半は、今の状況に潜在的に反発しております」
「だとしても、今、君が味方に出来る者は何人かな。
まずは過半数、最低でも部族の半分以上を割れる数を味方にしてからだ」
かなり危ない橋を渡るのだ。「族長を含めてね。そうで無ければ話には乗れないな」と冷酷に俺は言い放った。
その時、
「ヨナメ!」
その名を叫んだのはズリルだった。
俺は寝台から完全に身を起こし、その姿を確認する。
ズリルだけではなく、姉上やテイルも入口に立っているのが見える。
どうやらテイルが姉上を連れてきたくれたのだろう。
「殿下に何を……」
「世間話さ。だが、ズリル。君には後で話がある」
俺は話を唐突に終わらせ、「ヨナメはズリルと共に下がれ」と命令した。
今はこんな危ない話をして、姉上を巻き込む訳には行かない。
ヨナメは一礼すると、ズリルと共に部屋を下がる。
「心配しましたよ」
「この程度の能力発揮で倒れるとは、つくづく、自分の脆弱さが嫌になります」
テロンナ姉様の言葉に俺はそう返す。
超能力者のランクから言えば、俺の力は低くないらしい。
それこそエスパー漫画の主人公並みのパワーがあるが、残念な事に持続力が無い。
まぁ、普段からあんまり訓練もしていないからな。
超能力なんて完璧に余技だし、電撃やサイコウェーブ使って攻撃するより、そこらの雑兵が使うレーザーガンの方がお手軽で強いんだからね。
「医師の話では、静養した方が良いとの事です。今夜の歓迎会には出席しない方が良いでしょう」
「それは外交的欠礼に当たります」
俺は慌てた。デューク・フリードと会えなくなるのは困る。
「大丈夫です。もう、元気ですよ」
ほら元気、と言う風に、俺はその場でぴょんぴょん跳ねる。
姉上は「まぁ、ベガったら」と、豪華な金髪を揺らしてクスクスと笑った。
「そうそう、デュークがお見舞いに来ているのよ」
「えっ?」
思わぬ言葉に俺が入口の方を見ると、青い衣に身を包んだフリード星人の姿を認めた。
〈続く〉
ヨナメさんの他、本作ではこの手のダイナミック・プロ系クロスオーバーをして行きます。
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