ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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更新ペースが週一になりましたが、多分、当分はこのままで行くと思います。
本当は週二辺りにしたいのですけどね。

王族特権。
ブーチン殿下は普段からやらかしてます。例えば飲酒とかね。


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「ベガ・ヤーバン王子殿下ですかな?」

 

 Dr.ヴォルガは品の良い老人と言った風情の男だった。

 豊かな髭を蓄え、杖を片手にモノクル(片眼鏡)を掛けているのがダンディな感じだ。ただ頭髪が少し剥げ掛かって……いや、生え際が後退しているのが残念な所だが。

 

「ようこそ、Dr.ヴォルガ。ぼくがベガだ」

 

 で、ここは宮殿ではなく、ベース・アルクトス。ルビー軍の基地の一つだ。

 流石に警備上、宮殿へ得体の知れぬ部外者を入れるのは憚られたからである。

 周り中、軍人だらけだから警備面でも安心出来るしな。それなりに贅を尽くしているが、内装が宮殿ほど華美でないのはこの際、許して貰おう。

 

 厳重なる審査を受けた後に、Dr.ヴォルガは貴賓室で俺との面会を許された。

 無論、単なるボディチェックだけでは無い。例の異星人が化けていたり、改造されて頭の中にダイナマイトとか仕掛けられてたら困るから、生体面でもスキャンを受けている。

 俺は先刻、チェック項目を説明するテイルに「何でダイナマイトで、頭の中なんだ?」と尋ねてみた。普通は身体に仕爆弾を掛けるならもっと別の場所だし、ダイナマイトなんて古典的な爆薬は使わないからだ。

 しかし、侍女長からは「加えて秒針の音がするのが、お約束です」との答えが返って来ただけだった。

 何だか分からないが、そう言うモンなのだろうか。

 

「おおっ、噂通りお美しい方ですな」

 

 今の格好はひらひらフリルの付いた青と白のロングドレス(でも下にトレンカタイプのロングスパッツ穿いてるよ)を着て、いつものティアラでお姫様イメージを前面に出した姿だ。

 これは恒例の〝愛らしさ〟を前面に押し立てて、民に好意を持って貰うプロパガンダ的な宣伝の産物とは言うものの、俺の容姿を褒めてくれるのは素直に嬉しい。

 ナルシストな性格じゃなかったんだけど、最近はナチュラルに男の娘するのが自然になってきているし、綺麗になるのが嬉しい自分が居るんだよなぁ。

 

「有難う。この容姿のせいで姫呼ばわりされるけどね。

 で、だ。早速なのだが、博士を襲った者の正体に心当たりはあるのだろうか?」

 

 挨拶もそもそこに本題を切り出すと、Dr.ヴォルガは暗い顔をしながら「実は…」と語り出す。

 その内容は「今度の和平会談に殿下は出席なさらないで下さい」との、予想外の物であった。

 

「え、殿下の出席を打診したのはそちらでしょう?」

 

 俺の隣に位置するハツメが、豊かな緑の髪を揺らして突っ込みを入れる。

 しかし、Dr.ヴォルガは首を振った。

 

「最初はそうでした。しかし、今の我が代表団の大半は贋者にすり替わっているのです」

「贋者だって?」

 

 そいつは聞き捨てならないな。

 

「はい。少なくともオストマルクの随員は……。ドン、ウスリー、アムール、ドネツ達は、別人になってしまった」

 

 ヴォルガ曰く、和平会談が乗っ取られるだけではなく、何か大きな陰謀も画策されている感じて俺に、つまりベガ王子へ救援を求めたのだと言う。

 他の官僚、ルビー星の治安組織にも助けを求めたが、一笑に付されてしまったらしい。

 まぁ、使節団には基本的に現地の法に従わなくても平気と言う、厄介な外交官特権がある。

 現地の治安組織も妄想が入ってる可能性が高いじいさんの言葉を真に受けて、藪を突つきたくないって気持ちも分かる気がするからな。

 

「それでぼくか」

「王族の殿下ならば外交官だろうが、対等に相手が出来ますからな」

 

 王族特権って奴だ。場合によっては法もねじ曲げる事だって可能だ。

 ヤーバンでは王族って言うのは超法規的な存在であり、つまり〝外交官特権。ふーん、それが何?〟ってのも出来る。

 

「無闇に用いるべき事じゃないけどね」

 

 そう、使えるとは言っても滅多な事ではやらない。法を無視して自分勝手ばかりやる王族なんて、単なる馬鹿王子のレッテルを貼られるだけだからな。

 しかし、Dr.ヴォルガは目を見開いて驚いている。

 

「どうかしたのかい?」

「いえ、弟殿下とは随分違うと思いまして……」

 

 ブーチンか。奴が何かやらかしていたのかな?

