ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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やっと更新です。

閑話1話挟みましたが、まだルビー星のお話です。
バレンドスの問題が終わってないのに、また新たなる事件が発生です。
読者様方、お許し下さい。


マルク編
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 オストマルク星と言う星がある。

 ウエスターマルク星なる星と双子星で、ヤーバン星連合の中でも田舎星だ。

 ベガ星が言えた立場じゃないけどな。

 

「国際会議か…。最初に何か述べるだけなら構わないけどね」

 

 ルビー星滞在中にこの両マルク星に対する国際会議が開催され、その冒頭に王家の者としてスピーチして欲しいとの要請が舞い込んで来た。

 

「内紛の調停も兼ねてますから、殿下の出席で箔を付けたい意向もあるのでしょう」

 

 テイルが指摘する。まぁ、スピーチと言っても開催時の挨拶程度だ。

 内容には触れない。国際紛争みたいなデリケートな問題に王族が一方に肩入れするのは流石に拙い。述べるにしても「両国の友好的かつ、平和的な解決を望みます」位が関の山だ。

 

「バレンドスの件を早めに片付けたいんだけどな」

「排除ですか?」

 

 首を横に振って俺は否定する。

 排除に関しては悪手だ。しかし、説得する材料も無いのも頭の痛い所である。

 未だ、俺にはベガ王子としての実績が無いからな。

 それは何処かで戦功を挙げるなり、経済的成功で星に富をもたらしたり、誰にでも分かり易い対外的信用だが、改革に着手して半年程度なんだから仕方が無い。

 

「しかし…内紛とは穏やかじゃないな」

「あの二つの星は、元々、仲が悪かったらしいですからね」

 

 テイルの説明によると、両星がヤーバン連合に加盟して約半世紀程度。

 それまでは惑星航行レベルがやっとの低文明国だったらしいが、偶然、ヤーバンの宇宙船と接触してから恒星間文明の刺激を受け、ヤーバンの保護国となって現在に至るらしい。

 惑星飛行の時代でも頑張れば隣の星に行けたので、その頃から互いに侵略を警戒して核兵器を向け合っていた冷戦状態にあったのだが、惑星間航行文明を手に入れた後も、互いの星に不信感が残っているらしい。

 

「二連星の間にあるマルク本星。あの双子星はこの本星の周囲を回っているのですが、それは人の生存を許さぬ無人の星です。そこの領土問題が火種としてくすぶっているんですよ」

 

 テイルは相変わらず物知りだな。

 俺は「無人星に価値があるのか、鉱物資源とか?」と尋ねると「ご明察です」との返事が。

 聞けば、レアメタル他、地下資源の宝庫なのだそうだ。

 今回は小競り合いからウエストマルクの小規模侵攻が発生し、オストマルク側が停戦を打診した事が発端となっている。過去に数十回起こっている話なんだそうな。

 

「幸い、ヤーバン軍監視の手前、絶滅戦にまで発展しないのが救いなのですか…」

 

 連合傘下の星同士に、相互核破壊なんかが起きたのでは堪らないからな。

 

「で、停戦条約を締結する為に、わざわざ他星系まで来るのか」

 

 とは言うものの、良くある話だ。

 自分の星系で当事者同士がやるよりも、第三者立ち会いの下で条約を締結させる方が、もしもの場合に不履行になりにくいからだ。

 まぁ、わざわざ遠出までして他星系くんだりまでやって来る代表団は、本当にご苦労さんなんだけどね。

 

「スピーチの要請は拒否しますか?」

「姉上も断ったんだしな」

 

 思案する。要請だから選ぶイニシアチブはこちらにある。

 姉のテロンナは結婚式の準備が間近との理由で断り、そのお鉢が俺に回ってきたのだが、さて、断ったって別に困らないが、受けておくのは他星へ俺をアピールする一つの手ではある。

 

「殿下。発言をお許し下さい」

 

 と、そこへ割って入ったのはアラーノ中尉だ。

 俺は「構わないよ」と告げる。律儀な男で、必ず発言許可を求めて来る。

 

「警備担当の視点から申しますと、不必要な公式行事に参加は避けるべきだと思います」

「面倒な仕事が増えるから、かしら?」

「テイル殿。無論、それもあります」

 

 本音の〝面倒な仕事〟って事は否定はしないんだな。

 

「今は領主引き継ぎの準備期間でもあります。不用意な行動は避けるべきであると思います」

 

 言っている事はもっともな話だ。

 そこへハツメがやって来て「失礼します。殿下にお客様ですが、如何致しましょうか?」と尋ねて来る。

 

「姉上か?」

 

 思い当たるのは姉一人だけだが、そうじゃないとすれば誰だ?

