ちなみに52話からの章を「マルク編」にしてみました。
今回の作業用BGM『鉄人28号』から「鉄人28号」です。
平成リメイクアニメ版。おっさん達のコーラスが何とも気持ちいい。
アニメ本編もレトロフューチャー感一杯で良かった。『サブマリン707』もあの感じでリメイクして欲しい。あくまで1960年代から見た未来な感じでね。
実は『ベガ大王』ワールドも1970年代(『宇宙円盤大戦争』や『グレンダイザー』が公開された時代)から見た未来の世界なのです。ナノマシンだのワープだのがあるのに、ネットとかの情報世界が構築されて居ないのはそのせいです(笑)。
男共は三人。
腰には変な形の刀を差しているが、これは〝ソリッド〟だろう。
これは特定の固有名詞ではなく、特殊な実体剣の総称だ。刃にビームソードとも打ち合える特殊加工が施されている刃物である。
が、それ以外は普通の刃物だ。別に高周波ブレードの様に振動してる訳でも、ヒートソードみたいに高熱で相手を焼き切ったりはしない。単に切れ味が鋭いだけである。
「ウエストマルクの代表団を闇に葬ったのは貴様だな?」
三人の内、ヒラメみたいな顔をした男が問うて来た。
俺は「拉致犯人に答える義理はないが、ぼくの仕業じゃない」と返答する。
「さて、君らの名は?」
「こいつ!」
一番背の低いちびが俺の言に反応するが、ヒラメ顔がそれを押さえる。
そして、ずいっと前に出たのは一番の大男だ。
「失礼した。拙者はバク・ラリアードと申す」
「俺はガン・マグナム」
大男に続いてヒラメ顔が名乗る。最後にちびが「マグ・アンドロメーダ」と呟いた。
「見た所、オストマルクの過激派だよね。君ら」
「失礼な。我々は〝シシ〟だ!」
確か〝シシ〟と言うのは、オストマルクやウエストマルクの革命家を指す単語だったかな。にわかだけど一応、勉強した知識にはそうあった筈だ。
日本語で考えれば「志士」なり、百獣の王たる「獅子」になるのかも知れないけど、これが偶然なのか必然なのかは俺には判らない。
ちびのマグとか言う奴が再び吠えたけど、俺は「まだテロリストと言ってないだけ、君達の事を買っているんだがね」と皮肉っぽく伝える。
「で、マルク戦争を止めたいのか。激化させたいのかどちらだい?」
俺はリーダー格だろうと目星を付けた大男、バク・ラリアードに続けて問う。
常識的に考えればヤーバン王族を拉致るんだから、一掃激化させるだけだと思うけどな。傭兵部隊なんかとは装備が桁違いのベガ軍が出て来るぞ。
常々、ベガ軍を田舎軍隊と自虐してるけど、それは比較対象が他のヤーバン正規軍に対してだ。
少なくとも、ウエストマルクやオストマルクの田舎軍隊と戦ったら、鎧袖一触に出来る程度の戦力は充分にあるのだ。かのスカルムーン師団クラスはあると言っても良い。
「貴様が裏で糸を引いてるのだろう。ウエストマルクの代表団を皆殺しに……」
「控えろ」
答えたのはバクではなく、またしてもマグだった。
瞬間湯沸かし器みたいに反応した奴を、制止したのはヒラメ顔である。
バクじゃないけど、まぁいいか。俺は「オストマルク代表団を襲ったのはテロリストだ。ぼくが代表団を潰して何の得がある」と説明する。
「大方、マルク戦争を長引かせる為の工作だろう」
「ヤーバン人がやりそうな手だ。我々の星を食い物にする夷狄め!」
呆れる程に単純すぎる。視野狭窄に陥ってるよ、こいつら。
幕末の攘夷派なんかもこれに近かったのかも知れない。素朴で単純な正義感だけで動いてるんだよな。
自分達の星を巡る紛争に介入して、和平会談を潰した。
一番悪いのは、その親玉であるベガ王子に違いない。なら天誅だ。程度の事で動いたんだろうけど、その結果、今後の情勢がどうなるかっって思い至らないのかね。
「傭兵会社所在地はぼくの領土じゃないから、何のメリットもないぞ」
と返すと「貴様の弟が手を回しているんだろう」と来る。
