この曲、四つのバージョンがあるのですが、一番好きなのは「想いが語り継がれるように」ですね。ボーカルは主人公、クルル役の川村万梨阿さん。
でも時々、同じ『マール王国の人形姫』シリーズの「駆け抜ける風追いかけて」を聴いてたのは、浮気じゃないぞ(笑)。
アップテンポの戦闘曲も時々、聴きたくなるのさ。
これが商業宇宙港なら、移乗用のドッキングパイプとかが直接、宇宙船のエアロックに吸い付いて、直接乗り入れが出来るんだろうけど、ここにそんな物は無い。
よって、俺たちはかなりの距離を徒歩で移動しなきゃならなかった。
俺が先頭。
その後ろにマグがぴったり張り付き、左右にバクとガンが並ぶ。
『逃走防止だな』
ちらと視線だけ左右にやりながら、そう思う。
隙は無く、俺をがっちりと囲んでやがる。オストマルクの三人は腰に時代錯誤なソリッドを佩いているが、単なる刀とは言え、その斬れ味はバカには出来ない。
今着ている、簡易宇宙服なんか紙同然だ。
ここで逃げたら、迷わず奴らは抜刀して斬り付けてくるだろう。
『まだ、逃げるタイミングを計る必要があるな。さて、早く来い』
心中で考えた結論だ。
何故なら、先の宇宙艦隊戦の事があったからだ。
当事者は傭兵部隊やマルク軍ではあり得ない。戦闘しているのは間違いなくワルガスダー。そして相手は恐らく、ベガ軍かルビー軍だ。
俺の捜索艦隊が妨害を受けているのに違いない。
となると、救援は直ぐにやって来る。それまでオストマルクの奴らを刺激せず、かつ、逃げ出す準備をしておかねばなるまい。
『勝ったのがワルガスダーだとしたら、洒落にならないけどね』
そう、その可能性は否定出来ない。だが、今の所はとにかく一息付くのが先だろう。
百メートルも歩くと採掘基地の出入り口が見付かる。人員用の小型のエアロックである。
しかし……。
「どうした?」
「気に食わないな。これは」
マグに俺はそう返答し、顎で壁面に埋め込まれているエアロックを示した。
無論、こいつは普通、勝手に開けられない様にロックが掛かっているのがデフォだ。
解除コードを入力するか、今回の俺達みたいに遭難者が辿り着いた時や万が一、電源が落ちた際を想定して、物凄く開けるのが面倒な非常用の人力装置が付いている。
だが、これがハンドルを引き起こして手動でぐるぐると回す必要がある。この作業が重く、かなりの回数回さないと全開しないのではないかと感じる程、重労働な代物なのだが。
「ハンドルが起きている……でござるか?」
手動の非常用ハンドルが引き出されていた。
シシ二人も「誰かが先に入ったんだ。となると職員じゃあるまい」と反応する。
腰に下げた奇妙に曲がったソリッドを抜くのが、何となく時代錯誤である。
仮に何か基地が非常事態となっていたにせよ、ここの職員ならば内部から開ける筈で、外に設置されているこいつが起動したまま放置される事態にはならない。
「どうする?」
「でも入らない訳には行かない。空気は有限だ」
奴らの会話を聞き流しながら、まぁ、そうだろうと思う。
如何に予備のボンベが用意されてるとは言っても、宇宙服を着たままなのは疲労が溜まるからだ。俺ですら、ヘルメットを被っているだけでもストレスはある。
汗とかが目に入ったら手で拭えないんだよな。かと言ってフード上げたらたちまちお陀仏だし。
「入るのか?」
「当然だ。マグ、見張っていろ」
問われたヒラメ顔が反応し、シシ二人がハンドルに取り付いて回し始める。
レディファーストと言う訳ではないが、オストマルクの文化では力仕事は男の役目であるらしく、女っぽい俺とマグは一旦、作業から退けられた。
扉はゆっくりと開いて行く。大気があったら軋む様に音がするのだろうが、真空なので無音だ。
内部へと進入し、再び、内側に設置された非常ハンドルを回す。
「もう、ヘルメットを取って良いか?」
「大気は正常。気圧も充分だから構わないんじゃないか」
赤色の非常灯が消えて、通常の白色へ戻った後にマグが問うて来たので答える。
俺もヘルメットを取って辺りに満ちた空気を吸うが顔をしかめた。何か異臭がしたからだ。
「何の匂いだ?」
「まるで白粉でござるな」
「甘酸っぱくて、女くせぇ」
「柑橘類系だな。悪い香りじゃ無いけど……」
臭いを嗅いだ、四者四様の反応だ。
俺が述べた柑橘銘系の香りには続きがある。それは質の悪い香水か、安物の芳香剤みたいなと述べたかったのだ。悪くはないが余り嗅いでいたいとは思いたくない類いの香りである。
「基地の人間が使っているなら悪趣味だな。ヤーバン人の好みなのか?」
「馬鹿言え」
皮肉を言うマグに俺は答えて、エアロック内側の開閉ボタンを押す。
先程、照明が点いたから生きているだろうと予想したが、軽い電磁音と共にあっさりと開く。
「うわっ」
目の前に現れた光景と、扉から入ってくる充満した臭いに声が出る。
