ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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「行くぞ、ヘ(屁)ガス。デク(木偶)セッター!」
ばしっ、ばしばしっ、
「あっ、あぁ~っ」
全身に茨状のマテリアルが絡み付き、苦痛の叫びを上げる男の娘。

じゃん、じゃん、じゃん、じゃん(×2)、
はぱー、ぱー、ぱぱー、パラララパーっ♪

と書きましたが、本作に『宇宙の技師テッカン(鉄管)マン』は出ません(笑)。


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 当然だけど、ブーチン星は弟の治める領地である。

 大抵、王族や貴族は自分の所領から名が取られているからだ。

 昔の地球でウェールズに領地を持った王子が〝プリンス・オブ・ウェールズ〟と呼ばれたり、日本の武将が〝筑前の守〟や〝能登殿〟とか地名で呼ばれたのもそれになる。

 俺の名だってそうだ。ベガ星の主だから〝ベガ〟殿下である。

 

 無論、これは尊称であって本名は別にある。

 但し、姉上は例外である。本来ならば〝ルビー〟と言う名(女性形では〝ルビーナ〟になる)で呼ばれる筈なんだけど、本名であるテロンナの方が既に知れ渡ってしまっていた為に、敢えてその名で呼ぶ者が居なかったからだ。

 元々ルビー星は死んだ母上の領地であり、急遽、後を継いだ姉にルビーナの名で呼ぶ者が少なかったのが原因だ。

 母上、つまり亡くなったルビーナ王妃は余りにも姉に似過ぎており、ルビーナの名を冠する事を憚られたって事情がある。何より大王である父が嫌ったのだ。

 

「……テイルか」

 

 Dr.ヴォルガと会見後、一旦、休憩に入った俺の前に侍女長が現れた。

 飲み物を持参している。

 

「一息お入れになったら如何です。後の雑務は我々秘書が……」

「中身は何だい?」

「あ、クヴァスです」

 

 俺はグラスを取ると一気飲みした。クヴァスはルビー星のみならず、ヤーバン文化圏に広く伝わる麦類を発酵して作る発泡性飲料だ。

 僅かにアルコールが入る場合が多いが、アルコール飲料とは見做されていないので子供もよく飲む。甘いビールと言うか、何か不思議な味がする飲み物だ。

 

「Dr.ヴォルガの保護はファルコ(鷹部隊)に任せたが、問題はあの異星人だな」

 

 コップを置くと呟く。

 とにかくまだ調査が済んでいないので、具体的な手が講じられないジレンマがある。

 相手は外国の外交使節団であるからだ。贋者に入れ替わっているという決定的に証拠を掴むまでは、手を打つ事が出来ないし、傭兵覇権問題から黒幕は身内(ヤーバン)の可能性もある。

 俺の暗殺を絡めているのが本当なら、傭兵の件からもブーチン配下の者が関与しているのも頷ける。副次的な目的でも上手く成功させれば、傭兵が愚弟に胡麻擦る為の材料に使えるだろう。

 

「傭兵部隊が開発した生体兵器か?」

 

 有り得る。

 だが、そうだとしたらもっと頑強な物である筈だ。戦闘用ならば、レーザーガンの一発で死ぬ様な脆弱な代物を作る意味が無い。

 となると、諜報専門に作られた個体?

 だが諜報活動は傭兵部隊には縁遠い任務だから、わざわざ製造してもコストパフォーマンス(対費用効果)が悪すぎる。意図が判らない。

 

「正体不明ですが、バレンドス中佐が何か知っている模様ですね」

 

 テイルが述べる。そうか、そう言えばあの馬面少尉を待機させているのを思い出した。

 

「あの資料か。写真だけで具体的な説明は皆無だったな」

 

 ゴルヒ・フォック少尉。バレンドスの部下の中でも能力が判らない女だ。有能なのか無能なのか、資料を取り寄せて分析してみたが、抜きん出た切れ者軍人って訳ではなさそうだ。

 いや……。どっちかと言えば、お馬鹿だな。

 

「ゴルヒ・フォックと面会しよう。作戦室に居るアラーノ中尉を呼んでくれ」

 

             ◆       ◆       ◆

 

 扉がガンガン蹴られていた。大声で「何で開かないんだよ!」や「ドアを閉め切って監禁なんて卑怯だぞ!」との声が飛んでいる。

 

「待たせたな。ゴルヒ・フォック少尉」

 

