大河ドラマの曲ですね。扱ってる主人公が幕末でも大村益次郎とややマイナーなんですが、技術者と砲兵大好きな自分としてはハマりましたね。
大村がエロコの遠い原型かも知れません。
四斤砲どーん。理系の作戦を指導する技術将校って燃える。
閑話はベガ視点以外の場面描写になります。
本編が一人称なので、ここは三人称です。ベガ以外のキャラクターがどう動いているか、その描写をお楽しみ下さい。
サジッタ号。半壊した小型貨客船である。
マグ・アンドロメーダに新しく割り当てられた船室は、貨物室の様な物であったが、客室と呼べる様な物は、全て真空になってしまった中部以降の区画にあるので戻る訳にも行かない。
「着替えが……ない」
マグが呟いた。かろうじてシシの魂とでも言える刀、ソリッドだけは手放さなかったが、全裸でこそ無いが、服の類いは全て置いてきてしまった。
コンコンとノックの音。「誰だ」と誰何すると「バクでござる」との答えがある。
ドアが開き、大柄の男がぬっと入って来た。
「着替えでござる」
「女物じゃないかっ!」
「スチュワーデスの制服でござるからな。男物は見付からなかったでござるよ」
続けてバクは「今の毛布一枚よりも、まだマシでござろう?」と問うと、マグは言い返せない。
大人しく着替えを受け取るとカーテンを引いて、ごそごそと着替え始める。
「マグ。どうしてこの襲撃に参加する気になったでござるか?」
「……ウエストマルクの事から、次に狙われるのは叔父上だと思った時、発作的に参加していた」
「叔父上、ドン・ランダム殿か」
ドンは名高い剣豪だ。かつオストマルクの大使館員であり、和平団の一員でもあった。
しかし、バクの尋ねたかったのはそこではない。
どうやって、部外者であるマグが襲撃メンバーに居たのかである。この襲撃はルビー星に集う留学生を中心とするオストマルク人の地下連絡網を通じてのみ、密かに連絡が廻ったのである。
「着替え終わったぞ」
しゃっ、とカーテンが引かれるとそこには見目麗しいスチュワーデスが立っていた。
オストマルクのシシ風に、前髪を切り揃えて後ろ髪を括った姿である。まるで化粧っ気は無いが可愛らしい。
「このタイツって奴が暑苦しい。袴(スカート)が短くてきつい」
タイトスカート言う物はオストマルクには無い風俗だ。そして彼の地にはタイツやストッキングを穿く習慣はないが、律儀にもマグは着込んでいた。
もっともそのタイツはスペーススーツ準拠になっているので、長時間行動するにはエアボンベが無いと駄目だが、制服も併せてヘルメットさえ装備すれば簡易宇宙服になる代物である。
「それでも、馬子にも何とやらでござるな。メゾの頃は華奢なのは確かでござるが」
「俺は女になりたくはないんだ!」
大抵のオストマルク人が持っている願望である。
バクは「分かっておる」とそいつを制して「お主は長子では無いのか?」と質問する。
「形だけは長子だよ。でも、俺は正式なオストマルク人じゃないんだ」
「ドン・ランダムの隠し子、か?」
ずばり尋ねる。マグは暫く迷っていたが、覚悟を決めた様に頷いた。
そして「本当は次子だ。俺の前に長子が居たが、それは女になってオストマルクとは無関係の所に住んでいる」と明らかにする。
その上で「俺は混血だから、叔父上、いや父上の後を継げない」と悲痛な顔をする。
「ドン殿はあちこちに浮き名を流しておられるからな。そなた以外にも血を引く者が多い」
「その中の一人だってのは理解しているよ。だけど、俺はオストマルク人でいたいんだ。シシとして……。何も知らない姉の様に、養女になって花屋は御免だ!」
「花屋?」
聞くと長子は養女としてルビー星の貴族となったが、没落して花屋になっていると言う。
貴族に養女として出せるとなると、マグの実家はかなり格の高い家になる。だからバクは尋ねた。その高い家格の者が、何故、シシになれないのかを。
それを説明するマグ。
「何と!」
「分かったろう。俺がオストマルク人に認められぬ訳が、俺は敵国人なんだ」
ウエストマルク人との間の混血。それがマグである。
両マルク人は元々同根。彼らの間で子供が産まれるのは不思議では無い。
「だが、それなら無理にオストマルク人にならなくても……」
「嫌だ。だからこそ、あの襲撃で手柄を立てればと思って、参加したんだ」
バクは「その襲撃の事を教えた者は?」と問い詰める。
秘密連絡網以外の者がこれを知っている事が、機密の上では大問題であったからである。
「ジラン・ジライオンと言う男だよ」
「ジランか。ふむ」
ゴルム・ホフマン率いる上級シシのグループに居た様な気がする。
良い家の出で、国に帰れば自分達よりも立場が上だった筈。
奴らだったら連絡網の情報を知っていても不思議ではないが、しかし、彼らは下級シシの自分達の事を忌み嫌っていたのではなかったか。
それが何故、マグを誘う?
