ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは『ウェルベールの物語』から「Theme of Wellber」です。
この作品のオープニングでしたね。スキャットはあるけど、ソングが皆無のアニメのオープニングってのは珍しかった覚えがあります。
ミューラスの頃からファンだったけど、キブレ…じゃなかった。ハイアット美佳子が主役を演じたので楽しんだ見てた覚えがあったり。
相棒は「だってばよ」の人がペッパーボックスぶっ放し、美少女役を演じてて珍しかったな。


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 のろのろと移動する貨客船。

 一年戦争の〝白い基地〟並の遅さだよ。外は真空で空気抵抗がないのは良いけど、惑星上空なので重力は有るんだよな。

 

「それが昔からの謎だ」

 

 ガンが嘆息した。

 マルク本星は大きさから考えると質量的に小さな星だ。当然、発生する重力も小さいと普通は思うだろうが、さに非ず、何故か地表は約1Gもの重力がある。

それなのに大気は存在せず、極端に低い気圧で見た目は月面の様だ。降り注ぐ宇宙線も大気と言うクッションがないので危険なレベルだし、日向と日陰は極端な温度差がある。

 この本星を挟んでオスト。ウエストの両マルク星が互いに廻りつつ、恒星からの周回軌道を描いてるのだ。

 

「この小さな星に何故、こんな高重力が働いてるのかは謎か」

「伝承ではマルク本星は神の星であり、不可触の神聖な地とも言われていた」

 

 しかし、その禁忌もやがて廃れ、やがて敵星の牽制の為に人々がこの地に降りたって基地を建設し、そして資源目当てに開発が始まる。

 のろのろと飛行している先は、そんな開発基地の一つだ。

 

「なぁ、マグの事なんだが……」

「メゾの事か。俺も驚いた」

 

 俺は頷いた。

 あれから幾らか聞いた話なのだが、両マルクの人間は性的に未分化で生まれ、15歳で男女どちらかの性別を選ぶ物であるらしい。

 メゾとは、その成人前の未分化の性であるとの話だ。

 

「マグは外国で生まれた子供だ」

「オストマルク人なのだろう?」

「ああ、ドン・ランダムの縁者らしい」

 

 そのランダムとか言う奴はオストマルクでも有名な武人であり、数々の女性関係でも名を馳せている男であるらしい。

 豪放でしかも、顔の良い奴だ。

 家名の関係で正式な結婚はしていないが、あちこちの女性との間に浮き名を流し、方々に隠し子がうなる程居るとの噂がある。

 

「マグもその中の一人ではないか、そう疑っている」

「英雄、色を好む……か」

 

 男としては少し羨ましい。男の娘だけど俺はあくまでノーマルだ。

 お、そう言えばオストマルクの代表団の中にドンとか、ランダムとか言う奴が居たな?

 Dr.ヴォルガの話に出てきて、確か花屋の娘と何か世間話をしていた男だ。

 

「あくまで噂でござるよ」

 

 オートドアが開いてバクが戻って来た。

 マグの方の姿は見えない。バクは「ようやく、マグが落ち着きを取り戻したでござる」と言って、空いている席にどっかと腰を落とした。

 何か、裸を見られた事で色々あったらしい。一時は自害するとか何とか言っていたが、どうやらそれは免れそうだ。

 

「まだ女子(おなご)になると決まった訳ではあるまいに……」

「性別か、オストマルク人にとっては重要な選択らしいね」

 

 少し囓っただけのにわか知識ではあるが、両マルクの人間にとってはそれは運命を変える程の物であるらしい。

 元々、ウエストマルク、オストマルク共に同じ種族が住み着いている星である。

 ヤーバン近辺では良くある話だが、ここも宇宙から入植した、或いは入植された民であったとされる。具体的に証拠は残ってたり、残ってなかったりと色々あるけど、神話とかを解析すると何処か他の星から送り込まれたって話がうじゃうじゃ出て来るのだ。

 フリード星みたいに、それを黒歴史化して隠してしまう例も多いけどな。

 

 無論、神話であるから本当かどうかは知らないよ。

 両マルク人は自分達が自星で自然発生したと信じていたし、今でもそう頑なに信じている連中も多いんだけど、曲がりなりにも宇宙へ出て、自分達そっくりの形態を持つ隣人が居るのに混乱した。

