ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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でーんでで、でんでで、でーんでーん。
でーんでで、でんでで、でーんでーん。
でんでん、でで、でんでん、ででで、でんでけでんでん、でーででーん♪
第46話、お寂し山を背に、ホラフキンのギターと共にお送りします。

本当は書いてる時『ドロップ☆スター』(正確にはMMDの『ちびとたこが雪山まで冒険』)が、今回、エンドレスで聞いてた作業用BGM(笑)。


46

 宮殿の中庭。俺は繰り出される棒を避ける。

 

「やっ」

「はっ、よっ」

 

 こいつは軟質のビニールみたいな素材で殴られても平気だが、やっぱり命中すればそれなりに痛い。

 これ、スポーツチャンバラを思い出して考案したんだけど、今の所は格闘戦の訓練用としては成功作の様だ。

 

「なかなか当たりません」

「もし実戦だったら、当たったら死ぬからな」

 

 緑の髪を振り乱し、むきになって攻めるハツメを躱しつつ、俺は軽口を叩く。

 

「殿下、強いじゃないですか」

「受けに回ってるからさ、攻勢じゃこうは行かない」

 

 あれから俺は水晶宮に一旦帰還した。

 こう見えて仕事も溜まっているし、運動をして身体を鍛えなきゃいけない。

 大分体力は付いてきたが、呼吸器系だけは相変わらず弱点だ。

 

「こうしてなるべく動かずに、相手に対応するのが基本戦法だからね」

 

 だから、極力息を乱さない様を心掛けている。

 元々教わった護身術の師匠の受け売りだけどね。

 

「殿下、ズリル補佐官が」

 

 テイルの声に振り返るとズリルが立っていた。

 俺は片手でハツメを制し、一旦、訓練を終了させた。

 

「で、例の事件の事で何か分かったのかい?」

「機体は破棄された物でした。パイロットは皆、自決しており、証拠となる品は見付かっておりません」

 

 まぁ、そう簡単に足は付けさせないって所か。

 俺は「破棄?」と疑問を述べる。破棄機体とて出所は何処かにある筈だからだ。

 

「モナーペのスクラップ置き場が一番多く、次にデセヌマのモスボールプール。更に一機は数日前、ルビー星のファセット基地から盗み出された機体です」 

「ぼくの所の基地からか!」

 

 そんな報告は上がって来ていないぞ。

 指揮系統がゴタゴタの最中とは言うものの、戦闘機の盗難を報告しないのは明らかに怠慢だ。

 ズリルは肩をすくめ、「管理担当者は秘密裏に処理する予定だったのでしょう。もっとも、こちらの調査からばれてしまいましたが……」と伝える。

 

「そいつは降格だ」

「既に服毒して死んでおりました。恐らく……」

「口封じですね」

 

 テイルが後を継いで発言する。

 もしかするとその担当自身が、機体を横流しした本人かも知れなかったのだが、暗殺書共の黒幕はこちらの二手、三手先を、いや、もっとかも知れないを行っていた。

 詳しく聞くと、使われた他の機体は廃品を繋げて再生した物らしく、部品番号なんかバラバラで何処から調達したのか判らない代物だった。

 モナーペやデセヌマなんかの地名も、部品番号から辿って行くと、そこにある機体か調達した物であるらしいとだけ判明しただけだ。だが…。

 

「モナーペやデセヌマは弟の領域にある施設だったな?」

「は、第8外征師団の主な策源地です」

 

 第8外征師団はブーチン王子の直轄師団だ。

 師団って言うのは軍事用語で単一で独立行動が可能な部隊を指す。つまり師団規模があるのなら、建前的には兵站を始め、各種支援を外から頼らずに戦略行動が可能な部隊となる。

 師団より規模の小さな部隊、連隊とか大隊はこうした戦略行動は取れない。師団が持つ自前の補給部隊とか整備部隊を持ってないからね。

 まぁ、実際は作戦期間が長期になったら、師団でも外部からの支援は必要になるんだけど、完全充足状態なら、一ヶ月程度は自力で何とかなる部隊だって思えば間違いない。

 ヤーバン軍は約五十個師団を持っているのだけど、内、半数が外征軍だ。

 師団長ってのは地位的にかなり偉い。なれるのは将官級だし、原作の『グレンダイザー』で月のベガ星連合軍が「スカルムーン師団」と呼ばれていた様に、一つの星を攻略するのに充分な戦力を持つからだ。

