ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは『ちっちゃな雪使いシュガー』から「グレタイズム」です。
いや、挿入歌なんだけど本編未使用なんだよね。劇伴にも同じ旋律のグレタ専用曲があってそれに歌詞を付けたバージョン。
高慢だけどどこか憎めないお嬢様、グレタ嬢の曲。歌い手はCVの西村ちなみさん。グレタの高笑いが冴え渡ります(笑)。

『雪使いシュガー』は主人公のサガよりも、グレタ目当てで見てましたね。主人公の自称ライバル。でも結局、空回りで酷い目に遭う賑やかし脇役なんだけど、悪役じゃ無い微妙なポジションに居て、特に最終回なんかいい人でほっこりします。
『クリィミーマミ』の綾瀬めぐみに相当するかな?
西村さんの演技も絶妙で、彼女の当てたキャラでも上位じゃないかと個人的に評価してます。『プリキュア』でもお嬢様をやってたけど、やっぱ違うんだよね。向こうは「おーっほほほっ!」と笑わんし(笑)。


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 名乗りを上げる黄色い騎士。

 デューク・フリードは「飛んで火に入る夏の虫だ」とか叫ぶが、黒いベルバランに「今は冬だぞ」と突っ込みを入れられ、顔を真っ赤にして「うるさい。うるさい」と地団駄を踏む。

 

「とにかく、僕の前に現れたのが運の尽きだ。今日こそ正体を暴いてやる!」

「王子、お下がり下さい」

 

 フリード王家の侍女長らしき女性が、主君を下がらせようとするが興奮したデュークは言う事を聞かない。

 ここらがまだ、年端も行かぬ子供である事の限界なのかも知れない。

 

「あれは?」

「デューク様付きの侍女長ですね。名は確か、コマリエ・ヴェグナー殿」

 

 そっと近付いて小声でルーペに確認する。

 以前には見た事の無い人物だったが、ここ数年の内に雇われたのだろうか。

 長身で線の細い女性である。やはりローブ状のメイド服を着ているが、俺を含めて基本スタイルが明色でかつ白とか紫の寒色系がスタンダードなメイドの服装と違い、目にも鮮やかな真っ赤というのが少々、異色だ。

 黄金色のブロンドが派手だ。

 

「王妃の勅命でデューク様付きになったと聞きますが……」

「それ以上の事は解らず仕舞いか」

 

 デューク・フリードは身を乗り出して「やれっ」と取り巻き達に命令するが、取り巻き達はフリード星の貴族階級で、当然、自分から動く様な奴らは皆無だ。

 何故なら、この様な肉体関係の仕事は卑しい物であると教育されており、取り巻き達は更に配下の取り巻き達に、その取り巻き達は市民階級の下男や下女に命令して、やっと動き出す。

 

「はははっ、鈍いぞ」

 

 その間に黒いベルバランは指揮系統の乱れに突け込んで、エトワール・プティットを囲んでいた連中を次々に殴り倒す。無論、プティットもそれに呼応して反撃を繰り出し、内と外から攻められた捕り方達は壊滅した。

 

「くそっ、役に立たない奴らだ」

「部下をそう罵るのは感心しないわよ」

 

 苦痛の呻きを挙げつつ、地に伏した連中の中に立つ、ベレー帽を被ったマスク女が指摘するが、それにルビーナが、一々、こくこくと頷くのが意外な光景だった。

 プティットの事を嫌ってはいるが、本質的には正しいと認めているのだ。

 

「さて、どうするね?」

 

 悠然と問う、胸に黒い薔薇を描いた黄色の騎士。

 市民階級の捕り方が全滅、と言っても叩きのめしただけで殺してはいないが、しまったので実質的にフリード星側の戦力はゼロになってしまった。

 勿論、この場にはベガ星の視察団や、デュークやルビーナの学友なんかもまだ居るが、ベガ星側はルビーナユ自分が襲われない限り、基本的に不干渉が鉄則だし、ベガ星の貴族達は恐慌を起こして、既に半分、逃げ出している。

  

「コマリエ、あれを出せ」

「しかし……王妃様の命がありません」

 

 その会話を聞いたベルバランの口元が歪んだ。

 

「ほう……遂に出すのか、コマリエ」

 

 だが、当のデューク付きの侍女長は首を振る。

 それは黒いベルバランの策に乗るものかと言った類いにも見える。プティットが「これであれが出れば、証拠が……」とかの呟きが耳に入る。

 俺はルーペの方を見て、目で『何の話だ?』と問うが、彼女は応えずにじっとデュークらを凝視している。

 

「だがっ」

「王妃様の申し付けは絶対です。あれは切り札で奴ら如きには使えません」

 

 そう言い放つと彼女はきっとベルバランを睨み、右手で騎士を指さしながら「今日はこの辺で勘弁してやる。とっとと去るが良かろう!」と傲然と言い放つ。

 いや、どう見たってフリード星側が劣勢なんだけどさ、これだけ強気に言って構わないのかよ。

 

「お前の立場で言える口かね」

「試してみるか。不埒な怪人よ」

 

 コマリエ・ヴェグナーは腰に下げているビームソードを取り出し、ぶぃんと刃を形成してそれを黒いベルバランの方に向ける。

 ほぅ、武道の心得があるのか。腕は分からないがその構えは正当だった。

 

「尻尾を見せないわね」

「まぁ、今回は君の先走りが原因のイレギュラーな遭遇だ。

 奴があれを使う状況まで追い込める場面では無いからな」

 

 プティットと言葉を交わした後、黒いベルバランは「では、君のお言葉に甘えるとしようコマリエ侍女長」と言った後、口笛を吹くと空の彼方から例のロボット・ホースが現れた。

 蹄を鳴らし、空を行く馬に黒いベルバランはプティットを抱えてひらりと飛び乗ると「アディオス」と気障な台詞を吐いて、馬首を巡らせる。

 デューク・フリードが癇癪を起こして、懐から出した拳銃を向けるけど、黒いペルバランは一顧だにしない。

 

「待てぇ」

 

 奴が待つ前に発砲するものの、ビームは馬が張ってあるらしい障壁に弾かれる。

 女達の挙げる黄色い歓声を浴びながら、黒いベルバランはそのまま去った。

 

「義父上……」

 

 ルビーナが近づいて来て小声で続けようとしたが、俺は「まぁ、ルビーナ様どうしたのですか」とわざと声を上げて。王女の前に跪いた。

 ルーペやサンメもそれを察して、回りに集まって周囲の視線を遮る壁となる。

 

「不快な光景を目にさせてしまい。申し訳ありません」

「いや、それは想定済みなんだけど……それよりも授業の方がショックだった」

 

 回りに壁が出来て小声だけど、自在に話せる状況が作られたので、俺はルビーナに顔を近づけて衝撃だった件を話し始めた。

 それは今から少し前、授業参観中の出来事だった。

 

 

〈続く〉 




約2,100文字。うん、二千文字縛りに近付いた。

新顔のコマリエさん。オリジナルキャラです。似た様な人をダイナミック系で捜したけど、居ないんだよね。
デュークが阿呆ですが、これは歪んだ教育のせい。あの端正な先代デュークも幼少の頃は、多分、こんな感じです。
これを矯正したテロンナは偉かった。

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