ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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記念すべき第50回ですが、今回、『ウマ娘』ネタに走りました。
前回のゴルヒ・フォックで、練習帆船の名は本当だけど、もう一つのネタに勘付いた人は皆無。馬面に白髪、蓮っ葉口調、宣伝部隊とヒントは多めだったんだけど、難しすぎたかな(笑)。
勿論、奴の元ネタはゴルシこと、ゴールドシップです。

ちなみに前回ちょい役の新NPCもモデルはウマ娘です。答えは次回の後書きで(←おい!)。


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「ルビー軍、宣伝部長。ゴルヒちゃんだよー」

 

 宣伝中隊に居るとの話は嘘ではなかったらしい。宮殿のテレビ画面には例の馬面少尉、ゴルヒ・フォックが白銀の髪を煌めかせながら喋っている。

 

「さぁ、始まるよー。ゴルヒちゃんの『ばかチューブ』!

 提供はルビー軍。放送局はルビー中部放送局。早速、ふつおたから行ってみよーっ」

 

 何やら、傍若無人な態度で軍の広報活動をしている。

 広報と言うより、単なる独りガールズトーク番組みたいだが。

 

「こんな番組があったんだな」

「まぁ、他星の番組ですからね」

 

 テイルは夕食の皿を片付けながら、どうでも良い感じに呟く。

 

「人気番組なのよ」

 

 俺の真向かいに座る姉上が、『ばかチューブ』の解説してくれる。

 お堅い軍の広報番組だったのが、この馬面、もといゴルヒちゃんことフォック少尉のお馬鹿キャラクターのお陰で、一般公募からタイトルも変わって人気番組になったそうだ。

 ま、タイトルからして中部放送の馬鹿を意味する『ばかチューブ』だからな。

 

 基本、ヤーバンには全国区の番組って言うのは国営放送が流す星間ニュース以外はない。

 これはヤーバンが情報を統制しているからで、各星の放送はその星だけのローカル番組を流すのが基本だ。

 よって星が違えば、知りうる情報も限定的な物になる。

 他星の番組すら分からないのもこの為だ。

 

「この前、円盤の操縦ミスって墜落しちゃったんだよね。

 ゴルヒちゃんピーンチ。

 でも華麗に立て直した訳よ。で、原因調べたら回路が故障してたらしーんだ。ルビー軍も予算が厳しいからねぇ。加えて今度、田舎のベガ星軍に編入されるから、さぁ大変!」

 

 ぶつ切りでの情報は入るが、全星域が有機的に繋がったネットの様な物は無い。

 なるべく民に情報を共有させないのも統治の手段であり、重要な情報は権力者が一手に握るシステムが構築されている為だ。

 

「うーん、予算減らされるよね。これ。これっ、重要。この番組もどーなるか。

 そして、あーっ、田舎に配置換えしたくなーい。ゴルヒちゃんは都会人だからー」

 

 何か、この馬面、えらく勝手な事を言ってるぞ。

 姉上は「あらあら、嫌われてますね」と笑う。そして真剣な顔になると言葉を継ぐ。

  

「バレンドス中佐に会ってどう思いましたか?」

「彼がぼくを嫌っている事は判りました。しかし……」

 

 俺は彼が暗殺事件には関与していないと姉に告げる。

 但し、それに荷担するようにと言う誘惑は受けたと確信している。

 

「では思い当たる容疑者はと問うた時、是とも否とも返事をしませんでしたから」

「知っていながら、庇っていると?」

 

 姉上の言葉に「恐らく」と相槌を打つ。

 彼が防衛軍ではなく、ブーチンの所属する外征軍へと行きたいとの希望は本当であった。

 常々、防衛では無く攻撃の方が性に合っていると宣言している男である。俺の首を手土産に弟の元へ馳せ参じ、所属を外征軍へと栄転する可能性は、前々から指摘されていた。

 

「しかし、奴の目には邪気は無かった」

「テレパスですか?」

 

 その言葉にかぶりを振る。

 

「まさか。単なる直感ですよ。姉上」

「……その感覚を大事になさい。もしかしたら、それが貴方を助ける事になるのかも知れませんよ」

 

 姉の警告を深く考える事無く、俺は頷き返した。

 テロンナ姉様は「バレンドスは過激な男ですが、確かに王家への忠節は篤い男です」と肯定する。役職上、何度も会っているから掴んだ感触であるらしい。

 

「ベガ殿下に会ったんだけど、殿下、女の子よりも美少女なんだ。綺麗なんだ。綺麗なんだよぉーっ、あれって男の娘って言うの。

 うわーん、ゴルヒちゃんショクッゥゥゥ!」

 

 いい加減、テレビ消した方が良いかな?

 いや、何故か、テイル他、侍女達が食い入る様に見ているし……。ここでオフしたら拙いかな。

 

「外征軍への転属を希望するのもその為でしょうね」

「分かりますが……」

「おおっと今、クレームが入った。はいはい、え、会ったじゃ駄目?

