ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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40話の大台に乗った。
でも、まだベガ王子…。大王への道は遠い(笑)。


40

 テイルの兄とは現場で落ち合うとの話が付いた。

 彼女はどうしても兄とは顔を合わせたくないみたいなので、代わりの侍女として侍女見習いのハツメを連れて行く事にする。

 本当はヨナメが良いんだけど、フリード星の時と違い、ズリルの奥さんを連れ回すのは流石に良心が痛む。

 

「妻が了承するのなら、構いませんよ」

「いや、彼女にだって子育てもあるだろうし、そんな我が儘は出来ないよ」

 

 と、俺はズリルの申し出を断ったのだ。 

 ハツメは頼りない様に見えてもシャーマンだけあって、格闘その他は一通り身に付けている。余程の事が無い限りは大丈夫だろう。

 

「ツイン・テールさんですか、どんな人でしょうね?」

「他にサイド・テールや、ポニー・テールみたいな名の身内が居るんじゃないかな」

「まさかぁ、殿下も冗談言い過ぎですよ」

 

 機内でハツメとそんな馬鹿話を繰り広げている内に現場到着だ。

 流石に鉱山予定地までは遠いので、いつものリムジンではなく特別な専用機を仕立てている。

 これはミニフォーを輸送機型で爆弾倉なんかを排除して、代わりにVIP用のキャビン他、旅客用装備を取り付けた王子専用機だ。

 元々が無人戦闘機だから非与圧。パイロットは耐Gスーツを身に付けて操縦するんだけど、流石にそれは拙いだろうと耐G装置なしで大丈夫な様に、与圧装置や慣性制御装置なんかを取り付けている。

 お陰で6G機動程度なら、入れたお茶もこぼれない代物に仕上がっている。

 

 まぁ、実際も戦闘機動だと15G+なんかの加速度が掛かるらしいから、こうなると椅子に座ってベルト着用になるらしいんだけど、普通に飛ばしている分には必要ない。

 もっとも、そんな事態になるのは敵戦闘機に襲われるとかの場面だけだろう。出来れば一生体験したくないね。俺は。

 

「殿下。遺跡に到着しました」

 

 キャビンのモニターにイケメン面の男が映り、報告が告げられる。

 彼はベガ軍のパイロットだ。

 映像を切り替えて機体の外を映してみるが、何の変哲も無い緑の多い丘陵地帯が見えるだけだ。

 

「遺跡らしき物は見当たらないな。アラーノ中尉」

「座標は此処で合っておりますが……」

 

 メイン画面の下に小さく映る、パイロットの中尉も困惑気味である。 

 

「まだ埋まってるんですよ」

 

 と無邪気に言うのはハツメ。俺も「成る程」と納得する。

 ここでこうしているりも時間の無駄である。まさか、こんな所に猛獣やらはおるまいと判断し、俺はアラーノへハッチを開放する旨を告げて、外へ降りてみる事にした。

 

「牧歌的な光景だな」

 

 機外へ降りると、クローバーみたいな雑草が一面に生えている。

 小さな白い花を付けていて、遺跡見学に来たと言う気が起こらない。

 

「殿下。あそこら辺ではありませんか?」

 

 ハツメが指さす。

 見てみると、丘陵の一部が崩れ、土が剥き出しになっている箇所がある。

 

「試掘跡かな」

「多分…。行かれますか?」

 

 俺が頷くと、ハツメは腰に下げた短槍を取り出した。

 彼女が例のシャーマン族専用スペーススーツを身に付けているのは、ハツメの「侍女服よりもこっちの方が似合う」との要望に従った結果である。

 子供じみた彼女が先頭に立ち、警戒しつつも先導するのは一見、間抜けであるが、俺はその戦闘力に信頼を置いている。それに原始的な武器に見えてあの槍はビームガン兼用のフレキシブルウェポンで、侮れない威力を持っているからだ。

 

「もうやって来ているのかな?」

 

 丘を回った所で一機の自家用機が見えた。

 民間に出回っている普及型の円盤である。

 

「お金持ちなんですね」

「まぁ、考古学が趣味なんて学者もどきだしな」

 

 この世界での円盤は、地球で言う航空機に当たる。

 原理的には反重力で浮遊する車との違いはないが、機能的には速度や高度なんかの最高性能は桁が違う。言うなれば、複葉機と超音速ジェットを、同じ飛行機として比べる様な物だ。と説明すれば、大体想像出来るだろう。

 無論、自家用機なんてのを持ってる人種は金持ちである。

 この機種なら、地球で言うセスナみたいなタイプだ。惑星間は移動可能だけど長距離航行能力、つまり恒星間航行機能は備えていない。

 値段で言えば、地球で言うスーパーカーやリムジン級の超高級車とほぼ同じ程度。

 お高いが、頑張れば一般庶民にだって手が届くクラスの機体になるな。

 

「あんたがベガだね!」

 

 びっくりした。突然、後ろから声を掛けるな。

 慌てて振り向くと、そこには勝ち気な顔をした女の子が腕を組んで立っていた。

 こいつ、いつの間に現れたんだ?

 

「殿下!」

「遅い」

 

 ハツメが前に出て槍を構えるが、それが少女の一言と同時に弾き飛ばされた。

 槍はビームの穂先を煌めかせながら、くるくると舞って近くの地面へ突き刺さる。

 

「ふん、ヨナメに比べりゃやっぱり未熟か」

「何者か?」

 

 俺はその娘に呼びかけつつ、万が一に備えた護身武器を準備する。

 これは指輪だ。あのロリっ娘、キリカがプレゼントしてくれた物で冷凍液を噴射する非殺傷兵器である。確か『グレンダイザー』本編では、キリカは冷凍光線を仕込んだ指輪でデューク・フリードの暗殺を計画するんだっけ?

 そのプロトタイプみたいな物だけど、これ当たっても死なないんだよな。

 凍り付いて動きが鈍くなるだけらしい。まぁ、本編と違って十歳以上若いんだから差があるんだろうし、俺も出来れば人を殺したくはないからな。

 

「呼び出した本人が言うかね。俺の名はツイン・テール!」

 

 女の子なのかと思ったら、こいつがテイルの兄貴かよ!

 仁王立ちして不敵に笑うツイン・テールに警戒しつつも、俺はこいつとキャラが被っている事に不満を覚えていた。

 

 

〈続く〉




兄ちゃん登場。
さりげなく新キャラも出ていますが、今の所、モブですな(笑)。

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