よって今回は、基本三人称(バレンドスは一人称)で書いて行きます。
今回、ようやくブーチン王子が登場します。
狂気の美少年。何処か狂ってますが、武芸の腕はベガなんかよりも上です。
それと判る人だけしか判らないでしょうが、メスカルさん登場です。
「バレンドス中佐。ブーチン殿下の言を伝える」
中尉如きが、と口に出そうになるのをぐっと堪える。
階級が下でも、こいつはブーチン殿下の子飼いだからだ。
「殿下は何と…」
「ベガを殺せ。それが殿下の望みである」
目の前の中尉はさらりと述べるが、それは王家に対する大逆だ。
如何に身内とは言うものの、自分の兄を殺せとはいけ好かない望みである。
「ベガ殿下を?」
「女の様な軟弱な男だ。貴様の好みではあるまい?」
確かにそうだ。
実績も何も無い。ただ長子に産まれただけの病弱な男であり、統治や軍務も部下に丸投げで、その環境から大王や姫様の寵愛を受けているだけの男。
武勇を第一とするヤーバン王家にはふさわしくないオカマ。
前評判だけ聞くと、およそ俺の好みには合わぬ馬鹿だ。
同じ馬鹿でも子飼いのゴルヒ・フォックの方がまだ単純なだけ、可愛げがある。
それが、最近何故か、一人前の統治者として権力を欲したらしい。
「殺せというのか?」
「望みだろう」
狭い司令官室に奴の声が木霊する。
しまったな。ここには俺と奴しか居ない。内密の話と言うからここへ招き入れたが、副官かゴルヒでも扉の前に待機させておくべきだったか。
もし、暗殺されてもこの環境では暫くは気が付かれないな。
「直接、手を掛けたくは無いな」
やはり手は汚したくはない。
これは本音であった。ベガ殿下本人は知らないし、彼がヤーバンに対して不義理を働いたと言う事実もないので、積極的に動く気は全くない。
ブーチン殿下の蛮勇さは確かに俺の好みではある。だが、俺の主は未だにテロンナ姫様だ。姫様はベガ殿下を買っておられるので、正直、評価が定まっていない。
本当の愚君であれば、聡明な姫様が推す必要も無い。
ゆえに実際に会ってみないと、その前評判が嘘なのか真なのか、判断が付けがたい。
「だが、貴様らが何かすると言うなら、俺は妨害はせん」
妥協案だった。
俺は知らぬ存ぜぬで通し、見て見ぬ振りをするから勝手にやれ。
「荷担はしないと?」
「王族をこの手に掛けるのは、俺の流儀ではないからな」
奴の目に殺気が帯びるのを感じたが、その程度で臆する俺では無い。
俺は「安心しろ。貴様の企みを口外したりはせん」と述べた。
「本当か?」
「…俺を誰だと思っている」
俺のドスが利いた声で、目の前の中尉の顔色が変わった様に見えた。
その程度の信用しか無いのなら、初めから俺を仲間に引き入れる事なぞ考えるな。
「…分かった」
中尉が沈黙からようやく口を開く。
ハッタリだったが、何とか上手く行った模様である。
薄氷だ。こいつが逆上してレーザーガンでも抜いたら危ない所だった。
「せいぜい、そのお手並みを拝見させて貰おうか」
同時にベガ殿下の運、そして力量も見定めて貰おう。
驚いた事に、最近、ブラッキー閣下がベガ殿下を評価しているらしいからな。
◆ ◆ ◆
主の前に出ると膝を屈して臣下の礼を取る。
「報告によると、バレンドス中佐は静観の模様です」
そこはスポット照明で机だけを照らしている暗い部屋だった。
宇宙船の内部で人工的な光源のみしか無いとはいえ、普通、この手の私室はもっと明るくあるべきなのだが、主は闇を好んでいたからだ。
少なくとも、いつも報告に訪れる度に気分が沈んでしまいそうになるが、主は自分の兄、いや、侮蔑してわざと〝姫〟呼ばわりしているのだが、の明るく、白いイメージを嫌っているのだった。
