ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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ミニフォーもデスバテーターも、サイズ的には戦略爆撃機並みの大型機です。
あのB29並みの大きさと言ったら、ビックリする方も多いと思います。
あれを軽々と機動させるんだから、ベガ星の科学力って恐ろしいですね。


飛躍編
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 見事な曲芸飛行を見せる緑色の円盤。

 それはミニフォー。俺がズリルに命じて制作させた戦闘用円盤だ。

 強力なベガトロン砲を機体上部に旋回式に載せ、長く伸びたスタピライザーはカブトガニの様に……。

 

「見事にデスバテーターだな」

 

 俺が設計に口を出したのが間違いだったのか、それは白色彗星帝国の艦上攻撃機みたいなスタイルに変貌していた。

 いや、後ろに付かれたら防御火器が無いと困るって理由で、上に回転速射砲塔を載せろと提案したんだけどさ、ズリルの奴が俺の書いた下手くそな概念図に感心して、本当に実用化しちゃったんだよ。

 流石に側面と後ろにしか撃てない英国の某戦闘機と違い、ちゃんと前を含む全周射界だから隙は無いし、オプションだけど外装式にパイロンも設けてミサイルとか爆弾も積める様にしてあるぞ。

 

「如何ですかな?」

「模擬空戦を見る限りは文句は無いね。良い仕上がりだ」

「もっと良いエンジンを搭載出来れば、まだまだ強くなりますぞ」

 

 ズリルは鼻高々だ。

 軍用の高スペックエンジンならもっと高性能なのは分かっていたが、俺は敢えて民生用のエンジンを採用する事を求めた。

 つまり、WW2の連合軍戦車がバス用のエンジンを搭載したのと同じ理由だね。今は廉価版の推進器を四基付けてあるが、これは勿論、機体価格を抑える為と整備のし易さからである。

 大量に流通している民生品を採用する事で、どんな田舎であろうが、故障しても直ぐ部品が間に合う様な体制を作る為だ。

 

「今はこれでいいと思う。量産体制には入ったのかい」

「月産、30機で製作に入っております」

 

 試験を終えたミニフォーが降下して来る。

 月産30。悪くないが姉上が嫁ぐまでにはもっと揃えたいな。

 母艦であるマザーバーンを含めて。

 

 あのフリード星訪問から一ヶ月が過ぎていた。

 俺は水晶宮へ戻り、様々な内政をしつつ、軍備強化に走った。

 弟の動向が気に掛かったからである。

 あいつを黙らせるのには口よりも実力であり、今のベガ、つまり俺では鼻であしらわれる程の力しか持っていないからである。

 ルビー星譲渡に関して、不満があるとの情報も入って来ている。 

 

「予算が出たのは朗報だけど、マザーバーンの起工は遅れそうだね」

「先月の事故は痛かったですな」

 

 造船所で火事が発生し、そのあおりを受けて建造中の船体が燃えたのだ。

 しかし、本当に事故かと俺は疑っている。

 弟の破壊工作である可能性もあったからだが、これを調べるのは表向きの仕事では無く、諜報関係者の調査次第になるだろう。

 とにかく工事の進捗は遅れてしまい、姉の結婚式に新造艦で駆け付けると言う目論見はガラガラと崩れてしまった。

 まぁ、初期段階だったから損害は軽いのが幸いだったよ。

 機関や電子装備とかの高価な設備がいっぺんにパーになるよりゃも遙かにマシだからね。

 

「ズリル閣下、試験飛行は成功です」

 

 コクピットからパイロットが降りて報告する。

 ヘルメットを脱ぐと橙色の髪の毛がパサッと広がった。青い瞳に独特の虹彩が目に付く。

 

「イツメだったな。感触はどうか?」

「宇宙空間に比べるとやや重いですね。でも、問題ありません」

 

