ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは『大脱走』より、「大脱走マーチ」です。
往年の大スターが共演する戦争映画大作。最初に流れるこの曲と共にドイツ軍の車列が、バイクを先頭にトラックが走ってるシーンが盛り上がりますね。

S・マックイーンがバイクを駆るアクションシーンが有名ですが、史実ではこの脱走劇に米兵は不参加だったらしい。ハリウッド映画だからアメリカ人出さないと売れない改変なんだろうなぁ。
でも一番好きなシーンは、捕虜達がイモ焼酎を手作り蒸留器で造って飲む所(笑)。
酒なんて捕虜になってから一滴も飲んでなかったんだろうなぁ。試飲してまさに「わーお」な所が、とても共感出来る場面なのですよ。


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 車列は宇宙港を出ると、何故か郊外へと向かって行く。

 王宮は市内の中心地にある筈なのに、外郭にある宇宙港と同じく、明らかに立地条件が差別されているのがひしひしと感じられるのは、俺の気のせいではあるまい。

 

「この環境です。まるで狙って下さいと誘っているかの如き条件です」

 

 運転手のサンメが言う。

 一直線に貫かれている四車線相当の道は、確かに立派ではある。

 が、如何にも無人の野へ高速道路を通しました的な、田舎に敷かれた殺風景な光景は何なのだろうか。

 間隔が開いて申し訳程度に設けられている街灯を見るだけで、夜間にここは殆ど暗闇に近くなるのは明らかであった。

 加えて周囲は草むらに覆われて、民家の一つも無い無人地帯だ。

 

「刺客が襲い放題な気がするな」 

「実際、襲われています」

 

 ルーペの言葉に、ベガ星から来たばかりの俺とイチメは「え?」と口に出してしまった。

 数ヶ月程前になるが、王宮での夜会の帰り道、夜半にルビーナ一行がここを通った際、草むらに隠れていた襲撃者が奇襲を掛けて来たらしい。

 

「無論、護衛車両も居ましたし、無抵抗ではやられませんでしたが、敵にはウードウ魔術団のゴーレムとレディ・ガンダルが含まれていたのです。

 やはり、その報告も届いていませんでしたか……」

 

 ため息を付くルーペ。

 敵の情報操作は周到の様だ。

 

「でも、そんな時に現れたのが……」

「黒いベルバランか?」

「流石、殿下。ご明察です」

 

 褒められたけど、今までの推測から当てずっぼうで言っただけである。

 ルーペ曰く、「やはり、こんな事だろうと思っていたよ」と黒いペルバラン本人は、この事態を予め予見していたかの様な口ぶりだったらしい。

 とにかく、黒いベルバランとエトワールが駆け付ける事により、敵の襲撃は失敗し、レディ・ガンダルは呪詛の言葉を吐いて撤退したと言う。

 こちらの被害も甚大だったが、ともあれ、ルビーナは助かった。

 

「この頃からです。本国との間に情報操作が行われているのを疑ったのは」

 

 襲撃を受けたのに本国の反応が淡泊すぎたのだ。

 その前の離宮に移される時も当然、お伺いを立てていたのだが「フリード星の指示に従い、外交的問題を起こさぬ様にせよ」と、その判断を是とする返信を受け、渋々承知した経緯があったのだが、襲撃の報告を送った後にも、「報告を受領した」とだけの返答があっただけで、まるで。現地の窮状を無視しているかの如き反応に、危機感を覚えたのだそうだ。

 

「普通、こんな重大な事件だったら、大王が黙っている筈ありませんから」

「まぁな」

 

 父上なら、ここぞとばかりに付け込んで不利な条件をフリード星に突き付け、利権やら賠償やらを奪いに来るに相違ない。

 俺だってそうするし、ブーチンならもっと過激だろう。

 

「直接、連絡員を送ったんだろう?」

「行方不明になりましたけどね」

 

 最初は正規の外交官が、市内の強盗事件に巻き込まれて重傷。

 次に駐在武官が、宇宙港から宇宙船に乗った後に行方不明となって蒸発。

 最後にルーぺ付きの見習い侍女が、途中で交通事故に遭遇して死亡。

 

「見習い侍女はルビーナ様の学友で、シャーマンでした」

「まさか、ヤマメか?!」

 

 数人の見習い侍女が護衛としてルビーナに付けられているが、ヤマメはズリルとヨナメの娘だ。

 

「いえ、シチメです。可哀想にシャーマンなので死体も残りませんでした」

「シチメが……」

 