「異母兄弟のよしみだよ」
聞くとジランもまた、ドン・ホフマンの血を引く妾腹の子であるらしい。
「お主、騙されておるぞ」
バクは納得が行った。多分、これは勘だが、よしんばこの襲撃に参加して命を落として欲しいとでも思って情報をリークさせたに違いない。
上手く行けば上出来でマグに恩も売れるし、駄目なら駄目で、目障りな身内の一人が消える。どちらに転んでもジランにはペナルティは無い。
それを指摘したが、マグは「それでも構わない」と言い切った。
「ウエストマルクで女になると言うのも手であろうに」
「俺の家系は王家ではなく傍系だ。成り上がる事は出来ないし……。女の陰湿さに嫌気が差した」
続けて「何故、ベガ王子が女の格好をしているのか、理解出来ない」とも呟く。
かなり女性に幻滅しているらしい。
「世間を誤魔化すカムフラージュらしいがな」
「ふん」
「本当に王子なのか、まぁ、拙者はそれを疑っておるのだが」
それはマグの興味を引いた様だ。「どう言う意味だ」と突っ込んで来る。
バクは「本物の王子は多分、本当に男であろうよ」と呟く。
「本物? で、では今、ここに居る王子は……」
「影武者。であろうな」
マグは「成る程」と納得した。本物で無いのなら、外見さえ似ていれば女であっても問題ない。
どっかと床にバクは座り、「今までの行動からも王族らしくないのが、どうも気になってな」と告げる。
事前の情報収集ではベガ王子は何も出来ない姫王子であると言われており、ヤーバンの前評判でもその素質は疑われていた。しかし……。
「事態に対する冷静さ。胆力。そして宇宙船の操舵術。どれも一角(ひとかど)の武人に負けぬとは思わぬか?」
「確かに……」
「前評判とのギャップがあり過ぎるのよ。だから、あれは影武者ではないかと疑っておる」
敵宇宙船を葬った手際は見事な物だった。
しかし、お姫様とも陰口が叩かれる男が、咄嗟にあれだけの対処が出来るのだろうか?
だから本物ではなく、高度に訓練を受けた影武者の可能性は高い。我らに拉致された際も、取り乱さずに冷静であったが、これも影武者であれば納得は出来る。
「そう言えば、TVにはベガ王子が何事も無くルビー星を発っていたな」
「あっちが本物か。それともどちらも影武者で、本物はベガ星の水晶宮の中か」
マグは腕を組んで唸る。
すっかり贋者扱いであるが、知っての通り、ここに居るベガは本物である。
「どうする?」
「今の所、約束は違えん。拙者がベガ王子を拘束せぬのはそう言う理由だ」
「使えるのならば、扱き使えか。確かに影武者を拘束するのは、手間が掛かるだけ無駄だからな」
捕虜に対しては食事、排泄、その他の世話する必要があるが、こちらはたった三人である。仮に一人を回すとしても負担が大きすぎる。ここは自由にさせて勝手にやらせ、機会を窺って処理を検討した方が良いだろう。
「マグ。お主を王子の監視役に任命するでござる」
「俺が?」
自分を指さすマグに、バクは「己がシシだと思うならやってみせい。それにメゾのお主なら、油断するかもでござるしな」と言い放つ。
「……承知した」
ベガ王子の女装と同じ様に『今の姿も、武器か』と嫌々ながら、納得するマグであった。
〈続く〉
オストマルク側の視点です。遂に公爵家でお花屋さんの裏設定が繋がりました。まぁ、〝何とかの星〟が本編に登場するかは謎ですが……。シシ達の髪型はバッフ・クランのサムライと同じにしてみました。髷を結わせるのも何だしね。
何故、ベガを放置しておくのかの理由は、はい、彼が影武者だと疑われて本物だと思われてないからです。って、どんだけ評価が低いんだベガーナ姫(笑)。
次回も閑話になります。と言うか、本当は同じ話でルビー星視点をやる予定だったんだけど、オストマルク視点が大きくなりすぎて(併せて五千字近くになった)、泣く泣く分割する事になりました。だから、次回はちょっと分量が少なくなるかもです。