いや、エスパーだって意味もあるけどね。
だからこそ、今後、あんな行動しちゃうんでしょうけど(ネタバレなので、以下自粛)。
「酷い物ですね」
未曾有の被害が出ている軍病院へ訪れた姉は呟いた。
被害は軍の犠牲者だけでも三十人を超え、大使館側の犠牲者を入れれば百名以上になる。
これにワルガスダーも入るんだろうけど、幸か不幸か、奴らは死ぬと死体も残さずに消えてしまうので証拠を残さない。だから、こいつらが主犯だと証明も出来なかった。
「はい。お預かりしたファルコに犠牲が出てしまいました」
「ハーラ少尉は残念でした」
あの女性士官は、姉と旧交があったらしい。
俺は余り関わる事が無かったから、余り印象はないのだけども、姉とはかなり親しい仲であったらしく、アラーノ中尉やバンダー少尉らにもお悔やみの言葉を掛けている。
「報道管制は?」
「やっています。しかし、大事件故、どうしても外に漏れるのは仕方ないですね」
表向き大使館をに立ち篭もったのは、ウエストマルクのテロリストという名目になっている。
いわゆるヤーバン勢力を排除して、鎖国状態へと立ち返ろうとする保守派の過激分子である。彼らは幕末日本みたいな攘夷運動を行い、しばしばテロ活動を起こす事で有名だから、利用させて貰う事にしたのだ。
最初に交戦に至った際、ワルガスダーの宇宙忍者達とも戦闘になったのだが、報道クルーが到着した時には彼らは既に引っ込み、代理となった洗脳兵士達が矢面に立っていた為、異星人と戦っている事実は防ぐ事が出来たのは僥倖なのかも知れない。
「貴方の侍女長をお返ししますよ」
と姉。見るとテイルが後ろに控えていた。
テイルは「ヤーバン熱線ミサイルの件で相談したのです」と告げた。
「とてもなく、ヤバい代物なのですか?」
深刻な顔になる姉。そして「場所を移しましょう」と答える。
俺も賛成し、専用車に姉を案内するが同行者はテイルだけに限定した。
「ハツメ。君は外だ」
「はい。イチメ、サンメ、リンメは警護へ。レモメ、マロメ、メロメは周辺警戒」
少女は素直に頷いて、同行のシャーマン侍女達を指揮して周囲に陣取る。
車内はテーブルを挟んだ対面式に座れる程でかなり広い。そして、扉を閉めると完全防音状態になる。
「あれは軍の機密情報では〝フォットミック・ブラスター〟として発表するそうです」
「フォトン……。つまり光子力ビームですか」
俺は『マジンガーZ』をすぐさま連想した。光子力ビームはかのスーパーロボの武器の一つとして有名だが、威力的に特に優れているとは言い難い。
必殺武器としては〝ロケットパンチ〟や〝ブレストファイアー〟そして、〝ルストハリケーン〟に負けている印象がある。
だって甲児の拳銃やパイルダーの射撃兵装。後にビューナスAにすら装備されるお手軽武器という印象が強いのだ。サブ兵装みたいな感じで一撃必殺のイメージはない。
「過去にヤーバン軍も実用化していますよね。今更、何故……」
威力としては今、軍が採用しているベガトロン砲と大差ないはずだ。
テイルは「原理的にはそうです。但し、あれの出力が桁違いだと言うに過ぎません」と資料を手渡す。
「これは!」
資料には桁違いの出力を誇る光線砲の性能が書かれていた。
一寸待て、これって天文学的な出力だぞ。惑星すら貫けるんじゃないか!
「しかし、これすらダミーなのです。父上……大王が本当に恐れたのは別の物です」
「機密資料2をご覧下さい。それが〝ヤーバン熱線ミサイル〟が持つ本当の性能です」
二人の女性が口に出す内容に、俺は打ちのめされる様な感覚を覚えた。
確かに単純に使えば、これは文字通りフォットミック・ブラスターとして作用する。しかし、回路を切り替えて別の方法で使うと、それ以上の悪魔の兵器になってしまうのだ。
父がこれに〝熱線ミサイル〟とか名付けて、存在を秘匿したかったのも判るよ。古代種族。貴様らはなんて物を実用化してたんだ!
