ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

16 / 173
このデュークは『宇宙円盤大戦争』版の王子様です。
「撃ち出せ、怒りのニードルシャワー」な、ささきいさお声の方ね。


16

 デューク・フリードは端整な顔立ちの青年だ。

 歳としては俺よりも三年程年上だった筈だが、落ち着きがあり、如何にも王族と言う風格を持っていた。

 

「この度は、反体制派のテロリストが君を傷付けてしまった。済まない」

 

 彼は頭を下げる。

 裸に青いトーガを纏ってるだけに見える服装で、やはり古代風の装いである。これはプライベートな私服であり、無論、後に礼装に着替えるのだろうけどね。

 ちなみに俺達はパレード直後の為に礼装だ。

 本当は病床に就かせる為に寝間着へ着替えさせたかったのだろうが、時間が無かったのかそのままである。

 

「いえ、それより賊はどうなりましたか?」

 

 かなり酷い有様だった。

 フリード軍は何故、あんな凶行に及んだのだろうか?

 

「制圧されたと聞いている。その際、賊は自爆して市民数十人を巻き込んだ模様だ」

「自爆?」

「ああ。幸い、ハークエの民だから被害は少ないが」

 

 奴は自爆なんかしたか?

 フリード軍の攻撃で討ち取られたんじゃ無かったのか。しかも、市民を巻き添えにするのも構わずの無差別攻撃で。

 

 俺は押し黙ってしまった。何かを問い返そうかと思ったのだが、テロンナ姉様が無言で俺を止める視線を送ってきたからである。

 何かある。だが、俺は話題を切り替えた。

 

「幸い、ぼくは無事でした。心配をおかけしました」

「ははっ、元気な妹さんだ」

「デューク。ベガは弟ですのよ」

 

 姉様の言葉に、デュークの目が見開かれる。

 うん、男の娘路線を取ったからには妹扱いはされるのは覚悟の上だよ。

 

「これは驚いた。ブーチン君とは違うのだな」

「ベガ姫と良く言われます。弟は蛮勇タイプの戦士ですから」

 

 ほぉ、デュークはブーチンに会った事があるのか。まぁ、当然だな。外交って奴は大切だと弟も自覚してるだろうから、同盟国の王子に対しも早めに手を打っているのだろう。

 

「ぼくは身体が弱いですからね。まぁ。化粧も肌の弱さから来る日差し対策ですから」

「ああ、成る程」

「格好も可憐にした方が良いとの提案を受けて、こんな感じになってます」

 

 お化粧に関しては本当。本来の目的は紫外線から身を守る為である。

 風呂とか運動とかする時には汗で落ちてしまうから拭い去るんだけど、白粉で体中をコーティングし、ついでに顔もほんのり薄化粧をしていたりもする。

 リップクリームも唇に塗って、ついでに紅を差したりするのも侍女達の仕業だ。

 

「弟君よりも好みだね。あ、男色とかその意味じゃ無い」

「まぁ、デュークったら」

 

 テロンナ姉様の突っ込みに、フリード星の青年は赤くなった。

 その後、俺達は世間話へと移る。

 現時点での宇宙の情勢とか、フリード星の王妃が懐妊している事(だから、今夜の歓迎会には出られぬらしい)や、新しい新技術の話とか、まぁ、色々だ。

 

「ヤーバン軍は苦戦中なのですか」

「ガイラー星域ではね」

「あらあら、この前、モルス星での勝利を聞いたばかりですのに…」

 

 宇宙を併合せんとするヤーバン軍は進撃を続けているが、無論、全てが順調とは行かない。

 科学力の劣った星相手が基本なのだが、時として科学の進んだ星とも戦端を開いてしまう事もある。このガイラー星もその一つで、敵はゲルモスとか言う、強力な要塞母艦を押し立てて抗戦しているらしい。

 はて。どっかで聞いた星の名だな。でも思い出せない。

 

「そう言えば、フリード星は新しい円盤兵器を作っているとの噂がありますが…」

 

 俺はさりげなく口に出した。

 無論、これは『ガッタイガー』の事である。

 フリード側は秘匿していたのだろうが、有能なヤーバンの諜報部はそれを突き止めていた。

 

「いや、聞いていないが」

「ベガ?」

 

 顔をしかめるデューク。

 そして咎める様に俺に問い質す姉上。

 

「ブーチンから、その手の話があったのですよ。姉上」

「まぁ」

「フリード星へ行くなら、丁度良いから聞き出して来いとね。

 あいつらしいと言うか、兄を兄とも思わぬ、目上視線で言ってきましたよ」

 

 この情報をくれたのは弟であり、俺は情報には感謝したが、内心不満で一杯であった。

 俺を軽んじている態度で、はらわたが煮えくりかえりそうになった。

 やはり、姉上には何も話さず、俺だけに通達してきたのは俺を脅して命令すれば素直に従う、パシリ的な下っ端だと認識してるのだろう。

 まぁ、以前の俺なら、大人しく弟の言う事を聞いていたかも知れない。

 が、今の俺は、単なる気弱な兄ではないぞ。表面上は今まで通りだけどな!

 

「で、どうなのですか?」

「……。歓迎会で何か発表があるかも知れないね」

 

 デューク・フリードはそう言うと、「失礼。そろそろぼくも支度をしなくてはならない時間だ」と言って、俺の部屋から退出し、姉上も続く。

 見ると、外はすっかり日が落ちている。

 

「テイル。準備を」

「はっ、殿下」

 

 こちらも歓迎の宴に出席する為には、支度が必要だろう。

 俺は現れた侍女に身を任せ、再化粧と新たな服装へと着替え始めた。

 

 

〈続く〉




ガイラー星。
ベガの耳に「響け、爆音。雲果つるまで♪」とか再生された気もするけど、空耳です。
同様に、もしかしたらガラダイン軍とか存在するかも?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。