ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMはパソコンゲーム『D -その景色の向こう側-』より、「苔」です。
不思議な世界への誘いと言った雰囲気のOP曲なんですよね。静かな幽玄の世界。「これから何が始まるのかな?」と言ったわくわく感もあって期待が高まります。

『D』はマイナーだし、ストーリーもほぼ一本道なADVだったけど、何処とも知れぬ土地を夜間に駆け抜けて行く列車とシュチエーションに心躍る作品でした。
主人公は己が何者なのか分からずに正体不明の最後尾に居る。振り返ると車内には謎の死体。隣の車両へ行くのも時として命がけで、そこにも謎の乗客達や怪物が待ち構えている。
ミステリーに満ち、行き先も分からずに疾走する列車。主人公は戸惑いながらも、この列車は何か。自分達は何故、此処に居るかの謎を解いて行く。
面白いのだけどゲーム性から見たら落第なので、ゲームで無くて小説として見るべきなのが欠点かな(笑)。


150(閑話)

              ◆       ◆       ◆

 

 マザーバーンが進撃し、ルビー星の軌道上にぽつんと残された護衛艦〝ラグパルナ〟。

 歴戦の勇士と言えば聞こえが良いが、艦歴60年を数える退役寸前の老朽艦である。

 

「貴方が来なくて良いのに」

 

 ルビー星の領主となったばかりの五歳児は、目の前に立つ侍女の姿を見てうんざりした声を上げた。

 黒髪ぱっつんのロングヘアを持つ侍女は、「そうも行きません」と事務的に返事を返す。

 ルーペ・ハヅキ。ルビーナ付きの侍女長兼教育係だ。

 

「常にルビーナ様を補佐するのが役目と心得ております」

「監視でしょ」

「ご想像にお任せします」

 

 ルーペはその吊り目気味の瞳を向け、どちらかと言えば護衛も引き連れてきた旨を報告する。

 成る程、侍女では無く、彼女に随伴しているのはパワードスーツを着込んだ装甲兵分隊である。マザーバーンに乗り組んでいた者達を率いてきたのだろうか。

 

「護衛艦のクルーは白兵戦の本職ではありませんからね」

「貴方もでしょ」

「否定はしません。私も戦闘侍女ではありますが、能力は落ちます」

 

 あっさりと認めるルーペ。

 ルビーナはウードウ魔術団並みの連中が、この衛星軌道上まで現れるのかと質問するが、侍女長は肩をすくめて「備えあれば……と言う諺もあります」と返答する。

 数が分隊規模なのも、万が一の保険なのだろうか。

 

「艦長。この船を移動させて下さい」

「は?」

「衛星軌道でもまだ危険だと感じます。惑星上空から離脱を……」

 

 まさか、こんな所にまでとルビーナが心配性なルーペに呆れるが、突然、ブリッジに「艦尾に異常発生!」との叫びが響き渡った時、状況は変わった。

 監視カメラが直ちに作動し、異常が起きた艦尾付近が映し出された時、ルビーナを始めとする全員が絶句した。

 

「ゴーレム!」

「機関損傷。ロケット推進部が破壊されました」

 

 ウードウ魔術団だった。

 あの頭がタコになっていて、八本足をぐるぐる回して飛翔する奴である。

 

「宇宙空間も飛べたんだ……」

「ほほほっ、生き物では無いからな。真空も宇宙線も無関係なのよ」

 

 ルビーナの呟きに答えたのは味方では無かった。

 スクリーンに強制介入して来たのは、大柄な身体を持ったけばけばしい顔の女性。

 

「レディ・ガンダル。貴方の仕業ね」

「ウードウの連中は科学に疎いのでね。ここで頑張れば、汚名を返上してジィル様に恩を売れる」

 

 ルビーナは会話しつつ、横目でチラリとルーペを見た。

 侍女長はハンドサインでそのまま会話を続ける様に指示し、できるだけ時間を稼ぐ様に促した。その間に小声で色々と指示を出している様だ。

 

「無駄だ。ルーペ侍女長」

 

 だがそれを、レディ・ガンダルは気が付いていたらしい。

 彼女は〝ラグパルナ〟の推進系を破壊した事に触れ、「そいつが旧式艦だったのが不幸だったな。反動推進系以外に、ろくな機関は残っていまい」と尊大な態度で言い放つ。

 最近の軍艦は円盤と同じく、推進器を必要としない慣性制御なのだけど、旧式の軍艦或いは、コスト優先の民間の宇宙船は反動推進エンジンを主機としている。

 つまり、噴射部分のノズルを破壊されたら、移動力喪失になってしまうのである。

 

