バブルの頃に流行ったCMソングですね。ジャパニーズビジネスマンが世界中を闊歩していた時代、軍歌みたいに壮大な曲でした。
「24時間戦えますか?」がキーワードですが、この頃は働けば働くだけちゃんとお給金が貰えた時代だったので、今の世の中ならクレームが来そうな文句でも大丈夫でした。
今はサビ残で働いてもノーギャラでただ働きさせる、ブラック企業が乱立してるからなぁ。
◆ ◆ ◆
その後、女官が俺を起こしに来て普段の生活が始まったよ。
ブラック・ミストはあの後、何か別の事を言ってた気がするけど思い出せない。あのインナースペースでの出来事は曖昧で、記憶がはっきりしないのがいつも気に掛かる。
「窓でも開けましょうか?」
細々と仕事する侍女のリンメが俺に声を掛けて来る。
昼食を摂り、いつもの執務時間前の僅かな休憩時間である。
「ん?」
「何やら、深刻そうなお顔だったので気分転換にと」
シャーマンだが侍女なのでメイド服姿、この世界のメイド服はギリシャ風の薄手のローブである、を著ている若い娘が「出過ぎた事でした。失礼しました」と慌てて頭を下げた。
俺は「いや、構わないよ。有難う」と礼を述べる。
そんなに深刻な顔をしていたのかね?
執務机の上にあるコンソールが、事務的な音を出してコールを知らせる。
「ベガだ」
「イチメです。面会希望者が正面玄関に押しかけてきているのですが、その……」
モニターの向こうの娘もシャーマンだ。先程のリンメとあと一人、サンメと言う名の三名で侍女分隊を組み、今日のシフトに当たっている担当者だが、その表情は焦りが見える。
「今日の面会予定者は居なかった筈だが」
「はい。予定はありません」
コンソールのモニターから振り返ると、リンメが首を振ってその言葉を肯定する。
しかし、次の瞬間、イチメの「で、でもっ、面会者がフリード星に派遣されてたルーペ侍女長なんですっ!」の絶叫に俺は凍り付く。
俺は確認の為、やって来たばかりの秘書のハツメを正面玄関に向かわせた。
「本人でした」
五分後、辿り着いたハツメはモニターに映った開口一番、そう口にした。
画面外から「何度もそう言っているでしょう!」と怒声が上がり、慌てて声のする方を向いたハツメが「あっ、お待ち下さい」と口にしてその場を離れる。
「どうした」
「侍女長を追いかけてハツメ様が……え、えーとぉ」
「こっちへ来るんだな?」
「は、はい。恐らく、ああっ、何故こんな時にサンメも誰も居ないのよっ!」
どうも追いかけたいのに、交代要員が見当たらないらしいシャーマンが愚痴をこぼす。
俺は「ハツメなら平気だろう。イチメはその場で待機」と命令して通信を切ると、画面を監視モニターを切り替える。
居た。何度か画面を試行錯誤の後、成る程、侍女用階段をずんずん昇って来るのは確かにルーペ・ハズキの姿だった。
侍女用階段とは水晶宮に設けられた物で、壁の裏に隠されて表側には一切判らない侍女専用通路の階段部分だ。
侍女の殆どが間者属性なので、隠密に動く事を前提とした螺旋階段と滑り棒組み合わせたシンプルな、と言うか原始的な造りだが、侍女がほぼシャーマンなので丁度良いらしい。
確かこれを設置し〝電源を切られたら孤立する〟として、侍女部隊全てにエレベーター使用禁止令を出していたのも彼女だが、『ちゃんと自ら率先しているのだな』と変な所で感心し、本物であると確信する。
『しかし、服装は大分乱れているな』
几帳面のルーペらしくはない格好で、メイド服の裾は千切れ、他にも破れている所が多々ある。
しかも、染みになった血痕が付いているのだから、これは尋常な事態では無さそうだ。
「殿下っ、失礼します!」
張り上げる様なルーペの叫びと共に、執務室の扉が勢い良く開いた。
あらかじめ扉の前の衛兵は下がらせておいたから、何の抵抗もなく、執務室に駆け込めた様だ。
「ルーペ侍女長。何があった?」
「ルビーナ様の事です」
はぁはぁと肩で息をしている彼女の答えは、やはりと言うか、ブラック・ミストの予告通りだった。ほぼ同時にハツメが駆け込ん来たが、その答えに目を白黒している。
俺は頷くと「話せ」と命令した。
◆ ◆ ◆
「フリード星の状況はそんなに悪かったのか……」
「しかも、そんなに緻密な妨害工作まで……これは国際問題ですぞ」
不眠不休で妨害者の警戒線を突破し、星を渡って水晶宮まで強行軍してきたルーペ侍女長は既に別室に移され、看護を受けている。
本人は「こんなのかすり傷です」と強がっていたが、万が一を考えて治療に専念させ、この場に列席する事を俺は許可しなかった。
