ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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黄金の武神像。
石像だけど、金箔でも張り付けてあるんだと思います。
銅像だけど日本の大仏も、建設当初は金ぴかだったとか、今はすっかり箔が取れてシックな佇まいにおなりになってますけどね。


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「僕は君の考えを受けて狂ってしまったのかも知れない」

 

 自嘲気味に呟くフリード星の王子。

 

「ハークの民に差別的な事をするのはいけない。とか」

「当たり前です。彼らも人間なのですよ」

「忌むべき民だ!」

 

 デュークが叫んだ。

 そして立ち上がると、神殿にある黄金像をまっすぐ見詰める。

 

「彼らは過去に過ちを犯した。我々が使役する事で、先祖の悪行を贖罪する機会を与えられているのだから」

「一万年前の話ですよ」

「罪は消えない。彼らドラゴニア人が我々の祖先、ムーやアトランティスに行った悪事は、未来永劫、消える事は無いのだ」

 

 つかつかと黄金像に近付き、王子は像に語りかける様な調子で「そうだろう、偉大なる魔神の勇士ヤーマーよ!」と絶叫する。

 姉様が近寄り、後ろからデュークをその腕に抱く。

 

「過去の、惑星テーラの歴史は習いました。

 でも、過去は過去です。今は、新しい歴史を作り出す必要があると思いますわ」

「魔神が許してくれるだろうか……」

「あれは石の像に過ぎませんよ」

 

 しかし、デュークはその言葉にかぶりを振った。

 

「違う。石像から悪神…魔神が甦るのだ。ムーはテーラでその為に滅んだ」

 

 恐怖。それが遠くから見ている俺の目にも判る。

 悪神を魔神と言い直していたな。

 それにムーとドラゴニア?

 何処かで聞いた単語だ。俺はヨナメの顔を見てはっと思い出す。

 もしや、これはあの『魔神』の事なのか! 

 

「デューク。貴方と結婚して、私はフリード星の制度を変えたいのです」

 

 彼は怯えた様に、姉上の身体を引き剥がす。

 乱暴に突き飛ばされたヤーバンの王女が、冷たい石畳に尻餅をついた。

 

「恐い。恐いんだ。テロンナ。

 君を愛している。幼い頃から。だけど王子としてこの国の制度を変えるのを僕は恐れている!」

 

 そう言い捨てて、デューク・フリードは姉様の前から遁走した。

 彼の発した「うわぁぁぁぁ」と悲鳴に近い絶叫だけが、広大な神殿にエコーとして残る。

 

 俺はヨナメに目で合図すると、柱の陰から姿を現した。

 何はともあれ、まずは姉上を助け起こすのが先だ。

 

「姉上」

「ベガ、見ていたのですか?」

 

 俺は無言で近付くと姉へと手を差し出した。

 それを手に取って姉は身を起こし、ぱんぱんと服に付いた埃を払う。

 

「盗み見の様になって申し訳ありません」

 

 頭を下げるが姉は俺の方を見ない。

 怒っているんだろうと思う。

 そのままま縦ロールな髪の毛を整えていたが、不意に「デュークから、結婚が半年後に行われるとの話が伝えられました」と告げる。

 

「おめでとうございます」

「ありがとう。ベガ付きの侍女ね?」

 

 儀礼的に祝福の言葉を述べるヨナメへ、姉が問う。

 

「はい」

「シャーマン族みたいだけど、これはどんな事情なのかしら?」

 

 その言葉はヨナメだけでは無く、俺に対しての物であった。

 

「呪術を使って変装しなかったのは失敗でしたね」

「流石に侍女の身分でサークレットは付けられませんから」

 

 その返答に俺も納得する。あの蛇頭はかなり目立つしね。

 

「それにしても他星の者に見破られるとは思いませんでした」

「伊達にフリード星で育ったのではありませんよ。それに……」

 

 姉曰く「シャーマン族は目の虹彩が独特だから、見慣れている者には直ぐに判る」との話であった。姉上はフリード星の滞在歴が長いだけはあり、その正体を一発で見破ったのである。

 

「河岸を変えましょう。ベガ」

 

 王女が俺に提案し、巨大な黄金像の方を一瞥する。

 

「魔神に聞かれている気がして、ここでは心が安まりません」

 

              ◆       ◆       ◆

 

 姉上の居室。さっき玄関先まで行った部屋である。

 ブラッキーが出迎えてくれたが、姉は彼に下がる様に命令し、部屋には俺と姉だけが残る事になる。

 俺は視察の件を姉上に報告し、ついでにヨナメの件も告げた。

 姉は俺を外交での悪手だと非難した。

 内政干渉な上に犯罪であると。

 

「はい」

「エータの事を知らなかったのは失点ですね。彼らは道具です」

「しかしっ!」

 

 姉はそれを制すると「道具なのです」と敢えて強い調子で、俺に言い含めた。

 しかし、それは本心では無かろう。悲しい目をしている。

 

「心情的には理解出来ます。でも、将来、フリード星の王妃になる者の立場としては、彼らが擬似生命体であり、フリード星人にとって家畜であるとの認識を貫かねばなりません」

 

 統治者としての政治的な配慮である。と姉は断言した。

 幾ら王妃、星一番の女として最高の地位に就いたとて、下からの支持基盤を失ったら、その立場は砂上の楼閣として崩れるのみだからだ。

 だから、個人的な思惑には目を瞑り、嫌であっても自由民に迎合しなくてはならない。

 

「私はエータの製造過程を見学した事があります」

「姉上が?」

「ええ。この星の最高機密であった場所です」

 

 姉が将来のフリード王族になるからこそ、許されたのだろうの推測を話す。

 

「産み出されたばかりのエータは、感情の無い完璧な生きた人形でした」

「え、でも、ぼくが目にしたエータは…」

「シャーマン族のそれは特殊なので、参考にはなりませんよ」

「違います」

 

 俺は否定した。

 豚に射殺された廃エータは、明らかに感情や、自分の意志を持っていたからだ。

 

 

〈続く〉




『ゴッドマジンガー』とのクロスオーバーが増えて参りました。
ハークの民はドラゴニア人が先祖です。
で、アトランティス。ムーが出てきたなら、アトランティスだろうって話で…。
え、レムリア?
それをやったら、話が『ビクトリーV』のクロスオーバーへ行っちゃうからパス(笑)。

邪神官が化石獣を作る、「い~のち、さーずーけーよ~」の儀式とかは、やってみたかったんだけど、まぁ、これは別の機会で。

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