ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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ベガの名(迷)台詞が遂に出ました。
いや、スパロボの方だけどさ(笑)。


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 これは何だ?

 俺は思考停止してしまっていた。

 目の前で繰り広げられる光景が、余りにも現実離れをしていた為である。

 

「ほーほほほっ、使えぬじじいを射的の的にするのは楽しいのぉ。

 これから頭に当たったら100点、胴体は50点、手足は20点、胸は200点でゲームをするのじゃ」

「流石、キラー男爵様。我々も参加出来るので?」

「構わぬわ。人数が多く居た方が盛り上がるからのぉ」

 

 手足を鎖で拘束され、十字架に縛り付けられた老人を前に、フリード星の貴族、例によって豚の様に太っている。とその取り巻き共が旧式の拳銃を手にしている。

 老人との距離は距離は50mと言った所か。

 拳銃の実用有効射程距離からすると、ギリギリと言った距離だ。

 奴らは人間相手に、射的ゲームを行おうとしているのだ。

 

「何なのだ、こいつらは…?」

 

 俺は奥歯をぎりっと噛む。

 思わず物陰から飛び出そうとする俺の肩を取り押さえたのは、ヨナメ。

 首を振りながら、「今は見ているしかありません」と悔しげな口調で告げる。

 

 キラーとか言う豚は、「ほっほっほっ」と気色悪い笑いを漏らしながら、旧式の火薬銃、地球で言う前裝式のラッパ銃みたいな奴をぶっ放す。

 轟音と白煙。

 最初の一発は外れた様子で、「おや、命拾いをしたようじゃのう」とか言いつつ、台座の上にあった予備銃を手に取ると、事も無げに第二射を加える。

 その弾丸は頭部を貫き、老人は一発で頭を吹き飛ばされた。 

 

「ゲーム気分で民を撃ち殺すなど、いくらヤーバンでもここまではやらんぞ!」

 

 時は少し遡る。

 俺がお忍びでフリード星を見学したいと希望したのは、昨晩であった。

 ヨナメやズリルの言葉が半ば信じられないからであり、虚飾に彩られた偽りのフリード星ではなく、その実態を己の目で確かめたいからであった。

 

 一応、俺は全権大使であるテロンナ姉様にも相談する。

 姉様は当然反対するが、俺の意志が固い事を知って「では、ブラッキーを護衛に付けましょう」との条件で、ようやく納得してくれた。

 その上で、無謀な行動を起こさない事。

 我々はあくまで部外者であり、彼の地の政策に干渉せぬ事などの指示を受ける。

 

 俺達の行動はフリード側に気が付かれぬ様に隠密行動である。

 人数は目立たぬ様に、俺とテイル、ヨナメとブラッキーのたった四名だ。

 表向きは侍女達が観光目的の自由行動と言う話で、フリード側に外出申請はしてある。だから俺はテイルやヨナメと同じく侍女姿をしていた。

 

 ズリルはお留守番で、俺不在の理由付けに奔走してくれている。

 俺はあれから急に具合が悪くなり、寝台で寝込んでいる設定になっている。だから、見舞いの訪問客なんかを追い払うのも、補佐官である彼の役目となる。

 お忍びはズリルも心配はしたが、ヨナメの力を信用して任せたみたいである。また「身分的には外交官ですから、外交官特権が使えますからな。危機に陥ったら思い出して下さい」とアドバイスもくれた。

 

 こうして今朝、街に繰り出した俺達。

 フリード星首都の市街地は近代的に理想都市その物で、平和な光景が広がっている。

 わぁわぁ歓声を上げて子供が遊んでいたり、公園では恋人同士が「あははー、捕まえてごらんなさーい」的な追いかけっこをやっていたりする。

 

「とても下層民が迫害を受けている様には見えないな」

「殿下。此処はまだ自由民の居住区。問題はこの先です」

 

 ヨナメが告げる。

 俺達は目立たない地味な一般車に乗って市街地を移動していたのだが、やがて前方に壁が見えてきた。高さは数メートル。壁の上の方には物騒な有刺鉄線が張られ、緑色をした碍子が目立つ。

 ブラッキーが「あれは高圧電流が流れていますな」と指摘する。

 

「この先は、外国人立ち入り禁止のハークエ専用エリアです」

 

 壁に沿って走りながらヨナメが説明する。所々、門みたいな場所があるが、何処にも兵士がビームガンを構えて歩哨しており警戒厳重だ。

 フリード星人は通用門から出入りしている模様だが、俺達の車がそこへ行っても通してはくれないだろう。

 

「では、どうするんだ?」

「お任せ下さい。ブラッキー様、そこを右に曲がって下さい」

 

 ブラッキーは無言でハンドルを回し、車は細い路地へと曲がる。

 暫く進むと道は行き止まりになる。周りは無人の商業施設、恐らく倉庫群だろうが立ち並ぶ殺風景な場所に到着し、浮遊していた車体が地面へと降下する。

 ヨナメは「暫くお待ちを」と言い残して車外へ出ると、口に指を当てて「ピィィィ」と鋭い口笛を発した。

 変化は唐突に現れた。

 建物の影から、信じられぬ体術で二人の人影が現れたのだ。

 

「ヨナメ様」

「ヨナメ様。何時お戻りに」

 

 二階建ての建物を軽々と跳躍し、飛び跳ねる様に現れたのは女の子達だ。

 オレンジ色の髪を姫カットで揃え、露出度の高い黒い水着みたいな服装を身に纏って、頭と腕に水色のサークレットとアームレットを付けている。

 

「これが我が配下のシャーマンです。殿下」

 

 振り返ったヨナメはそれを告げた。

 

 

〈続く〉




キラー男爵。
元ネタはガイゾックのあいつです。
「いくらワシでも、ここまではやらんぞ!」の台詞は、スパロボでベガ大王が呟いた物らしいです。残念ながら自分は未プレイなんですけどね。
これを知った時、「いい人じゃん、恐星大王ベガ」と思ったのが、この話を書く間接的なきっかけになりました。悪人なんだけど、ガイゾックのあいつたいな狂人じゃないからね。

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