ベガ大王ですが、何か?   作:ないしのかみ

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作業用BGMは『北条時宗』のOPから「蒼風」であります。「ああーあああああああ」とモンゴル人の方が歌っているあれですね。
本放送時のOPCGが中々凄かった覚えがあります。回毎に蒙古の大船団が迫るシーンが違うんだよね。最初は遠景。そして穏やかな海を航行しているのに、回が進むにつれて暴風の中で翻弄されて行き、最後になると……。
本編では焙烙火矢風の武器、「てつはう」(震天雷)の投擲が印象的。銅鑼をじゃんじゃん鳴らして、一気に上陸しようとする蒙古軍と迎え撃つ鎌倉武士の長弓との攻防とか、映像面でも面白かったなぁ(幕府内の政治とかは大して面白くなかったけど)。
ちらっと見たニコ2で、張られてた「ボンバーマン爆誕」コメに噴いた(笑)。


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《……そうであるとも言えますね……しかし》

 

 女神を自称する存在は、少し言い淀んだが、次の瞬間、明確に《この世界へやって来たのは、戦士。貴方自身の望みの筈です》と言い切る。

 

《……貴方は元の世界からその為に此処へ赴き、そして臨み通りに願望を叶えている筈です》

 

 良く分からない事を女神は語る。

 その時、脳裏に浮かんだのはバニーガール姿の少女だった。

 

『何でブラックミストの姿が?』

 

 途端に頭痛がする。《私はそれを利用し……この地へ赴く様に……我が子らに命じて》とか女神のテレパシーが途切れ、途切れに聞こえてくるが、上手く聞き取れない。

 そうだ。確か前、ブラックミストは俺に問うて来た筈だ。

 あれは何だったんだろう。くそっ、頭が割れそうだ。

 

《戦士よ。私はそれを利用し、我が子らの力を用いてこの地へと導いたに過ぎません》

 

 考えを整理しようとして首を振り、雑念を振り払う。

 ブラックミストの事を頭の隅に追いやると、すっと痛みが消えた。

 

「つまり、ここへやって来させたのは貴女の采配だな?」

《それは認めましょう。戦士よ。どうしても貴方に会う必要があったからです》

 

 女神は肯定した。

 バクは「済まぬ。女神の言葉が届き、拙者が計画した事だ」と頭を垂れる。

 

《この様な下僕の身体を借りた姿で済みません。私の本体は未だ動けぬのです》

 

 そこまで述べた次の瞬間、基地全体が揺れた。

 自信に例えれば震度2程度の大した事の無い揺れだが、かなり大きな爆発があった様だ。

 

「うわっ」

「攻撃でござるな。女神よ。拙者らは如何すべきか?」

 

 ガンが倉庫脇の作業室に駆け寄り、備え付けのコンソールを操作して画像を映し出す。

 ややあって、点灯したモニターに映るのは騎馬隊だった。

 やって来た方角は俺達のボロ船が到着したのと、丁度、真反対だ。

 

「馬でござる!」

 

 バクが呆けた声で言う。

 うわ……冗談みたいだけど本当に馬なんだ。月面の様な荒れた大地の上を四本足で疾走しているのは、スペーススーツ的な物で身を固めた馬の群れだったのだ。

 背には凶悪そうな、教化服だかサイボーグだかのメカニカルな姿した兵を乗せている。

 昔の宇宙戦艦が出て来るアニメで登場したロボットホースにも似ていたが、どうやら馬の方はサイボーグ臭い感じがする。

 

「ヤーバンの傭兵だぞ」

 

 マグが叫ぶ。

 そう言えば、サイボーグ馬に乗って活躍する特異な傭兵部隊ってのがあったっけ?

 何処かの資料で読んだ事がある。その時は時代錯誤すぎて、笑い飛ばしていたんだけどね。

 

「本気だな。巨大機動兵器まで繰り出して来やがった!」

 

 ガンの言葉に目を懲らすと、怪獣的な偉容を持った物体が稜線の向こうから姿を現す。

 シルエットは人型と言えるが、前屈しており、類人猿的な雰囲気が感じられる。

 正確な大きさは対比物がないので不明だけど、全高10m以上はあるに違いない。

 ゴリラを思わせるポージングで、野蛮に胸をドラム代わりに叩きながらウホウホって感じで、マルク本星の地表を飛び跳ねながらこっちに迫ってくる。

 

『成る程、ジェリコの喇叭だな』

 

 無音なのが滑稽だけど、もし音付きならば凄い恐ろしいプレッシャーになっていたに相違ない。

 ズリルが昔言ってた事にも一理あるのかな?

