ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは『大航海時代Ⅱ』から「世界の港を巡って」です。
好きでしたね。大航海時代シリーズ。Vは途中リタイヤだったけど、Ⅲとオンライン以外はやった事があって、特にⅡとその外伝はやり込んだ。
影響は『エロエロンナ物語』の方が顕著だけどね。ジーベックだのサムブークだの。あの世界でラティーンセイルが大活躍している理由は、多分……(笑)。


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              ◆       ◆       ◆

 

 また、例の暗闇だ。

 闇だと言うのに視界は効くから、可笑しな空間だなと思う。

 空はある。どの程度高いのかは知らないが、蓋はされていない感じだ。

 地面と言える物もあって足がそいつを踏みしめているが、硬いのに少し力を入れると沈み込む感触がある。

 硬質のゴムみたいな地面だ。

 

「さて、今度は何だ。ブラックミスト?」

 

 俺は問うた。

 それに例のバニーガールが答えるかと思ったんだけど、返事はなかった。

 

「寝ているのか?」

「ejf6o19……」

 

 だが、返答はあった。全く違う声ではあったけどね。

 何だ?

 

「-4、0t@b5ifyk4r.kt。b;fg)4n2@te!」

「誰だ。姿を現せ」

 

 その言葉は俺から見れば、言語の体を成していなかった。

 しかし、声質は判る。あのバニーガールの声とは全く異なる男の声だ。

 感じからして若くはない。壮年、いや老人か?

 

「まだ……み51か」

「言葉が!」

「完全にs@4a……しておら194q@u。まだ、早かったsukq@\4t」

 不完全だが意志が伝わる。同時に目には見えないが第六感とでも言うのか、感覚的に何か大きな意志がそこに存在するのを知覚する。

 物質的ではなく、空間内に存在している何等かの意志。

 

「耳を貸してはいけまセーン!」

 

 けたたましく飛び込んで来る声。

 それはブラックミスト。バニースーツに肢体を包んだ女の子であった。

 

「貴方が何者かを知覚する前に、あれとの接触は大変危険デース!」

「何を……おわっ!」

 

 バニーガールの手が腰に伸び、ぶら下げていた時計の銀鎖がしなりながら俺に飛んで来た。重い懐中時計をこいつはフレイルみたいに武器にしたのだ。

 目の中に火花が散った様なショック。痛みと共に意識が揺らぐ。

 

「……え……何者……思い出し…」

 

 ブラックミストが何かを呟いていたが、それを最後まで聞き取る事は出来なかった。

 

              ◆       ◆       ◆

 

 はっと気が付くと船内は喧噪に包まれていた。

 ビー、ビー、ビーと警報が煩い。咄嗟に跳ね起きて状況を確認する。

 

「何だ。ちゃんと作動するじゃないか」

 

 駄目元で壁に埋め込まれた情報端末を操作してみると、意外な事に機械は正常に働いてくれていた。つーか、機能を殺してないのかよ!

 ブリッジにカメラの位置を合わせて操作すると、蜂の巣を突いたような大騒ぎが映し出される。

 

「畜生。何なんだ、あいつら!」

「ベガ軍か、ルビー軍か。こっちには王子が人質で居るんだぞ」

 

 窓の外が眩しく光った。一本の光条が船体をかすめたのである。

 どうやら、この船は攻撃を受けているらしい。

 

「オートパイロットを解除しろ。拙者が操船する」

「バクはペーパーだろう!」

「安心せい。シミュレイターなら高得点でござる」

 

 おいおい、大丈夫なのかよ。

 俺はモニターから離れると扉の前に立った。

 

「やれる」

 

 扉の破壊だ。無論、この扉が単純なノーマルドアで(エアロックではない)、鍵も物理的なロック機構であるのは事前に調査済みだ。

 透視でかなりの力を使ったから、先程まで寝っ転がって体力回復に努めていたんだよね。

 変な夢を見たような気もするけど、まぁ、それはどうでも良いか。

 

 力を手先に集中する。

 解放する光のイメージ。サイコキネシスの砲弾を放つつもりで扉へすっと手を伸ばす。

 掌に集まってくる力。それを溜めて、調べていたロックの位置へと解き放つ!

 ぼすっ、と鈍い音がしたが、途端にがくりと膝が崩れて俺は座り込んだ。

 

「うわっ、結構、威力有るんだな」

 

 そのまま一分程度、ようやく顔を上げて結果を見るが、やっといて自分のパワーに驚く。

 溶解して扉に小さな穴が空いてるんだよ。

 鍵部分を見事に破壊している。これ凄くないか?

 

「戦車は無理でも、装甲車程度ならやっつけられそうだな」

 

 無論、兵器として考えるなら愚策だ。

 精神を溜め込んでる間は無防備だし、発射直後はへろへろになって動けないから良い的になってしまう。

 レーザーガンを撃ってた方が遥かに効率は良いよなぁ。

 

 でも、これを連射出来る大王とか武姫なんて人種も居るんだよな。俺じゃ不可能だけど。

 おっと、それ所じゃないな。俺は扉を開け放つと、よたよたと駆け出す。

 

 こいつは小型の宇宙貨客船。個人船主なんかが用いる自由貿易船と言うタイプだ。

 扉の所を見ても判るが、高度な技術と言うより、枯れているけど堅実で安価な造りで組み立てられている。全体的に性能は大した事は無いけど、経済性が再優先に設計されていて、運航費も安く利益率は高い。

 A型自由貿易船か昔の『宇宙船サジタリウス』の主人公船みたいな感じ、と言ったら、マニアなら判るかも知れない。

 

「造りが単純で助かるよ」

 

 豪華客船とかだったら、迷子になってたかも知れない。

 しかし、この手の船は構造が単純だ。通路一本に沿って左右に船室。前へ行けばブリッジ。後ろへ行けば機関室の筈だ。

 俺は迷わずに真っ直ぐ進み、ブリッジへ飛び込んだ。距離が短くて助かる。

 

「何をやってるんだ!」

 

 ぎょっとして、三人のオストマルク人がこちらを向く。

 ちびの奴が「き、貴様」とか言いつつ、ソリッドを抜くが無視する。

 モニターに映る敵船の姿を確認したからだ。

 

「ワルガスダーか!」

 

 そいつは昔、アステカイザーが戦っていた機体と同じタイプの青い宇宙船だった。 

 

  

〈続く〉 




久々に二千字程度に納めました。
どーしても長くなっちまうんだよなぁ。

ブラックミストのバニーさんは「遅刻、遅刻デース」とか言いつつ、不思議な森の中を駆け抜けるイメージがあったり。
懐中時計は武器です。実際、SEIKOの鉄道用で殴られた事あるけど、冗談じゃない威力があるよ。あれ(笑)。

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