さて、彼女は何者なのか?
あ、口調は似てるけど某帰国子女の戦艦や、エルコンドルパサーじゃないよ(笑)。
今回の作業用BGMは『横溝正史シリーズI』の主題歌。ええ、本当に〝幻の人〟その物な曲です。
誰だ?
視界が暗い。何処なのかも分からぬ空間。
前方に立っているのは、如何にもスタイルの良さそうな女の子。
「くすくすくす……」
口に手を当てて笑っている。だが、顔立ちははっきりとしない。
褐色肌の長身。だが異様なのはその格好だ。
ビスチェみたいな肩出しの白いボディスーツ。
大きく丸い尻尾と同色系の白いウサ耳。
カフスに赤の蝶ネクタイ。
ハイレグから伸びる網タイツの足元は、ヒール付きの赤いパンプス。
そう、カジノか何かに居そうな、バニーガールその物のスタイルをしていた。
周りは暗いのに、そのバニーが何ではっきりと見えるのかは謎なんだけど。
「君は誰だ?」
女の子は長い黒髪を振り乱すと、こちらに向いて首を傾げる。
バニーが腰の辺りに下げている懐中時計の銀鎖が白地にピンクのロゼッタと擦れあって、チャラチャラと乾いた金属質の音を発した。
「誰? ああ、よーやく気が付いたのデスか」
顔はもやが掛かっている様に曖昧で判別が付かないが、その口から出たのは少女らしい甘い声質だった。でもイントネーションが独特で、インチキ外人みたいな喋り方が耳に付いた。
「それを尋ねたいのは私の方デース。ベガ王子、いや、リーミン・ベガ・ヤーバン」
滅多に知られていない俺のフルネーム。
それをバニーガールがいとも簡単に口にする。
「お前っ、何故、その名を!」
彼女は「こんな名前なんか、どうでも良いのデスよ」と吐き捨てて、「私が知りたいのは本当のYou(ユー)デース」とか、相変わらずインチキ外人調で俺に問うて来た。
「本当の自分だと?」
バニーガールがこくこくと首を上下させ、彼女の頭に載っているウサ耳、ラビットヘッドシンボルがゆらゆらと揺れる。
「一応、ミーも自己紹介シマース」
少女はくるりと振り向き、白いバニースーツに包まれた褐色の身体をこちらへ向けた。
足を片方軽く曲げて、腰に手を当てるバニーガールが良く見せるモデル立ちになって、腰前に留めたロゼッタをこちらへ向ける。
「最近使った名は……んー」
チラリと自分の腰に視線を落とす。ピンク色の花びらに囲まれた白く丸いロゼッタの表面には、赤字で〝Black Mist〟の文字が書き込まれていた。
「そうそう〝ブラックミスト〟ネ!」
その時世界が揺れて、光が辺り一面を包んだ。
◆ ◆ ◆
「殿下、殿下!」
気が付くと視界に緑の髪の毛が飛び込んで来た。
ハツメがゆさゆさと俺の身体を揺さぶっている。
「何かうなされていましたので、起こしてしまいましたけど……」
心配そうに顔を覗き込むハツメ。俺はひらひらと手を振って「大丈夫だよ。変な夢を見てただけだ」と答えて仮眠していたソファから身を起こす。
「どの程度寝ていた?」
時刻は深夜になっていた。
テイルは不在だ。俺はハツメに暫くの間、代行を任せて仮眠していたのを思い出す。
戦闘は思いの外、長時間続いたからだ。
「半時間程度でしょうか。続報は未だ入って来てません」
ウエストマルク代表団へ向かったハーラ少尉らが待ち伏せを受け、敵対勢力との間に戦端が開かれた。
敵の正体はワルガスダーの一味だった。
代表団は既に奴らの手によって贋者にすり替えられたらしい。その調査を進めようとしたハーラ少尉にも襲いかかってきたのだが、やり方が巧妙だった。
ワルガスダーの宇宙忍者達が取った戦法は、味方同士を相打ちさせる物であったのだ。
