いかんなぁ。
ミケーネ帝国のお話は桜多吾作氏の漫画版準拠です。
この漫画版『グレンダイザー』では、ミケーネVSベガ星連合軍みたいな話もあったりしますが、今後、彼らが登場するのかは未定。
エレベーターのあった建物は、元々立体駐車場みたいな物だったらしい。
スロープを伝って地上へと降りると、汚く、雑然としている道の左右は露店が並んでいた。
それなりに活気はあり、人々の姿は多い。
露店と言っても、地べたに直接、野菜やら缶詰なんか並べているだけで、品数も少なく、商品も鮮度の点で怪しそうだ。
「此処は市場です。日用生活雑貨を扱ってます」
「人々の姿が貧相ね」
テイルの指摘に俺も同じ感想を持った。
貫頭衣みたいな格好だらけで、凝った服を着ている奴なんか一人も見当たらない。
日本で言うなら古墳時代の服装だ。幾ら、フリード星が古代文化を継承してるからって、ここまで酷いのはないんじゃないかと思いたいぞ。
ギリシャやローマ市民のトーガやキトンも簡素だけど、此処の住人の服はそれより数段みすぼらしい。ベルトの代わりに荒縄を巻いてるし。
「パレードで沿道に居た奴らは、数段まともな格好をしていたけど」
「殿下。あれはあらかじめ命令され、服を与えられて演技する為に集められた連中に過ぎません。そりゃ、まともな格好をしないと変ですからね」
沿道を埋めた市民はその為に演技するサクラであったらしい。
フリード星では自由民はデスクワークが尊ばれ、ああ言った身体を動かす様な労働は卑しい身分の者の仕事とされるのだ。
無論、彼らは徴集され、動員されるが、それでも参加すれば食糧配給などの余録があるので、いつも募集が殺到するそうである。
ちなみに服は借り物だから、返却せねばならないらしい。
テイルが「せこっ」と呟いたのが、車内に乾いた笑いを誘った。
「衣料面では、我らシャーマンはハークエの中でも優遇されている方です」
「あの黒い水着か。男としては嬉しいけどな」
スリングショットみたいな、あれが彼女らのユニフォームなのか?
「殿下、市場を抜けたようですな」
途中で割って入った運転手役のブラッキーの言葉に、俺は外に目を向けた。
高層ビル街を抜けて、平坦な地形が広がっている。
元々は公園か何かの施設だったのだろうけど、今は畝がずっと続いている。
何かの畑だ。
畑の傍らにこんもりした小山が幾つも築かれ、ハークエの民が天秤棒を担いで盛んに行き来していた。
「屎尿を利用した堆肥だな」
「ほほぅ、殿下はご存じで?」
「何かの資料で読んだ覚えがある。古代のやり方だよ」
ブラッキーは俺の博学さに感心するが、日本で見たとは言えないからなぁ。
しかし、何で堆肥なんだ。
フリード星程の科学力を持ってるなら、化学肥料なり何なりも簡単に利用出来る筈じゃないか?
しかも、こんな人力を用いたやり方で……。
「基本、ハークエの民には文化的な物は何一つ渡されないのです」
「え」
「そう、機械と言う機械は自由民の物。創意工夫で自作する以外、道具もです」
ヨナメの説明にある作品が思い浮かぶ。
「ミケーネ帝国並みのやり口かよ」
ミケーネ帝国は『グレートマジンガー』の敵国家の名だ。
一説ではかの国は軍事だけに特化した結果、戦争に関する技術は〝戦闘獣〟と呼ばれる巨大サイボーグを作るまでの超科学を有したのだが、反面、人々の生活水準は数万年間、古代から一歩も進歩しなかったと言う。
ここは土器と石器が基本のミケーネの生活レベルよりは、遙かにマシだが、ここまで科学が発展している世界から見れば、五十歩百歩のレベルだろう。
「ミケーネ? その国は聞いた事がありませんが…」
「いや、ブラッキー。歴史上の国家だよ。気にするな」
「本当に王子は博学ですなぁ」
彼の言葉を受け流しつつ、俺は『ミケーネ帝国もこの世界に存在するのだろうか?』と思う。
が、今は考えても仕方が無い。
俺は「首都以外の地も似た様な物なのか?」とヨナメに尋ねる。
「首都フリーデンはこうした人工環境ですが、各地方の領地は自然環境の下に置かれております」
「上空から見たが、それらしき都市はなかったぞ」
ヨナメは首を振り、「はい、都市と呼べる物は存在しません」と告げた。
首都以外はあちこちに小さな集落が点在するだけで、人口数千戸に達する物は存在しないのだそうだ。
俺は絶句した。
聞けば交通網も整備されておらず、街道なんかは皆無。鉄道みたいな大量交通機関も存在しない。何故なら徴税の為には円盤を用いるから、そんな余計な物は必要ないからだ。
ハークエの民が集まり、余計な力を持たせぬ為に各集落はワザと孤立させてあるのだそうだ。
『開発されていなかったんじゃなくて、開拓すらなされてなかったのか!』
盲点だった。緑豊かな筈である。惑星環境を快適な物にするための努力は、首都フリーデンだけで行われてきたのだから、他の地域が大自然のままなのは当然だったのだ。
「おや、前方で何やら行われてるようですね。殿下」
テイルの声ではっと現実に引き戻される。
前方に人だかりが出来ていた。
車が走る速度に負けず(!)、前方を飛び跳ねながら追随していた人間離れした二人のシャーマンが、こちらへと取って返してきた。たんっと屋根の上に飛び乗る。
「ヨナメ様。前方で処刑が行われるそうです」
「処刑だと?」
「余興だそうです」
カナメかヨツメだかは判断が付かないが、屋根の上に張り付いたまま報告する。
俺は手を挙げて車を停止させた。
「ぼくはこれを見る必要があると思う。テイル、ブラッキー、そしてヨナメ」
各人の顔を見回して俺は宣言した。
テイルは頷き。ブラッキーは顔をしかめたが、やれやれと諦め顔になって率先して外へ降りる。
ヨナメは無表情だったが、「かなり酷い現実を見ますが、構わないのですね。殿下」と問い返して来た。俺は答えなかったが、決意を読み取ったのか配下に命令する。
「生命に代えても殿下を守れ」
「「ははっ」」
〈続く〉
フリード星の首都名はオリジナルです。
ハークエ地区はみすぼらしく、美観に沿わないので地下に隔離しています。
首都はあくまで美しく、下賤な民が居てはならないからです。
元々はハークエ地区も自由民の居住区でしたが、老朽化が進んだので人工的に蓋をしてハークエ専用として転用されてます。
首都にはこうした地下施設が、何世代にも重なって存在している模様です。