ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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今回の作業用BGMは『YMO』の「ライディーン」です。
テクノポップと言われた電子音楽の先駆けですね。あの『勇者ライディーン』がタイトル名として使われている事が有名ですな。既に約40年前の曲なのに、今聴いても旋律が新鮮なのが凄い。
『グレンダイザー』の時代とは少し(数年程度)ずれるんだけど、実はこの曲が未来っぽく思える様な世界を描きたいなぁ、と思ってるんですよね。力量不足だけど。



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              ◆       ◆       ◆

 

「ベガサンダー!」

 

 頭部の角から莫大なエネルギーの奔流、半ばプラズマ化した稲光が纏まって敵に対して放出される。異形な姿をした敵ロボットが一瞬で焼き尽くされる。

 背後から迫る敵影。パチパチとスイッチを押すと、背中からスティックが飛び出して手に収まると共に変形し刃が飛び出す。

 

「ベガ・ランサー!」

 

 手にした薙刀が一閃。振り向き様に敵を唐竹割りにする。

 そう、究極の主人公メカに叶う奴などこの世には居ないのだ。

 

「戦士よ……。ここに呼ばれし戦士よ」

 

 その声と同時に地面を割って何かが飛び出した。

 それは緑の蔓。何処かで見た様な、と思う間もなく、そいつは手足に巻き付いて俺の究極メカをがっちりと束縛してしまう。

 たかが蔦、こんな物引きちぎってやると操縦桿を動かすが、信じられないがうんともすんとも言わず、固定されて全く動かない。

 

「バカな!」

「何がバカなのデース?」

 

 顔をひょいと覗き込まれるけど、その時、俺はかなり間抜けで驚愕した表情を見せていたに違いない。

 ここは基本的に一人乗りのコクピットだ。

 バニーガールが俺の顔を前から覗き込む事なんかは出来はしない筈だ。とパニックに陥りかけた時、ブラックミストは「コクピットなんてありまセーン」と否定の言葉を告げた。

 

「あ……」

 

 すうっと周囲の光景が変わる。俺が着座していた筈のシートや握っていた操縦桿が消え失せ、辺りは暗い闇に包まれた空間へとなった。何故か、それでも辺りが明確に見えるのが不思議である。

 バニーガールは「戦士よ」と語りかける声に耳を傾けながら、ふんふんと頷いて「貴方以外の思惟がやって来てマース」と呟いた。

 

「俺以外の?」

「複数の人間。いえ、人間じゃないのも混じってマース」

 

 耳を澄ますと聞き取りにくいが「俺はイヤハヤ家の……」や「ヒーローになるんだ。唯一無二の」とか、「おおっ、女神様が降臨なされた」なんかの複数の声が聞こえる。

 大半が蚊の鳴く様な声で異様に聞き取りづらかったんだけどね。その中で一番はっきりと聞こえたのが、先程の「戦士よ」と問いかけるあの声だった訳だ。

 

「ふーむ。この高次空間に干渉するとは、やはりアズテクの遺産の影響ネ」

「何だって?」

 

 今、聞き捨てならない単語を聞いたぞ。

 アズテク文明。あのアステカイザーが所属していた謎の古代文明の事だ。ブラックミストはしまったと言う顔をした様に見えた(でも、やはり顔自体はぼんやりして輪郭しか掴めないんだけど)が、両手を前に出してバイバイとでもする様にひらひら振ると、「それとワルガスダーの干渉デース」と付け加えた。

 

「大体、ここはなんだ。高次空間とか言ってたけど」

「コージクーカンデース。普通の次元より一段高い世界になりマース」

 

 バニーガールはくるっとその場で回りながら、背中から手を伸ばすバニーディップのポーズを取ってあっけらかんと説明するが、良く分からん。

 

「平行宇宙とか、差異次元とか世迷い言を言うなよ」

「ノーノー、言うなれば半分は貴方のインナースペース、内的世界ネ」

 

 要するに俺の心の中かよ!

 つまり、さっきの無敵ロボも俺が心中で創り出した妄想って訳か?

 

「説明しにくいネ。ただ、今の貴方、ベガ王子にとっては夢みたいな所に感じられるでショウ」

「夢オチか」

「単なる夢じゃ無いデース。貴方はここを経由して無限の……」

 

 ずんっ空間がぶれた。目の前のバニーガールがゆらりと形を崩す。

 ブラックミストは「時間……強制介入……。女神の意志は……」と、途切れ途切れで何かを喋っているが、やがて空間に呑み込まれる形で消えてしまった。

 

              ◆       ◆       ◆

 

 気が付いた時、俺の身体は緑の触手でぐるぐる巻きにされていた。

 ドアを破って現れたあの蔦。

 

「生きているか?」

 

 無線を介して反応を待つと、「何とか」「生きてはいるでござる」「くそっ、ソリッドを失ってしまった」との返答があった。一応、全員無事みたいだ。

 視界は暗い。照明が生い茂る葉っぱのせいで邪魔されている為だろう。

 

「何があった?」

「蔦にやられた。それ以外、答えられないぞ」

 

 ふて腐れる様に返事をするマグ。

 俺らが蔦で拘束されたのは間違いないが、こいつ、動物でも無いのに動いてないか?

 動ける範囲で首を回すと、暗い中、何となくだが風景が移動している。こいつ、俺達を何処かへ運ぼうとしているのだろう。

 

「最初にここへ押し入ったのが、この蔦の化け物だったとは思いたくないが……」

 

 宇宙には色々な生命体が存在する。中には光合成をする半植物的な知的生命体だって存在するが、こいつもその類いの物なんだろうか?

 

「これは化け物ではござらん。女神の配下でござるよ」

 

 と突然、口を開いたのはバクだ。女神?

 そう言えばマルクには古い信仰があったな。神苑、つまり緑の園に住む創世の女神だ。

 マルク人を星へ導き、繁栄させ、そして見守っていると言う存在は、確か神の星、つまりこのマルク本星に眠っていると言うのが神話だった筈。

 女神様は緑豊かな神の園に居り、人々を見守っているらしいけど、神の楽園に生えている植物が、こんな奇怪な代物なんだろうか?

 その幻想も、マルク本星が草木も生えない不毛の星と判ったからこそ、タブーを破って資源開発に両マルク星は乗り出したんだろう、と突っ込みをいれたくなるぞ。

 

「バク、どうしたんだ。お前らしくも無い」

 

 ガンも心配そうな声で尋ねる。その声には困惑の色も混じっている。

 

「心配無用。拙者には先程から、女神の声が届いているでござるよ」

「変だよ。どうしちゃったんだよ。バク!」

 

 マグも加わる。だが、当の本人は「ははは」と低い声で笑うと、「マグ、そして他の者も耳を澄ますでござる。女神の意志が聞こえて来る筈でござる」と静かに呟いた

 

「ほら、女神に逆らう者共が制裁を受けているでござる」

 

 爆発音。そして銃撃音が、本当に前方から響いて来た。

 

「ワルガスダーだと!」

 

 そう、そこには紫色の宇宙忍者。そして緑色をした流星魔人が触手と戦いを繰り広げていたのだった。

 

 

〈続く〉




ちょっぴりロボット戦闘を描いてみました。ベガの乗る主人公メカ、究極ロボは強いんですよ。いや、バーチャルの世界だったけどね(笑)。

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