 ゴリラみたいな巨大機動兵器が迫る中、騎馬隊の方は一歩先んじて採掘基地の敷地内へと突入する。裂孔となっている崖を一ノ谷の鵯越よろしく、騎馬に乗ったまま駆け下りる傭兵達。

 

「あれは……」

 

 入れ替わる様に裂孔の底から浮かび上がるのは数隻の青い十字型の宇宙船。

 ワルガスダーの揚陸艇だ。俺達から見て、裏側の着陸床に船を隠していたのだろう。

 騎馬隊の連中はそれを一瞥するが、特に気にもせずに見送り、ワルガスダーの艦隊の方も手出しせずにそのまま上昇する。

 

『傭兵とワルガスダーはつるんでいるのか?』

 

 湧き上がる疑問。余りにも態度が不自然だ。

 やがてワルガスダー艦隊はゆっくりと船体を回転させながら、採掘基地上空から飛び去った。

 

《ゲルマが飛び去りましたね。しかし、ゲルマの手先となった者が代わりにやって来ます》

「ゲルマ? ワルガスダーの事か」

「神話に出て来る女神の敵の名だよ」

 

 女神に代わって答えたのはマグである。

 曰く、遙か昔、女神の力を狙った悪の帝国があり、その名をゲルマ帝国と言ったらしい。女神の力を手に入れれば全宇宙を支配出来るとの話があり、女神は銀河の勇士達と共にゲルマに立ち向かい、それを滅したらしい。

 

「創世神話でござるよ。そして女神はマルクへ降り立ち、我らマルク人を創造なさった」

《超宇宙マシーンと宇宙を駆け巡った日々。ああ、思い出しますね》

 

 バクの言葉に女神は何かを思いだした様で、懐かしい様な潤んだ言葉を紡ぐ。

 引っかかる。なんだろう、この感覚は?

 

「それよりも、騎馬隊をどうするんだ?」

 

 ガンの焦る声。彼は慌ただしく、モニターカメラを操作して各所を確認して行く。

 騎馬隊は着陸床を横断しつつあった。後ろから兵員輸送車風のイオノクラフトも続行しており、さの兵力は推定、中隊規模はありそうである。

 

「施設破壊はあちらも避けたいから、威嚇射撃に終始する筈でござる」

「だな。本来、奴らの得意分野はショートレンジだ。突入してくるぞ」

 

 傭兵部隊は戦闘が商売だが、対費用効果重視する。

 ミサイルや砲弾よりも銃弾を。

 銃弾よりも刀槍的な白兵武器を使えるなら、使いたいとの要求が常にある。

 理由はそっちの方が安いからだ。経費を安く済ませれば、それだけ報酬の実入りが多くなるからである。

 

[我が国に雇われた部隊か?」

「旗は見えないな。ウエストマルク側でもないみたいだ」

 

 傭兵部隊は時と場合によって所属を変える為、作戦時には雇われた軍の紋章を明確に見せる必要がある。

 しかし、こいつらはそれを掲げてはいない様だ。

 無印。一瞬、『鉱山会社に雇われた部隊か』とも考えたが、それならば会社のマークを示す筈だと思い直す。

 

《排除します》

 

 ガンとマグの会話に割って入る女神。

 騎馬から降りた兵が、エアロックから進入して来るが、底に出迎えるのは例の緑の洪水だ。

 蔦が伸び、触手の様に襲いかかる。

 

「やめてくれないか」

 

 俺は懇願した。

 一応、ヤーバンの兵ならば身内だからである。多分、弟の領地の者でベガ星の管轄下には無いが、それでも心情的には、見捨てるのは心苦しい物がある。

 

《ゲルマの手先です。手を抜く事は我々の死に直結します》

「そのゲルマというのは何だ?」

 

 ゲルマというのがこちらで言う、ワルガスダーだとすれば女神はその正体を知っていると言う事なのだろうか?

 

「さっき説明したろ……」

「黙っていろマグ。俺はこいつに質問しているんだ!」

 

 思わず地が出て〝俺〟と言ってしまったし、女神を〝こいつ〟呼ばわりもしたが、この時の俺は演技するのを忘れる程、頭に血が昇っていたのだった。

 女神を名乗る存在は、その植物の身をびくりと震わせると《戦士よ。貴方の怒りに触れてしまいましたか》と怯えた念波を発した。

 

 その間にも傭兵と蔦。この女神の分体か下僕の様な者との戦いは続いていた。

 どうやらこいつ、戦いを止める気は無さそうだ。

 

《今の世では、ゲルマの事をワルガスダーと呼ぶ様ですが……》

 

 女神が言葉を切る。

 そして《ゲルマ。彼らはこの世の者ではありません》と告げたのだった。

 

 

〈続く〉




星の艦隊こと『ばってん爆撃機』(笑)。
巨大合体ロボも登場したダイナミックプロ唯一の、SFマリオネット劇。

実は、マルク星編の元ネタの一つはアレだったんですよ。
無論一つであって、『アステカイザー』や『イヤハヤ南友』とか、他のネタとオリジナルとの複合なんですけどね。

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