 報告するパイロットはシャーマン族である。

 あの水着スタイルでこそないが、透明素材をふんだんに使い、あれに準じた露出度の高いスペーススーツを着ている。伝統なのだそうだ。

 ベガ軍の宇宙戦士としても採用してくれとのヨナメの要請に応えた物だが、飲み込みが早いのか短期間でパイロットの適性を見せた。

 本来、ミニフォーは無人機として運用する予定だったのだが、補助用の有人コクピットを用いての試験が進められている。

 彼女らの協力でAIの動作パターンがどんどん高度化しているのが分かったからだ。このまま行けば、シャーマン族の操縦技能をインプットした凄い無人機が出来そうな予感すらある。

 

「大気が利用出来るなら、大気圏内用に方向舵や昇降舵なんかも備えれば……」

「ふむ、AG(アンチグラビティ)に比べればどうでも良いと考えていたが、それだけ機動性が上がるか」

「エアブレーキも欲しいですね。急減速に有効そうです」

「成る程、参考になる。そうだな……」

 

 ズリルとイツメが会話する中、俺はその場を離れる。

 専門家の会話に介入するのはいけないし、テイルが迎えに来たからだ。

 練兵場に居られるのは僅かな時間である。一応、俺はこれでも予定が詰まっているのだ。

 

「殿下。ガンダル様がお待ちです」

「鉱山関係か。それともルビー星の事かい?」

 

 急かされて車に乗った後、俺は質問する。

 テイルは「両方です」と答えると乱暴に急発進をさせる。

 勿論、俺の専用車の他に護衛の車両が前後に付く。サイレンとかを鳴らして一般車両を尻目に、ノンストップで水晶宮へと突っ走って行く。

 

「税制がどうとか言っていましたね」

「ああ、あれか」

 

 今後、共に俺の領地となる筈の両星に付いてだ。

 水晶宮に到着すると、俺は執務室へ直行する。

 

「殿下。何を考えているのですか?」

 

 開口一番。ガンダルが口に泡を飛ばしながら詰問する。

 俺は「税制の事なら、告げた通りだが?」としれっと答える。新たに就任するに当たって、税率を下げる様に指示したのである。  

 

「就任記念の期間限定だと思いましたが、これは……」

「ルビー星はともかく、ベガ星の方は期間限定じゃないのが気に入らないか?」

 

 ガンダルは「就任祝いで税を一定下げるのは珍しい事ではありませんが、限定では無く、それを継続するというのは聞いた事がありませんぞ」と続ける。

 

「ベガ星の方の法人税やらを優遇するのに問題はあるか?」

「ルビー星に不公平感が広がります」

「それが狙いだよ」

 

 税とは惑星から政府が得る収入だ。

 当然、政府としては取れるだけ取りたいと言うのが本音だ。が、取り過ぎると惑星経済の活力を失うし、仕舞いには住民や企業が高税率を嫌って逃げ出してしまう。

 程々の税率を設定しないと行けないのだ。

 昔のヤーバンなら、収入の7割り近い税を取っていた時代もあったが、最近は大体5割まで減っている。それでも現代日本人だった俺に言わせれば、『何処の戦国時代だ?』って位の暴利なんだけどね。

 

「それに収入が減りますぞ!」

「減る? ガンダル、今のベガ星の収入がか」

 

 思わず笑いが出る。

 今のベガ星の税収なんて低くて涙が出そうなのである。

 現在の惑星人口なんて、たったの二億人程度でしかないからな。

 多いじゃないかと思う前に言うが、惑星規模で二億人だぜ。日本の約二倍でしかないんだよ。しかも、ろくな製造業も無いから、惑星収入としてははっきり言って最低レベルだ。

 収入の殆どが、ベガトロン鉱山関連でしかないのだからな。

 

「つまり、税率を低くしても余り変わらないんだよ」

 

 無論、税収は一、二割は低下するだろうが、国営であるベガトロン鉱山の収入がある限りは、全体的な惑星収入に影響は出ないレベルなのだ。

 ベガ星に於ける収入は90%近くが鉱山だからね。

 まだ不満顔のガンダルへ、俺は呟いた。「ぼくはこれを呼び水にするつもりなのさ」とね。

 

 

〈続く〉




休載の予定でしたが、せめて第三章のプロローグだけでも書いておこうかなって筆を進めてたら、出来てしまいました。
てな訳で、不定期連載ですが、第三章「飛躍編」スタートです。

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