 そこへ入ると別室に待機していた馬面娘は、何故か、大きく脚を振り上げてパンチラしていた。プリーツスカートの奥に、ニーソックスに包まれた二本の白いおみ足と飾り気のない縞パン。

 俺がドアを開けて対面した途端、ヤクザキック体勢で大股開きになっていた脚を慌てて下ろし、ばさばさと両手でスカートを押し下げる。

 

「ス……スライドドアかよ!」

「そうだ。端っから、扉に鍵は掛かってない筈だが?」

 

 彼女は赤面しつつ、照れ隠しの様に「あー、今は少尉じゃないぞ。休暇中の一個人、ゴルヒ・フォックだ」なんて言っている。

 そう言うだけあって着ている服装も軍服ではなく、白と薄紫の私服らしき物だ。

 

「だが、それ(資料)を持って来たと言う事はバレンドス中佐のメッセンジャーと受け取っても良いんだね?」

「中佐って何だい。軍人としての任務じゃないぞ。あくまで、ある方からの荷物を個人的に届けただけだ」

 

 自分に何かあっても、中佐とは無関係だと主張する気なのだろうか。

 バレンドスの入れ知恵ではあるまい。そんな建前なんか通用する世界じゃないのは、彼だって重々承知の筈だからだ。第一、バレンドスはそんな小細工を弄する様な男ではあるまい。

 となると、この小細工は馬面の無い知恵を絞った結果なんだろうな。

 伴って来たアラーノが着席を促すと、馬面娘は素直に席へ付く。

 

「で、君はこの写真の意味を教えられているのだろう」

 

 写真に説明文が何も無いのは、それを説明する為の生きた解説文が彼女であると言う事である。

 俺はバレンドスが何故、これを俺に、ベガ王子に送ったのかを問い質す。

 

「そいつらは異星人だ」

「見れば判ります」

 

 アラーノが突っ込む。彼が「知りたいのは、そんな表面的な事では無いんです。少尉」と続けると、ゴルヒは口をへの字型に結んで、頬をぷうっと膨らませる。

 

「ちゅう……あの方が、殿下にそいつが必要になるだろうって……。

 あたいは反対したんだよ。それ、第一級の軍事機密で田舎のベガ軍はおろか、全ヤーバン軍の一部にしか伝えられてない情報だからさ」

「何だって?」

「あの方が何で、ベガーナ殿下に塩を送るのか理解出来ないよ」

 

 小刻みにふるふると身体を震わせる馬面娘。

 ちなみに俺をベガ姫と侮蔑する奴は、敢えて〝ベガーナ〟と女性形で俺の事を呼ぶ。こいつの俺に対する評価は低いってのが露骨に判るな。

 俺とアラーノ中尉は顔を見合わせたが、直ぐに中尉が次の質問を飛ばした。

 

「バレンドス中佐はこいつの正体を知っているのか?」

「ああ……。あの方が言うには」

 

 アラーノの誘導尋問に気が付かず、ゴルヒ・フォック少尉は答えた。

 やっぱり阿呆だ。こいつ。

 

「タイプJ。宇宙忍者だよ。今、宇宙各地のヤーバン軍に敵対してる謎の敵が居るだろう。その中の勢力の一つだとあの方は言っていたよ」

 

 乏しい目撃例と接触例から得られたのが、この敵だ。

 その正体は軍事用の人造生命とかではなく、まさに〝敵〟なのである。奴らは何処の出身とも知れぬエイリアン達であり、神出鬼没に現れてはヤーバンの宇宙覇権を邪魔して来る。

 こいつはその連中を構成する、雑多な異星人の一つであり、純粋な戦闘力だけ見れば弱いが、変身能力に長けた種族であるらしい。

 

「今回の襲撃事件を掴んだあの方が、この写真と共にあたいを送り出して、こう言ったんだ」

 

 あの方(バレンドス中佐)曰く「お姫様がこの事件を解決して見せてくれたら、その力量を認めなくはない」と宣言し、その為の手助けとしてこの馬面娘を派遣したのだそうだ。

 つまり、奴はベガ王子の手で、侵略者に狙われているこの難局を乗り切ってみろと試している訳か。

 

 

〈続く〉 




あー、遂に出してしまった。活動報告でもちょびっと触れた闇に蠢く『悪党公団ワルガスダー』(元ネタは、ワルガスター)登場です。
ジュr…ごほん、ごほん、タイプJ宇宙忍者は奴らの配下って設定。流星魔人の登場は先かな?

しかし、今回も2,000字から800字近くもオーバーしてしまった。いかんなぁ。

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