本当にハーピィが降りてきて、とかも一時考えましたが止めました(笑)。
きらびやかな会場だった。
基本は立食パーティ形式って奴だね。
着飾った紳士や婦人が談笑し、純白のクロスが敷かれたテーブルの上に並べられた料理や果物、菓子や酒類を思い思いに手に取るって奴だ。
人々の姿が古代風なので、ギリシャかローマ時代の宴会を彷彿させるね。
ほら、アルゴ探検隊(だったかな?)で、ご馳走食べてると空からハーピィが乱入して食い散らかす奴。
あんな光景そっくりだ。
「まぁ、デュークったら」
手に口を宛て上品そうに笑う姉上。お相手は婚約者のデューク・フリード。
どちらも楽しそうに会話が弾んでいる。
俺達は賓客なので上座にいたが、席に座らされたのは当初の紹介だけで、その後は立食だけあって自由に移動できるんだけど、フリード星のお偉いさん達に取り囲まれて、余り自由に行き来できないんだな。
うんざりする程の肉壁。
「殿下。我がフリード星は素晴らしいでしょう」
貴族の誰だか、何とか大公とか何とか公爵だか、侯爵だとかの肩書きを持った男達は、皆、デフォルトなのかでっふりと太ってやがる。
豚みたいな体型を揺らして、何度も同じ質問をしてくるんだよな。
俺は『馬鹿の一つ覚えか』と内心舌打ちしつつ、「ええ」と当たり障りのない口調でさらりと流す。勿論、営業スマイルで。
始めの方はちゃんと「そうですね。しかし、まだまだ不勉強でありまして、これから見聞を広めて行きたいと考えております」とか受け答えもしてたんだよ。
しかし、こうも判を押したみたいに「我がフリード文明は偉大ですので」や「ヤーバンは力に優れてますが繊細さが足りない。文化的におなりなさい」とか、どうも目上視線で、ヤーバン人を見下す言い方に辟易したんだよな。
女は女で、「まぁ、可愛らしい」とか「美しいですわ」みたいな俺の容姿ばっかりを褒めてくるが、それでも男共の会話に比べればまだマシだ。例え、髪の毛やら肌に触って来ようとも(が、頼むから触る前に了承を事前に取ってよね!)。
「あ、失礼」
俺は知り合いを発見し、それを口実にこの肉壁達からの離脱を図る。
ズリルが居た。こちらは誰とも会話していない。
「あ、殿下」
「歓迎の宴とあったが、一刻も早くとんずらしたい気分だ」
俺は補佐官に真情を吐露する。
ズリルは頷いたが、「それでもフリード王がお出ましになる前に席を立つのはいけませんぞ」と警告する。
「分かってるよ。しかし、やつらのこっちを見下す会話でストレスが溜まる」
「テロンナ姫様は、それを数年間我慢なさったのですぞ」
テロンナ姉様は両星の友好のシンボルとして、フリード王家へ幼い頃に留学を余儀なくされている。これにはデューク・フリードの婚約者として、早めにフリード星に慣れさせるとの思惑もあったのだろう。
父、ヤーバン大王の外交政策の一つだ。
しかし、表面的には出さないが、俺は姉様にこの手の虐めはあったと見ている。
この場で体験したフリード星人の鼻持ちならぬエリート臭さから、だ。
「姉上は強いな」
「ヤーバン王家の姫ですからな。恐らくデューク・フリード殿下の力添えもありましょうが」
「しかし、フリード星人って、何でこんなに威張ってるんだ?」
確かに星間文明国としてのレベルは高い。
が、宇宙全体から見れば絶対的な勢力とはとても言えないのだ。ヤーバンの持つ国力から見れば、フリード星の力は数%程度の微々たる物でしか無い。
「彼らはフリード星こそが、近隣の星間文明の祖だと信じているからです」
「詳しいのか。ズリル?」
「ヨナメに習いましたからな」
ズリルによると、彼らの優越感はそこにあるらしい。
ヤーバン星、ルビー星、そしてベガ星(は最近付け加えられたが)等は、全てフリード星から移住した人々が打ち立てた星々で、彼らの宗主国はフリード星なのだと。
「そもヤーバンと言うのは、特権階級を差すフリードの古語、ヤンバーンから来ている。とか言い出す始末です。だから、最近のヤーバンの軍功も自分の手柄であると思ってるのでしょうな」
「妄想と現実のギャップに対する、自尊心の発露かよ。やってられんな」
うんざりする顔の俺にズリルも苦笑する。
「そう言えば、ぼくを襲ったテロリストに関してだが…」
「調査はしております。どうも反体制派らしいですな」
俺はデュークが先程語った話をズリルに知らせる。
ズリルは「ああ、やはりそうでしたか。ハークエの民ですから仕方ないとは…」と沈痛な面持ちで呟いた。
「ハークエ?」
「農奴と訳すべきでしょうか。いわゆる下層階級です」
「そんなのが、フリード星にあったのか」
不勉強だけど、俺のフリード星に関する知識は多くは無い。
大抵が『グレンダイザー』辺りのアニメ知識と、ベガに融合した時に彼が持っていた知識でしかない。ベガがこれに関して知らないと言う事は、彼も余りフリード星に関心を持っていなかったと言う事か。
そこまで会話した時、銅鑼がデーン、デーンと打ち鳴らされた。
遂にフリード王のお出ましである。
〈続く〉
フリード星の闇が広がります。
テロンナ姫は実はフリード星で、学友や召使いから結構な虐めに遭ってます。
無視されたりとか、馬鹿にされたりとか、物を隠されたやら陰険なそれを色々とね。
ドレスを無残に破かれたり、犬猫小鳥みたいなペットを殺されたり、靴に画鋲とかもあったのかも知れません。
フリード星人から見れば「成金の田舎者が、自分達の王子を親のコネで奪い、姫様面して留学に来ている」感覚だったんでしょう。
でも、それを乗り越えてきたのが凄いとベガは尊敬してます。