ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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シャーマンの名前は「〇〇メ」が命名法則らしい。


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「君の言っていた部族か?」

 

 ヨナメは頷いて女の子達に俺に挨拶する様に伝える。

 

「ヨナメ様直属のシャーマン、ヨツメと申します」

「同じくカナメです。お見知りおきを」

 

 膝を着いて礼を取る女の子。

 どちらも顔や雰囲気が異様に似ており、姉妹かと思える程にそっくりだ。

 

「我が部族、シャーマン族の分隊長格です。一族の下では私が使える数少ない直属であります」

「ほぅ、士気や忠節の点では問題ないのだな?」

 

 突っ込みを入れたのはブラッキーだ。

 彼はヨナメの様な部外者の存在を余り快く思っていない。

 今回のお忍びに対してだって「他星の間者を信用してはなりませんぞ」と再三進言した程だ。

 ヨナメは「信用に値する部下達です。族長に通じている者は居りません」と断言するが、彼はふんと鼻を鳴らした。

 

「ブラッキー、控えよ」

「しかし、殿下。は……分かりました」

 

 俺の一言で彼は押し黙った。

 しかし、不信感は拭い去られぬ様だ。

 

「君も危ない橋を渡っているんだね」

「ある意味、殿下に味方するのは裏切りですからね。さて、こちらへ」

 

 彼女とシャーマンが案内したのは倉庫の一角であった。

 車を乗り入れると壁面に大型のエレベーターがあった。

 サイズ的にこの車どころか、大型のトレーラーでも搭載可能な代物であるが、年代物であるらしく、あちこちが古色蒼然とした雰囲気に包まれている。

 

「都市建設当時の工事用エレベーターです」

「古そうだね」

 

 俺の問いにカナメだったかな。が説明する。

 

「およそ何千年前の代物ですが、メンテは行われており管理は万全です」

 

 話では、人々の記憶からはとうに忘れ去られている物だと言う。

 古くから諜報を司るシャーマン族が管理しており、秘密の通路として使用しているとの事である。此処をくぐって、ハークエ地区へと潜入するのだとシャーマンが説明した。 

 

「で、正直に聞く。ヨナメが今使える手勢はどの程度だ?」

 

 車がエレベーターに搭載され、下降し始めた時に俺は問う。

 彼女が口に出す前に、俺は「偽りは許さない。部族の事も正直に話せ。ぼくの支援を受け、ぼくの配下としてこれから行動するつもりならば」と言い放つ。

 ヨナメは驚きの顔をしていたが、「はっ、殿下」と情報を語り出した。

 

 それによると、シャーマン族の多くはハークエに属する階級で、昔から諜報専門の女系部族としてフリード星の汚い裏方仕事、暗殺や謀略などに関わっているそうだ。

 総勢で数千人規模だが、ヨナメが直接指揮出来る人数は百名程度に過ぎないらしい。

 族長はフシメと言い、この女はフリード星の貴族として収まっているそうだ。

 故に特権を物にしており、ヨナメ達部下の事を省みる事はまずあるまいと、反体制派のシャーマン達は結論付けている。

 

「族長は完全にフリード体制派の人間なのか」

「はい。だから、我々は族長抜きで反乱の機会を窺っておりました」

「部族の切り崩しは可能か?

 いや、もしぼくの配下になるのなら、それを完遂して貰わねば困る」

 

 俺は強い口調でそれを述べた。

 前にも言ったが、これは部族の過半数を味方に付けなければリスクが高すぎるからだ。

 ヨナメは「幾つかの部族の支族を丸ごと離脱させるのは可能です。しかし……。受け入れ先がありません」と悔しげに報告した。ほほぅ、これは良い事を聞いた。

 

「それで離脱可能な人数は?」

「潜在的な反体制派は、およそシャーマンの半分程度です」

 

 そこまで言った時、エレベーターが終点に到着した様だ。

 下降が停止すると、外に立っていたシャーマン達が素早く扉の外へ移動して行く。

 ドアが開くととんでもない風景が目に入ってきた。

 

「こいつはスラム街か?」

 

 ブラッキーの呆れた声。

 目の前に広がる光景は、どう見ても都市の残骸に見えるスラムだった。

 活気はある。生きた人々が暮らしている。

 洗濯物が満艦飾で翻ったり、人々が行き交っている。

 ドヤ街だ。

 元々は立派な建設がされて、高度な生活が保障された都市だったのだろう。だが、今は建てられた高層ビル群の外壁は剥がれ、構造体が丸出しの無残な残骸を晒し続ける廃墟だ。

 例えるなら、かつての香港にあった九竜城である。

 何処かから拾ってきた廃材で、ごちゃごちゃと無秩序に増築を繰り返しているらしい光景は、もし地震災害にでも遭ったら、安全は保障出来ないのは間違いない。

 

「人工天体ですね。もっとも、上手く作動しているとは到底言えませんが」

 

 テイルの言う通り、地下なのに空が広がっている。

 これは天井のパネルに人工的に空を映し出し、人為的な空を再現しているのだ。

 だが、空は所々黒く抜けている。その部分が老朽化か何かで作動しておらず、残ったパネルも時折、電圧が下がった電球の様に煩い電磁音を立てながら、ゆらゆらと明暗を繰り返す。

 

「此処はまだマシな地区で、更に下はもっと環境の悪い地獄です」

 

 ヨナメは無表情に説明すると「さぁ、参りましょう」と俺達を案内する。

 シャーマン達が前後を護衛する中、俺達の車はゆっくりと動き出した。

 

 

〈続く〉




ヨナメ達。
『ゴッドマジンガー』繋がりです。勿論、登場するヨナメは『ゴッドマジンガー』に登場した本人ではなく、代々、継承されて来た『ヨナメ』の名を継ぐ後継者です。
継承者?
ええ、あの作品があった時代は、遙か昔の過去ですからね。

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