「まさか、ハーラ少尉が重傷になるなんて……。信じられません」
ちなみに「あの単眼が、洗脳光線を放つとは……」とは、後に帰還したアラーノ中尉の言葉である。宇宙忍者は緑の単眼を輝かせると、洗脳ビームでハーラ少尉らの戦力分断を図った。
配下の兵がこれに引っかかり、宇宙忍者と共に味方を撃ち始めたのだ。
更にワルガスダーは別のタイプの異星人、ゴルヒ・フォック曰く〝流星魔人〟をも繰り出してきた。こいつはタイプSと呼ばれる個体で、タイプJに比較すると戦闘向きの能力を持っていた。
「ワルガスダーを甘く見ていたな」
相手がアステカイザーみたいな超人だったから、相対的に弱く見えていただけなのだ。
生身の兵士が対峙したら、ワルガスダーの雑魚共でも恐るべき能力を発揮するのだというのを思い知る。
特に流星魔人はテレポートを駆使する上、口から火球まで吐くのである。
人型のドラゴンみたいな奴だ。加えてタフで、ビームの一発程度では死なない。
「奴らがこんな強攻策に出るとは思わなかった」
今までのワルガスダーの活動は、世を忍んで表沙汰にならない様に行動していたらしい。
だが、今回の連中は街中で派手に銃撃戦をやらかしてくれたのだ。
ウエストマルクの大使館に籠城し、代表団や職員を人質に取ったのである。
「狡猾ですね」
「ああ……。代表団の人達はすり替えられた贋者なんだが、それを証明する手段がないからな」
騒ぎが大きくなり過ぎて、秘密裏に処分出来る段階を越えてしまったのも問題がある。報道クルーまで現場に来てしまっているからな。
こうなっては『こいつらは敵だ。構わないから焼き払え』として、一緒くたに葬り去る訳にも行かない。
よって鎮圧部隊は神経麻痺銃(パラライザー)に武器を替えて、とにかく洗脳された兵士他を制圧しようとする作戦に切り替えたのだが、上手く行っていない。
無力化する効果を得る為にパラライザーの射程って極端に短いからだ。レーザーガンの半分以下なんだよ。
遮蔽物を盾にじりじりと接近してるけど、向こうは遠慮会釈無く殺す気で撃ってくるしな。
「激しい銃撃戦が途絶え。既に一時間も睨み合いが続いています。
あっ、何者でしょうか!」
テレビ画面がライブでその模様を映しているが、そのキャスターの台詞と共に画面がパンする。銃撃戦の現場になってる大使館の正面へ一台のトライクが突っ込んで行く。
トライクに跨がるは額に輝く青い宝玉。炎を象った頭飾を付けたマスクマン。
「アステカイザー!」
俺の叫び。ハツメが何事かとビックリして、俺の方を訝しげに見る。
そう言えば、こいつがアステカイザーだと知っているのは俺だけだったな。バトルホークと違って他の者達は名称を知らず、謎のマスクマンとしか認識していなかった筈だ。
「怪人が襲いかかりました!」
キャスターの女性が叫ぶ。
トライクを飛び降りるアステカイザー。そして大使館側で発砲している兵士。無論、洗脳で操られている。にアステカイザーは接近すると、その身体へ容赦なく拳を振るったのだ。
〈続く〉
バニーガール好きですか。自分は大好きです(笑)。
さてブラックミストさん。まぁ、判ると思いますがアステカイザー繋がりです。
名前だけだけどね(原作にはサイボーグ格闘士「ホワイト・バニー」とかは居ません)。
『勇者110番』(PBM版)に登場したあるキャラが外見のモデルだけど、こっちも殆ど関係ないかな。そもバニーガールじゃないし、同人誌(でも公式!)にしか出て来ないから、参加者でも知ってる人も余り居ないだろうし……。