ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは『やどかりタイフーン!』から「Sail Ayay!」です。
船出にふさわしい曲ですね。一部「危機」も聞いてたけど(笑)。

『やどかり』自体は海賊物のエロゲなので燃えましたね。ソフトハウスキャラの『海賊王冠』とか、某PBMのロマ剣や黄金の海とかも。
日本では馴染みの無い時代なのか、ああ言う大航海時代的な帆船物ってのが余り題材に取り上げられないんですよ。浪漫なんだけどねぇ。日本で海と言えば。みーんな動力船以降(WW2物の『艦これ』とか)に行ってしまうから。


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『こいつは水音か?』

 

 ざーとか、しゃぁぁぁとかの流水音。客室には簡易だけど浴場が付いている。

 そこでマグの奴はシャワーでも浴びているのかも知れない。

 成る程、入浴中だったら水音が邪魔で船内放送を聞き逃す事はあるのかも知れない。だが、のんびりしている暇は無かった。

 

「おいっ、早く出ろ!」

 

 命令口調になるのは仕方ない。幸い、空気漏れはこの船室ではなさそうだが、いつ、気密が完全にゼロになるのか気が気じゃないからだ。

 小さな亀裂だと安心していたら、一気に気圧差で隔壁が崩壊する事態に陥るなんて事が珍しくないのである。

 俺は浴室のノブに手を掛けて一気に引いた。

 

「! き……」

「き?」

 

 目に飛び込んできたのはオールヌード。

 そして次の瞬間。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁーっ!」

 

 壮大な悲鳴。

 いや、俺のじゃないよ。幾ら俺が男の娘スタイルしてるからって、こんな悲鳴は上げないぞ。

 

「マグ。貴様、女だったのか?」

「イヤァーっ、スケベ、ヘンタイっ!」

 

 奴は手近にあった服をこっちへ放り投げてきた。女物の下着とかだ。

 顔面にブラがぶつかり、視界が一瞬、塞がれる。

 うわっ、女臭い。

 頭に引っかかった下着類をずらすと、甘酸っぱい女性特有の体臭が鼻についた。

 

「とっとと服を着ろ。この区画の気密が破れてるんだ!」

 

 埒が明かないので俺は怒鳴った。

 はっきり言ってこんな事をしてる場合じゃないので、マグの手を強引に掴んでバスタオルを押しつける。 

 何故なら、さっきから嫌な予感がしているんだ。

 第六感、と言う奴だ。いや、上手くは表せないけど予知に近い何か、とでも言うべきか。

 

「しまった!」

 

 どこかかからくぐもった破裂音が響いて、空気の流出音がはっきりと聞こえて来た。しかも「しゅー」とかの可愛い音じゃない。「ごぉぉぉ」と咆吼に近い轟音だ。

 俺は踵を返すとこの部屋を飛び出した。廊下へ出て、音の元を探る。

 

「隔壁が破れてやがる」

 

 場所は直ぐに見付かった。二部屋離れた船室の一つである。

 さっき、開けっ放しのままだった扉から、盛大に空気が吸い込まれており、廊下にあった軽めの調度品、花瓶とかが最初はずりずりと、扉の真ん前に来た時は物凄い勢いで室内に吸い込まれて行く。

 戦後最大の飛行機事故も、こうした圧力隔壁破壊だったなとちらりと思い出した。

 

「どうなっている?」

 

 廊下に顔を出したマグ。バスタオル一枚で全裸ではないが、服を着てはいない。

 おれは「とっとと、前部区画に駆け込め」と指示する。

 

「扉を閉めれば良いじゃないか」

「そのつもりだ。気密扉じゃないから、いずれにせよ真空状態へなって行くんだろうけどな」

 

 エアロックではない只の扉だが、少しでも流出を抑えられればそれだけ時間が稼げる。

 だが、空気の流出量は膨大であった。近づくと人間まで吸い込まれそうな勢いだ。当然、室内に吸い込まれたら、そのまま真空世界へ放り出されてしまうだろう。

 俺は扉を閉めるのを諦め、そのまま、隔壁のある前部船体へのエアロックへと走る。

 幸い、穴の開いた船室を超えて行く訳じゃないので助かるが、その代わり、その頃は流出した空気の流れに逆らって、歩くのが困難になっていた。

 

「気圧低下。自動で隔壁を閉鎖します」

「気圧低下。自動で隔壁を閉鎖します」

「気圧低下。自動で隔壁を閉鎖します」

 

 隔壁脇のスピーカーが何やら怖い事を連呼してやがる。

 耳の痛さを我慢して手を伸ばし、コンソールの隔壁操作を自動から手動へと切り替える。

 間一髪、間に合ったと言うべきか。放って置いたら、エアロックが無慈悲に閉じてこちらに取り残される所である。

 流出する空気の圧力に逆らいながら、何とかマグが隔壁を通過すると同時に、レバーを開から閉に叩きこむ。

 一眼レフカメラのシッャターみたいなアイリスバルブが出てきて、がしゃりと隔壁を閉鎖する。

 壁にもたれかかり、ため息をついた途端、力が抜けてへたり込む。

 