俺は急遽、ズリルやブラッキーと言った幹部連を招集していた。
何せ、ルビーナが発する全ての報告が偽物にすり替わっていると言う、驚きの事実をルーペから説明されて改めて、フリード星の保守派にルビーナ排除の意志が堅い事を再認識させられたからだ。
「既に襲撃は日常茶飯事らしい。ルーペ達はその窮状を本国やベガ星、ルビー星に伝えたのに、まるっきり無反応なのに不審を抱いて、今回の事が発覚した」
「フシメが関わっていますね」
ヨナメの言に俺は頷いた。
フリード星貴族でもあるシャーマン族の頭領。不可思議な呪術に秀でる不気味な女だが、いよいよ我々に牙を剥いて来たと言う事なのだろう。
「呪術って奴ですな。アステカイザーや黒いベルバラン同様、はっきり言って理解しずらい」
ズリルは妻がその力の使い手でもある為か、〝理解不能〟とは言わなかったものの、科学者だけにその原理が明快に説明不能なのがもどかしく、苦々しい所があるのだろう。
まぁ、普段から〝転移〟とかの呪術を行使するシャーマン自身も、それがどんな原理で働いているのか判らぬまま使っているのだから、説明不可能は当たり前と言えば、当たり前なのだろうが。
「黒いベルバランか、直接、見聞して見たい物だ」
「ルビー星管区は、お前の担当であろう。バレンドス!」
他人事の様に話すバレンドス大佐(昇進した)にブラッキー大将(こちらも昇進した)が怒号を浴びせると、バレンドスはやれやれ顔で肩をすくめた。
何にせよ、数々の襲撃からルビーナ達の危機を救っているのが、黒いベルバランとその一党であった。
ウードウ魔術団とも結託しているのか、あのレディ・ガンダルも現れたそうだ。
「歴史は繰り返す……か」
バレンドスがぼそりと呟いた。
「ベガ星連合軍を直接派遣すべきだろう」
「大将。それじゃ、戦争になりますぞ」
ブラッキーの乱暴な提案にズリルが歯止めを掛ける。
好転していて経済は右肩上がりに増えてはいるものの、まだベガ領では開戦するだけの経済負担は厳しい。
いや、出来ない訳じゃないんだけど、行政長官ズリルとしてはあまりやりたくない選択肢であろう。三年前に受けたルビーシティの復興もまだ完全ではないのだから。
「軍の派遣は最終手段だ」
俺は告げた。
フリード星は表向き、事件を追及したって〝知らぬ存ぜぬ〟果ては〝誰々のせい〟と自分に責任がないと言い訳するのが目に見えており、尻尾切りの様に誰かを……この場合、王家以外の官僚かどっかの貴族だな、を首切りするだけなのは、今までの事例から分かり切っている。
もし、軍を派遣するのなら、それはフリード星の体制を完璧に滅ぼす為になる筈だった。
少なくとも、俺はそう決めていたからだ。
「では、どうします?」
そう俺に尋ねたのは、ルビー星管区の師団長となったバレンドスであった。
にやにやと顔が面白そうに笑みを浮かべているのは、ベガ王子がどんな判断を下すのか面白がっている為に違いない。
「まずは護衛を増備する。あくまでも侍女部隊の増派と言う形で派遣を行う」
「甘いですぞ。武官を……」
ブラッキーの言葉をバレンドスが遮って「妥当な線ですな。武官をあからさまに他国の宮殿には派遣出来ますまい」と言い、「ブラッキー大将は装甲兵や機械化兵を送り込みたいのでしょうが」と皮肉る。
禿頭を真っ赤にした大将へ、俺は「落ち着け。そうしたいのは私も同じだ」と擁護する。
しかし、バレンドスの言う通り、あからさまに軍事的圧力を掛けるのには時期が早すぎる。
「諜報要員を侍女部隊ら紛れ込ませ、同時に女性武官も配置しよう」
ま、これが軍に対する妥協案だ。
当然、諜報要員も女性武官も表向きはルビーナ付きの侍女と言う事になる。
「そして、私が直接、フリード星を視察しようと思う」
「え」
「殿下。それは無茶な」
様々な反対意見が上がったが、俺の意志は堅かった。
「いつもの通りだ。身代わりはハツメに頼む」
「はい」
緑の髪をスカーフで纏め、黒いヘソ出しのレオタードの上から胸と腰をピンク色のサッシュで締めたシャーマンの少女は頷く。マルク本星での事件以来、影武者役はこの秘書のポジションになってしまっている。
「ブラッキー達は女性士官達の選抜を急がせろ」
〈続く〉
約3,400文字、うーむ、2,000文字縛りが空文化しとる。
「ごっ奉仕、ご奉仕~♪」の侍女部隊、再登場……おっと、前のは「La Verite」版のレモメ、メロメ、マロメだったかも。
その内、ドリメやらラザメとかマ王の城にいそうなシャーマンが出そう。
一応、ベガ付きだから侍女部隊でもエリートなんだけどね。だけど、その為に恐らく酷い目に遭う事に……(笑)。