ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回はデュークとテロンナの会話劇です。
ベガの出番は殆ど無し。
身を潜めて盗み聞きしてるんだから当然なんですけど、主人公の立つ瀬無いな(笑)。

バーミヤンの石仏ですが、最大なのは全高55mもあるんです。マジンガーZ(全高18m)はおろか、MAのサイコガンダム(全高40m)よりも遙かに大きい。
平均でも全高30mクラスがゴロゴロしてますしね。


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「それは知っている。だが…」

 

 デューク・フリードは苦悩した様な表情で「君はヤーバン大王の娘だ」と告げる。

 首を振りつつ、天を仰ぐ。

 

「この政略結婚に反対する者は多いんだ」

「でも、フリード星はそれを退けられない。ですわね」

 

 テロンナ姉様の言葉に王子は押し黙る。

 

「軍の強硬派の中には、君を殺してしまえとの過激な論者が居る」

「あの暗殺事件は、やっぱり……」

「僕にも確証は無いが、そう見ている」

 

 彼は「ガッタイガー。あれが出来たからヤーバン軍に対抗可能だと舞い上がっている連中も居る」と忌々しげに呟いた。

 

「点では強いでしょうね。私は軍事は苦手なのですが、ヤーバンの王女だけあって、それなりの軍事教育は受けていますから」

「ああ……。うちの国の軍人は理解していないんだ」

 

 姉様の指摘にフリード星の王子は苦悩に沈む。

 戦術的に強くたって、それが戦略的に強いかと言えばそうとは限らない。

 強い兵器は量産してこそ価値がある。

 しかし、量産出来ない兵器は無価値だ。敵がその兵器の居る場所に攻めて来ないって選択肢を選べば、それはつまり遊兵と化すと言う事だからだ。

 

「確かにガッタイガーは強力な兵器だと思いますから、それを自慢したいのも、それが自信となってしまってるのも判りますわ」

 

 姉様はそう肯定したが、その後に「でも……」と続ける。

 婚約者の正面を見詰め、「ガッタイガーは一機。全ての戦線でガッタイガーは登場しない」と。

 

「その通りだ。遺失技術をサルベージした機体だからな」

 

 真っ直ぐに、姉上の視線を受け止めたデューク・フリード。

 

「同じ物を複製出来るかと言うならば、否だ」

「戦いになればヤーバン軍はガッタイガーを足留めする阻止部隊でそれを拘束し、その間に別働隊でフリード星を攻めて、蹂躙するでしょう」 

 

 そう、戦いとなったらヤーバン軍の戦略目標はフリード星の制圧なのだ。

 スポーツみたいにガッタイガーを打ち負かす事じゃない。

 勝負に勝って、試合に負けてもスポーツだったら負けた当事者は「健闘した」と称えられるだろう。しかし、戦争ではそうは行かない。どんなに糊塗しても、当事者は敗者に過ぎないんだ。

 

「戦争とは決闘ではありません。

 卑怯と罵られようが、勝つ為なら何でもする。それが戦争の味方犠牲者を最大限に少なくする為であるなら尚更です。点で強くても、一機は一機。所詮、面は守れないのですよ。それは軍事に疎い私でも判ります」

「うちの軍人共はそれを理解しないんだよ」

 

 デューク・フリードは怒りを表すかの様に、ばんっと右の拳を左手の掌に叩き付けた。

 

「テロンナ、君みたいな、たおやかな女性でも判る事なのに!」

 

 古代から面々と続く、ヤーバン流の考えだった。

 敵が強いなら弱点を突け。真っ正面からやり合うな。敵が強いんだったらその経戦能力を絶ってしまえ。

 例えば、食料を絶ってしまえば、如何なる戦士だって空腹で戦えまい。とかだ。

 フリード星と言う根拠地を失ったら、幾ら強力な兵器でも、最終的に降伏せざる得ないからだ。

 

「貴方の星では、戦いとは一対一の決闘が至上であるとの思想がありますからね」

「一万年。外に出なかった結果がそれだ。戦いと言っても自分より弱い者を蹂躙するだけで、ヤーバン以外の強敵と戦わなかったツケだ」

 

 俺はこの言葉に『もしかしてフリード星の軍人って、中世の騎士物語か、鎌倉時代の武士みたいな思想しか持ってないのか』と思ってしまった。

 元寇で侍が「やぁやぁ、我こそは」と間抜けに名乗りを上げた挙げ句、元軍の〝てつはう〟に吹き飛ばされるコメディみたいな末路を辿るあれだ。

 

 現代の軍隊とは合理主義の塊で、如何に自分が有利な状況を作り出すのが仕事である。

 浪漫主義の奴なら例外だけど、敵が「さぁ、勝負しろ」と誘ったとしても、馬鹿正直に正面決戦に応じてくれる軍隊なんかは普通は居ないし、仮にストリートファイターが戦闘機に、いや戦車でも良いけど「卑怯者。そんな乗り物から降りて、正々堂々俺と殴りあえ!」とほざいても、応じる兵は一兵もおるまい。

 

「でも、本当に暗殺までやらかすなんて…」

「君は純血族ではない」

 

 彼は言う。純血族?

 

「そして調査しても証拠は出て来ないよ。だが、僕はそれを成す人物に心当たりはある」

 

 彼は「証拠隠滅にフリード軍まで動かせる者なんて、余程の実力者以外は考えられない」と言い、更に「王族の誰かだ」とも推測を述べた。

 

「現実主義者の父上は除外するにしても、母上か、それとも…」

「まさか……」

 

 流石に絶句する姉上。

 俺だってビックリだ。それをしてフリード星に何の得がある?

 

「母や親族は星を背負ってる当事者じゃ無い。目先の事しか見えていない。

 自分達の成そうとする行動で、その先、フリード星がどんな危機に陥るか、それを予想もしないし、邪魔者を排除すれば、全て上手く行くとしか考えない」

「私を害したら、父、いえ、大王が黙ってはいませんよ」

 

 その通り、ヤーバン軍に侵攻の口実を与えるだけじゃないか。

 父の大王や、弟のブーチンだったら躊躇わずそれをやるぞ!

 

「だからこそのガッタイガーだよ。これが抑止力になると、軍人は本気で思ってるし、

 戦争になってもその圧倒的な力で、小癪な蛮族、ヤーバン軍なんか蹴散らせると考えている」

 

 彼は言い捨てると、神殿の奥にある巨大な神像を見上げた。

 腰に剣を下げ、黄金色に輝いた鎧を纏った武者みたいな形をしている。

 

「母や貴族達は、僕が君の、ヤーバン女の思想に染まるのを快く思っていないからね」

 

 もしかして、王妃が、デュークの母が俺達の歓迎の宴に出席しなかった理由って……。

 あの妊娠は口実で、姉上と顔も合わせたくないからか?

 

「ハークの民に関する事ですね?」

 

 デュークは「ああ」と呟いて、像の下に座り込んだ。

 しかし、石造のくせにでかいな。昔、タリバンに爆破されたバーミヤンの石仏並にありそうだ。

 

「ヤーバン女が語る『ハークを解放し、人間扱いする政策』はとんでもない。とね」

 

 

〈続く〉  




テロンナ姫は帝王学や軍事学を教育されてます。多分、軍事の教師はブラッキーでしょう。
実際、軍事大国の王女ですから、軍事的な才能は持っています。
軍事に対して疎い素人だと述べてますが、実は歴代のヤーバン王家に時たま現れる、文武兼ね備えた『武姫』と呼ばれる王女(大抵は、一人で戦況をひっくり返せる鬼の様に強いエスパー)には及ばないと、謙遜してるだけだったりします(笑)。


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