ブーチンに頼まれて俺が工作したに違いないって話になってるようだ。俺と弟は不仲だぞと言っても、血の繋がりがどうとか言って理解してくれない。
「不仲なら、何故、貴様とブーチンは兄弟なんだ」
「そりゃ、血縁だからだろ」
「判らん。何故、不仲になった途端も縁を切らないのだ!」
どうもマルク星では血縁関係や肉親の絆って奴が、日本とかヤーバン文化圏よりも強固であるらしい。
不仲になったら、直ぐに独立勢力であると宣伝して、今までの縁も全て忘れて敵対すると言うのが、マルクでの正しい〝侠気溢れる態度〟なんだそうな。
いや、他の星の文化を「おかしい」と、自分の所の常識を押しつけられてもなぁ。
「これだから、ヤーバン人は信用出来ない」
ぶつぶつと呟くマグ。
そこへ、今まで黙っていた大男が瞑っていた目を開いた。
「この宇宙船は、今、オストマルクに向かっている」
「そこでぼくをどうする気だい?」
「迷っている。公開処刑も考えていたが……。暫く、ここで大人しくしてて貰おう」
バクはそう言い残すと、仲間二人を促してその場を去った。
◆ ◆ ◆
さて、改めて現状を確認しておこう。
俺が今居るのは宇宙船の船内。広さは八畳間と言った所で広くも無けりゃ、狭くもない。
インテリアは無いよりマシって所だね。貨物室よりは上等だけど、一等船室には程遠い造りである。
「作り付けのベッドと椅子はあるけど、上等じゃないなぁ」
辺りを見回す。壁にあるモニターとか電子機器の類いは撤去されてはいないが、使えるのかは不明である。
ただ、監視カメラの為に生きては居るんだろうと思う。
窓はある。が、外の光景は漆黒の宇宙空間で何処を飛んでいるのかは判らない。至近距離で惑星なり、恒星なりが目に映れば特定のしようもあるんだけど、ただ光ってるだけの星だと判別何て付きやしない。
『ガンダルやズリルが動いてるだろうな』
誘拐されたんだから追撃の軍は出ている筈だ。
俺は嘆息するとケープを脱ぐ。拉致された時は礼装のままだから、少し暑苦しいのである。
造りから見てこの宇宙船は民間の物らしい。窓から外から見る限り、大きさもそんなに大型という訳ではなさそうだ。塗装から空港に停まっていた奴を強奪したのかも知れない。
『やり口から用意周到と言うより、行き当たりばったり臭いな』
幕末の英国公使館焼打ち事件みたいな感じだ。とにかく外国人、この場合は異星人だな、に天誅を喰らわせてやりたいから、何も考えずに実行に移す感じだ。
でも、まんまと成功してしまったのだからタイミングの良さと運もあったのだろう。
先の事件で、護衛の鷹部隊が半減してしまっているのも原因だな。
ちなみにハツメやテイル達、侍女部隊もちゃんと働いているのは確認している。こいつらの仲間は襲撃時にもっと多かったんだけど、ハツメ達がその大半を防いでくれたからだ。
『ま、結局、多勢に無勢で押されたけどな』
数が違い過ぎた。侍女達はせいぜい十人。対してシシはその数倍の数で攻めて来たのだ。
まぁ、殆どの武器は変な形のソリッドだから、侍女部隊でも何とか渡り合っていたのが幸いだった。相手が銃器を持ち出してたら、圧倒的に不利だったろう。
『まな板の鯉な訳だけど……まぁ、何とかなるか』
喉が変にならない限り、俺は奴らに勝てると計算している。
ヤーバン王家を舐めるなよ。これでも王子なのである。超能力を使えば、当面の危機は回避出来るだろう。問題は動くタイミングにあるんだけど、さて……。
「まぁ、この見た目で油断してくれると助かるんだけどね」
そうごちると、俺はベッドに座って呟いたのだった。
〈続く〉
襲撃に集まったオストマルク人達はルビー星に来ていた留学生です。
わざわざ本星から集まった訳じゃないよ。英国嫌いでも、本星から技術を習得させる為にイギリスへ派遣された藩士がいたでしょ、伊藤博文や井上馨ね。あれのベガ大王版だとでも思って下さい。
ウエストマルク事件を「けしからん」と決起して、首謀者のベガを討つ為に自発的に集まったと言う所ですね。