「最早、ろくに動けまい。そのまま〈スダコラー〉の餌食になれ」

「〈スダコラー〉? あのゴーレムの名ですか、ふざけていますね」

「ぬかせ!」

「確かに、判断が遅れたのが失敗でした。外部モニターカット!」

 

 ルーペの叫びで、スクリーンからレディ・ガンダルの紫色の顔が消えて真っ暗になる。

 当然、モニターカットと同時にこちらのカメラも全て切っているのは言うまでも無い。

 ガンダルの位置の逆探知を担当していたクルーが文句を言うが、「これ以上、こちらの情報を奴に渡す方が危険です」とルーペは断言した。

 

「どうするの?」

「装甲兵をハッチに配備します。ゴーレムは艦内への侵入を企てるでしょう。目標は勿論、ルビーナ様ですからね」

「艦砲での応戦は?」

「これだけ接近していたら難しいでしょうね。この船は地上制圧艦(ガンシップ)ではありませんから、装備火器が大型過ぎるのです」

 

 外部へのハッキング検査が終了したのか、再び、モニターが点灯する。

 小型艦ではあるが最小の艦砲は対空砲であり、基本的にでかい艦載機を狙う樽の物で人間大のゴーレムを狙撃出来る様な火器ではない。まして艦にぴったり寄り添っているのだから、まず狙いも付けられなかった。

 タコ頭のゴーレムはふわふわ移動して、ノズル付近から艦尾ハッチ付近へ移動し、緑色の溶解液を吐き続けた。

 

「溶解液、とんでもない威力ですね」

 

 護衛艦の装甲なんぞ戦艦に比べたら紙なのだが、それでも宇宙船の外装であり、普通なら一寸やそっとでは破壊されない耐久性があるのだが、溶解液を吹き付けられてたちまちボロボロになっている。

 

「ルビーナ様は宇宙服を。装甲兵は後部ハッチ付近に移動せよ!」

 

 怯えた表情を見せる王女に指示を与え、装甲兵を指揮する侍女長。

 ルビーナはブリッジに備え付けのロッカーに飛び付くが、こいつは軍艦であって、宇宙服は大人サイズの物が転がるばかりである。

 

「ルーペ。宇宙服が……」

 

 情けない声を上げる姫。普段なら他に数人は侍女が待機しているのだが、今、周りにいるのは幸か不幸かルーペだけである。

 

「無理矢理ですが、身体を服に合わせて下さい」

「ええっ」

「死ぬよりはマシです」

 

 言いつつも、姫をてきぱきと宇宙服に押し込めて行く。

 非常用に用意された宇宙服は旧式で、最近のモデルに比較すれば動きにくい事この上ないが、その分、信頼性もあって頑丈な造りであった。

 しかし、体積的には上半身部分だけで充分で、下半身の脚部は全くの飾りになってしまう。

 

「足が届かないわ」

「でも脱がないで下さいね。気密が保たれません」

 

 子供サイズなんかを用意してないからぶかぶかで、中身が入っていない脚部は萎んでデットウェイトにしかならない。だが、宇宙服として機能させるには下半身を脱ぐ事は出来ない。

 外部カメラが映し出す光景は、視点が変更されてハッチ内部へと移った。艦内へ〈スダコラー〉とやらがとうとう侵入したのだろう。

 入口付近に陣取る装甲兵と撃ち合いが始まっている。

 

「拙いですね。艦載艇が使えません」

 

 吊り目を向けつつも、ルーペ・ハヅキが長考に沈む。

 後部ハッチは艦載艇格納庫に直結しているからだ。すなわち内火艇が使用不可能で、ルビーナをこの船から脱出させる最大の手段を失っていると言う事だ。

 宇宙服による宇宙遊泳や、脱出ポッドに乗せての慣性飛行もあるが、機動性に欠ける上に安全面から見て圧倒的に危険である。

 ウードウ魔術団に補足されなくとも、宇宙服に隕石でも当たったら、いや、ゼロG機動に失敗して重力に引かれて大気圏へでも真っ逆さまに突入したら、取り返しが付かない。

 

「レーダーに反応、何か来ます」

「味方か」

「いえ、これは……馬です」

 

 さっきの失敗を教訓にレーダーの探知範囲を極小に限定して、かつ、小さな物体にも反応する様に調整していた索敵手が困惑の声を上げた。

 

「黒いベルバラン!」

 

 宇宙服に押し込まれたルビーナが声を上げる。

 拡大投影された姿は、間違いなくあの黄色い騎士であった。 

 

 

〈続く〉




約2,900文字。

記念すべき連載150回目は閑話になりました。
ベガがガイラー軍と戦っている最中、後方ではこんな事件が起きていたのですね。
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