「君が女だったとはね……」

 

 正直言えば、呼吸器系をもダメージを負っているので苦しい。

 同様に近所でへばってる全裸の女に声を掛ける。

 

「違う。俺はメゾだ」

 

 気圧のせいで耳がとうにかなりかけていたが、かろうじてその反論は聞き取る事が出来た。

 全裸なのはバスタオルなんかは、あの乱流の中で吹っ飛んでしまったからからだ。

 

「メゾ?」

 

 ブリッジの方からシシ達がやって来る。

 バクだった。奴らは俺たちの惨状を見ると「これは、これは」と呟き、ガンの方は「貴様、成人してなかったのか!」と驚きの声を上げた。

 

「酷い目に遭った」

「らしいでござるな」

「暫く動きたくないから、放って置いてくれ」

 

 これは本音。

 バクは頷き、同僚の方を向いて「マグを船室へ」と指示する。

 

「でも、王子も一旦、身を整えた方が良いと思うでござる」

「全裸よりゃマシだろう」

「首にブラが引っかかっているでごさる」

 

 その指摘に首に手をやると、ああ、マグがさっき投げた奴だ。

 ストラップが輪っかになってたから、首に絡み付いてあの中でも飛ばされなかったのか。

 のろのろと首から抜く。

 その下着はピンク色してサイズは小振り。未だ、女臭い香りが残っている。

 

「メゾ。とか言っていたな?」

「説明は後ほどに……」 

 

             ◆       ◆       ◆ 

 

 オストマルク人やウエストマルク人は特殊な生態を持っている。

 これを説明され、俺が後に自分で調べた時に『ああ、ここは異星文化圏なんだな』と実感してしまう。

 すなわち、最初に誕生した時は性的に〝未分化〟状態で生まれてくるのだ。

 

「メイル(男)でもなく、フィメール(女)でもない、か」

「それがメゾ(幼生)でござる。拙者らは既に成人の儀を済ませ、メイルとなってるのでござるが……」

 

 ブリッジには俺とバクの二人。他の二名は今は不在である。

 俺たちは宇宙船を再飛行させるべく準備に追われていたが、それでも雑談程度に飛行とは無関係の会話を交わしていた。

 

「マグの奴はメゾだった。それってオストマルク的に何か意味があるのかい?」

 

 データを再確認しつつ、隣に座る大男に問う。

 バクは顔をしかめて「大ありでござる。身分詐称は罪になり申す」と告げた。

 聞けば性的に固定されていないメゾが、こんな風に国外に居る事は国法に触れる大逆だそうだ。どうやって検査を潜り抜けたのかは不明であるが、あってはならぬ事であるらしい。 

 

「機関チェック完了。補助二番、三番スラスター機能不全」

「了解でござる。補助一番、四番のみに動力接続」

「メインエンジンは休止。下手に噴かすと爆発するぞ。反重力エンジンのみにエネルギー系を回せ」

 

 まぁ、それはともかく離昇準備だ。

 前方に広がるのは不毛なごつごつした岩砂漠的な光景。不時着はかなり派手に船体を擦ったから、大分ダメージが行っていると思ったが、現状、あの気密破壊以外はどうにかなっている。

 油断は出来ないけどね。半壊した宇宙船なんてぞっとしないからな。

 

「ここは中立地帯だと言ったな?」

「正確には緩衝地帯でござる。一番近い施設は、他星の鉱山会社採掘基地だから、両星共に手出しが出来ないグレーゾーンなのでござる」

 

 俺は計算して「まずはそこへ向かうとするか」と告げた。

 

「このボロ船の状態から見たら、生命維持環境のある施設に一刻も早く行った方が吉だ。

 何か異存は?」

「仕方ないでござるな」

 

 下手に両マルクのどちらかの勢力圏内へ行くのは自殺行為だ。こいつらから見て敵のウエストマルクへ行くのは当然、オストマルクへ行くのも論外だからだ。  

 今、一時的に拘束が解かれているのは、俺の宇宙船操縦技術が必要だっただけの話。再び拘束されるのは御免である。となると、中立の鉱山会社に飛び込んで機会を待った方が良い。

 

「では、発進」

 

 操縦輪をぐっと手前に引き上げ、反重力エンジンを入れると船は船体を震わしつつ、ゆっくりと上昇を開始した。

 

 

〈続く〉




にしてもベガに迎えが来ない。
いや、これでも必死に捜しているんですよ。宇宙空間が如何に広大か、って話に帰結しちゃいますけどね。
でも、何でワルガスダーはピンポイントで追撃出来たのかな?

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