 そう思って尋ねると、以前、オストマルクへ奴の部隊が補給に立ち寄った事があり、愚弟自ら乱暴狼藉を現地民に働いたらしく、これでヤーバンの評判がなり落ちたとの事である。

 

「酔っ払って、女性をお持ち帰りして無理難題を強いた挙げ句、『僕は王族だぞ』の一点張りで謝罪もせずに立ち去りましたからな」

「あの馬鹿……」

 

 頭痛がして来たが、今はそれより、襲撃者の正体を聞くのが先だ。

 それに代表団が贋者に入れ替わっていると言う情報が本当なら、由々しき事態ではある。

 俺はアラーノ中尉を呼び出し「代表団の事を調査してくれ」と要請する。

 

「オストマルクだけですか」

「可能なら、ウエストマルクの方も頼む」

 

 中尉に指摘されるまでもなく、もう一方の代表団も贋者に入れ替わってる可能性もあった。

 

「人選は?」

「君はプロだ。任せるよ」

「はっ、しかし、バンダーとハーラ少尉を任務に就かせると殿下の直衛が薄くなりますが」

 

 俺の事より調査優先だを伝えると、中尉は「では、私は後方で指揮を執ります」と言って敬礼すると、その場を去った。

 まぁ、今は側にテイルやハツメも居るし問題は無かろうと思う。前みたいな装甲服着た歩兵とかがやって来ても、ここは軍事基地だから重火器もあるだろうし。

 

「殿下。有難うございます」 

「不審者が出入りしているとなると大問題だからね。王族として当然の事だよ。

 それよりも贋者だと述べる貴方の言を全て信じた訳じゃ無い。それを確信するに至った流れを洗いざらい話して欲しい」

 

 これがDr.ヴォルガが拉致され掛けてなかったら、単なる老人の妄想でしたって結論で片付けられ、門前払いになってたかも知れない。しかし、ヴォルガは実際に襲われ、しかも相手が正体不明と来ているのなら動かざる得ない。

 

「見た目は普通なのですが、反応が機械的なのです」

「機械的ですか。ロボットみたいに動きがカクカクしいとか?」

 

 ハツメが問うと「近いですな」と、Dr.は首を縦に振った。

 

「時々、動きが止まるのです。そう……コンピューターが演算中に動きを止める様な感じで」

「それは恐いな」

 

 と俺。

 動画再生中に突如、画面処理が停まって、ハードディスクがカリカリと鳴るあのイメージだな。

 

「最初の犠牲者はドンでした。

 彼は最強戦士とも渾名される武道の達人一族の出です。滅多な事では拉致される様な男ではない筈なのですが……」

 

 しかし、ドンは贋者になってしまっていた。話によると、お茶を飲む最中みたいな場面でも、カップを持ったままぴたっと動きが止まって、数秒間フリーズするのだそうだ。

 フリーズしている間。何やらぶつぶつと呟くが、単語の羅列で殆ど言葉になっていないそうだ。

 

 それ以外の場面では会話は普通だし、きちんと本人の記憶もあるのだが、どうも不気味な感じがして仲間のウスリーに相談してみたのだが、そのウスリーも数時間後に同じ状態に、何か異質の存在になり果ててしまったのである。

 

「それからでした。私以外の代表団の者達が、次々と贋者に変わっていったのは」

  

 フリーズするだけでも恐いのに、彼らはDr.や他者がその場に居ない時には停止するらしい。

 仲間以外の者が現れると、取り繕う様に慌てて動き出して会話なんかもする。それが異様に不気味で、Dr.ヴォルガは宿舎から抜け出し、行く宛ても無く彷徨って宮殿へと辿り着いたとの話だ。

 

「では、貴方を拉致しようとした奴らは?」

「心当たりはありませんが、恐らく仲間を入れ替えた連中の仲間ではないかと思います」

 

 そこへテイルがファイルを持ってやって来た。

 

「殿下。お話の最中ですが、これを。

 先程届きました襲撃者の情報と思われる資料です」

 

 俺は素早く内容を確かめると、Dr.ヴォルガにそれを見せる。

 

「貴方が見たのはこいつなのか?」

 

 俺自身は伝聞だけで、襲撃者を直接見ていないからね。 

 

「そうです。間違いなく、そいつでした!」

 

 ファイルに挟まっていたのは数枚のスチル写真。Dr.に見せると彼は興奮してそれを肯定する。

 赤紫の巨体、緑の単眼、そして触手を持つ異形の人型がそこには映し出されていたのだった。

 

 

〈続く〉 




今回のベガの格好は『GEAR戦士』のアルクトス風衣装です。
最初はあのレオタードと腰にサッシュ、頭に仮面とベレー帽にしようかと思ったけど、それじゃ、ベガ王子が只の怪しい人になってしまうので、皇女様スタイルに。水晶色の髪にもマッチしないからね。

皇女コスの構造は謎でした。服本体もお臍の部分が空いてるからレオタード的な物や、上下繋がりのジャンプスーツ(ツナギ)的な構造って画もあったので悩みましたが、自分の感性を信じてオリジナルなドレスタイプに(だから、アルクトス〝風〟なのです)。
参考資料となった某動画の『謎の少女SP』に感謝。
襟は織絵さんの胸を強調する後期の開襟ではなく、最初期の立て襟タイプなのは胸が無いと駄目だから。男の娘だけど、流石にベガの胸は真っ平らなんで(笑)。


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