ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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黒幕は機械の国に潜んでいます。
異世界からの勇者は、召還後に魔神の力を欲するムー人によってあの時代に残留させられてしまいました。
ちなみに勇者の妹は、王女の力で帰還出来たみたいです。


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 惑星テーラは伝説の星。

 フリード星人でも貴族の一部以外には知られていない、隠された歴史である。

 今のフリードと言う名は、都市宇宙船フリーデンの固有名詞から取られた物であり、かつて、フリード星の民は自分達をムー人と呼び、その名の通り、ムーと名付けた大陸で繁栄を極めていたそうだ。

 

「地球の話みたいだ…」

「地球? ああ、探査隊の報告にあった銀河系の?」

 

 姉の反応に俺は驚いたが、「いえ、何でもありません」と返事をして先を促す。

 地球ってヤーバンの先遣偵察隊が到達していたのか。

 帰ってから調べる必要があるな。

 

「ムーの民はやはり宇宙からの移民だったそうです。テーラに到着後は土着化しましたが、そんな時、現地の住民が、その統治に反発して立ち上がったのです」

「それがドラゴニアですか?」

「あら、デュークとの会話から察したのね。ええ」

 

 ドラゴニアは忌むべき民であった。

 彼らは原住民であったが、それは純粋な惑星の住人では無かったからだ。

 

「彼ら自身はそうは思ってなかったでしょう。しかし、ムーの民は彼らの正体に気が付いてしまいました」

 

 姉は嘆息すると「彼らの背後に存在した黒幕は、人類では無かったのです」と言った。

 その黒幕の手先として、現地に居住していた類人猿に手が加えられ、ムーの民とも混血出来る様に改造された遺伝子改造生物。それがドラゴニア人の正体だったのだ。

 

「黒幕とは、そんな科学力を持つ相手だったのですか?」

「実態は分かりません。大古の記録が少ないので……」

 

 姉によると、テーラ時代の記録を辿るのはかなり難しい事であるらしい。

 フリード星人自身が隠したい黒歴史であり、表に出ている情報が極めて少ないからである。

 ヤーバン王族である立場を利用して、王家に伝わる極秘文書などに触れたからこそ、此処までの事実を知る事が出来たのだが、それでも隠された未知の部分は多い。

 

「例えばテーラに移住する前、ムーの民はどこから来たのかの記録は全く不明なの。ゼイルだかゼイラって名だけは、かろうじて伝えられてるけど」

「それは置いておいて、黒幕とは?」

「ムー人の訪れる数万年前、テーラで栄えていた種族。本当の意味での先住民ね」

 

 ドラゴニアが使っていた兵器。ドラゴニアの旗印である絶滅した竜(ドラゴン)の様な巨獣を再現し、提供したのも彼らの仕業であった。

 黒幕は地中深くから(マグマの中から!)、決して姿を現さずにドラゴニア人達を尖兵として操りながら、異星から来た勢力を排除せんと暗躍した。決して自らは表へ出る事は無く。

 

「一説では、彼らは竜族であったとも言われているわ」

「竜族って、トカゲ(爬虫類)ですか……」

「彗星衝突か何かの天変地異の影響で、彼らは地表から去ったと推測されているけど、本格的な地上侵攻はアトランティスの介入で沙汰止みになったらしいわね」

 

 おいおい、確かに『ゴッドマジンガー』のドラゴニアは失われた恐竜を甦らせてたけどさ、姉の話を聞く限り、その黒幕は『ゲッターロボ』の恐竜帝国っぽいぞ。

 でも、アトランティスってのは何だろう?

 一般知識としてはムー、レムリアと並んで大古にあった幻の大陸としてはメジャーな存在であるのは知ってるけどね。

 まさか、惑星オネアミスの奴らじゃ無いだろうな?

 

「アトランティスに関してはムーの同盟国だったらしいわね。

 彼らも宇宙から来た民であったらしく、その関係でムーと共同戦線を張っていたけど、その矛先は地底の黒幕との戦いに終始していて、ドラゴニア戦には不介入だったらしいわ」

「ハークの民を支配下に置いたのだから、当然、ムーは勝利を得たのでしょう? 

 では何故、テーラから離れる事態に陥ったんでしょうか?」

 

 本当にアトランティス人も異星人だった。

 それは後々尋ねるとして、俺は姉に疑問をぶつける。

 もし、戦いに勝ったなら、惑星テーラを離れる必要なんか無いからである。

 

「魔神が怒りを見せた」

「え?」

「古文書ではそうあるわ。どんな意味なのかは解らないけど」

 

 王女はそう言ってベランダに続く窓を開ける。

 そのままベランダに出ると、遠くに望む大神殿に視線を向け、「あの黄金像。あれが甦ってドラゴニアはおろか、ムーまで滅ぼした。そう言う言い伝えがあるのよ」と呟く。

 

「嘘みたいな話よね。石像が甦って災厄を起こすなんて」

 

 調べてもそれが何を意味するのか、姉上には分からなかったらしい。

 ただ、伝承では魔神が怒りを見せ、敵も味方も構わずに何一つ残さず滅ぼし尽くした。と記録されているらしい。異世界より召喚した勇者の反逆だとも、神の怒りに触れ、魔神が暴走したのだとも、諸説があってはきりとはしない。

 

 多分、と姉は「魔神と言うのは、あの神殿にある様な石像ではなく、大古技術で作られた巨大な戦闘ロボットではないのか」との推測を述べる。

 

「にしても、異世界から勇者を……」

 

 でも転生もあるのだから、召喚だって否定は出来ないかも知れない。

 

「何処の三文小説のお話かと、最初は眉に唾を付けたわよ」

 

 ただ言える事は、今のフリード星人にも繋がる身勝手な理由で、異世界から都合も聞かずに召喚され、「我々の為に働くのだ」と強要された勇者は、最終的には叛旗を翻したらしい。

 

「勇者はヤーマーとかヒーノとか、ヤマートとか、色々名が残ってるけど、自分を繋ぎ止めていた親しい王女や友の剣士達が次々と亡くなると、次第にムーの身勝手さに愛想が尽きたらしいのよ」

 

 とにかくムー大陸は魔神の大暴れで沈没し、残ったムーの民はアトランティスから供与された都市宇宙船、フリーデンの内へ逃れて、長い宇宙の旅へ出た。

 現地に土着化し、一旦は文明退行で技術を失っていたムーに対し、アトランティスはまだその科学文明を保持していたのである。

 だから、今、フリード星で使われている古代技術はアトランティスの物だと言える。

 

 問題はフリーデンが超光速船ではなかった為、十数代世代交代しながら長い年月を過ごさねばならなかったのと、世代交代毎に、アトランティスのテクノロジーに関する物が遺失技術になってしまった事である。

 

「そして数千年前、艱難辛苦の末に辿り着いたのが…」

「この星ですか」

「嘘みたいな話だけどね。でも、私が調べた範囲内ではそんな歴史があったのよ」

 

 

〈続く〉 




『ゴッドマジンガー』の暴走は漫画版準拠です。
勇者ヤーマーこと、火野ヤマト君ですが生き延びていると思われます。多分。

なお、同様にムーもドラゴニアもこれで全て滅びた訳では無く、都市宇宙船で逃げた勢力の他に残党も生き残っていたりします。
まぁ、当面は今更どうでもな裏設定なんですが(笑)。

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