これも、ダイナミック系クロスオーバーになるのかな?
なお、地球の史実では近世に入るまで欧州では処刑は民衆の娯楽でした。
見せしめって面もあるけど、それよりも着飾ってわざわざ罪人が「どんな死に様をするのか」を見物に行くんです。群衆で処刑広場はお祭り騒ぎになります。
時代や背景によるモラルや感覚が違いって大きいですね。
車から降りた俺に、テイルが防塵マスクを被せてくれる。
呼吸器系が弱い俺の為に用意された濾過装置付きだ。同時に口元も隠してくれるから、身元を隠すにも持って来いかも知れない。
「さて、行こう」
人だかりの向こうは有刺鉄線の金網。
ハークエの民はこれ以上進めない様子だし、金網の向こうには番兵みたいに手に棍棒を持った男共が居る。
「殿下、我々は目立ちすぎますな」
ブラッキーが小声で囁く。
うん、分かってるよ。周りの大衆に比べて俺達の服装が立派すぎるんだ。
単なる侍女服と軍服なんだけど、鼠色や褐色みたいな貫頭衣だらけの中では、我々は否応なく目立ってしまうのだ。
それ以上に目立つ筈のスリングショットなお姉さん二人は、既に姿をくらましている。間諜だけあってここらは慣れた物なのかと感心する。
「こちらへ回りましょう」
ヨナメが提案する。
有刺鉄線の向こうは庭になっており、その後ろに屋敷がある。
ハークエ地区で初めて見る、まともな建物だ。
どうやら屋敷側に周り、その内部へ侵入して様子見をする算段らしい。
「大丈夫なのか?」
「ここで目立つよりはマシです。カナメとヨツメに任せましょう」
屋敷の正面へと回る。
こちらにも何人かの用心棒らしき者達が居たのだが、俺達が到着した時には二人のシャーマンが全て片付けた後だった。
「殺したのか?」
「気絶させただけです」
シャーマンが答える。その脇で「手際が良いな」とブラッキーが感心していた。
ヨナメが「こちらです」と手招きする。
シャーマン達が先導し、玄関を突破して俺達は奥へ進んだ。
先の方で「うっ」とか「おごっ」とくぐもった声が聞こえ、使用人らしき人々が倒れているのも、シャーマン達の仕業だろう。
「やけに手慣れているな」
「この屋敷内部は調査済みです」
「そっちじゃないんだけど、まぁ、いいか」
後に聞いたのだが、この屋敷は貴族の持ち物だそうだが、当然ながら本館ではなく、視察用に設置された物であるらしい。
ヨナメ達シャーマンは事前にこの手の建物を下調べしてあり、その情報が役に立ったとの事である。普段は無人で警備ロボだけが常駐する。
「ロボットが居る方が手強いですから助かります」
「同時稼働していないのかい?」
「敵味方判断能力が低いのですよ。だから人が来た時は待機モードです」
ヨナメの説明にぞっとなる。
「つまり、相手が人間だと判断すると、見境無く襲って来るのか。恐ろしいな」
まして「ちなみに武装はレーザーガンです」と説明されれば、怖さは百倍位に跳ね上がった。
スタンガンとかテイザーじゃないのかよ。完璧に人員抹殺用じゃないか。
認識ビーコンを身に付けた貴族様には発砲しないらしいが、それ以外には無差別に攻撃を繰り返す、マーダラーマシーン(虐殺機械)なのである。
「殿下。ここから見えます」
先導のシャーマンがこちらを振り返り、先に確保していた席を譲った。
俺は「ありがとう、ええと…」と名を思い出そうとするが出て来ない。
だって雰囲気と容姿がそっくりなんだ。
ヨナメは似ているけどはっきりと雰囲気が違うから分かるが、彼女らは見分けが付かない。
「ヨツメです」
「ああ、御免、名を失念して」
その途端、そのシャーマンは驚きの表情を見せ、「そんな。あたしみたいなエータに…」と絶句してしまったのだ。
訝る俺に「感謝の意を表されるのに当惑してしまったのです」と、ヨナメが説明する。
とととっ、とカナメが駆け寄ると「名誉だよ」と同僚の脇を小突く。
そんなに凄い事したか、俺?
「始まるようですよ」
テイルの声に俺ははっと我に返ると、物陰から前方を覗いた。
着飾った豚の様な大男。
古代風のトーガ、ローマの元老院議員が来てる様な奴に身を包んだこいつが、この屋敷の主人なのだろう。
その前には台が置かれ、銃が数丁並んでいる。
「やはり、旧式銃は良いのぉ。火薬の匂いがたまらぬわ。にょほほほほっ」
「左様ですな。おおっ、的の方も用意が出来たようですぞ」
部下らしい男が指摘する様に、貧相な老人が連行されて十字架に縛り付けられる。
「齢60。もう働く必要はのうなったのじゃ、感謝せよ」
「キラー男爵様の慈悲、受け取るが良い」
そんな身勝手な事を言う男共の言葉に老人は何も答えない。
既に諦めの境地に達してしまっているのか。しかし、外に居る群衆の中から「おじいちゃん!」との若い娘の言葉にもびくりと身を震わせる。
「おや、男爵。身内のようですぞ」
「これは良いのぉ。娘の声に死にたくないとの気持ちが甦ったのか。
この前の廃エータは赤いチャンチャンコを着せて燃やしたが、感情も見せずに燃えるだけで余り面白くはなかったからのぉ」
男爵と呼ばれた豚が、嫌らしい笑みを浮かべる。
豚は「まだあの娘は働ける。お前の様な廃エータと違ってのぉ」と残念がるが、「しかし、殺さなくとも別の楽しみもある。にょほほほ、まだ生娘なら楽しみ倍増じゃわい」と呟いた。
そして、俺は目にする。
あの豚が人間射的を楽しむ場面に。
〈続く〉
と言う訳で、ようやく話は21話の冒頭に繋がりました。
赤いチャンチャンコは、60歳のお祝いに着せられて火達磨にされてしまいます。
ガソリンがたっぷり染み込んでいて、真っ赤に燃え上がります。
「フリード星にチャンチャンコ?」と疑問に思った貴方、これは何か似た衣装の事を意訳してるとでも思って下さい。