ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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赤いチャンチャンコは永井豪の短編『霧の扉』から。
これも、ダイナミック系クロスオーバーになるのかな?

なお、地球の史実では近世に入るまで欧州では処刑は民衆の娯楽でした。
見せしめって面もあるけど、それよりも着飾ってわざわざ罪人が「どんな死に様をするのか」を見物に行くんです。群衆で処刑広場はお祭り騒ぎになります。
時代や背景によるモラルや感覚が違いって大きいですね。


24

 車から降りた俺に、テイルが防塵マスクを被せてくれる。

 呼吸器系が弱い俺の為に用意された濾過装置付きだ。同時に口元も隠してくれるから、身元を隠すにも持って来いかも知れない。

 

「さて、行こう」

 

 人だかりの向こうは有刺鉄線の金網。

 ハークエの民はこれ以上進めない様子だし、金網の向こうには番兵みたいに手に棍棒を持った男共が居る。

 

「殿下、我々は目立ちすぎますな」

 

 ブラッキーが小声で囁く。

 うん、分かってるよ。周りの大衆に比べて俺達の服装が立派すぎるんだ。

 単なる侍女服と軍服なんだけど、鼠色や褐色みたいな貫頭衣だらけの中では、我々は否応なく目立ってしまうのだ。

 それ以上に目立つ筈のスリングショットなお姉さん二人は、既に姿をくらましている。間諜だけあってここらは慣れた物なのかと感心する。

 

「こちらへ回りましょう」

 

 ヨナメが提案する。

 有刺鉄線の向こうは庭になっており、その後ろに屋敷がある。

 ハークエ地区で初めて見る、まともな建物だ。

 どうやら屋敷側に周り、その内部へ侵入して様子見をする算段らしい。

 

「大丈夫なのか?」

「ここで目立つよりはマシです。カナメとヨツメに任せましょう」

 

 屋敷の正面へと回る。

 こちらにも何人かの用心棒らしき者達が居たのだが、俺達が到着した時には二人のシャーマンが全て片付けた後だった。

 

「殺したのか?」

「気絶させただけです」

 

 シャーマンが答える。その脇で「手際が良いな」とブラッキーが感心していた。

 ヨナメが「こちらです」と手招きする。

 シャーマン達が先導し、玄関を突破して俺達は奥へ進んだ。

 先の方で「うっ」とか「おごっ」とくぐもった声が聞こえ、使用人らしき人々が倒れているのも、シャーマン達の仕業だろう。

 

「やけに手慣れているな」

「この屋敷内部は調査済みです」

「そっちじゃないんだけど、まぁ、いいか」

 

 後に聞いたのだが、この屋敷は貴族の持ち物だそうだが、当然ながら本館ではなく、視察用に設置された物であるらしい。

 ヨナメ達シャーマンは事前にこの手の建物を下調べしてあり、その情報が役に立ったとの事である。普段は無人で警備ロボだけが常駐する。

 

「ロボットが居る方が手強いですから助かります」

「同時稼働していないのかい?」

「敵味方判断能力が低いのですよ。だから人が来た時は待機モードです」

 

 ヨナメの説明にぞっとなる。

 

「つまり、相手が人間だと判断すると、見境無く襲って来るのか。恐ろしいな」

 

 まして「ちなみに武装はレーザーガンです」と説明されれば、怖さは百倍位に跳ね上がった。

 スタンガンとかテイザーじゃないのかよ。完璧に人員抹殺用じゃないか。

 認識ビーコンを身に付けた貴族様には発砲しないらしいが、それ以外には無差別に攻撃を繰り返す、マーダラーマシーン(虐殺機械)なのである。

 

「殿下。ここから見えます」

 

 先導のシャーマンがこちらを振り返り、先に確保していた席を譲った。

 俺は「ありがとう、ええと…」と名を思い出そうとするが出て来ない。

 だって雰囲気と容姿がそっくりなんだ。

 ヨナメは似ているけどはっきりと雰囲気が違うから分かるが、彼女らは見分けが付かない。

 

「ヨツメです」

「ああ、御免、名を失念して」

 

 その途端、そのシャーマンは驚きの表情を見せ、「そんな。あたしみたいなエータに…」と絶句してしまったのだ。

 訝る俺に「感謝の意を表されるのに当惑してしまったのです」と、ヨナメが説明する。

 とととっ、とカナメが駆け寄ると「名誉だよ」と同僚の脇を小突く。

 そんなに凄い事したか、俺?

 

「始まるようですよ」

 

 テイルの声に俺ははっと我に返ると、物陰から前方を覗いた。

 着飾った豚の様な大男。

 古代風のトーガ、ローマの元老院議員が来てる様な奴に身を包んだこいつが、この屋敷の主人なのだろう。

 その前には台が置かれ、銃が数丁並んでいる。

 

「やはり、旧式銃は良いのぉ。火薬の匂いがたまらぬわ。にょほほほほっ」

「左様ですな。おおっ、的の方も用意が出来たようですぞ」

 

 部下らしい男が指摘する様に、貧相な老人が連行されて十字架に縛り付けられる。

 

「齢60。もう働く必要はのうなったのじゃ、感謝せよ」

「キラー男爵様の慈悲、受け取るが良い」

 

 そんな身勝手な事を言う男共の言葉に老人は何も答えない。

 既に諦めの境地に達してしまっているのか。しかし、外に居る群衆の中から「おじいちゃん!」との若い娘の言葉にもびくりと身を震わせる。

 

「おや、男爵。身内のようですぞ」

「これは良いのぉ。娘の声に死にたくないとの気持ちが甦ったのか。

 この前の廃エータは赤いチャンチャンコを着せて燃やしたが、感情も見せずに燃えるだけで余り面白くはなかったからのぉ」

 

 男爵と呼ばれた豚が、嫌らしい笑みを浮かべる。

 豚は「まだあの娘は働ける。お前の様な廃エータと違ってのぉ」と残念がるが、「しかし、殺さなくとも別の楽しみもある。にょほほほ、まだ生娘なら楽しみ倍増じゃわい」と呟いた。

 

 そして、俺は目にする。

 あの豚が人間射的を楽しむ場面に。

 

 

〈続く〉




と言う訳で、ようやく話は21話の冒頭に繋がりました。

赤いチャンチャンコは、60歳のお祝いに着せられて火達磨にされてしまいます。
ガソリンがたっぷり染み込んでいて、真っ赤に燃え上がります。
「フリード星にチャンチャンコ?」と疑問に思った貴方、これは何か似た衣装の事を意訳してるとでも思って下さい。

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