 直接面会したのは水晶宮で一度切りだったが、子供のシャーマンと言う存在がかなり多いのに驚いた記憶がある。

 シャーマンと言えば、黒いスリングショットを着て忍者の様に立ち回る女戦士なのだが、この時はごく一般的な格好をした子供で、一様にストレートロングな髪型も意図的に変えられていた記憶がある。

 

「見習いとは言え、ルビーナ様付きとして選抜されたシャーマンです。暴走した車如きに黙って轢かれる訳はありません」

「意図的だな」

 

 ルーペは首を縦に振って「いざと言う時だったら、呪術の使用も許可しているのですから」と続ける。うん、確かに瞬間移動で跳躍すれば、轢殺される事はなかろう。

 

「で、業を煮やして侍女長自らが来たのか」

「非常事態ですからね。これで失敗したなら、テイル様に合わせる顔がありません」

 

 テイルは前任のベガ星総侍女長だが、既にこの世界には存在していない。

 ルーペをルビーや付きにした為に、現在のペガ星侍女長代理はハツメが兼任しているが、まだ書類の上ではルーペが総侍女長だ。ま、いずれ、具体的には二年後にハツメが侍女長へ就任するんだろうけどね。

 そして、ルビーナ本格的に惑星領主となり、ルーペはルビー星の侍女長となる。

 

『と言うか、そうさせて見せる』

 

 この困難を克服し、脅威を完全に取り除かなければ!

 俺がそう覚悟を固めた時、イチメの「あれが離宮」との声が耳朶を打った。

 顔を上げると、何も無い野っ原に重厚で壮大だが、どこか無機質なフリード様式の建造物が目に飛び込んで来た。

 

「でかいが、何と言うか……暖かみがない」

「ハリボテですよ。見た目だけはそれなりに見えますが」

 

 既に連絡が行っていたのか、俺達の車列はすんなりと敷地内へと入れた。

 ちらりと離宮の壁に目を走らせると、成る程、ルーペがハリボテと言っていたその意味が理解出来た。

 どう見ても素材が悪く、壁が薄い。

 民生品を流用しているから見た目は良いのだが、ちゃちな爆弾一つで穴が開きそうな防弾性に問題があるだろう。ここは内部に装甲板とかを仕込んで万全の防御を施すべきなのだ。

 

「急造で仕方ないって事情はあるとは思います。

 しかし、なら、改修工事も沙汰止みになっている理由が理解出来ません」

「反ヤーバン派の妨害工作だな」

 

 恐らく、黒幕は王妃とその取り巻き貴族どもだ。

 ヤーバン本国やベガ星連合軍からの抗議がないと見越して、こうした嫌がらせの様な工作をやっているに違いない。

 

 そうこうしている間、主席外交武官のリムジンを先頭に車列が車寄せに次々と入って行く。

 俺の車は侍女長のルーペが同乗している為に前方だが、〝ベガ王子〟と言う一番偉い人間はここに来ていないので、序列から行けば三番目になる。

 離宮から玄関に出迎えに出ているのは侍女が数人。

 無論、ルビーナが顔出していないのは、今回到着するのが臣下ばかりだからだ。

 

「殿下は大広間へ向かわず、真っ直ぐに姫様の私室へ」

「ん?」

「話は通してあります。サンメ、貴女は殿下を私室に案内しなさい」

 

 侍女長の提案にサンメは頷いたが、イチメが「私は?」と尋ねて来る。

 一緒に俺と同行する気だったのだろうが、ルーペの「貴女は私に付き添いなさい。第一、離宮の配置を知らぬイチメに案内は出来ません」と、ぴしゃりと拒絶される。

 

「では……」

 

 大広間で到着の報告を行う侍女長と付き添いのイチメを降ろして、俺を乗せたイオノクラフトが車寄せを回ると駐車場へと向かう。

 運転手のサンメは無言で、暫し車内へ沈黙が流れた。

 モータープールに到着すると彼女は外へ出て、ようやく「行きますよ」と口を開く。

 

「バックヤードか」

 

 ばんと後部ドアを閉めて、サンメの先導で近場のそっけない造りの通用門を潜り抜ける。

 厨房に繋がっているのか食材を積んだワゴンが目に付いて、ここが裏口であるのが実感出来る。

 

「私室はこちらです」

「何だ。これは?」

 

 それから表側に出て階段(侍女はエレベーター使用禁止)を上がった所で、歩く事、数分。

 私室として案内された部屋には、一年前のルビーナの部屋には絶対に存在せぬ物が、俺を迎えてくれたのだ。

 

 

〈続く〉  




約3,000文字。

離宮到着。
さて、ベガはルビーナの部屋で何を見たのでしょうか?
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