 面会の予定は無かった筈だぞ。

 

「いいえ。オストマルクの方だそうですが、予定にはございません。

 Dr.ヴォルガと名乗っているそうです」

 

 アラーノ中尉が立ち上がり、インカムで何処か連絡を入れる。「私だ。バンダー少尉は居るか、客人をサーチしろ」との声から、正門に立つ部下へ連絡を入れたのだろう。

 

「刺客の可能性もありますので…」

 

 中尉も警戒のし過ぎみたいに思うのだが、念には念を入れろと言うのは解る。

 

「オストマルクならば、例の和平会談への出席要請なのでは?」

 

 テイルの推測。だとしても俺が直接、会う必要もない。

 ガンダルに回すべき用件だ。もっとも、彼も忙しいから更に下の文官に回すべく所だろう。

 

「何者なのかは分かるのかい?」

「今回の和平会談代表団の一人に名が有りました」

 

 テイルの事務的な声と共に正面のモニターが作動すると、経歴が映し出された。

 Dr.ヴォルガ。オストマルクの和平団の代表格とされている。Dr.とされるのは工学系の博士であり、宇宙工業都市の設計者として有名だからだ。

 もっとも、その宇宙工業都市。ラグランジュ点に浮かんだ大型の宇宙植民島(スペースコロニー)なんだけど、は軍事施設なのではないかとウエストマルクに文句を付けられているらしい。

 

「彼の政治的な信条は?」

「穏健派ですね。軍の強硬派との仲は悪い物とみられます」

 

 ふむ、何のつもりだろうか。

 と、その時、外部からの通信が入り、アラーノ中尉の「お引き取り願いました」との報告が入る。

 彼は門前払いをされてしまったのだけど、まぁ、アポも取らないんだから仕方有るまい。

 

「素直に帰ったのかい?」

「肩を大分落としていたようですが…。それと気になる事が」

 

 そこで中尉は声を落とした。

 

「門前での接触後、Dr.ヴォルガを連れ去ろうとした奴が居たそうです」

 

 え、宮殿の門前で誘拐する馬鹿なんて居るのか。

 だが、続いて「幸い、ハーラ少尉らが撃退した模様ですが」と告げる。

 しかも万が一の再発を防ぐべく、ハーラから個人的にDr.ヴォルガに護衛を付けてやりたいの要請が上がっていると言う。

 

「許可しよう。それと襲撃者は何者だ?」

「当事者を呼びます」

 

 やがて、がっしりした体躯を持ったバンダー少尉が敬礼をしつつ現れる。

 

「少尉。報告を」

「はっ、俺、いや自分が見る限り、見た事の無い異星人でした」

 

 やや緊張気味の顔をしながら、彼が報告を続ける。

 〝異星人〟と言う言葉。ルビー星人から見れば、俺の様なヤーバン人やテイルみたいなベガ星人、シャーマン族であるハツメなんかも広義で言うなら異星人の範疇だが、ここでは既知以外の知的異星生命体との意味だ。

 少なくとも人間型ではない、獣型やベム系の生命体なんかが当てはまる。

 

「人間に化けていましたが、自分が殴ったら正体を表しました」

「殴ったのか?」

 

 アラーノが誰何する。

 

「Dr.を離せとの言葉に耳を貸さなかった物ですから、つい、かっとなって、兄貴」

「続けろ少尉。それと、私の立場は今は兄では無く、お前の上官だ」

 

 バンダーってアラーノの弟だったのか。

 それはそうとして、続けてもたらされた報告は驚くべき物であった。

 そいつは変身型の異星人で、殴った途端に擬態を解いて襲いかかって来たらしい。

 

「赤紫の巨体を持った単眼の奴でした。触手を振り回し、胸から生体レーザーを発射したのです」

「レーザー。すると生物兵器か。それともサイボーグか」

 

 無論、その手の兵器は存在する。

 生体改造を施したバイオ系の兵士は、かなり以前に流行った兵器であるが、ヤーバンでは〝卑怯臭い〟や〝男らしくない〟として廃れてしまった物だ。

 しかし、サイボーグは今でも存在する。これは戦場で身体を欠損する将兵の救済用である。

 傭兵部隊とかの中には、全身に武器を埋め込む猛者も珍しくはない。

 

「応戦したのですが、奴は撃たれると消滅してしまいまして…」

「一応、科学班を回そう。細胞の一片でも残っていれば儲けものだ」

 

 バンダー少尉の報告にアラーノ中尉が即答する。

 

「そう言えばDr.ヴォルガは何か知っているのかな?」

 

 と、俺。敵の正体に関しては、襲われた本人に聞くのが手っ取り早くはないかと思ったからだ。

 

 

〈続く〉




えー、いつも午前零時付近で投稿して参りましたが、前回から投稿時間は不定期になりました。
なるべく午前零時付近での投稿を心掛けますが、今後も予定が狂う可能性は大。

さて、次回はDr.ヴォルガ登場予定。
突如、舞い込む国境紛争にベガは如何なる手腕を見せるのか?



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