正統派、と言うより変化球かな。元々の『ベガ大王』の出発点がこの作品だから原点回帰なのか?
後に曲が『グレンダイザー』に流用されてるから、こっちは余り知名度無いけど、本来ならこっちが元祖なんですよ。佐々木いさお氏の声も燃えますね。『グレンダイザー』でデュークの配役があのままだったら(仕事の都合で富山敬氏に交替。富山さんも凄い人だけど)、佐々木氏の代表作が『グレンダイザー』になってたかもと夢想しちゃうなぁ。
◆ ◆ ◆
「応答が無いな」
周波数を合わせ、無線をオープンするとそこから流れてくるのは自動対応のエンドレスメッセージのみだった。
「警告します。貴方は採掘基地のエリアに侵入しています。直ちに退去して下さい。
繰り返します。警告します。貴方は採掘基地の……」
埒が明かないのでチャンネルを閉じる。
「一応、両星の許可を貰って採掘しているんだから、最低限の管理要員は居ると思ったんだが」
「戦争が始まると考えて逃げ出したんだろうよ」
ガンがにやにや笑う。
「前の紛争の時もそうだった。強力な傭兵部隊でも来ないと戻っては来ないのさ」
「戦渦に巻き込まれた事があるのか?」
「表向きはない。しかし、当然、流れ弾は飛んでくる。不幸な事故は何回もあるのさ」
採掘会社同士の抗争もあるらしいし、拠点を維持出来ないと判断した陣営が採掘を妨害する為に、施設を爆破すると言った事もある。
ちなみに、マルク本星で採掘事業をする会社は概ね外資系である。
初期はマルクの民族資本系が採掘も行っていたが、今はそんな訳で外資がこれらの事業を手中に収めてしまっている。外国企業の物だからやたら手を出せないのである。
これが民族系の施設なら、憎き敵星の施設だからと頭に血が昇って徹底的に破壊しようとするからだ。
「テクノロジーの差もあるのでござるよ」
バクがマグを連れて戻って来た。
「我々の力では、まだ高能率の無人化が達成出来ぬのでござる」
「ま、そのせいで、目の前の基地は人っ子一人居ないけどね」
皮肉っぽく肯定するマグ。
女の格好は嫌だと言っていたのに、目の前のマグはピンク色のミニスカ姿だ。俺は『ああ、スチュワーデスの制服か』と合点する。何か見覚えがあると思ってたら、ベガ星のCMで目にした事があった。
「……何だよ」
「似合ってるぞ」
ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向くマグ。からかい甲斐があるな。
しかし、あれは簡易宇宙服にもなる優れものだったな。俺もあれに着替えるか?
とか思っている間に、異常を知らせる警告サインが付いた。
近所の空間で何か起こってるらしい。
「あれは……戦闘でござるか?」
「広域レーダーの感度が悪いな。アンテナをやられたのか」
モニターの視点を調整し、光学系センサーの倍率を最大に上げるとマルク本星の上空で、幾つもの光が飛び交い、光輪が花開くのが見えた。
ビームが飛び交っているのだ。何処かの勢力が宇宙空間で戦闘をおっ始めているのに相違ない。
先程の警告は、爆発であろう放射された膨大なエネルギーを捕らえた物であった。
「何処と何処の勢力が戦っているのだろう」
「我が国とウエストマルクか?」
尋ねられるが判別可能なのは遠望の映像だけである。レーダーは感度が悪く数さえも正確に数えられない。
「民生用の安物レーダーに期待するなよ。多分、ECMだかECCMだかのジャミングが掛かっているから、軍事宇宙船同士の戦いだと思うけどな」
ざっ、ざっと雑音を交えつつ、時々、砂嵐になるレーダーを見て俺は言った。
無論、こんな船にIFF(敵味方識別装置)なんて代物が積まれている筈は無い。そして、それ以上に拙いと思うのは、あの戦いがこちらへ飛び火しないかだった。
もし、ここで戦闘に巻き込まれたら、今度こそこんな船ではお陀仏だ。
が、行き足は鈍い。
