やぁ、いせいのひとかい?
ああ、そんちょうがこまっているらしいわよ。
だれかつよいひとが、ハツメをほごしてくれないとたいへんだわぁ。
ハツメを助けますか?
YES/NO
とかの場面ですね(笑)。
なお、ハツメは漢字にすると「初女」、カナメは「叶女」、トドメは「留女」になります。ヨナメは原作出身なので、どんな字を当てるのかは不明。「夜那女」?
同じく、原作出のフシメは「不死女」だと判明してます。亡きヨツメは「一女」(イチメ)から「十女」(トオメ)まで続く数字シリーズの一人「四女」。原作のミツメ「三女」さんが元ネタ。
ブラッキーによると、そろそろ犯人捜しが開始されていてもおかしくない。
ぼくらはエトランゼだ。目立つ格好故に目撃情報も多く、通報されている可能性は高いだろう。
「シャーマン村は一種の治外法権があります」
助け船を出したのはトドメであった。
間諜や暗殺者として利用するに当たって、与えられた権利であるらしい。
貴族間の抗争にも利用されるので、藪を突いて蛇を出さぬ為の物であり、官憲でも踏み込むのはタブーであると言う。
そして諜報活動や暗殺に携わるには当然なのであるが、シャーマン族のエータにはエータに刷り込まれる禁忌、すなわち〝人間を畏れ、敬い、従い、これに反しない限りは自己を防衛する〟と言う三原則が、最初からインプットされていないのも理由だ。
「普通のエータと違って手痛い反撃がありますからね」
「貴族は自分が傷付くのを恐れるか。
しかし、手下のハークを動員すれば自分の手を汚さずに殲滅可能なのではないか?」
「ブラッキー殿。それは余りにも近視眼的な見方です」
実際にそれを実行した貴族は居た。
だがその村を滅ぼしても、他のシャーマンからの報復は苛烈な物であった。
仮に誰の差し金か判らぬ様に偽装されているとしても、シャーマン族は首謀者を探し出し、そして復讐を遂げた。
その貴族の一門は一人残らず悲惨な目に遭い、その血筋は絶えた。
「以来、シャーマン村に直接手出しをする者は皆無です。ただ……」
「む?」
例外として、シャーマン族の族長に話を通すという方法がある。
こうすればシャーマン全体を敵に回す事は無い。
「それが行われる可能性は?」
俺は口を挟んだ。
トドメは首を振って「交渉次第でしょうか」と言う。
「我らに干渉するのならそれなりの報酬が要ります。物理的な品物や金銭。利権関係や政治的な脅迫などの目に見えない物。いずれも高い代価になりますが」
キラー男爵家が出せる額なのかは微妙と言う所だ。
しかし、のんびりもしていられないのは確かであるとヨナメは忠告する。
族長派の手の者がこちらへ派遣されるかも知れぬからだ。
「知らぬ、存ぜぬで通すつもりではありますが、物理的な証拠としてハツメが居るのが問題になるでしょう」
「私も証拠になりますからね」
ついでに加わったのはヨナメ。
本来、ベガ星に赴いている彼女が帰還しているのは不味いのである。
そもそも、カリスマ性があり、シャーマン族の半数を味方に付けているヨナメが辺境のベガ星へと飛ばされたのは、族長フシメが取った厄介払いに近い措置であった。
フリード星は半分、鎖国している様な体制なので(そも、二世紀前のヤーバンの来訪は幕末の黒船騒動に近い)、一旦、外に出てしまえば帰国は極めては難しいからだ。
年に訪れる十数隻の異星船を監視すれば、出入りは防げるので密航も難しい。
だからこそ、彼女がヤーバン王家の船に乗って密航するというのは絶妙なタイミングであった訳だ。
「まさか、私が殿下の随員になってるとは思わなかったでしょう」
「フリード星の立場ではクインバーンを臨検する事は出来ないからな。千載一遇のチャンスだったんだ」
「あの……あたしはどうしたら…」
第三者の声。それは今まで傍観者であったハツメ。シャーマン族の少女だった。
トドメはハツメの頭に手を伸ばすと、その頭髪を撫でる。
「殿下。ヨナメと共にハツメをベガ星へと連れて行ってはくれませんか」
「ハツメを?」
「伏してお願い致します」
トドメは床に座ると平伏する。
ブラッキーは「殿下……」と口にしたが言葉を発せず、ただ「なりませんぞ」と言う様に首を横に振る。
彼からすれば、連れ歩くリスクを負いたくないのであろう。
さて、どうする?
「分かった。ついでにカナメも引き取ろう」
「殿下!」
「有難うございます。このトドメ、殿下の決断に感謝致します」
軽率だと非難するブラッキーに、俺は「もう此処まで来れば、毒食らえば皿までだよ」と不敵に笑うが、なおも「姫様との約束を破った上に、また厄介事を…ああ、姫様に怒られる」とぶつぶつ文句を呟いている。
俺は「姉様には、ぼくの方から取りなすよ」と、頭を抱える武官に言う。
まぁ、奴に気苦労をかけてるのは確かだしね。
カナメの方は意外だったらしく、ぽかんと口を開けていたが、ややあって「え、えっ、私もですか?」と急に我に返って焦りだした。
「証拠という点では君も含まれるからね」
「しかし殿下。私はエータですから、個体を識別するのは困難な筈で…」
まぁ、クローンみたいな量産型だから、ぱっと見では誰なのか判りずらいよなぁ。
とその時、ヨナメが発言する。
「お受けなさい。殿下が、証拠隠滅の為に消えろと命令なされる事も可能だったのだぞ」
ああ、フリード星では自決しろとの強要もあるんだな。
でも『おいおい、俺はそんな人非人かよ』と突っ込む間もなく、「はっ、ヨナメ様」との返事をカナメが返す。
一方、ハツメの方はと見れば、トドメに抱擁されていた。
親子の様に育ったと言っていたからな。やはり、感慨深い物があるのであろう。
「殿下。今すぐに出発する必要があります」
やがて抱擁を終えた村の長はそう語った。
え、急ぎすぎじゃないかと思ったのだが、早ければ早いほうが良いらしい。
ヨナメも頷き、「族長派が転移して来るからです」と理由を述べる。
「そんな凄い力がシャーマンにあるのか」
いや、テレポートの存在は分かるけど、〝獅子帝〟みたいな伝説の超人でも無い限り、そんなに長距離は飛べない筈なんだよね。
「呪術使いなら、半日もあれば星中をくまなく回れるのです」
聞くと駅伝式に各地のシャーマンがネットワークを築いてるらしい。
転移したシャーマンは、伝言(通信文だったり別の記録媒体だったりする)を次のシャーマンに渡し、そいつが後を継いで転移する。
それを繰り返す事で十数キロの短距離しか(これでも大した能力なんだけど、世の中には恒星間を跳べる奴も居るんだよ)テレポート出来なくとも、短時間で惑星中をカバーする連絡網が形成されるらしいのだ。
俺達は慌ただしく、村を出発する羽目になった。
地下へ!
〈続く〉
シャーマンの通信網は、昔懐かしい『トラベラー』のXボートネットワークを参考にしています。
良く考えたら、ああ、これって腕木通信が元ネタなんだね。拙作『エロエロンナ物語』で登場してるけどさ。
ちなみにテレポート要員は、途中で偽情報を流されぬ様にと全て族長派です。
この場合、族長の代理として審問官も兼ねていると思われます。