流石に以前みたいに、二日に一回更新は無理っぽいかな(貯めてたのを順次発表してたんで、出来る技でした)。
それでも「早すぎ」と文句を言われましたが、さて?
今回の作業用BGMは『聖戦士ロビンJr』から「攻撃の嵐」です。
何となく、宇宙船のチェイスに合ってる曲ですな。え、なら「宇宙船スタークルーザー」だろうって? あっちは「スタークルーザーⅡ」を含めて何となく平和っぽいんで、チェイスよりも旅立ちのシーン向けなんですよ(笑)。
「ワルガスダー?」
訝るオストマルク人達を無視して「この船を撃沈する気だな」と叫びつつ、副操縦士席に飛び込んだ。実際、自分の操舵は余り自信はないのだけど、先程から船を操作している奴に比べればマシだと思う。
「操縦系をこっちに回せ!」
「貴様……」
マグの奴がソリッドを抜いで曲がった奇妙な刃先を突き付けるが、俺は無視して「死にたくないのなら急げ!」と叫んだ。
意外とあっさりコントロール機能がサブへ移る。
「マグ!」
「王子の言っている事は正しい」
そんな会話が聞こえてきたが、俺は操縦に専念してそれ所ではない。
航宙図をモニターに出し、同時にセンサー系で自機と敵艦の相対位置を確認し、「マルク星系内か。かなりぶん回すぞ!」と告げると操縦輪をぐいっと回した。
耐Gの補正を越えたのだろう。元々、高機動で乗り回す様な類いの船じゃないからな。間抜けに立ち尽くしていた二人、マグとガンは激しい揺れに身体が吹っ飛んだ。
「お……オストマルクに!」
「喋るな。舌を噛むぞ」
ガンが何か言いかけるが無視。ワルガスダーの青い宇宙船はこちらの挙動に驚いたのか、ビームを発射する回数が増えた気がする。遠いから当たっていないが、この小型貨客船では一発でも命中したら危ない。
『やばいな。こっちが本格的に逃走に入ったのに気が付きやがった』
内心焦る。さっきまでの砲撃は威嚇の意味が高かったが、今は本気で当ててくるつもりだ。
前方に見えるのはマルク本星。その向こうに別の惑星が見える。
オストマルクかウエストマルクのどっちかだろうけど、確認する暇が無い。
「マルク本星に突っ込むぞ!」
「何だとっ」
曲がりなりにも相手は戦闘宇宙船なのだ。こっちの武装はと調べてみたが、武器設置点は用意されていたが肝心の砲架には何も装備されていない。つまり丸腰である。
向こうが本気を出せば、こちらの何倍もの機動性があるだろう。低性能の民間船では宇宙空間を逃げる限り、勝負にすらならない。
ならどうする。
「振り切るにはこれしかない」
惑星に逃げ込んで相手の利点を殺す。
少なくともこの船の性能では、まともにやり合っても勝てないからだ。
『マルク本星は大気がないから、条件は悪いけどな』
そう、マルク本星は大気がない。
大気のある有人星と違って、大気摩擦によって機動が制限される事も無いので、実際は宇宙空間で逃走するのと条件は変わらない。
但し、惑星内では衝突の恐れから、敵だって光速に近いスピードを出せない。ワルガスダーの船が黄色い戦闘艇タイプではなく、青い揚陸艇タイプなのも幸いだ。
少なくとも高機動で飛び回るタイプじゃないのなら、勝機はまだある。
「何とかなるでござるか?」
「何とかしなきゃならんだろ!」
尋ねて来るが、俺だってそんな事は分からない。
地上の地形を確認しつつ、それを利用して高速で駆け抜ける。敵がこちらを見失ってくれたら幸いだが、それは余りにも低い確率だろう。
だから俺は「各自宇宙服を着用」と指示する。
「どう言う意味だ!」
やはりマグが噛み付いてくる。
「退艦だ。この船を囮にして地上ヘ脱出する」
「何だと」
「このまま船と一緒に運命を共にするか」
マグは押し黙る。
撃沈される公算が高いのなら、宇宙遊泳を試みるより、隠れる場所が多い地上の方が圧倒的有利だからだ。それに歩いて行けば、両マルクどちらかの施設に辿り着く事だって出来るだろう。