 お目通りが叶ったとか、拝謁したとか使えって。無理ーっ、あたいはそーゆーの苦手。本当に苦手だから、許して下さいな。駄目?」

 

 姉曰く、自分の暴力性が分かっているからこそ、それを発散出来る環境に身を置きたいらしい。

 軍歴とか調べたら、たしかに反乱鎮圧やら、海賊退治で過激な行動を取っているしな。

 

「引きましたよ。悪党は一人残らず死すべし、でしたっけ?」

「でさ、殿下ってすべすべのお肌で羨ましいの。今度、どんなお手入れしているのか聞いてみよーかー。って、うそうそ。不敬罪でゴルヒちゃん逮捕されちゃうからねー」

「降伏を認めず、一人残らず虐殺したのは確かに……」

 

 嘆息する姉。

 これは問題にはなったが、テロ鎮圧として仕方ないとの沙汰が下りている。

 

「うーん、お化粧品は高いの使ってるだろーなー。

 ゴルヒちゃんの安月給で買えるかな。買えない。買える。やっぱり無理ー?」

 

 やはり、この馬面のテレビは消そう。

 そう決意した時、姉は真剣な顔で「もし、来月の結婚式が上手く行かなくなっても、私は貴方へ統治の移管を進める予定ですからね」と言った。

 え、何だって?

 

「姉上、何を……」

「だってさー、あたいだって若い女の子じゃーん。やっぱりお洒落には敏感な訳さー。

 綺麗だけど、このゴルヒ様が少年に負けるのは何だよーって……」

「済まん、テレビを消してくれ」

 

 ぷっと画面が消え、甲高い馬面の声が途絶える。

 

「予感がするのよ。それが未来予知なのかは判らないけれど」

「それが、先程の直感って奴ですか?」

 

 姉は肯定した。昔から予感と言うか、そんな物が働くらしい。

 そして大抵は当たると言う。

  

「大抵と言う事は、外れる場合だってあるでしょう」

 

 100%予知が出来る奴なんて化け物だ。

 長いヤーバン王家の歴史にも、未来予知が得意だった〝先見(さきみ)の姫〟なんてのも存在したけど、それだって完璧に未来を予見した事はなかった筈だ。

 だが、姉は首を横に振り、「悪い予感は何故か当たるのよ」と呟いた。

 

「良い予感ってのは殆ど無いわ。これって不幸を回避しろって警告なのかしらね」

「姉上」

「もっとも、回避出来ない場合が多いのだけれども」

 

 俺は「命を落とすような事態でしょうか?」と質問すると、縦ロールを揺らして姉は否定した。

 

「この不幸は自分じゃないわ。恐らくデュークね」

「フリード星側の事情ですか。何が……」

「とにかく」

 

 姉が俺の言葉を遮った。

 

「今、ベガ。貴方の成すべき事はルビー星の軍や行政を把握する事よ。その為にバレンドス中佐の忠誠心をがっちりと握る必要があるわ」

 

 自分のことなぞ、どうでも良いと言った感じで王女が言い切る。

 既に領主としての統治を、俺に全て任せる気であるらしい。

 

「幸い、一番の障害であった筈のブラッキーはベガの事を見直したらしいからね」

「ブラッキーが?」

 

 微笑みながら「ええ」と姉は続けて、「フリード星での事件で、何も出来ない軟弱王子だと言う認識を改めたらしいわ」と返して来る。

 あの豚野郎を殴ったりした一件で、俺が勇気を持ったヤーバン人にふさわしい力量の持ち主であると認めたそうだ。

 ブラッキーは名目上の総司令官である姉上を除けば、ルビー軍の実質的な最上級階級だ。彼が味方になってくれさえすれば、後の障害はバレンドス一人だけとなる。

 あれ、確かもう一人居た筈だけど、誰だっけ?

 

「だから、今は私の事より、軍掌握に心血を注ぎなさい」

「はい」

 

 まぁいいか、後で思い出せば良い。姉上は「私から話を通しても、彼は頑固だから素直に言う事は聞かないのよねぇ」と困り顔で嘆息する。

 俺がルビー星に滞在するのはあと三日。

 これを過ぎると再びベガ星にとんぼ返りする必要がある。これでも忙しい公務を縫って、何とかやって来たのである。余り放って置くと溜めた書類でズリルの奴がパンクしそうだからね。  

 

 さてバレンドスに対して取る態度は説得か排除か、俺は長考に沈んだんだ。   

 

 

〈続く〉  




『ばかチューブ』
当然、モデルは一文字違いの、あの動画。
お馬鹿で白髪馬面の少尉、ゴルヒ・フォック担当のルビー軍ローカル宣伝番組です。
何処が軍の宣伝番組なんだとの悪評もありますが、視聴率は案外高い。お堅い軍のイメージを和らげる、いわゆる『のらくろ』効果があったりします。

但し、お堅い軍人の中には『のらくろ』同様、「内容が不真面目でふざけすぎている」と評判が悪いのですが、バレンドス中佐が悪のりして許可しているので、表向きは誰も批判が出来ないジレンマがあったり。睨まれると後が恐いからね。
それだけ、ルビー軍で中佐の立ち位置は高いって事です。


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