 鏡を映した様にだ。

 言葉も変形しているけど概ね通じて、神話もほぼ同じと言った存在だ。だから学者は『元々一つの種族であった者達が、大古、各々の星に別れて定住したのだろう』と結論付けたんだ。

 

「オストマルクは男星。ウエストマルクは女星だと考えられていたからな」

「本当にそうだとは思わなかったのか?」

 

 その問いにバクは頷き、ガンも「二百年前の先祖はな」と同意する。

 互いの星に伝わっている伝承ではオストマルクは男性が、逆にウエストマルクは女性が統治する星であると記されている。

 互いの星は兄弟星であって、そこに人が住んでいると信じられ、互いの星に自分達の無事を知らせる為、冬至の日には巨大な篝火を焚いて合図を送る儀式なども行われて来た。

 オストマルクの場合、それはウエストマルクに住む女性に対する求婚であると言われていたのだが(笑)。

 

 そして互いの星の科学が発展し、電波を扱える様になると驚愕する。

 星間単位に直せば極く至近距離にある両星では、互いの星から発信した電波を捉える事が可能であったのだ。

 

「向こうは本当に女星であった。男が虐げられ、女性上位の胸くそ悪い星であったのだ」

「ガン。ウエストマルクも同じ様に思っているであろうよ。故に不倶戴天の敵であるとな」

 

 違いは決定的であった。男尊女卑と女尊男卑の社会体制から、お互いに歩み寄る事が出来ず、間もなく開始された無線による交渉は直ぐに暗礁に乗り上げた。この経緯の中、オストマルクの異性に対する差別は激化の一方を辿る事になる。

 直接、異星の相手を罵る代わりに自国の異性にその力が向いたからだ。

 

「じゃ、マグも男を選べば良いだけなんじゃ?」

 

 しかし、「必ず男になれるとは限らぬ」とシシ達は首を振った。

 男性になれるのは一定の人数だけだと制限されているらしい。

 ウエストマルクでは逆に無制限で女性になれるが、これは向こうの社会が、まるで蜂か蟻の様な女王を頂点とする氏族社会であるが故である。

 つまり、向こうの社会で男性とは子種を出すだけの道具でしか無いのだ。尊厳も無く、ただただ飼い慣らされ、セックスの為だけに使い捨てにされて行く事実を知ったウエストマルクに対して、激しい怒りがオストマルクに起こったのも想像が出来る。

 

「家系の問題もある。長子であるなら男になるのも容易いが……」

「外国生まれでしかも妾腹ならば、男になるのも難しいでござるな」

 

 俺はふーんと思いつつ、「じゃあ、未分化のままで居るってのは?」と尋ねると、「それは僧になる事でござるな」との答えが返って来た。

 

「坊さん?」

「巫女とも言うがな。メゾは雌雄未分化状態だからな」

 

 人里離れた遠隔地でひたすら祈る、世間とはかけ離れた生活を送る事になるらしい。

 人々からは大変尊敬される存在にはなるが、俗界からは一切の接触を断ち、修行三昧の日々を送る羽目に陥るので、オストマルクではなり手が多くはない。

 

「少なくとも、シシになりたいと思っているマグには無理だな」

「俗界に惹かれているか?」

「うむ。世間一般の物事に全く無関心なのが僧、こちらの言葉でメゾルマである条件だ」

 

 瞑想し、世界の行く末を占い、人々に示唆を与えるのがメゾルマの役割らしい。

 それを聞いて俺は、ヤーバンの〝先見の姫〟を連想した。もしかするとメゾルマになった人々は、超能力的な能力が開花するのではなかろうかと。

 

「採掘基地が見えてきたぞ」

 

 その言葉にはっとなって前方を見る。

 未だ遠いがタワーが建っており、その先端からチカチカと赤い標識灯が点滅している。

 

「到着までは時間があるが、こちらの事を向こうに伝えておこう」

 

 通信マイクを取ると俺は、汎用通信帯に波長を合わせた。

  

 

〈続く〉




展開が遅い。
ええ、作者もそう感じてます。そろそろ巨大ロボが暴れまくる大規模な戦闘シーンでも書きたいなと思ってるんですが、中々そうは行きません。
かと言ってマルク編は、古代文明に関する伏線込みなので飛ばす訳にも行かない。ええ、呪術やヤーバン熱線ミサイルだののあれです。

マルク編でそれに少し触れる予定ですが、うーむ、派手にしたいのに地味だよなぁ。ジレンマだ。

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