新幹線はおろかスポーツカーにも劣る、複葉機並の速度しか出ないのである。
苛立つが、今の状態ではこいつが限界だ。残った補助スラスターを、しかも過熱しない様に騙し騙し使ってやっと此処まで来たのだから、焦りは禁物なのだけど。
「基地のドックは何処だ?」
これは早めに基地へ入った方が良さそうだと判断して、ガンに尋ねる。
が、どうも彼にも分からぬ様で唸っている。そこで助け船を出したのはバクだった。
「クレバスの下でござる」
「閉鎖型か、乗り入れるのに骨だけど助かる」
基地の周りは塔を中心に深い裂孔が取り巻いている。その中に港湾施設があるらしい。
バクは「元々、露天掘りの跡でござるよ。今でも現役だから、壁面から突き出している施設に気を付けるでござる」と注意を喚起する。
「良く知ってるな」
「一度、ここが未だオストマルクの勢力下だった頃に、見学に訪れたでござる」
それから15分。じれったくなる程の時間が経過して、船はようやくクレバスに辿り着く。
俺はオートパイロットを切って、手動で船を降下させた。
確かに見れば壁面からは、採掘用のクレーンやら資材運搬用のロープウェイの支柱なんかが生えている。そいつを慎重に避けながら、停船マーキングの丸に十字の印が描かれた着陸床を確認してコースに乗る。
「慎重にな!」
「言われなくても」
マグの言葉に反発しつつも、スキッドを出して何とか船を着陸床に滑り込ませた。
余り褒められた物じゃない。
丸に十字の中心に停めるのが上出来なんだけど、かなりずれた。いつも練習している操舵シミュレーターで言うなら、出来は60点程度の成績だったが、それでも到着は到着だ。
「下船用意だ。早めの方がいい」
俺は隣のマグにヘルメットを放ると自分もゼロG装備を整えた。
上空の戦闘は未だ続いている。俺は艦隊戦だろうと判断を付けた。
単なる空戦なら、とっくのとうに終わっている時間だからだからだが、その艦隊がこちらへ押し寄せてくる事を恐れたからである。
単艦とか数隻ならともかく、艦隊と呼べるだけの戦力は両マルクには存在しないからだ。
傭兵部隊同士の戦闘?
いや、連中が宇宙艦を持ち出して大規模戦闘をやるとは思えない。経費をなるべく抑え、自分をさぞ苦労したかの様に見せて高く売り込むのが、傭兵達のやり口だからだ。
では、考えられるのは?
「準備は出来ているでござるよ」
「俺もだ」
灰色をしたごつい旧式の宇宙服。まぁ、重装備だけに安全性は高い格好をしたのがシシ二人。
「不本意ながら、俺も……」
とマグ。スチュワーデスの制服にヘルメット被ってるだけの姿が妙に似合ってる。
思わず「ぷっ」と笑いを堪えると、怒った声で「笑うな! お前も同じじゃないか」との抗議が飛んでくる。うん、俺も奴と同じ格好だ。スペースースーツとかの本来の着替えとかは無いから、やはり船内に残されたユニフォームを拝借しているのだ。
旧式の重装宇宙服と違って簡易タイプだから、実は防護面に大きな開きがあるのだけど、それでも身体の動きを優先したのである。
機を見て、こいつらから逃げ出す為にも動きは俊敏な方が良いからな。
「行くぞ」
ヘルメットを装着してエアロックには入ると、後ろの扉が閉まって減圧が開始される。
気圧がゼロとなり、照明が落ちると同時に外側の扉がゆっくりと開いて行く。ここから一歩外へ出ると、そこは真空の世界だ。
良く見る月面なんか映像では、ジャンプすると面白い様に跳躍なんかするが、ここは1G環境なのでそんな面白い真似は出来ず、踏み出した足に違和感はない。
「聞こえるか?」
無線の調子を確認する。
三人が頷いたのを見て、俺はまっすぐ採掘基地のエアロックへ向けて歩み出した。
〈続く〉
オンボロ船の船旅も終了。無人だけど安全だろう採掘基地に到着です。
ここでベガは何かと遭遇したり、近くの空間では宇宙艦隊戦が行われていて、何処と何処の戦いなのかは、まぁ、次回のお楽しみと言う事で。