 

「となると、黒幕はやはり弟なのか?」

「でも、推測だけで証拠がありませんからね」

 

 テイルが指摘する。

 そうなんだよなぁ。状況証拠では今ひとつ、奴を問い質せない。

 せめて、パイロットが生き残っていりゃ良かったんだけど、奴らは念入りに自決カプセル。飲むと身体が融解してしまう薬物を服用して、ドロドロに融けてしまっていた。

 あれを使われるとDNA鑑定も出来やしない。

 

「まぁ、それは仕方ないとして、バトルホークの正体だけど」

「怪人の方も皆目さっぱりです。しかし……こちらは手掛かりが見付かりました」

「お?」

 

 調査書をめくるズリル。

 かなり昔の記録だが、ルビー星やフリード星で目撃例があったとの事。

 彼は「同一人物かは判りません」と前置きすると、「しかし、真っ赤なタイツと青い斧の目撃例から、可能性は高いと見ます」と報告する。

 

「で、そいつの剣技……じゃない、斧技(ふぎ)とでも言うのかな、はどうなんだろう?」

 

 とにかく、無茶苦茶な強さだったからね。

 それを発揮していなきゃ、そいつらはパチモノだろうと思っての質問だよ。

 

「かなりの物であったとの報告です。戦車を真っ二つにしたそうですから」

「戦車?!」

 

 ビックリだよ。

 いや、百歩譲って装甲服程度なら、驚くけど理解の範囲内だ。

 でも戦車。AFV(装甲戦闘車両)だぜ。

 大昔の装甲板だけで勝負する様な骨董品ならいざ知らず、現代の戦車は特殊合金を下地に複合装甲や、対レーザーコートみたいな光学兵器防御だって施されている。

 それを斧一つでズンバラリンかよ!

 

「かなり旧い記録ですが……」

「数世紀前とか?」

「流石に十数年ほど昔です。テロンナ姫様の所に現れたそうですが、その…、殿下は何か聞いておりませんか」

 

 いや、初耳だぞ。そう言えばその頃は、姉上がフリード星へ留学に行った時期だったかな。

 確か暗殺未遂事件は起こったとは聞いた事はあったけど。

 それがきっかけで、姉上の親衛隊〝ファルコ〟(鷹部隊)が結成されたんだっけ?

 

「聞いてないな。

 仮に聞いてても、ぼくは姉上がジョークを言ってると流しただろうし……」

 

 いずれにしろ、その頃なら俺はまだこの世に居ないか、産まれたばかりの赤ん坊だしね。

 

「その目撃者も、与太話として相手にされてなかったそうですからな」

 

 分かる。大抵は信じないだろうし、言ってもホラフキンとか渾名されそうだ。

 しかし、そんな情報を良く集めたなと感心すると、ヨナメ配下の「潜入させたシャーマン部隊です」との答えが返ってきた。

 場末の酒場でくだを巻く、元ルビー軍の兵から得た話だそうで、俺の知らぬ所でベガ星の諜報網は確実に成果を上げているみたいだ。

 まだ子育て中の片手間だろうに……。ヨナメの手腕恐るべし。

 

 

〈続く〉




中には旅団や大隊規模の独立部隊もありますが、あれは〝独立〇〇部隊〟と名乗る特殊編成です。
単独で行動可能な様に、普通は省かれる支援部隊を含んだ一種の強化部隊になります。

Ⅵ号(ティーゲル)戦車で火消しに回る、第三帝国軍の独立重戦車大隊が良い例ですが、あれも途中から支援部隊が櫛の歯が欠ける様にお亡くなりになり、半ば独立部隊として機能不全に陥ってました(敵は間接アプローチで強い戦闘部隊より、脆い支援部隊から真っ先に潰す。戦車も補給や整備がなくては只の鉄塊。時間が経てば無力化する)。

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