少なくとも宇宙空間に漂って誰かに迎えに来て貰わねばならないよりは、何倍もマシである。
ワルガスダーの方が絶対に先に来そうだしな。
「着るしかないな」
大男の声が静かに流れた。
ガンも渋々と言った感じであったが、頷いてロッカーに近付いた。
当然だが、非常時に備えてブリッジにも宇宙服は備えられており、ロッカーを開くと明らかに古臭い宇宙服がずらりと装備されていた。
船同様、装備品も安くあげる為に低テックレベルなのである。
「早くしろ」
他の二人が覚悟を決めて着替え始めたのに対し、ちびだけは躊躇しているのでケツをひっぱたく意味で督促する。
再び、ビーム砲が船体をかすめる。どうやら、ワルガスダーの方も追いついてきた様だ。
俺は操縦輪を急激に回して回避運動を取る。暫定的にやや平穏であった船内が、Gを喰らって無茶苦茶になるが、当たるよりはマシだろう。
「うわぉぉぉ」
悲鳴と共にヘルメットとかが飛んでくる。
やはり、こいつのGキャンセラーは安物だ。軍用の物と比べるのは何だけど、4G程度の加速しか対応してないんだろう。
まぁ、戦闘機とかなら性能重視の為に耐G装置を省略し、パイロットスーツで耐える方法も珍しくはないが、これは単なる貨客船だからな。
高速で突っ込んで来るワルガスダーの青い船をバレルロールで躱しつつ、ニアミスに近い形で避ける。
「奴ら正気か」
一旦、行き過ぎた敵艦が、特徴的な十字形のシルエットを見せながら旋回しているのが見える。
奴らの操縦が危ない。命知らず過ぎてこっちが肝を潰しかけた。
「ひやひやする操船でござるな」
着替えたらしいバクが語りかけてくる。
俺は頷くと「文句は奴らに言ってくれ」と言いつつ、推力を調整する。
この船は反動推進だ。反重力は暫定的にしか使用されていない。
昔ながらの古い構造であり、ロケットモーターと言うか、反動推進器が船尾にある。
ヤーバンは民間に高度なハイテクを使いこなす事を禁じているせいもあるが、こうした船は安価で経済的であるのも理由の一つである。
往々にして、地方の劣る港ではブラックボックスと化した余りに高度すぎる技術を使いこなせないからだ。手に余る物を与えて運用不能になるよりは、旧式でも枯れた技術を提供した方が良いとの判断もある。
「もう一回来るぞ」
警告と同時に、敵の艦首からビームが煌めく。
回避の挙動が一歩遅れ、攻撃が機関部に直撃して振動がこちらを襲った。
「こなくそっ」
王子としては下品だけど罵りの言葉を上げる。
幸い、被害は軽い様だ。幾つかの補助推進器(いわゆる姿勢制御バーニア)が吹き飛んだがメインエンジンは無事らしい。
誘爆しない様に動力をカットした時、ワルガスダーの船がぐんぐん接近してくるのが見えた。
トドメでも刺そうとする気か。だが、俺は反射的に一瞬である操作を行った。
このまま行くと、敵は真後ろに位置したまま至近を通過する!
「くらえっ」
怨嗟の気持ちを込めて機関を全開にした。
この宇宙船は旧式の反動推進型だ。最新式の反重力型にはない特徴、つまり全開にされたエンジンから莫大なロケット光が伸びて行く光景が目に映る。
長く伸びた光の束が、ワルガスダーの青い船体を包み込んで焼いた。
爆発!
スラスターの圧力をまともに受けた敵船が砕け散った。
しかし、こっちも当然ながら無事じゃ済まない。破壊された敵艦の破片をモロに浴びてしまったからだ。
「やった……が、この振動は何でござる?」
「こっちも機関部がやられたんだよ。不時着するから用意しろ」
俺はバクに答えつつ、生き残ったエンジンを操作しながら着陸可能地点を手早くサーチした。
俺たちの貨客船は煙と破片を撒き散らしながら、マルク本星へと吸い込まれて行った。
〈続く〉
次回からサバイバル編かな。
宇宙船の名を『サジッタ号』とか命名したら、姉妹船に『アウリーガ号』とかありそうだ。
やはり、二千字には収まりませんでした。