「しかし、これも光量子エンジンがあるからこそですね」
「はい。無限に供給される出力がないとフォットミック・ブラスターも最終兵器も稼働せず、単なるガラクタです」
確かに凄い性能だけど、用意出来る動力源がなければ絵に描いた餅だ。
それをブレイクスルーするのが、光量子エンジン。例のクリスタルである。
ワルガスダーが狙っていたのはどっちなのか、多分、両方なんだろうけど、成る程、あるなら欲しがる訳だわな。
「で、肝心の熱線ミサイルだけど、あれって再生可能なのかい?」
テイルは首を振った。
「今のままでは難しいでしょう。クリスタルと違って予算がありません」
うん、分かってるよ。うちがひねり出せる研究費用なんて雀の涙だからな。
光量子エンジンの方はほぼ手を加えなくても完動したから、大した資金は掛けないで済んだけど、熱線ミサイルは遺跡の内部で発見した時にはボロボロだったからね。
こいつを元の様にレストアするには膨大な手間とお金が掛かりそうだから、後回しになっているのが厳しい現実である。
「予算の方は心配ないでしょう」
頭が痛い所に、思わぬ姉の声が。
「多分、近い内に本国から調査団が来るわ。大王が送り込む筈よ」
「……そうなりますか」
「父上が、あんな危ない物を放置する訳はないわ」
まぁ、そうだけど、そう言えば何で父、ヤーバン大王がこの兵器の事を知っているんだ?
俺はその疑問を姉上達に吐露した。
テロンナ王女はため息をつき、テイルは済まなそうに「兄が報告したのです」と伝える。
「何故、ツインが?」
「兄は元々、ヤーバン大王に目を掛けられていましたからね」
待てや。ツインって父上のエージェントだったのかい。
テイルは「私もそうです。元々、我ら兄妹はヤーバン王家に仕えるテール家の出です。殿下の配下になっているのもその流れになります」と告白した。
そう言えば、テイルが初めて俺の元に仕えたのはかなり前だったな。何も知らない幼少の頃からずっと居て、隣に居るのが当たり前だと思ってたから、特に身辺調査なんかやってないぞ。
「ベガが独自に組織を立ち上げようとしたのは最近よね?」
「……はい。姉上」
俺の、ベガ星の組織は殆ど父と姉の尽力の下に整えられたのは事実である。
だって、半年前に〝俺〟になる前はお飾りの君主だったからだ。ガンダルやテイルなんかの人員を用意してくれたのは、俺の力ではない。
最近になってようやく、俺の手で人材発掘を行ってズリルやヨナメなんかを揃えたのだ。
「王家の一員として、恥ずかしくない君主になろうと思ったのよね?」
「弟は目障りに感じているかもですが……」
その言葉に姉は目を伏せた。
やはり、妾腹とは言え、身内同士の兄弟喧嘩は見たくないと言う事か。
「……気が付いているかもだけど、今回の騒動もブーチンが、いえ、正確にはその配下が絡んでいるとの噂があるわね。あら、言ってはいけない事だったかしら」
「バレンドス中佐からの報告ですか?」
情報源となるのは彼しかおるまい。やはり中佐の忠誠は、俺より姉にあるんだろう。
そう見当を付けたが「それはご想像にお任せするわ」と姉はさらりと躱した。姉として、この情報はサービスのつもりだったのかも知れない。
「傭兵問題の事は知っています。しかし、異星人が……」
「ワルガスダーね。そこら辺の事は知っているわ」
意外な事に、姉様はワルガスダーの事を話題に出した。
まぁ、これもバレンドスが報告していたのだろうな。
「極めて深刻な事態よ。そして、恐らく弟は……ブーチンの手の者はワルガスダーの工作の手に堕ちている。もっともプーチン自身に操られている自覚が有るか、無いかは知らないけどね」
姉は天を仰ぐとこちらへ顔を向けた。
「私がこの星を離れる前に何とかしたかったんだけど、もうすぐ、私はフリード星へ嫁ぎ、姫ではなくなる。だから、ベガ」
姉は真剣な顔になり、居住まいを正すと「異星人に関する問題。貴方に任せるわよ」と言ったのだった。
〈続く〉
新たな侍女シャーマン達。
って、檸檬、栃実、舐瓜の方は檸檬以外、読みに非対応だから漢字にすると分かり難いかな。
しかし、マロニエ(マロン)って栗ではなく、セイヨウトチノキの実だったのね。ずっと栗だと勘違いしてたよ(笑)。