「ほぉ…。流石は中佐だ。慎重だね」
机の前に座る、彼の主が押し殺した低い笑い声と共に呟いた。
金髪を揺らしつつ、彼はびくりと怯える。
こんな時の主、ブーチン・ヤーバン王子の機嫌は良いのか悪いのかが判断が難しいからだ。
「面白いじゃないか、この僕に対してさ…」
机の上に置かれたゴブレットを掴むと乱暴にそれを呷る王子。
中身はM13星から採れる歩行性肉食ブドウから収穫した、血の様に赤い酒だ。
「この僕に対してさ!」
同じ台詞を繰り返すと、ぐいっと乱暴に口を拭う。
切れ長の目に整った顔立ち。寒色系の髪の毛。14と言う歳に比較して明らかな長身。容姿は美少年と言っても通じる物がある。
「メスカルゥゥ!」
その名と共にゴブレットが王子の手から放たれ、名前を呼ばれた部下の額に命中する。
メスカルは流血した額を押さえたが、体勢は崩さずに耐える。
ぼたぽたと床に血溜まりが広がって行くが、サディスティックな王子が行うこの程度の暴力沙汰は慣れっこになっていた。
「中佐を粛正しますか?」
「ふん…。そりゃあね。本音を言えば八つ裂きにしたいさ」
だが、感情的であっても短慮では無い計算高さが王子にはあった。
はぁはぁと荒い息が収まると、「まだ奴には使い道がある。中立と言う事は、ベガさえ亡き者にしたら僕のコマとして使えるって事だろう?」と呟いたのだった。
「はい」
メスカルはハンカチで傷口を押さえながら返事をする。
「替わりの効く人材なら躊躇はしないけど、奴は将だ。それも有能な猛将だからね。
使える人材を無闇に消費して仕舞うのは、まだ勿体ないさ」
酒瓶の首辺りを持ってゆらゆらと揺らすと、酒器が無いのに気が付き、おもむろに直接、瓶に口を付ける。
ちなみにヤーバンでは16になると酒は飲めるが、当然、ブーチンは飲酒可能年齢には達しては居ない。だが、それを指摘出来る命知らずは、副師団長くらいなものだろう。
「全く、ベガ暗殺は尽く失敗しているのが苛立たしいな」
王子は喉を鳴らして酒を堪能後、瓶片手に立ち上がると背を向けて数歩歩く。
光源から外れ、黒を基調とした軍服が闇に溶け込んだ。
「バトルホークの参戦は予想外でした」
あの怪人が居なければ、暗殺は恐らく成功していた筈だった。何故、あの真っ赤なタイツ共がベガを守ったのか、その理由はブーチン王子側も掴んではいない。
「いっそ、直接指揮をなさいますか?」
メスカルの申し出に「僕がかい。まさか」との反応を返す王子。
部下任せなのは、暗殺に関して本腰を入れてはいないからである。兄なんかに関わっているより、本業である星系侵攻の方が大事だし、何よりも面白い。
命のやりとりはぞくぞくするし、何より、敵をひねり潰す快感があるからだ。
「まぁいい。今は姫よりも、目前の攻略作戦だ。ダントスを呼べ」
「はっ」
気持ちを切り替えたらしい。空になった酒瓶を放り投げると、酒瓶の割れる破砕音が辺りに響く。
いつも思うが、感情に起伏があって扱いにくい上司である。
「敵の配置と戦力を」
「ゲルモスを中心に、空爆ロボが…」
副師団長ダントス准将の到着を待ってのメスカルの説明に、ブーチン王子は「うむ」と頷いて、作戦計画を立て始めたのであった。
〈続く〉
前回の回答。
メ「ジロマ」ックイーンと、ダイ「ワスカ」ーレットでした。
ちなみに例の葡萄酒は「血の様に赤く、おまけに美味い」らしいです。
ひお先生御免なさい(笑)。
あと、今回の「んなの、誰が知ってるんだよ!」のネタは『ベガ星友のバラ』です。調べられる方は調べて下さい。衝撃物です。もう、どこの宝塚かと…。
でも、あれ同人じゃ無くてⒸダイナミック企画と東映動画、つまり『グレンダイダー』公式なんだよ。本当に!