先程までの匂いは、また、鼻をひくつかせば感知出来るレベルだったのが、今度のは否応なしに鼻腔に侵入する程、そこら中に充満しているレベルに跳ね上がったのだ。
「おいおい、この基地の人間は正気なのか?」
「ガン。これは明らかに異常事態だよ」
言いつつも、俺は腰のポーチから循環マスクを取り出して装着。この匂いから逃れる。
手元不如意ではあったが、このマスクだけは何があっても常備しようと決めていたので(以前の事件の二の舞は御免だ)、拉致された時もしっかり身に付けていたのである。
「これは……異様な。神話の庭園か」
バクが呻く。他の人間も口に出しはしないが、目の前の光景に圧倒されているみたいであった。
基地の床と言わず天井と言わず、もちろん壁面にも蔦が這い回っていたからだ。
「やはりヘルメットを被るでござる」
言いつつ、率先してヘルメットを再び被るバク。
確かにこれだけ充満していると頭が痛くなりそうだ。
「折角、この宇宙服を脱げると思ったのにな」
ガンの言い草に「この匂いは堪らないよ」と抗議するマグ。
ヘルメット内部に投影されるデータを読み取る。気温は20°、湿度は80%程で熱帯環境と言う訳ではないが、にしても蔦の繁殖が凄まじい。
「この花が、あの匂いの元らしいな」
壁面に蔦から鈴なりになって咲く花を、再びヘルメットを被ったマグが手に取る。
そいつは地球で言う所のハイビスカスか百合の花みたいなラッパ型で、白地に斑点模様の見方によっては毒々しい小さな花であった。
◆ ◆ ◆
バクが先頭に立って、藪を斬り裂く様にソリッドを振るう。
時代錯誤と馬鹿にしたが、こんな時には刃物はレーザーガンより役に立つなと感心する。
密林と言っても密度は余り濃くはなく、視界を完全に遮るまでには至っていないが、時々、行く手を遮るかの様な箇所も現れるからだ。
「拙者の刀は鉈ではないのでござるが、情けなや」
「疲れたのなら交替するが」
「シシの魂を渡す訳には行かぬ。それに虜囚に武器は渡せられぬよ」
ちっ、覚えていたか。まぁ、そうだろうけどな。
時間経過、半時間。
距離にして数百メートル程度前進し、俺たちはエレベーターホールに到達した。
「近くにある階段を探せ」
「エレベーターを使わないのか?」
「マグよ。この状態ではエレベーターの筒内部がどうなっているかは分からぬでござる」
ソリッドの刃に付いた緑の樹液を拭いながらバクが言う。
内部にも蔦がもじゃもじゃだと、確かにエレベーターは危ない。それにエレベーターって奴は一旦、トラブルがあると内部に閉じ込められるから、余り非常時には使いたくない代物だ。
俺は「バクは此処へ来た事があるんだろう。判らないのか」と問うが、彼は肩をすくめた。
「流石に一回来ただけでござるからな。館内全てを把握してはおらぬよ」
「ま、お客さんなら職員が案内に付いてただろうしな」
「いや、館内図とかの位置なんだけど?」
再度問うと、彼は手をぽんと叩いて壁面へと走り、邪魔な蔦を剥がし始める。
ややあってディスプレイ式の案内板が現れた。
「エレベーターの左の壁面に非常用階段があるでござるな」
「普段は扉で閉まってるタイプだな。判った」
案内板を見たガンが合点するとそちらへ向かう。
俺も手伝おうかと行きかけた時「動くな」の声と共に、マグがソリッドを突き付けてくる。
「お前は虜囚だ」
「こんな時に虜囚も何も無いと思うけどね」
ソリッドは曲がりくねった変な形をしている。
地球の刀剣で言えば、鎌剣と称されるショーテルに似ているそれの刃の腹を、俺は指先でぴんと弾く。
「なっ!」
「シシの魂とか言いたいんだろうけど、お前はシシか?」
「貴様」
「まだ未分化のメゾだろう」
そろそろ頃合いかと思って、俺はマグを挑発した。
もう少し、大人しくしているつもりだったけど、採掘基地に到着したのだから、奴らとの同道もここまでで良いだろうとの判断である。
今なら、相手はマグ一人である。三対一なら不利だが、残りの二人は作業に掛かり切りだからな。それに俺の予感が告げている。味方艦隊が来ている!
姉上の言った通り俺の直感力を大事にすれば、ここで連中と袂を分かち、味方と合流すべきタイミングであろう。
それに実を言えば、自前の超能力以外の武器はあった。
奴らは単なる装身具だと思っているが、以前、キリカから贈られた指輪だ。
不意打ちするのも何だから、今まで使わずにおいただけだが、今、こいつがソリッドを使おうとしたのなら、正当防衛として堂々と吹きかけられるし、良心の呵責も感じなくて済む。
「ぬおっ」
だが、その緊張は一瞬後に破られた。
ガンの声と共に、非常階段の扉をぶち破って大量の蔦、いや、これはもう触手だな、がうねる様に現れたからだ!
〈続く〉
触手登場。
これがエロ劇画とかなら、ベガやマグとかが掴まってあられも無いシーンに!
なんだけど、この作品は健全R15なので期待しないで下さい(笑)。