今回の作業用BGMは『宇宙空母ブルーノア』から「ゴドム」です。
実は三部作で、他の二曲も素晴らしいのですが、最後の「ゴドム~侵略者」はハープシコードとマリンバの旋律が素敵なので気に入ってます。
ゴドムが流浪する曲(白色彗星状態)なのも好きなんですけどね。
姉を帰した後、事後処理に当たってバタバタする内に夜が明けた。
俺はガンダルに面会して事後処理を進め、午後には今回の犠牲者に対する葬儀へと出席した。
この間、仮眠三時間。美容には悪いな。
そして、当然だが、マルク星の和平会議は中止となった。
ウエストマルク代表団が根こそぎ死亡してしまったのだから、分からなくもない。
しかし、一つだけ問題があった。
「私は母星へ帰りたくありません」
と主張するのはDr.ヴォルガだ。
彼は未だ我々の保護下にある。不気味な自国代表団と共に帰国するのを拒んでいるのだ。
「バンダー少尉。どんな状況なんだ?」
俺はDr.の後ろに控えている士官へ質問する。
彼はハーラ少尉に代わり、Dr.ヴォルガの保護担当にもなっている。
「オストマルクの代表団ですが……、その、不気味として言えなくなってるっす」
少尉の言葉遣いは野卑な感じだが、王族を前にシャチホコ張った言葉が苦手である様子なので俺は許したのだ。もっとも、上官であり兄のアラーノ中尉に見付かると大目玉らしいのだが。
「例の機械的反応かい」
彼は頷く。調査では代表団のみならず、その周囲の者までおかしくなっているとの話である。
先の事件で披露されたワルガスダーの洗脳光線は強力だが、それでもあれには時間制限があり、洗脳された兵で生き残った者は。既に効果が解けていた。
大体、時間にして数時間が限界らしい。
「代表団が洗脳光線で操られていると思っていましたが、どうも、それだけでは済まないようっす」
「例えば?」
少尉は苦虫を噛み潰した様な表情で「既に本物は処分されているか、もしくは肉体改造の類いを受けていると疑っているっす」と報告する。
「続けてくれ」
「Dr.ヴォルガの言われる通り、普段の反応は本人その物でした。たまたま代表団に近しい人物の存在を知ったのですが、フォルジュさん、ああ……近所の花屋の娘なんすけど」
大使館に毎日花を届けている花屋があり、そこの従業員から聞き込んだ話なのだが代表団の一員との日常会話を交わす限り、特に怪しいそぶりを見せる事はなさそうたと言う。
本人同士しか知らぬ、一寸した情報なんかも受け答えしていたらしい。
「誰ですか?」
Dr,ヴォルガの質問にバンダー少尉は「ランダム氏っす」と答える。
誰だか知らないが、博士が頷く所を見ると知り合いなのだろう。
「何でも、花屋の娘が二年前に教えた自分の個人情報を覚えていたそうっす」
「たわいもない情報なのかね?」
「はい。彼女の家族構成らしいっすよ」
死んだ両親や養父。生き別れの義兄。幼い住み込みの店員や飼ってるペットの話とか、本当にどうでも良い情報なのであるが、身の上話を聞いてくれたランダムはそれを覚えててくれたらしく、先日、大使館で会った時に「今日は店員のダントン君と一緒ではないのかね?」と尋ねて来たと言う。
「贋者が知っている様な情報ではないのぅ」
「確かに、覚えていても仕方の無い類いではありますね」
俺はDr.に同意した。となるとワルガスダーはそんな個人情報をもフルコピー出来る何か技術を持っているのだろうか?
だが、人目がなくなると贋者達は、そんな人間らしい活動を停止して待機状態に入ってしまうのは、外からの監視でバンダー少尉らが確認済みだ。
不気味なのは、大使館の職員らも徐々に彼らの様な存在に冒されて行ってる最中なのだそうだ。
「昨晩まで正常だった人間が、今朝には奴らの仲間になっているのは不気味っす」
「が、強制捜査すればハーラ少尉の二の舞になるぞ」
俺は警告する。手っ取り早く、証拠を掴もうと焦った結果、あの悲劇が起こったのだ。
生体反応はそのままだったから、ロボやアンドロイドにすり替えられたとの結果ではなさそうだが、かと言って治外法権の大使館敷地内で拉致する訳にも行かないだろう。
ちなみに、ウエストマルク側の代表団の死体は検死結果では普通の人間だったそうだ。
「代表団の帰国予定は?」
俺は傍らのテイルに尋ねた。彼女は「発表はありません。しかし、近々、本国から召還命令が来るでしょう」と常識的な答えを返した。
彼女曰く、停戦の機会を逃したのだから、すぐさま戦時体制に入る筈だからだそうである。
「そう言えばDr.ヴォルガに関して、代表団からは何も言われていないのかい?」
「特には……。何も言ってこないのが不気味ですね」
そんな会話があったのが今日の午後だった。
そう、今は違う、俺は宇宙船に監禁されて、行く先不明の旅に出ているのだった。
和平会議の前提が潰された時点でオストマルクだの、ウエストマルクだのの星に関しては優先事項ではなくなっていた。
ベガ王子にはそれより重大な、テロンナ姉様の輿入れと惑星領主引き継ぎの儀が待っているのであるから、両マルク星問題からは手を引き、アラーノ中尉なり、バンダー少尉なりに一任して、そっちの方にかかり切りになる筈だったからだ。
「……ここは?」
星間宇宙船のタラップに立って手を振ったのは覚えている。
ルビー星からベガ星へ帰還する時、襲撃者共は現れた。着物みたいな変な服装をしていたが、顔にはガスマスク状のヘルメットを装着していたのが印象的だったな。
奴らは最初にガス弾を撃って来た。
不覚だったが奇襲だから、俺はそいつを吸ってしまった。
毒ガスだったら即死だったろう。
慌てて息を止めたけど間に合わず、その後の記憶は途切れている。
「気が付いたか、ベガ王子」
「……オストマルク人だな」
俺の前に立った男。体系から男と判断しているに、俺は言葉を投げかける。
日本の着物。どちらかと言えば、スコットランドのキルトにも似ている、に似たロングスカート状のタータンチェックな袴みたいなのを穿いている男共。
確か、これはオストマルクの民族衣装だ。を着た奴は「流石は王子。属国の文化に精通していなさる」と、賞賛だか侮蔑だか分からぬ台詞を返した。
〈続く〉
少し遅れました。
金曜に発表する予定だったのですが、何とか木曜にアップ出来ました。
花屋の娘は、ルビー星貴族の養女です。反逆の汚名を着せられて断絶。義兄は他星へ追放って、本編には全く関係ありません(笑)。
相変わらず2,000文字をオーバーしてます。むぅぅぅぅ。